【富士見中学校・2015年過去問】小説読解シリーズ④~作者が伝えたい文章の「主題」とは~

 この記事では、小説における「主題」を読み取る方法について説明していきます。前回までの記事では小説の「場面」「気持ち」「気持ちの変化」を学んできましたが、今回はそれらをふまえたうえで小説の最も大切な部分を考えていく練習です。

 富士見中学校の入学試験で出題された実際の過去問も使いながら勉強していきましょう。今までの記事で説明した内容について不安がある人はしっかり復習してから取り組んでみるのがおすすめです。

 

文章(2015年・富士見中学校)

 文章は、下のpdfか石井睦美『皿と紙ひこうき』を参照してください。

2015年富士見中学校国語問題

 pdfから文章を読む場合は、上の問題のうち、大問「二」の文章を読んでください。この記事では、この小説を使って練習をしていきます。また、問題については一部改変したものを使っていきます。

 

小説の主題を読み取る

 問題の前に、どのようにして小説の主題を読み取っていくのか、その方法について説明していきます。まずは問題に取り組んでみたい人は読み飛ばして、復習のために使っても構いません。

クライマックスを探す

 まず、小説、あるいは問題の中で引用された部分でのクライマックス(山場)を探してみましょう。読んでいて最も心が動かされるようなシーンがクライマックスです。たとえば感動的なシーンや強く共感できるシーン、できごとが大きく変化したり盛り上がったりするシーンがこれに当たります。

 入試問題の場合には、文章をいくつかの場面に分けた際に最後にくる場面の中にクライマックスが来ることが多いです。しかし中にはそうでない文章もあるので注意しながらしっかり読み取っていきましょう。

登場人物の性格を読み取る

 文章を通じて、登場人物がどのような性格・ひとがらを持った人間なのかを読み取っていきましょう。文章内で起きたできごとに対して、どのような考え方・感じ方をしているのか、または今までにどのような生き方をしてきたのか、を示すような表現を探していきます。

 これらはクライマックスとはことなる場面で記述されることが多いので、文章全体をもれなく読んでいくことが大切です。

クライマックスでの登場人物の心の動き

 2.2を読み取ったら、クライマックスにおいて登場人物がどのような気持ちをいだいているか(どのような心の動きがあったか)を想像していきます。心の動きを読み取る際には、気持ちを表す直接的な表現だけでなく、言動から間接的に心の動きを示す表現にも注目しましょう。前々回の記事も参考にしてみてください。

 注意したいのは、クライマックスにおいて登場人物が今までの性格・生き方とはことなる気持ちを持つようになった場合です。このような文章では、何が原因で気持ちの変化が起きたのかを考えていくことが大切になってきます。これが、作者が文章を通して伝えたいこと(=主題)の一つになってくるからです。

登場人物の成長に注目する

 2.3で説明したようなクライマックスにおける登場人物の気持ち・考えの変化(精神的・人間的な成長)は、何らかの葛藤(かっとう)・対立を乗りこえた後に後におとずれることがほとんどです。

 2.3と同じように、どのようなできごとがあって登場人物が成長したのかを読み取っていくことが小説の主題を読み取っていくことになります。

まとめ

 2.1~2.4で説明したことをまとめると以下の図のようになります。

① 主題を読み取る(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 

 中学受験で出題される多くの小説では、文章の中で登場人物があるできごと(葛藤や対立など)を乗りこえ成長する過程がえがかれています。クライマックスの前後で登場人物の心の動き方に変化はないか、しっかりと読み込むようにしましょう。登場人物の気持ちを自分に置きかえて読んでいくのもいいかもしれません。

 

演習問題

 本文はpdfからお読みください。問題については一部改題しています。

問題編

問1
傍(ぼう)線部①「伊藤卓也はわたしの名前を言おうとして、言えなかった」とありますが、それはなぜですか。その理由として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:「わたし」と思いがけない所で会ったので、びっくりしてしまったから。
イ:クラスにおける「わたし」の存在感が薄いため、名前を覚えていなかったから。
ウ:伊藤卓也は学校にまったく来ていないため、クラスメートの名前を知らなかったから。
エ:伊藤卓也は「わたし」と同じ学校に、はじめからずっといたわけではないから。
オ:伊藤卓也は友だちに関心がなく、クラスメートと話したりすることがなかったから。

問2
傍線部②「『心配?』怪訝そうに伊藤卓也が聞き返す」とありますが、伊藤卓也はどうしてこの時「怪訝そうに」聞き返したのですか。その理由として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:学校を休んでいる自分を、「わたし」が心配してくれていたのが思いがけなかったから。
イ:自分の体調が悪いことを、「わたし」が心配してくれていたことに驚いたから。
ウ:「わたし」が何を心配していたと言っているのか、わからなかったから。
エ:祖父の具合が悪いことを、「わたし」が心配してくれていたのが思いがけなかったから。
オ:自分のことなどを心配してくれる人がいたことが信じられなかったから。

問3
傍線部③「どきどきする心臓」とありますが、この時の「わたし」の状況として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:急いで「ばあちゃん」の病室に向かっていたので、息が苦しくなっている。
イ:「ばあちゃん」のことが気になり、早く様子を知りたいと気が焦(あせ)っている。
ウ:逃げるようにその場から去ってしまった事が申し訳なく、後悔(こうかい)している。
エ:思いがけない所で伊藤くんと一緒になったため、まだ緊張(きんちょう)がとけないでいる。
オ:伊藤くんに思わず言葉をかけて会話をしたことで、気持ちが高ぶっている。

問4
傍線部⑤「ぼくが来たのはそれだけじゃない」とありますが、ぼくが来たもう一つの理由が書かれた一文を本文中からさがし、初めの八字を書きなさい。

問5
傍線部⑦「伊藤卓也がずっと空を見あげていたので、わたしもそうした」とありますが、この時の「わたし」の気持ちを二十五字以内で答えなさい。

問6
「1」~「4」に、次の中から一文ずつ入れて会話を完成させるとき、それぞれに当てはまるのは次のうちどれですか。次の中から選び、記号で選びなさい。

ア:ひこうきでまわりの空気が乱されてできるんだ
イ:紙ひこうきって、知っとる?
ウ:ひこうき雲や
エ:へえ。よう知っとるんやね
オ:おじいちゃんがひこうき雲のこともいろいろ教えてくれたんだ
カ:それもおじいちゃんに教わった。そういえば、ぼくが小さかったころ、おじいちゃんは紙ひこうきを折ってくれたことがあった

問7
伊藤卓也は父をどんな人と思っていますか。最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:小学校の先生だった祖父と同じように仕事に一所懸命(いっしょけんめい)に取り組む、まじめな人。
イ:仕事が忙しいという理由で何もせず、母に実の父の介護を押し付ける身勝手で冷たい人。
ウ:祖父と暮らしたいという伊藤卓也の気持ちを理解し転校を許した、家族思いな人。
エ:仕事が忙しいため、せめてもの親孝行として祖父のことを特別室に入れるやさしさを持つ人。
オ:仕事が忙しいという理由で東京にいようとする、地元のことが嫌いな鼻につく人。

問8
伊藤卓也はどんな少年と思われますか。最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:正義感は強いが、強情で回りから孤立(こりつ)してしまう少年。
イ:繊細(せんさい)な感性を持った、しんが強く思いやりのある少年。
ウ:自分以外の人々をすぐ非難する、自信家で冷たい少年。
エ:周囲の人に心配をかけないよう、無理してしまう少年。
オ:素直に自分の気持ちを話すことができる、明るい少年。

 

解説編:文章解説

 問題の解説に入る前に、この文章中における主題について考えてみましょう。

 まずは今までと同じように、文章をいくつかの場面に分けていきます。「いつ」は時間の流れ通りですが、「どこで」は病院のエレベーターから屋上へと変わっていることに注意しましょう。また、エレベーター内の描写について「わたし」と伊藤卓也の関係性について注目しながら読んでいくと、以下の3つに分けられることが分かります。

 ② 3つの場面を読み取る(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 続いて、この文章中のクライマックス(山場)を探してみましょう。登場人物は「わたし」と伊藤卓也の2人ですが、特に重要なのは祖父のことを話している伊藤卓也です。ここで、伊藤卓也の心が大きく動かされる2つのシーンを取り上げます。

 1つ目は場面②で伊藤卓也が「わたし」を呼び止めたシーンです。伊藤卓也はもともと「わたし」の名前が「黒田」だと知らないほど、「わたし」とは薄い関係性でした。また、最近転校してきたことからまだ学校にもあまりなじめていないことも想像されます。そんな中、エレベーターから降りた「わたし」を呼び止めて話がしたいと言ったことは本人にとっても「じぶんの振る舞いに驚いている」と表現されており、勇気をふりしぼったことが分かります

 もう1つは場面③から、伊藤卓也が祖父のことを語り最終的に涙を流すシーン(p.14)です。伊藤卓也にとって、物知りでいろいろなことを教えてくれた祖父は父親のような存在でした。祖父を軽んじいるように見える父に対する不満もあり、祖父が亡くなってしまいそうなことは非常に悲しいできごとです。誰にも打ち明けられなかった気持ちを「わたし」に言えたことで「せいせい」して感情があふれ、泣いてしまったものだと想像できます。

 

 伊藤卓也とはどのような性格を持った人なのでしょうか?学校での伊藤卓也の様子は、場面①から想像することができます。先ほども書いたように、伊藤卓也は学校にあまりなじんでおらず、エレベーター内でもほとんど「わたし」と会話をかわさないほど薄い関係性で、心を開くこともしていませんでした。

 しかし、その後場面③では「わたし」に思っていることを打ち明け、父親に対する怒りや祖父への愛情、その祖父が亡くなってしまいそうな悲しさなどありのままの気持ちを話すことができました。これが本文中における伊藤卓也の「成長」であり、性格を読み取っていく(問8)ヒントにもなるところです。

 では、以上の点をふまえつつ問題の解説に入っていきます。

 

解説編:問題解説

問1
傍(ぼう)線部①「伊藤卓也はわたしの名前を言おうとして、言えなかった」とありますが、それはなぜですか。その理由として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 伊藤卓也が「同じクラスの……」と言葉につまった理由を考える問題です。まず、傍線部の直後に大きなヒントがあります。「名前を知らないのだ」とありますね。つまり、伊藤卓也は「わたし」の名前を知らなかったから「言えなかった」のです。

 もう1つのヒントは12ページの会話にあります。伊藤卓也は病気になった祖父の面倒を見るために母親といっしょに「こっちに来た」、つまり転校してきたのです。これらのヒントから、答えはエの「はじめからずっといたわけではないから」だと分かります。

その他の選択肢
ア:1つ目のヒントから、びっくりして名前を言えなかったわけではないと分かります。
イ:「わたし」の存在感が薄いという記述はないのでまちがいです。
ウ:確かに「翌日も~休みだった」という記述はありますが、「まったく来ていない」とは記述がないのでまちがいです。
オ:「友だちに関心がな」という記述はありません。むしろ、「わたし」に話しかけていることからクラスメートになじみたいという気持ちはあるのではないかと予想できます。

解答:エ

 

問2
傍線部②「『心配?』怪訝そうに伊藤卓也が聞き返す」とありますが、伊藤卓也はどうしてこの時「怪訝そうに」聞き返したのですか。その理由として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 伊藤卓也が「怪訝(納得がいかない様子)そう」な顔をした理由を考える問題です。

 前後の会話を見てみましょう。伊藤卓也が聞き返した後、「わたし」は「おうちの事情だって~言いなさってたから」とその理由をこたえています。つまり、伊藤卓也は「わたし」が何を心配していたのか、その理由を分かっておらず「怪訝そう」な顔をして聞き返したのです。

 選択肢を見ていくと、ウにのみ「何を心配していた~わからなかった」という記述があります。よって、ウが正解です。

その他の選択肢
ア:「思いがけなかった」から怪訝な顔をしたわけではないので不正解です。
イ:「自分の体調が悪い」は正しくありません。
エ:「祖父の具合が悪い」ということを「わたし」は知らないのでまちがいです。
オ:このような記述はありません。また、もし「信じられなかった」としたら「怪訝」ではなくうれしそうな顔をするのでないでしょうか。

解答:ウ

 

問3
傍線部③「どきどきする心臓」とありますが、この時の「わたし」の状況として最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 伊藤卓也とエレベーターで別れるときに「どきどき」した「わたし」の状況を考える問題です。なぜ「わたし」は心臓が「どきどき」したのでしょうか?

 その直前の「わたし」の状況を確認してみましょう。病院のエレベーターの中でたまたま伊藤卓也に会い、今まで話したこともなかったのに会話をかわします。そしてエレベーターから降りて、別れの挨拶をしました。

 さて、「どきどき」とはどのような感情の時に起こるものでしょうか。「どきどき」に関係する表現が9ページに書いてあります。それは「驚いた」という表現です。「わたし」は伊藤卓也に思わず話しかけてしまった自分の行動に驚きを感じています。これをふまえて選択肢を見ていくと、オが近いと分かります。思わず声をかけたことで驚き、気持ちが高ぶったことで心臓が「どきどき」しているのです。

その他の選択肢
ア:「ばあちゃん」の病室に向けて急いでいる記述はないのでまちがいです。
イ:アと同じく、「ばあちゃん」の様子を気にしている記述はありません。
ウ:「わたし」が後悔しているような様子は書かれていません。
エ:伊藤卓也に会って緊張している記述はないので不正解です。

解答:オ

 

問4
傍線部⑤「ぼくが来たのはそれだけじゃない」とありますが、ぼくが来たもう一つの理由が書かれた一文を本文中からさがし、初めの八字を書きなさい。

 伊藤卓也がこっち(祖父の地元)に来た二つの理由を考えさせる問題です。まず一つ目の理由については傍線部の直前に「勉強なんてどこでもできるんだ」という発言があります。

 それでは、「もう一つ」はなんでしょうか。「わたし」は「それだけじゃない」という発言を受け、「おかあさんひとり~こっちに来たと?」と「こころのなかで質問」しています。そして伊藤卓也はその直後に、「質問に答えるように」して「おじいちゃんが好きだったんだ」と理由を話しています

 以上より、伊藤卓也が転校した二つ目の理由は「おじいちゃんが好きだった」からであり、抜き出すべき一文だということが分かりました。

解答:「おじいちゃんが

 

問5
傍線部⑦「伊藤卓也がずっと空を見あげていたので、わたしもそうした」とありますが、この時の「わたし」の気持ちを二十五字以内で答えなさい。

 「わたし」の気持ちを考える問題です。まず、この場面(場面③)では伊藤卓也と「わたし」の会話がえがかれています。伊藤卓也がこっち(祖父の地元)に来た理由や祖父との思い出について語り、「わたし」がそれを聞くという形で会話は進んでいました。「わたし」は今まで話したこともなかった伊藤卓也の気持ちを聞くことができ、伊藤卓也についてもっとよく知りたいという気持ちがあるのではないかと想像することができます。

 次に、傍線部の前後をしっかり読んでみましょう。傍線部と同じ段落に、「伊藤卓也が、空を見あげたのがわかった。わたしも空を見あげる。~伊藤卓也はなにを見ているのだろう。」という文章があります。ここから、「わたし」は伊藤卓也が何を見ているのか知りたくて、空を見ていたのだと分かりますね。

 つまり解答には伊藤卓也が何を見ているのか気になった、伊藤卓也の気持ちを知りたいといったことを書けていれば正解です。

解答例:
伊藤卓也が空の何を見ているのか気になる気持ち。(21文字)
伊藤卓也が何を考えて空を見ているのか気になった。(24文字)

 

問6
「1」~「4」に、次の中から一文ずつ入れて会話を完成させるとき、それぞれに当てはまるのは次のうちどれですか。次の中から選び、記号で選びなさい。

 伊藤卓也と「わたし」の会話に関する問題です。まず1~4の発言がだれのものなのかを考えていきましょう。「1」の後に「そう言いながらわたしは」とあるので「1」が「わたし」、「4」の後に「伊藤卓也が口にした」とあるので「4」が伊藤卓也の発言だと分かります。ほかは会話の順番から、「2」が伊藤卓也、「3」が「わたし」です。

 選択肢を見ていくと、口調(方言か、標準語か)や一人称(「ぼく」)、話している内容(「おじいちゃん」)によって、それぞれが誰の発言なのか予想することができます。イ・ウ・エは「知っとる」「や」など方言がふくまれているので「わたし」のせりふ、ア・オ・カは標準語で、「ぼく」「おじいちゃん」などの言葉がふくまれるため伊藤卓也のせりふです。

 では、分かりやすいところから当てはめていきましょう。このような当てはめの問題は、前後の文章をヒントにして考えていきます。まず分かりやすいのは「1」です。直前で「わたし」はひこうき雲を見つけており、「1」はひこうき雲に関する発言だと分かります。なので、ウの「ひこうき雲や」が入ります。

 次に分かりやすいのは「4」です。直後に「伊藤卓也が口にした紙ひこうきという言葉」とあるので、このせりふで伊藤卓也は紙ひこうきについて話していることが予想されます。伊藤卓也のせりふ(=標準語)で、紙ひこうきについての内容をふくむのはカの「それもおじいちゃんに教わった。そういえば、ぼくが小さかったころ、おじいちゃんは紙ひこうきを折ってくれたことがあった」です。

 残る2つは、「1」と「4」をもとに考えていきます。「4」で「それもおじいちゃんに教わった」とあるので、伊藤卓也の発言である「2」には、ひこうき雲について教わった内容が入ると予想できます。よって答えはアの「ひこうきでまわりの空気が乱されてできるんだ」です。

 最後に「3」は「わたし」の発言ですが、「2」(ア)に対する返答なので、エの「へえ。よう知っとるんやね」だと分かります。

③ 問6の解説(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

その他の選択肢
イ:方言であることから「わたし」の発言だと考えられますが、「わたし」が紙ひこうきについて問いかけるのは話の流れに合わないでので不正解です。
オ:伊藤卓也の発言だと考えられます。どちらにも当てはまりそうですが、「4」には紙ひこうきに関する内容が必要なので不正解、「2」には教わった内容が入りそうなので不正解です。

解答:1ウ 2ア 3エ 4カ

 

問7
伊藤卓也は父をどんな人と思っていますか。最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 伊藤卓也は父についてどのような感情を持っているのでしょうか。父に関する伊藤卓也の発言をまとめてみましょう。

「なのにあのひと(=父)は、母にだけ祖父を押し付けようとする」
「忙しがってばかりいた父とは大違いだった」
「おじいちゃんが父親だったらどんなにいいだろうってずっと思ってた」
「それを父が特別室に押し込んだ。それで親孝行した気になってる」

これらの発言から、伊藤卓也は父に対してよくない感情をもっているのだと分かります。

 その中でも特に重要なのは、仕事のせいで実の父(=祖父)のお世話をしないことです。祖父は伊藤卓也にとって大切な人物であったため、なおさら父に対して不満を持つ理由となっています。

 選択肢を見ていくと、悪い感情を持っているのはイとオですが、より適切なのはイの「冷たい人」でしょう。

その他の選択肢
ア:伊藤卓也におとって、父の仕事は家族に時間を使わないための単なる言い訳にすぎないと見えています。「まじめな人」という良い印象は持っていないので不正解です。
ウ:転校を許したのは伊藤卓也の気持ちを理解したのかもしれませんが、少なくとも祖父を放っておく父のことを「家族思い」とは思っていません。
エ:伊藤卓也は、父が祖父を特別室に入れたことも「親孝行した気になってる」材料で、偽善(本心からでない善行のこと)だと感じています。
オ:「地元のことが嫌い」という記述はないので不正解です。

解答:イ

 

問8
伊藤卓也はどんな少年と思われますか。最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 伊藤卓也の性格について考える問題です。この文章全体の主題をしっかり考えながら解いていきましょう。

 まず、場面ごとに伊藤卓也がどのような人物としてえがかれているかを見ていきます。場面①では伊藤卓也が「わたし」の名前を知らない様子が書かれていますが、ここからは伊藤卓也が転校した先の学校でクラスメートと(特に「わたし」とは)深い関わりがないことを表現しています。

 しかし、そんな伊藤卓也が場面②で「わたし」のことを呼び止め、場面③で自分の正直な気持ちを打ち明けています。最終的にはp.14で祖父の病状を悲しんで涙を流す様子がえがかれ、父を非難する気持ちの強い部分と、少年らしい繊細な部分の両方を持つことが分かります。

 ④ 伊藤卓也の性格・成長と主題(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 先ほども述べたように、父への不満や祖父への愛情など、伊藤卓也は自分の中で強い行動の基準を持っています。一方でこれは強情や強がりというわけではなく、大好きな祖父の見舞いをしようとする思いやりや、病気の悪化を悲しむ少年らしい素直さ・繊細な感性も持ち合わせています。

 ここで選択肢を見てみると、以上のような伊藤卓也のえがかれ方に最も合うのはイだと分かります。

その他の選択肢
ア:「強情」で「孤立」しているような記述はないのでまちがいです。
ウ:「自分以外の人々をすぐ非難」しているわけではなく、父のことを(しっかりした理由を持って)非難しています。また「自信家」「冷たい」というのもえがかれていません。
エ:「無理してしまう」という部分は迷ったかもしれませんが、場面③で自分の気持ちを打ち明けた様子がえがかれています。
オ:確かに最終的には自分の気持ちを話しましたが、「明る」く話しているわけではなく、伊藤卓也の性格として合わないのであやまりです。

解答:イ

 

 

おわりに

 4回にわたって説明してきた小説読解シリーズもこれで最後です。最後となる今回は今まで学んできた知識・考え方をすべて使って解いていく必要があったかと思いますが、どれだけ自分の力として活かすことができたでしょうか?

 実際の入試では、場面に分ける→気持ち・気持ちの変化を読み取る→主題を読み取るという一連の流れを限られた時間の中で行い、問題を解いていかなければいけません。特に小説読解がニガテな人にとって最初はむずかしいかもしれませんが、文章中の大事な部分をまちがないためにはもっとも効率の良い方法でもあります。何度もくりかえしチャレンジすることでコツをつかめるようにしましょう。

 また、得意になってきた人にとってはこのような手順をふまなくても問題が解けるかもしれません。しかし、いざ難しい文章と出会ったときに、このような基本的な読み方を知っていることが問題を解く手がかりとなるはずです。決して油断することなく、着実に取り組んで実力をつけていきましょう!

 

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参考

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初めまして。髙橋利弥と言います。 武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。 よろしくお願いします。