日本は国土の大半が山地の国です。山地は農業に適していないため、日本ではせまい平野部で作物の生産量を増やすためのくふうが昔からなされてきました。そして最近では機械化や品種改良などの技術が発達したことで、更に効率が上がっています。
中学受験の入試問題では、特に記述式の問題などでこのくふうについて問われることがあります。記述問題で正確な答えを出すためには、幅広い知識を持つことが大切です。それでは、日本における農業のくふうについて見ていきましょう。
Contents
さまざまなくふう
古くから日本の農業では、生産の効率を上げるためにさまざまなくふうが行われてきました。また最近では、品種改良など新しい技術を用いたくふうも見られます。
品種改良
近代・現代になってもっともさかんに行われているくふうの一つが品種改良です。特にコメなどの品種改良は有名なのでご存知かもしれません。
品種改良の主な目的は、作物の天敵である病気や害虫に強い品種を作ることです。また、暑さ・寒さといった気候的な問題にも対応できる品種も開発されています。たとえば、寒い北海道では昔からコメを作ることが難しかったのですが、品種改良により寒さに強いコメが開発され、国内でのトップクラスの米の生産地となったのです。
これ以外にも最近では、品種改良が進められよりおいしい品種やよりきれいな品種、たくさん実のなる品種なども作られています。
農薬や肥料の使用
農薬や肥料を使うことで、より多くの作物が効率よく生産できます。しかしその一方で、化学肥料などの使い過ぎには悪い側面もあります。
- 農薬:農作物を病気や害虫から守るために使われますが、使いすぎると人の身体にも悪い影響が出ることがあります。また、地下水を汚染してしまうおそれもあります。
- 化学肥料:土地の栄養分を補い、作物の生産に適した土にすることができ、その結果より多くの作物を生産できます。ただし、使いすぎるとその土地本来の栄養分(地力)が下がってしまうこともあります。
- 有機農業:化学肥料や農薬を使わない農業のことで、より安全な作物をつくることができる一方、手間やお金がかかることもあります。
土地の活用
斜面やせまい土地などを活用することで生産量を上げるくふうのことです。
- 棚田/段々畑:山の斜面を耕地に利用する方法です。稲作を行う場合は棚田、くだもの(みかんなど)などの栽培を行う場合は段々畑と呼ばれます。
①段々畑
- 二毛作:1年の間に、同じ耕地で2種類の作物(米と麦、米と野菜など)を育てる農業のことです。
その他の農業のくふう
品種改良や農薬の使用の他にも、さまざまなくふうを行うことで農業生産の効率を上げるこころみが見られます。例えば以前の記事で紹介した高冷地農業や促成栽培もくふうの一つです。
- 集約農業:せまい耕地で多くの作物を作るため、多くの肥料や人手、手間をかけて行う農業のことです。価格の高い農業機械などを用いるケースも多く、たくさんのお金が必要になることもあります。
- ビニールハウスの使用:外よりも温かい環境を作り出すことで、野菜や花の促成栽培を行ったり、稲の苗を育てる育苗を行ったりします。
②ビニールハウス
- 地域に合わせた農業:高冷地農業や近郊農業など、その地域の気候や環境に合わせた作物の栽培を行うことでより多くの利益を上げることができます。
土地の改良
地力の低い土地や農業に向いていない土地を改良し、耕地に作りかえるくふうは古くから行われてきました。また、農業に欠かせない水を確保するために、用水路などを作るこころみも見られます。
干拓や開拓
干拓とは、海や湖などに堤防を作ることで中の水を干し上げ、乾いた土地に作り変えることです。秋田県の湖の八郎潟(はちろうがた)の干拓(大潟村に)や、佐賀県の有明海(ありあけかい)沿岸、岡山県の児島湾(こじまわん)の干拓が有名です。
開拓とは、荒れ地などを切りひらいて耕地や人の住める土地に作り変えることです。北海道の根釧台地(こんせんだいち)や長野県の野辺山原などで行われてきました。
その他の土地の改良
・客土:地力の低い地域に、他の土地から良い土を持ってきて、生産のしやすい土地に作り変えることです。石狩平野の例が有名です。
・暗きょ排水:地下にパイプを埋め、湿田を乾田に作り変えるくふうです。越後平野ではこの暗きょ排水を行うことで、日本でもトップクラスのコメの生産地になりました。
用水路
農業に水は欠かせません。元々水が豊かではなかった土地に用水路などを作って水を引くことで、農業に適した土地に作り変えることができます。
- 安積疏水(あさかそすい、福島県):猪苗代湖(いなわしろこ)の水を郡山盆地(こおりやまぼんち)に運びます。
- 香川用水(香川県):吉野川の水を香川平野に運びます。香川平野は降水量が非常に少ないため、この用水路がとても重要です。
- 愛知用水(愛知県):木曽川(きそがわ)の水を知多半島(ちたはんとう)へ運びます。
- 明治用水(愛知県):矢作川(やはぎがわ)の水を岡崎平野へ運びます。
- 豊川用水(愛知県):豊川や天竜川の水を渥美半島(あつみはんとう)へ運びます。
練習問題
問題
それでは最後に、この分野に関する地図を使った練習問題に取り組んでみましょう。
③ 生産のくふう 問題
(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)
問1
ア・イ・エ・カ・ク・ケの地域では農業生産を高めるためにあるくふうが行われています。ア・イ・エ・カ・ク・ケの地名を答えなさい。また、そのくふうについて、それぞれ20文字程度で答えなさい。
問2
オ・キの地域で見られる生産を高めるためのくふうについて30文字程度で答えなさい。
問3
ウの地域では[A]が干拓され、[B]という地方自治体が生まれました。
[A]と[B]に当てはまる言葉を答えなさい。
問4
カの対岸にある都道府県では用水路が作られました。用水路の名前とその用水路が作られた理由、どの川の水が引かれているかを答えなさい。
解答・解説
問1
- アは石狩平野です。石狩平野は稲作に適していない土地(泥炭地)だったので、他の土地から良い土を持ってきて生産のしやすい土地に作り変える客土が行われました。
- イは根釧台地です。ここでは明治時代に開拓が行われ、国内最大級の酪農地帯となりました。
- エの越後平野は、もともと稲作には不向きな湿田でした。そこで暗きょ排水を行い、水はけがよく稲作に向いた乾田に作り変えたことで、日本有数の米どころとなったのです。また、ここでは分水路による土地改良が行われたこともポイントです。
- カの児島湾では室町時代から1960年代まで干拓事業が行われ、コメや麦、野菜など様々な作物の農地が作られました。
- クの有明海沿岸では江戸時代から干拓が行われ、水田が形成されてきました。その一方で干潟が干上がったことでたくさんの水辺の生き物が死んでしまい、漁業にも被害が出たという声もあります。
- ケは野辺山原です。ここでは特に戦後に開拓が行われ農地が形成されました。レタスやキャベツなどの高原野菜を栽培する高冷地農業が有名です。
〈解答例〉
ア:石狩平野 生産力の低い土地だったので、客土が行われた。
イ:根釧台地 開拓事業を行い、農業のしやすい土地にした。
エ:越後平野 暗きょ排水により湿田を乾田に作り変えた。(分水路を作り、稲作に適した土地を作った。)
カ:児島湾 古くから干拓が行われ、農地が形成された。
キ:有明海沿岸(諫早湾(いさはやわん)) 干拓により水田が形成され、穀倉地帯となった。
ク:野辺山原 開拓が行われ、レタスなど野菜の畑が作られた。(すずしい気候を活かした高冷地農業がさかんだ。)
問2
- オは郡山盆地を指しています。郡山盆地は降水量が少なく、また元々大きな川などがなかったため、農業をすることは非常に大変でした。そこで明治時代に猪苗代湖から安積疎水が引かれ、その水は農業(主に稲作)だけでなく工業用などにも用いられました。
- 愛媛県西部の海に面した地域(キ)では、段々畑でみかんを栽培しています。山の斜面を利用した段々畑は土地を効率よく使うことができるだけでなく、太陽の光をむだなく浴びることで甘くておいしいくだものが育つというメリットもあります。
〈解答例〉
オ:水資源が少ない地域だったが、安積疎水を引くことで水田を作った。
キ:海に面した山地の斜面に段々畑を作り、みかんを栽培している。
問3
ウの地域にはかつて、八郎潟という日本で2番目に大きな湖がありました。1950~60年代にその八郎潟の干拓が始まり、その土地は「大潟村(おおがたむら)」という新しい村になりました。干拓地の大部分は水田となっています。
〈解答〉
[A]:八郎潟 [B]:大潟村
問4
カ(児島湾)の対岸にある香川県は「瀬戸内海の気候」が見られ、とても降水量が少ない都道府県です。また大きな川もないため水不足に苦しむことも多く、香川平野ではため池などが使われてきました。1970年代に完成した香川用水は徳島県を流れる吉野川の水を引いた非常に大きな用水路であり、このおかげで十分な量の農業用水や飲み水を確保することができるようになったのです。
〈解答例〉
用水路の名前:香川用水
理由:香川平野は降水量が少なく大きな川もないため、水不足に苦しむことが多かったから。
川の名前:吉野川
おわりに
この記事では日本の農業で見られる生産のくふうについて説明してきました。練習問題は問題なく解けたでしょうか。分からなかった問題は、解説やその部分の教科書をしっかりと読むようにしてください。
実際の入試問題では、農業分野だけでなく気候など様々な関連する分野の知識が必要な問題が出されます。この機会に他の分野についてもニガテがないかもう一度見直してみましょう。
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参考
初めまして。髙橋利弥と言います。
武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。
よろしくお願いします。