大妻中学校は、東京都千代田区三番町という、都心でありながら豊かな自然に触れることもできる抜群のロケーションを誇る、中高一貫の女子校です。その歴史は古く、1908年(明治41年)、創立者である大妻コタカ氏が塾生15人とともにスタートしました。
関東大震災、第二次世界大戦における東京大空襲によって二度校舎が焼失しましたが蘇り、現在は地上9階、地下1階の校舎に学習効率がよく考えられた教室や各施設が備えられ、約43,000冊の蔵書を誇る図書室や2つのアリーナなどが特徴的です。
2020年度の現役合格者数は、国公立大学30名、早慶上智+東京理科大で110名、G-MARCHが265名と非常に安定。特に私立上位校を目指す生徒が多く、実績も伴ってきていると言えるでしょう。最近では、医学部合格者も15名、薬学部は73名など、医療系の大学・学部を目指す生徒も増加傾向にあります。
大妻中学校の校訓は、「恥を知れ」。創始者である大妻コタカ氏は、これは決して他人に言うことではなく、あくまで自分に対して言うことだということ、そして人に見られたり、聞かれたりしたときに恥ずかしいようなことをしてはいないかと自らを戒めること、すなわち「自分を律する心」の大切さを説いています。
こうした校訓を大切にしながら、大妻中学校は「未来に生きる教育」を追求。これから起こり得るであろう大きな変化や技術の進化があっても、未来を予測し、備えることができるのは人間だけである、という理念のもと、「自分の頭で考え、自分で可能性を切り開く力」にこだわって教育を行っています。
社会に出るとそこにあるのは答えのない問題ばかりですから、自分の頭でいかに考え、試行錯誤できるかが豊かな人生を生きる上で非常に大切です。そうした力を養う教育を行っているのが大妻中学校の特徴だと言えるでしょう。
今回は、長い伝統を誇りながらも全人格的な教育を発展させ、進化を遂げている人気の女子校・大妻中学校について、2021年度の国語の入試問題を題材に、出題の特徴を解説します。合格に向けた対策の参考にしてください。
Contents
近年の出題傾向
国語の出題傾向・概要
大妻中学校の国語の入試問題は、例年大問3題の出題が続いています。おおむね、文学的文章(物語文または文学的随筆)1題、説明的文章(説明文・論説文・説明的随筆)1題、韻文(詩や俳句など)とその鑑賞文1題で構成されているのが特徴。すべて長文読解問題です。特に、韻文の鑑賞文は入り組んでいて読解を行うのはなかなか骨が折れるので注意しなければなりません。
また、各大問の設問中に漢字やことばに関する知識問題がちりばめられていますが、漢字やことばだけで独立した大問が出題されることはありません。そのため、知識の引き出しを広げておき、どんな問題が出題されても対応できるようにしておく必要があるでしょう。
長文読解の大問3題というと難易度が高い、どのように対策したらいいのか、と考えられる受験生や保護者の方も少なくありません。各設問は漢字やことばの問題、短めの書き抜き問題を除いてほぼすべてが記号選択式問題。
そう考えるとなんとかなるかな、という直感はある意味では正しいでしょう。しかし、大妻中学校の記号選択式問題はかなりのクセがあり、決して易しくはありません。その点に注意しながら対策を行っていく必要があります。
文章自体は比較的読みやすく、共感できるかどうかがポイントです。受験生と同世代の主人公が出てくる物語文をはじめとした文章がよく出題されます。また、大妻中学校の国語の素材文として特徴的なのが、他の中学校でもよく出題されるような、「話題の文章」がよく出題されること。例年、ベストセラー小説や論説文を中心に、話題となった作者の文章から抜粋されて出題されています。
もちろん、必ずそうした「流行りの」文章から出題されるとは限らないので、さまざまな作者の、さまざまなタイプの文章に触れておくことが必要なのは言うまでもありません。読書をする際に、2~3年間に中学入試で出題されている文章を読んでおくと、大妻中学校が「好きな」タイプの文章の傾向がつかめるでしょう。
ただし、最も大切なのは、バリエーション広くさまざまな文章に触れることです。塾のテキストや通常授業、模試などで出題された一つひとつの素材文を大切に読み込むことが何よりの対策になるでしょう。
説明的文章は、論説文や説明的随筆の出題が目立ちます。少し文体がつかみにくい文章が出題されることが多いので、物語文に比べると少し難度は上がると言えるでしょう。ただし、受験生の理解の範疇外というわけではなく、小学校6年生でも十分に理解し、設問に挑める出題となっているので、少し堅めの論説文や随筆に多く触れ、「これはどういうことか」自分の口で説明できるように意識しながら読む練習を行いましょう。
2021年度の出題
大問1:文学的文章(物語文)
竹内真「図書室のバシラドール」による
大妻中学校の国語の入試問題でひときわ目立つ長文が、文学的文章(物語文)の出題です。
文章が長いですが、大問2で出題される説明的随筆文や、大問3の韻文+鑑賞文のほうが難易度が高いため、大問1の小問は1つも落とせません。どれも確実に得点しなければならない設問ばかりである点で難易度は決して低くありませんでした。
設問数は15問です。そのうち11問が記号選択肢問題、書き抜き問題が2問、漢字・ことば(慣用句)の問題が2問でした。
大妻中学校の国語の設問はほとんどが記号選択肢問題で占められており、しかも「一つ」選ぶ問題です。したがって、紛らわしい選択肢を確実に消し、解答を選ばなければなりません。
記号選択肢問題のほとんどは素材文の内容把握を問う問題です。また、選択肢の文章自体はそれほど長くはありません。だからこそ、ヒントが少ないということもいえます。記述式問題と異なり、違う答えを書いたらそれでアウト。また、制限時間に比して設問数が多いので、1問に時間を食ってしまうとそれが命取りになりかねないので、注意が必要です。
文章は平易で、主人公は受験生と似た年代なので、内容は頭に入ってきやすいです。ただし、それだけにさらっと読めてしまい、「どこが重要部分だったのか」「場面の転換点はどこだったのか」ということは、意識しなければ読み取れないという落とし穴があります。その点には注意しなければなりません。
読解方法としては、物語文のオーソドックスな読解セオリーにしたがって、「どういう場面なのかを読み取る」「登場人物がどのような人なのか読み取る」などから把握していきましょう。設問の数から考えても読み返している時間はまずないので、文章のどこに何が書いてあるのか正確に把握し、印をつけながら読み進むことが大切です。
素材文を読む際には、場面分け、心情把握、主題(作者が最も読者に伝えたいと思っていること)、心情の変化などについて理解するように心がけ、プラスの感情なのかマイナスの感情なのか、どこで場面が変わっているか、心情が変化するきっかけとなった出来事などについて文章にヒントを自分で残しながら読み、設問に素早くこたえていけるかどうかが、高得点を取れるかどうかの分かれ目になります。
大問2:説明的文章(説明的随筆)
清水由美「すばらしき日本語」による
随筆、つまりエッセイなのでさらっと読める文章ですが、日本語の使い方について、筆者が深く考察し、例示もしながら意見を述べている文章です。素材文の読みやすさで言うと、大問1の物語文に比べて難易度が上がります。こうした説明的文章の出題は、「日本人として、日本語一つひとつについての感性をみがいてほしい」という学校のメッセ―ジが込められていることが少なくなく、この出題も大妻中学校からのメッセージだと捉えることができます。
くだけた形で書かれている文章であるだけに、「どういう読み方をするべきか」思い出せないと苦戦した受験生も多かったと思われる出題です。随筆文は、文学的・説明的と2種類に分けられますが、本問は説明的随筆でもありながら、リズムが文学的でもあり、戸惑った受験生は、一読しただけでは内容がつかめなかったかもしれません。
随筆文は、基本的に「事実」と「意見」が交錯しながら文章が進んでいきます。したがって、どこまでが事実を述べており、どこが筆者の意見なのかを読み分けてい要ればいけません。そこが随筆文の難しさであり、読解のポイントでもあります。
また、問われているのは本質ですが、文章そのものは決して難しくはなく、むしろ読みやすいものがチョイスされています。そういう意味では、「読み」の前段階では受験生の間でそれほど差がつくとは言えません。問題なのは、設問にいかに答えるか、内容の的確な把握だというわけです。
設問は14問、記号選択肢問題が8問、記述問題が4問、書き抜き問題が2問です。記述問題のうち1問は、具体例について書かせる問題で、条件付きで50~60文字で記述するというもの。条件を見落とすとアウトなので注意が必要です。他の記述問題は、適切な表現や言葉を「考えて」書く、という出題。考えはしますが、相応しい表現は文章中にヒントがあるので、実質的には知識にかかっています。
記号選択肢問題が多数を占めますが、大問1の設問に比べ、選択肢が紛らわしいものが少なくありません。説明的文章の選択肢は、「これ」といった違いがパッと見て分からない傾向があるので、選択肢の吟味に時間を要します。制限時間を意識しながら解かなければならず、しかも正解を選ばなければならない点で難易度が高めだったと言えるでしょう。
論説的な文章で何よりも大切なのは「客観的な読み」。つまり、文章の中に書いてあることがすべてです。言い換え表現で筆者が強調していること、筆者の考え、要旨といったことを、素材文からすべて導き出さなければなりません。
大問3:韻文(俳句)+鑑賞文
小倉一郎「小倉一郎のゆるりとたのしむ俳句入門」による
大妻中学校の国語で特筆すべきなのが、詩や俳句などの韻文と、それについての鑑賞文がセットになった出題です。2021年度は、俳句がテーマでした。
鑑賞文だけを読めばよいだけではなく、出てきている俳句についても問われるのがこうした韻文+鑑賞文の出題のポイント。もちろん、小学校や塾で習ったレベル以上に難解な内容が出題されるわけではありません。鑑賞文に書かれていることを参考に、自分なりに俳句が描く情景が理解できれば設問に答えることはそれほど難しくないと言えるでしょう。
設問は10問、記号選択式問題が7問、書き抜き問題が1問、整序問題1問、知識問題1問でした。今回の出題では、俳句とともに季語がカギとなっており、季語についての深い理解が要求されていました。こうした表現技法についての理解がないと解けない問題も散見されるので、おろそかになりがちな韻文についての正確な知識と表現力に対する理解が差を分けたと考えられます。
まとめ~高得点をとるカギ
大妻中学校の国語で高得点を取るカギは、以下の4つです。
- 要点を読み取るためのスピードと正確さ、読み切る力
- 文章中の根拠から外れた読解はNG
- 選択肢問題で解き負けないことが高得点へのパスポート
- 漢字やことばの正確な知識+韻文の表現技法に対する理解
大妻中学校の国語は50分で100点満点。それだけ見るとオーソドックスに感じられますが、大問3題、合わせて8,000~10,000文字、設問にして39問ですから、始まってから振り返る時間はまずありません。また、大問3題とも全く異なるジャンルからの出題なので、頭を切り替えながら読み進み、確実に設問を解き、正解していかなければならない非常に忙しい試験です。
ちょっとした読み誤りが即不正解に繋がってしまうので、記述問題が中心の学校とはまた違う難しさがあると言えるでしょう。文章量の多さに圧倒されてしまい、設問を解ききれなかったという受験生も毎年少なくない大妻中学校の国語。しかし、出題は決して奇をてらったものではなく、むしろオーソドックスです。
大切なのは、出題されている文章に忠実に読み進み、ポイントとなっている部分を素早く押さえることです。それができれば、合格者平均点に大きく近づくことができ、合格を手にする可能性が高くなるでしょう。普段の受験勉強の中で、いかに一つひとつの文章を丁寧に読み、対策を行うことができるかが重要です。
こうした傾向に合わせた対策は、これからでも十分間に合います。方向性をブレさせずに準備を進めていきましょう。次回の記事では、大妻中学校の国語の入試について、分析を踏まえた具体的な攻略法を解説します。ぜひ参考にしてくださいね。
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参考
一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。