前回の記事では「場面」という点に注目しながら小説読解を行う方法について説明しました。続いて、小説でもっとも大切な「言動と心情」を読み取る方法について、2回に分けて説明していきます。
今回の目標は気持ち・心の動きを表す表現がどのように示されているか分かるようになることです。実際の過去問でどのように気持ちを表す表現が使われているか見ていきましょう。
Contents
文章(2018年・品川女子学院中等部)
文章は、下のpdfか森谷明子『南風吹く』(光文社)を参照してください。
pdfから文章を読む場合、上の問題のうち、大問「四」の文章を読んでください。この記事では、この小説を使って練習をしていきます。また、問題については一部改変したものを使っていきます。
気持ちを読み取る
問題の前に、気持ちを表す表現がどのように用いられるか、どのように読み取っていけばいいかについて説明していきます。自信のある方はとばして問題に取り組んでみても構いません。
心の動きを表す表現
気持ちを読み取るためには、まず直接的な表現を探してみましょう。たとえば地の文で「○○はくやしかった」「○○は悲しそうな声を出した」などとあればそれは気持ちの動きを直接的に表す描写です。また、登場人物のせりふの中で気持ちが表される場合もあります。
しかし、気持ちが直接は書かれていないことも多くあります。その時は心の動きを間接的に表している部分に注目してみましょう。気持ちを間接的に表す描写には、表情や動作、態度などの行動や、会話表現などがあります。たとえば「○○はバンザイをした」という表現があった場合、この行動は一般的にうれしい気持ちを表しているので、その直前に心が動く何かがあったということになります。
心が動き、なんらかの気持ちが生まれた結果が行動や表情、発言に表れるというという流れは忘れないようにしましょう。
心の動きが起きる原因
心が動くのにはなにかしらの原因があります。心が動く原因となったできごとや事件が何なのかをとらえることはとても大切ですし、その原因が問題として問われることもあるので注意しましょう。前回の記事では場面について説明しましたが、できごとや事件が起こる背景となった場面を正確に理解していることも重要です。
また、むずしい小説では気持ちを表す描写が間接的にも書かれていないことがあります。この場合はできごとや事件を手がかりにして登場人物の気持ちを予想するという作業が必要になります。
演習問題
本文はpdfからお読みください。問題については一部改題しています。
問題編
問1
——線①「精一杯明るい声を出した」とありますが、それはなぜだと考えられますか。最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
ア:恵一の帰りが遅く、訪ねてきた航太が帰ってしまうかもしれないと心配して焦っていたため。
イ:恵一と父親の間のぎくしゃくした気まずい空気を少しでも軽くしたいと思っていたため。
ウ:疲れきって遅く帰ってきた恵一に、早くご飯を食べてしまってほしいと促すため。
エ:言葉数の少ない恵一と父親だけでは、家の中が暗くなってしまうため。
問2
——線②「そんなことより」とありますが、このときの恵一の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
ア:父親との不仲を知られて気まずいが、珍しく訪ねてきた航太の話をとにかく聞きたいと思っている。
イ:航太の進路の悩みは自分の悩みとは質が違うもので、自分には関係ないと思っている。
ウ:自分の抱える進路の悩みをつい話してしまったが、その話題を切り上げようとしている。
エ:お互いに進路に悩んでいることを知って、心強く思い、自分にできることを探そうとしている。
問3
——線④「写真をひったくった」とありますが、この時の恵一の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
ア:できの悪い俳句を作ってしまい、自分の才能のなさにいらだっている。
イ:父親に鮎を川に捨てられたことを思い出し、悲しさがよみがえっている。
ウ:航太が見つけた古い写真をなつかしく思い、自分も早く見たいと思っている。
エ:俳句は人に見せるものではないので、航太にも見られたくなかったと思っている。
問4
——線⑥「おれたちと一緒に俳句を作れ」とありますが、この時の航太の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
ア:恵一の俳句の才能を評価しているからこそ、父親とけんかをして不機嫌になっている恵一に、本来のやる気を取り戻してほしいと思っている。
イ:仲間と一緒に作る俳句の楽しさを恵一にも知ってもらい、才能のある恵一からいろんなことを教わって、自分ももっと俳句が上手になりたいと思っている。
ウ:才能があるのに使おうとしない恵一に感じた嫉妬をもてあましながら、わざと恵一が困るような提案をするほど腹立たしく思っている。
エ:自分が頑張っても思うような俳句が作れないのに、能力があるのにもかかわらず、俳句を表に出そうとしない恵一の才能をもったいないと思っている。
問5
——線⑦「おれの俳句はおれだけのものだ」とありますが、この時の恵一の気持ちとして、適切なものをすべて選びなさい。
ア:俳句甲子園で審査員が付ける評価への不信感をおぼえている。
イ:協力しながら俳句を作るという航太の考えを軽べつしている。
ウ:自分の俳句を他人に勝手に解釈されることをいやだと考えている。
エ:レベルの低い航太の俳句と自分の俳句を一緒にしてほしくないと思っている。
問6
15ページ16行目「航太は恵一に詰め寄った」とありますが、航太が強引に恵一を誘った理由として、航太がある経験をしたことがあります。この経験をふくむ一文を探し、30字程度で抜き出しなさい。
解説編:文章解説
問題の解説に入る前に、この文章中における登場人物の気持ち(心の動き)について考えてみましょう。航太と恵一、それぞれの気持ちについて文章全体を4つの場面に分けて整理していきます。
まず、中心人物である航太の気持ちです。特に場面3と場面4で強く心が動かされていること、またその原因が何なのかにも注意しましょう。航太は恵一の「それだけのもの」というせりふに対して強く反応し、自分の体験をふりかえりながら恵一の俳句の才能を俳句甲子園で発揮させたいと考えるようになりました。このあたりの心の動きは問題としても出されているので確認してみてください。
① 航太の心の動きとその原因
(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)
次に、恵一の気持ちについても整理していきます。航太と比べると直接的な表現がなく少し分かりづらいですが、せりふや行動から心の動きをとらえられるようにしましょう。特に場面3と場面4では恵一とのやりとりから、俳句や俳句甲子園に対してどのような感情を持っているかを読み取っていくことが大切です。
② 恵一の心の動きとその原因
(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)
解説編:問題解説
それでは、実際に問題の解説に入っていきます。
問1
——線①「精一杯明るい声を出した」とありますが、それはなぜだと考えられますか。最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
恵一のお母さんが「精一杯明るい声を出した」理由を問う問題です。ここでは「精一杯」という表現に注目しましょう。つまり、ここで明るい声を出したのは本当に明るい気持ちだったのではなく、無理をしていたということを読み取ることができます。
それでは、なぜお母さんは無理をしてまで明るい声を出そうとしたのでしょうか?その後を読んでいくと、恵一と父親が進路をめぐって意見をぶつけ合っていることが分かります。父親がずっと無言を貫いているように、家の中のふんいきは良いとは言えません。
選択肢を見てみると、以上の内容にもっとも合うのはイであると分かります。お母さんは「精一杯」明るくふるまうことで家の中にただよっている(恵一と父親が原因の)気まずい空気をふりはらおうとしたのです。
アは「帰ってしまうかもしれないと心配して」、ウは「疲れきって遅く帰ってきた」という部分が文章中に書かれていません。エは「家の中が暗くなってしまうため」という部分が正解のようにも見えますが、父親と恵一は「言葉数の少ない」ために無言であるわけではないのでまちがいです。
解答:イ
問2
——線②「そんなことより」とありますが、このときの恵一の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
せりふに込められた恵一の気持ちを読み取る問題です。図の②も参考にしてください。まず、前後の会話の中で「そんなことより」というせりふが果たしている役割について考えてみましょう。この前までは恵一の進路について話していたのに対して、「そんなことより」の後では航太の「話したいこと」(=俳句甲子園へ恵一を誘うこと)についての話に移り変わっています。
ただし、ふつうの会話と比べて移り変わりがやや突然のようには思いませんか?恵一が航太の話をさえぎるようにして次の話題へ移るようにうながしています。その一方で航太が「また明日にするわ」と言うと「それ以上突っ込もうとは」せず、航太の話に大きな興味があるというわけでもなさそうです。つまり、恵一は次の話がしたかったのではなく、今までの話を続けたくないから話を変えたということが予想できます。
ここで選択肢を見てみましょう。上の説明にもっとも合うのはウの選択肢です。アの「航太の話をとにかく聞きたいと思っている」なら「また明日」に対してもっと引き下がるはずです。イの「質が違う」というのは記述がありませんし、むしろ進路を親に反対されるという同じような悩みだという説明があります。またエの「心強く~」と感じているならばその話を続けるはずなのでまちがいです。
解答:ウ
問3
——線④「写真をひったくった」とありますが、この時の恵一の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
恵一の行動から気持ちを予想する問題です。図の②も参考にしてください。まず「ひったくった」という表現に注目し、その行動に出た理由を考えてみましょう。人から物を盗む「ひったくり」という言葉からも分かるように、ひったくるという言葉には「人の持っているものを無理にうばう」という意味があります。恵一は航太から写真を無理にでもうばいたかったのです。
この写真は恵一のいやな思い出が残るものでしたが、裏には俳句が書かれていました。恵一は「勝手にのぞくな」と話すほど、俳句を人に見せることをいやがっています。つまり、裏に書かれた俳句に航太が気づく前に写真を取り返したかったために「あわてたように」写真をうばったのだと予想できますね。
この説明に合うのはエの選択肢です。アの選択肢も俳句について書かれていますが、恵一が自分の俳句をできが悪いと思っている記述はありません。またイの「悲しさ」は写真を見つけた直後に感じていますが、俳句を作ることでその気持ちも整理できたという記述があります。ウについても写真を見たがっている記述はないのでまちがいです。
解答:エ
問4
——線⑥「おれたちと一緒に俳句を作れ」とありますが、この時の航太の気持ちとして、最も適切なものを次の中より一つ選び、記号で答えなさい。
「おれたちと一緒に俳句を作れ」というせりふに込められた航太の気持ちを予想する問題です。図の①も参考にしてください。まず、この前後で航太の気持ちに関する表現を探してみましょう。すぐわかるのは直前の「怒り」と「嫉妬」です。恵一が俳句の才能を持っているのにもかかわらず、それを使おうとしないことに対して(俳句が上手くない自分と比べて)怒りや嫉妬を感じているのです。
しかし、このせりふの辺りから航太はそれらの気持ちを心の中にしまい、航太を誘うことに全力を注いでいます。きっかけとなったのが河野の「もったいない」という言い分を思い出したことです。航太も「今なら、河野のあの言葉が身に染みてわかる」と考えているように、恵一の才能を「もったいない」と強く感じることがメインになっています。だからこそ「お前のその才能がほしい」というまっすぐなせりふも出てくるのです。「怒り」や「嫉妬」が前面に出た状態では出てこない言葉でしょう。
ここで選択肢を見てみると、「もったいない」という気持ちが書かれているのはエだけであり、他の記述も誤りがないことから正解だと分かります。「自分は頑張っても思うような俳句が作れない」という部分もポイントです。
他の選択肢ですが、アは恵一は俳句の「やる気」を失っているわけではありません。またウの「恵一が困るような提案をするほど腹立たしい」という部分もまちがいです。そもそも航太は最初から俳句甲子園に誘おうと考えていました。イが正解だと思った人もいるかもしれませんが、この部分ではまだ「仲間と一緒に作る俳句の楽しさを~知ってもらい」たいというところまでは考えていません。
解答:エ
問5
——線⑦「おれの俳句はおれだけのものだ」とありますが、この時の恵一の気持ちとして、適切なものをすべて選びなさい。
恵一の「おれの俳句はおれだけのものだ」はこの文章内でキーとなるせりふです。どのような気持ちが込められているのかしっかり読み取ることができたでしょうか。
まずはこの言葉がふくんでいる意味を読み取ってみましょう。恵一は俳句のことを自分の「気持ちをすっきりさせる道具」(本当はもっと大事なものである、と航太は指摘していますが)だと考えており、「みんなで語り合うものじゃない」とも話しています。更に俳句甲子園に対しても「試合仕立ての内容に納得なんてできやしない」とそのシステムを批判しており、「他人が勝手な解釈をするなんて、願い下げだ」と話しています。
以上より、仲間が自分の句のよさを教えてくれると考えている航太に対して、恵一にとっての俳句は他人にあれこれ言われるべきものではない=「おれだけのもの」だと、この時点では完全に意見が食い違っているのです。
③ 航太と恵一の俳句に対する意見の違い
(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)
以上より、「おれの俳句はおれだけのものだ」というせりふには俳句と俳句甲子園に対する2種類の気持ちが込められていると予想できます。これをふまえてそれぞれの選択肢を見ていきましょう。
アは正解です。恵一は俳句甲子園の審査員が点数をつけるというシステムに対して不信感をいだいており、これが航太の提案を断る一つの理由となっています。イは不正解です。恵一は航太の誘いを断ってはいるものの、「軽べつしている」という記述はなく、やや言い過ぎでしょう。ウは正しい選択肢です。恵一は俳句を他人に解釈されることをいやがっています。エは誤りです。恵一が航太の俳句に対しレベルが低いと感じた記述はありません。
解答:ア・ウ
問6
15ページ16行目「航太は恵一に詰め寄った」とありますが、航太が強引に恵一を誘った理由として、航太がある経験をしたことがあります。この経験をふくむ一文を探し、30字程度で抜き出しなさい。
航太が恵一に一度断られても強引に誘った理由を考える問題です。これは航太が経験したできごとが理由となっています。図の①も参考にしてください。
16行目の近くを読んでみましょう。10行目に「今までの航太なら、そこで引き下がっていたのかもしれない。だが今は違う。」という記述があります。この辺りがヒントになりそうです。——も引かれている「だが今は違う」に注目し、その後まで読むと「今日、体験したじゃないか」とあります。更に読み進めていくと、その後に航太の「体験」が書かれていることが分かりました。
航太はこの「航太にはわからなかった航太の句のよさを、仲間が見つけてくれた」という体験がきっかけとなり、仲間とともに俳句の解釈をする楽しさ、すばらしさに気づくこととなりました。この感動を恵一にも伝えたい、「お前の句がお前のものだけじゃない」と気づかせたいと思ってやや強引に誘っているのです(問題とは関係ありませんでしたが、同じ方法で河野が京を誘ったことも書かれています)。
問題は30字で抜き出せとなっているので、正解は「航太にはわからなかった航太の句のよさを、仲間が見つけてくれた」(30字、「。」を含んでもよい)の部分です。
おわりに
いかがだったでしょうか。心の動きを表現する記述とその原因に注目して読んでいき、登場人物の気持ちについてしっかりととらえられるようになりましょう。
問題はほとんどが入試問題からそのまま出題しました。直接「気持ち」を問う問題だけでなく、行動の理由を問う問題でも人物の気持ちを理解することは大切です。慣れないうちはせりふや行動、一つ一つに込められた気持ちに気を配りながら読んでいくようにしてください。次回の記事では気持ちの動きを読み取っていくことにチャレンジしていきます。
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参考
初めまして。髙橋利弥と言います。
武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。
よろしくお願いします。