【学習院中等科・2018年過去問】小説読解シリーズ①~場面を読む~

 皆さん、小説の読解問題は得意ですか?小説は説明文などと比べ文章が分かりやすい反面、どこに気を付けて読むのかが分かりづらく苦手な人も多いかと思います。しかし、説明文の問題にコツがあるのと同じように、小説を読むのにもコツがあるのです。

 今回からは4回に分けて、小説読解のコツについて説明していきます。実際の過去問を使いながら説明していくので、受験が近い方は本番を想定しながら、低学年の方は過去問のレベルを知るという使い方で読んでみてください。

文章(2018年・学習院中等科)

 文章は、下のpdfか落合由佳『マイナス・ヒーロー』(講談社)を参照してください。

学習院中等科2018年度国語問題

 pdfから文章を読む場合、上の問題のうち、大問「一」の文章を読んでください。この記事では、この小説を使って「場面を読む」練習をしていきます。また、問題については一部改変したものを使っていきます。

小説における「場面」

 まずは問題に取り組む前に小説での「場面」とは何かを説明していきます。実力を確かめたい人はこの章は飛ばし問題に取り組んでも構いません。

「場面を読む」とは

 「場面」は、作文の際などにも基本となる「いつ・どこで・誰が・何をした」を間違えずにとらえることがスタート地点になります。

  • 「いつ」:話されている出来事が過去・現在・未来のうちどの出来事なのかを考えていきます。時間の経過や過去を思い出す(回想する)シーンなど、時間が変化したことを示す描写(びょうしゃ)や表現に気を付けましょう。
  • 「どこで」:その出来事がどこで起こったものなのか、場所をとらえましょう。場所が移動した時にはその表現にも注意です。
  • 「誰が」:その物語の中心が誰なのか、行動を起こしたのは誰なのかに注意しましょう。また、そのシーンには誰がいるのか、会話には誰が参加しているのか、人物の登場や退場などにも気を付けて読んでいきます。
  • 「何をした」物語の中心となっている出来事(行為)は何なのかを考えていきます。また、複数の出来事がある場合にはお互いの出来事がそのような関係性・時系列で起きているのかにも注意しましょう。更に、登場人物がなぜその行為を起こしたのか、心情を直接表す言葉やセリフ・行動を表す言葉から気持ちを読み取っていきます。

「場面を読む」演習問題

問題編

問1 「いつ」を読む
本文中に書かれたア~オの出来事を、時間の流れに合うように並べ替えてください。
ア 監督が凪人に、コートから出るよう指示する。
イ 凪人が放課後に、羽野と望月の練習を見てアドバイスを送る。
ウ 凪人が体調を崩し、二週間練習を休む。
エ 凪人が部員同士の打ち合いを見た後、一階に続く階段を下りる。
オ 渚が羽野と望月の練習を茶化し、凪人にも詰(つ)める。

問2 「いつ」を予想する
次のア~ウの出来事は、いつ起きたのか本文中にははっきりと書いてありません。いつ起きたのかを予想して、時間の流れに合うように並べ替えてください。
ア 凪人がバドミントン選手としての道をあきらめる。
イ 望月が野球部からの誘いを断る。
ウ 凪人が船岡ジュニアのランキング戦で8位になる。

問3 「どこで」「誰が」を読む
3ページに「振動(しんどう)で二階通路がゆさゆさ揺(ゆ)れる」とありますが、これは誰がどうしたからですか。20字程度で答えてください。また、この出来事の直前に「二階通路」にいたのは誰ですか。すべて答えてください。

問4 「何をした」を読む
波線部(1)で、凪人が「手を振(ふ)った」のはなぜですか。凪人の過去の経験をふまえて、25字程度で答えてください。

問5 「何をした」を読む
波線部(6)の「渚の言葉」とは、どの言葉のことを指しているでしょうか。かぎかっこで囲まれたせりふ1つを抜き出して答えてください。

解説編

 問題の解説に入る前に、この物語の「場面」を考えていきます。

 2.1で、「場面」を読む際には「いつ・どこで・誰が・何をした」をとらえることが大切だと説明しましたが、実際にそれぞれについて読み取っていきましょう。

 まず、場面を読み取る前に考えるべきことは、この物語の主人公は誰だろうか、ということです。本文前の四角で囲まれた文章には凪人の情報が多く書かれており、その後の本文でも凪人の目線で物語が進んでいきます。そのためここからは、凪人の年齢やいる場所などを手がかりにして場面を読み取っていきます

 「いつ」については、この文章中には大きく分けて2つの時間がえがかれています。1つ目は中学生の凪人が羽野や望月のコーチをしたり、渚と言い合いになったりする場面です。これが物語の中では現在にあたります。もう1つは凪人がバドミントン選手として苦しんでいた小学生時代の場面です。これは現在から見て過去を思い出す「回想」にあたります。主人公である凪人の年齢・学年をもとにして考えると分かりやすいかもしれません。

 注意すべきなのは、この文章中では「現在→過去→現在」という順番で時間がえがかれていることです。3ページの「船岡(ふなおか)ジュニアでの~」から過去の出来事に場面が変わり、続いて5ページの「打球音が不規則に~」からは再び場面が現在にもどります。この時間の流れを読みまちがえてしまうとその後の読解もまちがえてしまう可能性が高いので、じゅうぶんに気を付けてください。

 ここから、1ページからの現在の場面を①、3ページからの過去の場面を②、p.5からの現在の場面を③と名前を付けて説明していきます。


「いつ」を読む(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 続いては「どこで」を考えていきます。「どこで」を考える際には、先ほど考えた「いつ」ごとに分けて読み取っていきましょう。物語の中心となる場所をつかむことが大事ですが、そのためには「いつ」の時と同じように凪人がどこにいるかをヒントにできます。

 ①の場面は体育館の二階通路で話が進んでいきます。途中(3ページの1行目)で羽野と望月は一階へ移動しますが、凪人は移動しないので場面としてはそのまま変わりません。

 ②は船岡ジュニアが練習しているコートで話が進みます。この場面では1つ、少し重要な「どこで」の変化があります。3ページの「二週間ぶりの練習は」から後は、凪人がコートの中で練習している場面です。しかし、凪人は体調が良くないと思われたためコートの外に出されてしまいます。それが4ページの「凪人はしぶしぶコートを出た」より後です。ここからは、コートの外からチームメイトを観察しつつ、航にライバル心を抱く凪人の気持ちがえがかれています。

 ③も①から引き続き凪人は体育館の二階通路にいますが、5ページ最後の行で一階に向かっていると書かれています。「下では部員同士の打ち合いが始まっていた」とあるように、一階ではバドミントン部の練習が始まっているので、そこへ向かったのではないかと予想できます。


「いつ」「どこで」を読む(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 「誰が」「何をした」については、それぞれの行動やせりふが誰によるものなのかを正確にとらえていくことが重要です。そのためにも、出来事が起きている場面にどの人物がいるのか、出入りに注意しましょう。

 この文章中で人物の出入りが大事になるのは①の場面です。体育館の二階通路には最初、凪人と羽野、望月の3人がいましたが、2ページ「無駄(むだ)に大きい声が割り込んできた」から渚も場面に入ってきます。その後、3ページはじめの「羽野と望月は返事をしてすぐ一階に向かった」で2人が退場し、「渚は言いたいだけ言って~」で渚も退場します。つまり、③の場面に入った時、体育館の二階通路には凪人1人しかいません。


場面を読む(筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 

問1 「いつ」を読む

 文章中の描写(びょうしゃ)から時間の経過について考える問題です。ア~オの出来事が、①~③のどの場面にあるかを考えていきましょう。
 イとオは場面①の出来事です。イは1ページ、オは2ページにありますね。続いて、アとウは過去である場面②の出来事です。凪人が二週間ぶりの練習で良い動きができず(3~4ページ)、監督からコート外に出るよう指示される(4ページ)という流れになっています。残るエは場面③の出来事です。5ページの最後の文章がそこの記述になります。

 解答:イ、オ、ウ、ア、エ

問2 「いつ」を予想する

 文章の流れから、出来事が起きた時間を予想する問題です。本文中には書いてありませんが、どの出来事とどの出来事の間に起きたことか?と考えていきましょう。
 アは本文前の四角で囲まれた部分にも書いてありますが、凪人が中学校に入ってからの出来事です。続くイは、1ページの望月のせりふで説明があるように、望月が中学校に入った直後の出来事だと予想できます。ウは凪人がバドミントン選手として活動していた小学生時代の出来事です。3ページに「最高が八位」とあります。また、体調を崩す前に「やっと、一〇位以内にランクインしたところだったのに」とあることから、この時の出来事ではないかとも予想できます。
 以上からア~ウを並べていくと、ウ→ア→イという順番になります。望月は凪人の後輩だという情報があるので、望月が中学校に入学したのは凪人の入学よりも1年後ですね。

 解答:ウ、ア、イ

問3 「どこで」「誰が」を読む

 3ページの「振動(しんどう)で二階通路がゆさゆさ揺(ゆ)れる」についての問題です。
 この直前に「渚は言いたいだけ言ってきびすを返し、いきおいよくかけ出した」とあり、つまり二階通路が揺れたのは渚が通路を走ったからだと分かります。また、この場面に誰がいたのかは図の③も確認してみましょう。羽野と望月はすでに二階通路からいなくなっているので、「」部分の直前にこの場所にいたのは凪人と渚の2人です。

 解答:渚が一階に行くために二階通路を走ったから。
 凪人、渚

問4 「何をした」を読む

 動作に込められた心情を考える際には前後の心情描写や発言に気を付けて読んでみましょう。波線部(1)の後に凪人が「埃がちょっと苦手なんだ。それだけ。」と話しています。「それだけ。」という部分からも分かるように、このせりふは、体調が悪いわけではないということを強調したいのだと予想できます。手を振ったのにも同じような意味があるのでしょう。
 過去の経験をふまえてとありますが、凪人は小学生時代、体調が良くないと監督に判断されて練習を見学することになったくやしい経験があります。この時に航に対して強い敵対心を持ったことが、選手としての道をあきらめた今も凪人がバドミントンに関わり続けている原動力になっています。

 解答:羽野と望月に体調が悪いと心配されたくなかったから。

問5 「何をした」を読む

 この波線部の前後に「口出す」「口だけ」「逃げている」といったキーワードが散らばっていることに注意しましょう。
 「渚の言葉」に凪人が「いらいら」したのは、波線部の前に「ここで口出す以外に、何しろっていうんだよ。」とあることからも、口を出すだけという凪人のふるまいを渚に指摘され、それをはっきりと否定(ひてい)できなかったことが理由であると予想できます。凪人は自分自身でも、今の自分が「口だけ」「逃げている」であることをみとめてしまっているのです。
 それでは、「口だけ」であることを指摘するような渚のせりふを探していきましょう。3ページで渚は「なーんだ、そうやって逃げるんだ。高いところから見下ろして口出すだけのくせに、えらそーにしないでください」と話しています。これが、凪人を「いらいら」させたせりふにあたります。

 解答:「なーんだ、そうやって逃げるんだ。高いところから見下ろして口出すだけのくせに、えらそーにしないでください」

おわりに

 この記事では学習院中等科の過去問を題材にして、小説で「場面を読む」練習をしました。「いつ・どこで・誰が・何をした」はあらゆる文章での基本になりますし、作文などをする時にもこの4つの要素を意識することがとても大切です。

 問題を解く時に困らないためには、ふだんから誰がそのシーンにいるのか、どこで起きている出来事なのかといった情景を頭の中で想像しながら物語を読むのがおすすめです。登場人物になりきって読むのもいいかもしれません。しっかりと読む方が練習になるだけでなく、物語に入り込んだ気持ちになれるので内容も頭に入ってきやすく、おもしろく読めますよ。

 さて、問4と問5は登場人物のせりふや行動から心情を読み取る問題でしたが、次の記事ではもっとくわしくその部分を説明していきます。ぜひ読んでみてください!

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初めまして。髙橋利弥と言います。 武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。 よろしくお願いします。