食料自給率の低下の何が問題なの?日本の農業・農家の問題点と、食の安全をめぐる課題について説明します

 日本は古くから農業が非常に盛んな国でした。また、農業生産を効率的にするためにさまざまなくふうを行っていることも以前の記事で紹介してきたとおりです。その一方で現在の日本では、農家の高齢化食料自給率の低下など、農業に関連する問題もいくつか起きています。

 この記事では、日本の農業に関連する問題について説明していきます。これらの問題点は農業や地理の分野だけでなく、貿易や経済の問題とからめた時事問題として出題されることもあります。日ごろからニュースなどで、日本の農業についてチェックするようにしましょう。

農業・農家の特徴と問題点

 まずは現在の日本の農家の特徴について見ていき、その問題点を考えていきましょう。日本の農家では高齢化や生産者数の減少などの問題が起きており、それに伴うようにして食料自給率の低下という問題も起きています。

農業の特徴

 日本の農業はの生産が中心です。農作物ごとに農地面積(作付面積)を見ていくと、もっとも割合が大きいのは稲となっています。その一方で生産額が最も多いのは米ではなく畜産物です。畜産物は米などと比べ単価が高いため産出額は高くなる傾向にあります。

① 農作物別の耕地面積の割合
農林水産省HPをもとに筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

② 農産物の産出額割合
農林水産省HPをもとに筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

農家の特徴と問題点

 現在の日本の農家では高齢化が進んでいるという大きな問題点があります。2020年の調査では農業に就く人のうち65%が65歳以上であり、更に全体の26%が75歳以上です。また平均年齢は67.8歳となっています。

③ 農家の年齢別の割合
農林水産省HPをもとに筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 また、日本の農家は規模が小さいため、農業のみで生活を営んでいる(他の収入がない)専業農家の数は少なく、ほとんどの人が農業以外からも収入を得ている兼業農家であるという特徴もあります。農業からの収入が全体の50%以上をしめている主業農家の割合もおよそ20%と低くなっています。この主業農家の割合がだんだんと減少していることも頭に入れておくべきポイントです。

④ 主業農家の割合
農林水産省HPをもとに筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

日本の農業の問題点:食料自給率の低下

 日本の農業の大きな問題点の一つが食料自給率の低さです。2019年度の熱量に換算した食料自給率は38%で、作物ごとに見ると大豆や小麦などの自給率が低くなっています(大豆は6%、小麦は16%)。

 アメリカ合衆国や中国、オーストラリアなどからの輸入が多く、特に小麦と大豆はどちらもアメリカ合衆国からの輸入が最も多くなっています。輸入が増えた背景には、日本人の食生活が変わり様々なものを食べるようになったことがあります。また、外国の大きな農場で作られた作物は日本産のものと比べて安いというのも輸入が増えた理由の一つです。

⑤ さまざまな食物の食料自給率
農林水産省HPをもとに筆者作成、転載は記事名を明記の上で許可)

 食べ物を輸入するのには良い点と悪い点があります。良い点としては、1年中、比較的安い値段でその食べ物が手に入ることです。野菜やくだものなどには「旬」がありますが、日本で「旬」を外れた食べ物も外国から輸入すれば安く消費者に届けることができます。

 一方で悪い点としては、安い外国産の食べ物が入ってくることで、日本の農家が作った農産物が売れなくなるおそれがあります。また輸入にたよりすぎると、相手国の事情(戦争や災害など)によって輸入が困難になり、日本国内での供給が大きく減少するおそれもあります。

 ⑤のグラフを見て分かるように、近年野菜の自給率が少しずつ下がっています。野菜は輸出入の難しい食べ物でしたが、輸送技術の向上(冷蔵・冷凍したまま運べるようになった)などによって安い外国産の野菜が店先にも並ぶようになりました。

 また、TPPなどの影響も考える必要があります。他国との貿易を自由化する取り決めによって安い食料品がたくさん入ってくる可能性があり、日本の農家が大きなダメージを受けるおそれがあると言われています。そのために、米や肉類などは輸入量をコントロールし、国によって農家を保護しようという話し合いがなされています。

 外国産の食べ物の場合は安全性が問題となることや、牛肉オレンジ、米などはかつて輸入が制限されていたことも覚えておきましょう。

食の安全と農業の保護のために

 最近の農業では、農作物を安くたくさん作るために様々なくふう・技術が用いられています。化学肥料の利用や、遺伝子組み換え技術などです。一方でこれらのくふう・技術は人の健康に悪い影響を与えるのではないか、という心配もされています。

 このような不安を取りのぞくための取り組みと合わせて確認していきましょう。

農薬・化学肥料の利用と有機農業

 農薬や化学肥料は、たくさんの作物を効率的に育てるために欠かせません。その一方で、使いすぎることで人の身体や土地の環境に悪い影響をおよぼす可能性もあります。

 そこで、化学肥料や農薬を使わない有機農業が注目されています。有機農業ではわらなどを使ったたい肥とよばれる肥料を用いられます。そのため安全な農作物ができることが特徴ですが、たい肥づくりに手間やお金がかかるという側面もあります。

 また、雑草や害虫を取りのぞくために使われる農薬の代わりに、水田にあいがもを放すというくふうを行う農家もあります(「あいがも農法」)。あいがもが雑草や害虫を食べてくれるため農薬を使う必要がなく、かものフンは肥料代わりにもなるため肥料も減らすことができるのです。更に、雑草や害虫を食べて育ったかもは食用にもなります。

⑥あいがも農法(長生村HPより)

輸入した農産物への不安

 外国で作られた農産物は、安全性に不安が持たれることもしばしばです。たとえば、遺伝子組み換えは効率的に農産物を作るために非常に重要な技術ですが、人体に悪い影響が出る可能性も否定できません。アメリカ産の大豆など、外国から輸入された食べ物には遺伝子組み換え作物が含まれているおそれがあり、不安が持たれることもあります。

 また、日本では禁止されているような強力な農薬などが使われている可能性もあります。これらの理由もあって、外国産より高い日本産の野菜やくだものなどが好んで求められるケースもあります。

 安全性を高め、農家と消費者の距離を近くするためのくふうも取られてきました。たとえば、地域の農産物をその地域で食べる「地産地消」という考え方には、その地域の農業や農家について消費者が知ることができるという側面があります。また、農家の名前や顔、生産方法などを商品に記したり、農家が直接農産物を販売したりすることで、消費者が安心してそれらを買うことができるというくふうも見られます。

食料・農業・農村基本法

 食料・農業・農村基本法は1999年に制定された法律で、食料を安定的に確保すること(食料自給率の向上)と、農業や農村のはたらきを高めていくことを目指しています。

 農業や農村は農作物を作るだけでなく、水をたくわえたり、生物のすみかになったりという役割を持ってきました。農地を中心として生き物の生態系が作られており、豊かな自然環境を維持しているのです。特に伝統的な農業のもとで自然と共存してきた「農村」の価値は見直されており、その風景は観光資源にもなっています。

おわりに

 この記事では、日本の農業における問題点や食の安全をめぐる課題について説明してきました。家庭に安全でおいしい食べ物が届けられるために農業は欠かせません。いくら輸入がしやすくなった現代の世の中でも、国内の農業を維持し、食料自給率を高めることは非常に重要なのです。

 農業をめぐる問題点は時事問題や貿易の分野などもかかわるためとても複雑です。実際の入試では記述問題などでも出題されることがありますが、一つ一つしっかり覚えて答えられるようにしましょう。

オススメ記事

参考

中学受験生のお母さん向け無料メールマガジン

    本サイトの監修者である、開成番長こと繁田和貴が執筆する無料メルマガは、その内容の濃さから6000人以上の読者に愛読されています!

    登録も解除も簡単にできますので、まずはお気軽にご登録ください。

                                

「開成番長・繁田の両親が語る繁田の中学受験PDF」プレゼント!

無料メルマガ登録

ABOUTこの記事をかいた人

アバター

初めまして。髙橋利弥と言います。 武蔵中・高校から一年浪人を経て今年東京大学文科三類に入学しました。中高時代はサッカー部に所属し、高校では主将を務めていました。現在は体育会サッカー部のスタッフとして主にプレー分析などを担当しています。趣味は音楽を聴くことで、[ALEXANDROS]などの日本のバンドのほか、QUEENも好きです。ボヘミアン・ラプソディーは浪人していたにも関わらず公開直後に観に行ってしまいました。また、ライブに行くのも大好きです。高校時代は部活で忙しくてあまり行けず浪人の時も我慢していましたが、大学に入ったからには行きまくりたいと思います。今ハマっていることはハリウッド版のGODZILLAシリーズです。オリジナルのゴジラは見たことがないのですが、興味がわいてきて見てみたいと思っています。最後に、自分は昔から文章を書くことが好きでこうやってライターとして仕事ができることがとても嬉しいです。まだまだヘタクソですが、これから経験を積んで成長していきたいです。 よろしくお願いします。