今回は2021年度の女子学院中学校の国語の過去問を一部修正して論説文の問題の解き方を説明していきたいと思います。本文は高橋敬一『昆虫にとってコンビニとは何か?』(朝日選書)、または以下のPDFを参照してください。
問題
問1
−−①「危機感」とありますが、どういう危機感ですか。解答欄に適切な語句を十字前後で書きなさい。
このままでは、( )かもしれないという危機感。
- 【解答】
このままでは、(多くの生物が絶滅する)かもしれないという危機感。
−−①の前に「おい、もう、ちょっとこのままではやばいよ」とあります。更にこの文章のテーマは「自然保護」です。自然を保護しないとどうなるのか、それに対しての危機感であると考えられます。模範解答と全く同じでなくても「自然を保護しないと滅びてしまう」という旨の内容が書いてあれば良いでしょう。
問2
−−②「この場合の「自然」」にあてはまるものを、次から選びなさい。
ア、農業用に作られたため池
イ、すべてが木材でできた民家
ウ、ベランダで育てたトマト
エ、生育環境を再現した水族館
- 【解答】ア
−−②「この場合の「自然」」についてその後ろに内容が書いてあります。
この場合の「自然」というのは人間の手の入っていない原生林のことだけでなく、田畑なども含む、人間を取り囲むすべての自然環境を指していると考えていい。
この内容を踏まえて選択肢をみてみましょう。
あくまで自然環境ですので、人間が作った(イ、すべてが木材でできた民家)や(エ、生育環境を再現した水族館)は自然環境には入りません。また、(ウ、ベランダで育てたトマト)も人間が作った作物ですので、自然環境ではありません。よって答えは(ア、農業用に作られたため池)になります。
問3
段落( X )と( Y )の関係を説明した文を次から選びなさい。
ア、( X )の内容を( Y )で具体的に説明している。
イ、( X )と( Y )は対比的な関係になっている。
ウ、( X )の理由を( Y )でわかりやすく説明している。
エ、( X )の内容を( Y )で簡潔に要約している。
- 【解答】ア
段落( X )と( Y )は共に、人間がアフリカ大陸に誕生し、広がっていく一方で人間の狩などによりさまざまな生物がいなくなってしまったことを述べています。よって(イ、( X )と( Y )は対比的な関係になっている。)のような対比の関係ではありません。
また( X )の内容の理由を説明しているわけでもないので(ウ、( X )の理由を( Y )でわかりやすく説明している。)も当てはまりません。
( Y )に対し、( X )の方が簡潔に述べられているため、(エ、( X )の内容を( Y )で簡潔に要約している。)も当てはまらず、答えは(ア、( X )の内容を( Y )で具体的に説明している。)になります。
問4
−−③「そうしたこと」とはどういうことですか、最も適当なものを次から選びなさい。
ア、人間が新世界に侵入したために、結果的には人間が存在できる自然の範囲が狭くなったこと。
イ、人間が未開の地に新たにやってきたことで、固有の動植物に変異が起きたこと。
ウ、人間が新しい地域に足を踏み入れたことで、その地域特有の生き物の生息が損なわれたこと。
エ、人間が外来種を世界各地に持ち込んだために、多様な生物が暮らせるようになったこと。
- 【解答】ウ
−−③「そうしたこと」とは段落( X )と( Y )の内容をさしています。すなわち、人間がアフリカ大陸に誕生し、広がっていく一方で人間が原因でさまざまな生物が減少してしまったことをさしています。
よってその土地の生物が減少した内容が含まれている「ウ、人間が新しい地域に足を踏み入れたことで、その地域特有の生き物の生息が損なわれたこと。」が答えになります。
問5
−−④「人間の「やさしい」ふるまい」という表現からは筆者の批判が読みとれますが、どのようなことに対する批判ですか。( )にあてはまる言葉を書きなさい。
- 【解答】
実際には、人間は(環境改変し、一方的に昆虫を滅してきた)のに、「やさしい」という語を用いて(人間と他の生物とが仲良く共存できる)という印象を与えること。
ヒントは前の段落にあります。
また、「エコ」あるいは「環境にやさしい」という言葉を使うとき、まるで人間と他の生物が仲良く共存する、おとぎ話的世界が実現可能であるかのように思わせる操作もたしかに行われている。しかし昆虫に関しては、「共存」という関係は、ミツバチやカイコなどごく一部を除いてはこれまでもなかったし、今後も成立しない。人間はこれまでも環境改変によって一方的に昆虫を滅ぼしてきた。
「やさしい」という言葉に込められた批判は、実際そうではないことを「やさしい」と表現しているということが回答欄からうかがえます。
では実際にそうではないことの内容は何か、それは「昆虫を一方的に滅ぼし、共存関係が成立しないこと」です。しかし、「やさしい」という言葉を使って共存が実現可能かであるかのように思わせているのです。
問6
−−⑤「ノスタルジックな感情から生まれてくる自然保護運動」についての説明としてあてはまらないものを選びなさい。
ア、保護する対象については、各々大切にするものが異なるが、形状や色彩などが目を引く種になる傾向がある。
イ、人間の手が入っていない本来の豊かな自然に戻すことを、最終的な目的とする。
ウ、自分と違う世代に対しても、自分が保護したいと考えた種の保護の正しさを強く主張する。
エ、自分が慣れ親しんできた自然が、環境の変化により、失われて行くことを止めようとしている。
- 【解答】イ
−−⑤「ノスタルジックな感情から生まれてくる自然保護運動」の内容については、−−⑤の次の段落に「いくつかの特徴がある」と書いてあり、全部で3つの特徴があげられています。一つ一つみていきましょう。
ひとつには、自分の誕生以前の自然は関係ないという点だ。けっして自分がいま住んでいる場所を一〇〇〇年前(生命の歴史から見れば、つい先日だ)の巨樹の森に戻そうとは思わない。
二つ目に、自分が見てきたものにこだわるため、対象への思い入れ、すなわち重要度が人によって異なる。(中略)この手の自然保護が色や形、大きさ、話題性において、きわめて目立つ種を保護する傾向が高いことも「証拠」のひとつとしてあげていいだろう。
三つ目は、そうした保護を若い世代にも強要するということだ。(中略)いまの若い世代には彼らなりのノスタルジーがあり、それは彼らの親世代のものとはまったく異なる。その時代錯誤に自然保護活動家は気がつかず、自分たちの主張こそ正しいと信じて疑わない。
以上の特徴を踏まえて選択肢をみていきましょう。
- ア、保護する対象については、各々大切にするものが異なるが、形状や色彩などが目を引く種になる傾向がある。⇨「形状や色彩などが目を引く種になる傾向」が二つ目の特徴に当たります。
- ウ、自分と違う世代に対しても、自分が保護したいと考えた種の保護の正しさを強く主張する。⇨違う世代にも保護したい種の正しさを強く主張するという内容が三つ目の特徴に当たります。
- エ、自分が慣れ親しんできた自然が、環境の変化により、失われて行くことを止めようとしている。⇨止めようとしているのは自分たちが「慣れ親しんできた自然」であり、自分の誕生以前のものではないことから一つ目の特徴に当たります。
問7
最初の段落にこの二つのタイプとありますが、どのような考え方ですか。それぞれ20〜30字で書きなさい。
- 【解答】
人間生活に欠くことのできない自然資源および環境を確保する(という考え方。)
自分が生きてきた自然環境・風景へのノスタルジーから生物を救う(という考え方。)
まず最初に一つのタイプについて説明され、中盤で二つ目のタイプの説明に変わります。それがどこからなのかきちんとおさえておきましょう。それは10段落目になります。
さて、こうした考え方に立つと、昆虫を含めた生物種のほとんどは滅びていかざるを得ない。そしてこうした事態に反対する自然保護もある。そのひとつにノスタルジックな感情に基づく自然保護がある(学術的な意味での自然保護とは異なる)。
「こうした考え方」というのが一つ目のタイプであり、それに反する「ノスタルジックな感情に基づく自然保護」というのが二つ目のタイプになります。
タイプの内容はそれぞれの最後にまとめられています。一つ目のタイプのまとめが書かれているのは9段落目になります。段落の頭に「とどのつまり」とあるところからも次に言いたいことが展開するのだと推測できます。
とどのつまり、人間は人間のことだけ考えて生きていくしかない。そして実際、いつも人間は人間の都合だけで生きてきた。だから「自然保護」も、その対象が人間に役立つから保護する、人間が生きるため道具として保護するという考え方で一向にかまわない。
二つ目のタイプの内容は最後から3つ前の段落にあります。その次の段落では「以上、二つの例を挙げた〜」と始まっており、全体のまとめが始まっています。そういったとこからも一つ目のタイプの説明の次に二つ目のタイプの説明が始まり、そのまとめがこの段落にあると考えられるでしょう。
この手の自然保護運動家は、ともかくも保護、保護、と叫ぶことが多い。しかしそれは、保護すべきであると主張する種が本当に「すべての人にとって」重要であるからではけっしてない。ただ、自分が生きてきた環境へのノスタルジーがそうさせているにすぎない。
まとめると、一つ目のタイプは人間の生活にとって必要である自然を保護する傾向にあるタイプとなります。二つ目のタイプは自分が生きてきた環境へのノスタルジーから自然を保護するタイプになります。その内容をおさえて書きましょう。
まとめ
論説文は大きく分けると、問題提起→本文(原因・解決法・内容説明など)→まとめ(筆者の言いたいこと)という構成になっていることが多いです。
まずはこの文章のテーマやキーワード(この問題だと「自然保護」になります)をおさえることが大事です。一つ一つ読むのではなく、大きく文章の構成をおさえていくことが大事です。内容も難しく取り掛かるのは大変ですが、全てではありませんが、最後の段落にまとめがある構成が多いため、最後の段落には特に注目してみましょう。