【宝仙学園中学校・2017年過去問】小説読解シリーズ③~気持ちの変化を読む~

 この記事では、前回の記事から引き続き小説で「言動と心情」を読み取る方法について説明していきます。前回は気持ち・心の動きを表す表現について解説しましたが、今回のテーマは「気持ちの変化」です。

 実際の過去問を使いながら、登場人物の気持ちの変化がどのように表されているか注目して読んでいきましょう。以前の記事で説明した「場面」も大切になってくるので、忘れている人は復習してから取り組んでみてください。

文章(2017年・宝仙学園中学校)

 文章は、下のpdfか竹内真『自転車冒険記——12歳の助走』を参照してください。

宝仙学園中学校2017年国語問題

 pdfから文章を読む場合は、上の問題のうち、大問「二」の文章を読んでください。この記事では、この小説を使って練習をしていきます。また、問題については一部改変したものを使っていきます。

気持ちの変化を読み取る

 問題の前に、気持ちの変化をどのように読み取っていくかについて説明していきます。自信のある方はとばして問題に取り組んでみても構いません。

「場面」と気持ちの変化

 気持ちの変化を読み取るときには、「場面」ごとに考えることがとても大切です。なぜなら、場面が変わる、つまり場所や時間の流れ(「いつ」「どこで」)が変わる、または登場人物が何らかの行動を起こす(「誰が」「何をした」)ことが、登場人物(特に主人公)の気持ちを変化させる原因になることが非常に多いからです。言いかえれば、登場人物の気持ちが変化することで場面が変わるとも言えるでしょう。

 ここで場面についてかんたんに復習しましょう。場面を読み取るためには、「いつ」「どこで」「誰が」「何をした」をとらえることが大切です。このうち、特に「誰が」「何をした」は気持ちの変化を直接的に起こすきっかけとなることが多いので間違えないようにしましょう。

気持ちの変化を追う

 前回の記事では、心の動きが起こる原因として何らかのできごとや事件がある、ということを説明しました。できごとや事件が起きて心が動くと、それを表す描写があります。気持ちの変化を追うためには、登場人物ごとにこの心の動きをとらえていく必要があります。

①場面を意識して気持ちの変化を追う
(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

演習問題

 本文はpdfからお読みください。問題については一部改題しています。

問題編

問1
傍(ぼう)線部①「北斗は前から、このポットを使ってみたかった」とありますが、それはなぜですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:旅の中で何度か目にしたことがあり、ずっと気になっていたから。
イ:自分の小遣いで、カップ麺を買って食べるというのが夢だったから。
ウ:自分で買ったカップ麺を、店先で作って食べてみたいと願っていたから。
エ:自由な旅の中でないと、カップ麺を食べることなどできなかったから。

問2
傍線部②「朝の通学路のコンビニから作業着姿のおじさんたちが湯気のたつカップを持って出てくる姿とか、受験組の友達が夕方に塾に行く前にコンビニのバス停のベンチで食べている姿」とありますが、それはどのような姿だと言えますか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:多種多様の人たちが、穏やかな日々を過ごしている姿。
イ:さまざまな人たちが、日常風景の中に溶け込(こ)んでいる姿。
ウ:忙(いそが)しい日々を送る人が、一時の休息を味わっている姿。
エ:目的をもっている人が、それに臨む前に腹ごしらえをする姿。

問3
傍線部④「旅の中で食べているという感覚」とありますが、それはどのようなものですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:コンビニの駐車場でカップ麺を食べるという、急(せ)き立てられるような感覚。
イ:コンビニの駐車場でカップ麺を食べるという、非日常的な雰囲気を味わっている感覚。
ウ:冷えた体で温かいカップ麺を食べるという質素さが、逆に贅沢(ぜいたく)に思える感覚。
エ:冷えた体で温かいカップ麺を食べるという、緊張(きんちょう)がほっとゆるむような感覚。

問4
「X」に入る言葉として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:肩をすくめた
イ:あごをしゃくった
ウ:身を固くした
エ:目を丸くした

問5
傍線部⑤「何だったんだろうと思った」とありますが、このとき北斗は、運転手が自分のことをどう思っていると感じていたのですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:北斗のような子供が、たった一人で旅をしていることを感心なことだと思っている。
イ:北斗のような子供が、コンビニの駐車場で食事をしていることを不審(ふしん)に思っている。
ウ:北斗のような子供が、マウンテンバイクに乗っているなど生意気だと思っている。
エ:北斗のような子供が、マウンテンバイクで旅をすることなど不可能だと思っている。

問6
傍線部⑥「ぽかんとしている北斗」とありますが、北斗が「ぽかんとし」たのはなぜですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

ア:運転手が目障(ざわ)りに思っている自分に話しかけるはずないと確信していたから。
イ:運転手が、何に対して怒っているのかわからなかったから。
ウ:運転手が見かけとは違って、とても心の優(やさ)しい人だとわかったから。
エ:スポーツドリンクを差し出してくれる運転手の意図がわからなかったから。

問7
6ページ15行目「今になってようやく笑顔を向けることができた」とありますが、なぜ北斗は「ようやく」笑うことができたのですか。北斗の気持ちの変化をふまえて120文字程度で答えなさい。

解説編:文章解説

 問題の解説に入る前に、まずはこの文章中における登場人物の気持ちと場面について考えてみましょう。

 まず、この文章を3つの場面に分けてみます。「いつ」は時間の流れ通りで「どこで」も全て「コンビニの駐車場」なので、「誰が」(登場人物)「どうした」を中心に考えるのがいいでしょう。主要な登場人物である「北斗」と「運転手の男」の関係性に注目して読んでいくと、以下の3つに分けられることが分かります。

②3つの場面(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 続いて、3つの場面ごとに北斗の心の動きを整理してみましょう。心が動いたことを表す描写に注目しながら読んでいきます。

 下の図を見てください。場面①ではカップ麺を作って食べることへの憧れが書かれており、それを果たしたことで「旅の中で食べているという感覚を満喫できた」という満足感が表されています。重要なのは場面②と場面③です。場面②では北斗が運転手の行動に対して不安やあせりを感じる様子が、場面③ではその運転手から差し入れをもらったことで喜ぶ様子がそれぞれ描写されています。

③場面ごとの心の動き(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

解説編:問題解説

 それでは、問題の解説に入っていきます。

問1
傍(ぼう)線部①「北斗は前から、このポットを使ってみたかった」とありますが、それはなぜですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 まず問題の意味を考えてみましょう。「このポット」とはコンビニのレジの横に置いてあるポットのことです。そのポットは主にカップ麺を作るためのもので、そのすぐ後の文章を読んで分かるように、北斗はコンビニでカップ麺を買い、「店先で作って食べるというのに妙な憧れを抱いてい」ます

 つまり北斗はこのポットを使い、その場でカップ麺を作って食べたいと考えているので、それに近い選択肢であるウが正解です。

その他の選択肢
ア:「旅の中で何度か目にしたことがあり」という記述はなく、「気になってい」るのは旅の前からなので間違いです。
イ:「小遣いで買うこと」が夢ではないので間違いです。(「自分の小遣いで買って食べることくらいはできた」とあります。)
エ:ふだんはカップ麺が食べられないという記述はないので間違いです。

解答:ウ

 

問2
傍線部②「朝の通学路のコンビニから作業着姿のおじさんたちが湯気のたつカップを持って出てくる姿とか、受験組の友達が夕方に塾に行く前にコンビニのバス停のベンチで食べている姿」とありますが、それはどのような姿だと言えますか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 直前から分かるように、北斗は傍線部のような人々の姿に憧れを抱いています。それでは、なぜ北斗はこのような人々に憧れを抱いているのでしょうか?

 次の段落を読んでいくと、「その憧れの正体が分かったのは」とあり、さらに読み進めていくと「何かやろうとしている時にとりあえず食べている姿がカッコよく見えるのだ」とあります。つまり北斗は傍線部のような人々を「何かやろうとしている」人々だと見ており、カッコよく感じているのです。

 これに合う選択肢を探すと、「目的をもっている」が「何かやろうとしている」と似ていることが分かるのでエが正解です。

その他の選択肢
ア・イ:これらのような記述はなく、 また北斗が憧れを抱いている理由としても適切ではないので間違いです。
ウ:文脈上完全な誤りではなくやや間違えやすい選択肢かもしれませんが、エの方がより適切です。またア・イと同じように北斗が憧れを抱いているという記述から考えましょう。

解答:エ

 

問3
傍線部④「旅の中で食べているという感覚」とありますが、それはどのようなものですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 北斗が「旅」をどのようなものとしてとらえているかを考える問題です。この旅は北斗にとっては「冒険」であり、またカップ麺の話題からは旅がふだんの生活とは異なる「何かやろうとして」やっていることだと分かります。

 以上のことから、「旅の中で食べている」とは日常の生活と違うことを強調していると分かり、これに最も合う選択肢であるイが正解です。

その他の選択肢
ア:「急き立てられるような」に当てはまるような、急いでいる描写はここまでにないので間違いです。
ウ・エ:「冷えた体で」という描写はどこにもないので間違いです。

解答:イ

 

問4
「X」に入る言葉として最も適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 「X」に入る言葉はどれも心の動きを表す動作の表現です。それでは、「X」の前後で北斗はどのような気持ちを抱いているのでしょうか。

 まず「X」の少し前では運転手の男に対して「おっかなそうな人だなあ」という第一印象を抱き、直前では「咎められるのかと」思うなど、不安を感じる様子や少し怖がる様子が描かれています。「おっかなそうな(=こわそうな)」人に振り返って見られたことで、北斗は怒られることをおそれているのです。

 ここから、「X」に入る言葉として適切なものは「緊張して体をこわばらせる」という意味を表す動作であるウの「身を固くした」だと分かります。なお、その後も北斗の気持ちとして「何だったんだろう」「気になった」と運転手の男の行動を不安に思う様子が描かれています。これが場面②における心の動きです。

その他の選択肢
ア:「肩をすくめた」は恥ずかしい思いを表すときによく使われる動作表現です。
イ:「あごをしゃくった」はおもに、人を見下して指示を出すときに使われる動作表現です。
エ:「目を丸くした」はおどろいた思いを表すときによく使われる動作表現です。

解答:ウ

 

問5
傍線部⑤「何だったんだろうと思った」とありますが、このとき北斗は、運転手が自分のことをどう思っていると感じていたのですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 問4の解説で説明した通り、この場面②では北斗が運転手に不安を感じている様子が描かれています。この「何だったんだろう」も、運転手が自分のことをどう思っているのか、どのような行動をとるのかが分からずに感じている気持ちです。そのため、あらかじめ面倒なことはさけてしまおうと「急いで麺をかきこん」でいます。

 北斗は自分が、コンビニの駐車場で1人でカップ麺を食べる「変な子供」だと思われているのではないか、と予想しているわけです。これに合うのはイの「不審に思っている」です。

その他の選択肢
ア:「感心なことだと思っている」と感じているのであれば店員に通報されて「追い払われる」おそれはなく、不安に思うこともないので間違いです。
ウ・エ:運転手は「穏やか」な声で話しかけ、北斗も「悪意はなかった気がする」と感じているので、「生意気」や「不可能」のようなサイクリングやマウンテンバイクに対する強い否定の感情は抱いていないと予想しています。よって間違いです。

解答:イ

 

問6
傍線部⑥「ぽかんとしている北斗」とありますが、北斗が「ぽかんとし」たのはなぜですか。それを説明したものとして最も適切なものを次の中から選び、記号で答えなさい。

 問5から分かるように、北斗は運転手が自分のことを不審に思っているのではないかと心配していました。ところが突然スポーツドリンクを渡されたため、その直後にも「びっくりして」という記述があるように、何が起きているのか分からず「ぽかんとしてい」ます。これが「差し入れ」であるということもこの段階ではまだ分かっていません。

 つまり、北斗はこのスポーツドリンクがどういう意味のものなのか、これを渡してきた運転手が何を思っているのかが分からなかった、という選択肢が正解であり、最も適切なものはエだと分かります。

その他の選択肢
ア:「目障り」のような強いマイナスの気持ちまで持たれているとは思っていなかったので間違いです。
イ:直後に「怒ったように」とはありますが決して運転手は怒っているわけではありません。またこの傍線部の時点ではまだ「怒った」という記述はないので間違いです。
ウ:この時点ではスポーツドリンクが差し入れだとは分からず、まだ運転手の優しさに気付けていません。よって間違いです。

解答:エ

 

問7
6ページ15行目「今になってようやく笑顔を向けることができた」とありますが、なぜ北斗は「ようやく」笑うことができたのですか。北斗の気持ちの変化をふまえて答えなさい。

 ポイントは「ようやく」という表現です。この「ようやく」の意味を理解するために、まずは北斗の気持ちの変化を読み取っていきましょう。

 場面②と場面③に注目していきます。まず場面②では、北斗が運転手に対して「咎められ」たり「通報され」「追い払われ」たりするのではないかと不安や緊張を感じている様子が描かれています。続く場面③では当初差し入れに対するおどろきがありましたが、その後でサイクリングを応援されていることに気付き、「笑顔を向け」ています。以上のような北斗の気持ちの変化を整理したものが下の図です。

④北斗の気持ちの変化(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 「ようやく」という言葉には、これらのような北斗の気持ちの変化の経緯が表れています。最後になって「ようやく」運転手の厚意に気付くことができ、喜びやお礼の気持ちを表に出すことができたのです。

 よって、解答は以下のようになります。不安とおどろき、喜びという3つの気持ちの変化が入っていることがポイントです。

北斗は運転手に自分の行動を注意されるのではないかと不安に思っており、差し入れをもらっても厚意に気付けないほどおどろいていた。しかし別れ際になったところで運転手が自分の冒険を応援していることが分かり、喜びやお礼の気持ちを伝えたかったから。(118文字)

おわりに

 今回は「気持ちの変化」をテーマにして過去問題を取り上げてみました。

 くりかえしにはなりますが、気持ちの変化を追う際に大切なのは、場面ごとに登場人物の心の動きを読み取ることです。場面を正確にとらえること、心の動きの描写を読み間違えないことも重要なので、問題でつまずいた人はしっかりとその単元も復習しましょう。

 小説読解の解説は次回の記事がラストになります。よければ今まで習ったことが身に付いているかチャレンジしてみてください。

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初めまして。髙橋利弥と言います。 武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。 よろしくお願いします。