2学期に入り、早いもので9月が終わろうとしています。受験生の皆さんは、通常授業に加え、志望校別コースの授業なども始まり、毎日忙しく過ごしていらっしゃることでしょう。保護者の方もいよいよ受験が近づいてきた、と緊張感をお持ちなのではないでしょうか。
中学受験生がいらっしゃるご家庭をこれまでもたくさん見てきましたが、合否の最終的な決め手は受験生が主体的に勉強することができたか、という点にあるように思います。もちろん受験をするには塾のカリキュラムにのっとり、遅れることなくついていくことが大前提ですが、受験勉強としてはそれだけでは足りません。毎週のカリキュラムを「こなす」だけでは実力をつけるには至らず、必ず弱点や落とし穴となる部分が出てきます。その部分を克服するための「自分の勉強」ができてはじめて志望校に合格できるだけの実力がつくと言えるからです。
では、受験生が主体的に勉強できるというのはどのような状況を言うのでしょうか。一言で言うと「受験生本人が気持ちよく勉強している」状態が継続できていること、です。中学受験生は小学生なので、まだまだ精神的にも肉体的にも発展途上です。だからこそ、押し付けられると反発しますし、モチベーションが下がることも少なくありません。多少の波はあるにせよ、「あの学校に合格したい」というモチベーションを持ち、それに向けて気分が上がった状態で勉強できていることがこれからの時期、非常に大切になってくるのです。
中学受験がうまくいくご家庭の場合、保護者の方の声掛けによってお子さんの成績が上がると言っても過言ではありません。一生懸命受験生本人が勉強していても、保護者の方から見ると「間に合うのだろうか」「こんな勉強のしかたで大丈夫なのか」と不安になることもありますよね。その不安感から、この時期保護者の方が受験生に対して厳しく怒ってしまい、お子さんが動揺して直前期の勉強がスムーズに進まないケースは少なくありません。
日々やりたいことをがまんして勉強に邁進しているお子さんは、頑張っている姿を保護者の方に褒めてもらいたいという気持ちを強く持っています。そんなときにきついことばで怒られるとモチベーションはダダ下がりになってしまいます。入試本番まで約4ヵ月を切った今だからこそ、お子さんの気分を上げて日々の勉強に取り組むように仕向けるのも保護者の方の大切な役割です。
今回は、お子さんが気持ちよく勉強できる、主体的な勉強ができるコツについてお伝えします。保護者の方の役割分担についても考えていくので、ぜひ参考にしてください。
Contents
勉強内容を怒るのは絶対NG
模試や過去問演習などが本格的に始まるこの時期に、どうしても保護者の方が気になるのが、勉強机に座っているわが子のすがたですよね。良い成績が取れれば「ああ、勉強していたんだな」と安心し、成績が下がってしまうと「全然勉強していなかったんじゃないだろうか」と悲観的になる、それが保護者の心情であるのはよくわかります。つまり、成績に一喜一憂してしまうんですね。
ですが、成績に一喜一憂してしまうと、それまでのプロセスに対して検証することができなくなってしまうのです。
テスト結果に一喜一憂するのはかえって悪影響
もちろん、保護者の方だけでなく受験生自身も、できるだけ良い成績をとりたいと思っています。これまで好きなこともがまんして塾に通い、1日のうち大半の時間を受験勉強に費やしてきたのですから、お子さん自身が最も成績を上げたいと思っているのです。ですから、お子さん自身がテストの結果を見て一番一喜一憂しているということを忘れてはいけません。
テスト返却後、思ったような成績でないと、どうしても「なんでこんな点数しか取れないの」「いったいこの〇ヵ月何やってたの!」と言ってしまっていませんか?プロセスを見ないで結果だけで怒ってしまうと、その後お子さんがモチベーションを立て直すことが難しくなってしまいます。
保護者の方はどうしても偏差値や点数といった数字だけをみて、お子さんが勉強していなかったから成績が下がった、と思ってしまいがちですが、この時期の問題は総合問題になっていて夏前までのテストとは難易度もまったく違います。しかも、周囲も必死で勉強している時期ですから、相対的に見て成績が下がったように「見える」ことは少なくないのです。そこを理解せずにただ怒っても、お子さんは何が悪かったのかわからず、ただ悲しい気持ちになって勉強に対しても積極的になれなくなってしまいます。
テストの結果が戻ってきて思うような成績が取れていない場合、まずはそのテストの種別をしっかり考えてみましょう。志望校別模試であれば受験生の層もレベルが高く、しかも受験している人数はほかの模試より少ないです。そうすると1点の差が大きく響き、思ったような成績にならないこともあります。
このような志望校別の模試の場合、総合成績だけを見るのではなく、1問1問の「解き方」まで細かく見ていき、次に向けての対策をとっていくのが建設的です。その学校を志望校としている受験生の集団なので、その中で1番を取る必要はありません。それよりも、志望校に合わせた問題に対してお子さんがどのように解いてきたか、頻出単元に穴がないか、合ったらどのように対策し、克服していくべきなのか、ということを考えていく必要があります。
また、合不合判定テストや首都圏模試の場合、過去問対策をやっていると出題傾向が異なるため、問題の難易度に比べて点数が取れないというケースもあります。難関校向けの記述対策に力を入れている場合、基本的な問題をたくさん並べられると要求される思考回路が異なるので、すぐに対処できないこともあり得ます。そうした場合は、基礎的な知識が不足していないかどうか、1問に時間をかけすぎていないかどうか、という点からも注目して、正答率の高い問題からなるべく早くつぶしておきましょう。
その際にも、模試といまやっている勉強内容との距離感を把握したうえで対策を一緒に考えてあげることが大切です。すべての模試で高得点、高偏差値を取る必要はありません。もちろん、良い成績をとれたときは思い切り褒めてあげてください。そのことがお子さんのモチベーションに直結します。
お子さんはこの時期、保護者の方の顔色を窺うように勉強していることが多いです。なぜなら、やはり受験生とはいっても幼く、保護者の方に褒めてもらいたいという気持ちで勉強しているので、怒られるということは非常に心の傷になってしまうのです。場合によっては、前回の模試で成績が悪かったから、今回また失敗したらまた怒られる、と頭の中でリフレインして、模試の当日体調を崩してしまうというお子さんもいらっしゃいます。もしそれが入試本番で起こってしまったら、後悔してもしきれませんよね。
ですから、模試の結果データに一喜一憂するのではなく、この模試ではどういう目標が克服できたか・できなかったか、どのタイプの問題で間違えやすいのか、足りていない知識はどの単元か、それをどう克服するか、ということを親子でしっかり検証して、タッグを組んで攻略していくという気持ちで向かうようにしてくださいね。
勉強姿勢は注意してOK
模試の結果を見て、「あんないい加減な勉強態度だったから」と思うことは保護者の方なら誰しも思われることではないでしょうか。模試の結果に一喜一憂しない、ということが大切だということはお伝えしましたが、成績が上がらない原因がお子さんの勉強態度にある場合は少し話が違います。
勉強を頑張っているのに怒られてはお子さんもたまったものではありませんが、日々の宿題や過去問に対する対峙のしかた、やると約束したところをまったくやらなかった、そもそも机に向かっていてもまったく勉強せずに他のことをしている・・・そのような状態である場合は、お子さんの成績が上がらない理由はその勉強態度にあると言えるかもしれません。
5分で解ける問題を1時間かけてだらだら解いていたり、知識問題を覚えていたはずなのに何一つ覚えていない、という場合は、勉強姿勢に問題があります。そういった勉強姿勢、態度については注意して構いませんし、正す必要があるでしょう。ただし、なぜそのような態度になってしまうのかについてはよく話し合う必要があります。
どうしてだらだら勉強をしているかというと、受験勉強そのものに熱意を失ってしまっている可能性があります。または、これまでに怒られ過ぎて「どうせ自分にはできない」と思ってしまい、やる気を出すことができずに主体的に勉強できなくなっているケースも非常に多いです。
たしかに、テストなどで毎回同じような間違いを繰り返すお子さんのようすを見ていると、保護者の方も感情的になってしまい、お子さんを否定するような発言をしてしまっていることは少なくありません。「今日の宿題をやらなかった」ということに対して、「この前もやらなかったでしょ!」と違う日のことを持ち出したり、ケアレスミスがあった場合に「いつもケアレスミスするんだから!なんでこんなミスをするの」と決めつけたりしていませんか?そういった怒り方は百害あって一利なしです。
やる気を出させようとかけたことばかもしれませんが、お子さんは「いつもこうなんだから」と言われることに非常に敏感です。それは頑張りを否定することばだからです。お子さんによって1日にできる量は異なりますし、覚えられる量、理解できる量も異なります。カリキュラムがあるからその範囲はできて当たり前、ではないのです。
一度否定されたと感じてしまうと、お子さんは気持ちよく勉強することができません。そうすると保護者の方からは「自分から主体的に勉強できていない」とまた怒る、ということが繰り返されてしまいます。
勉強態度を注意する際には、このような否定的なことばをお子さんにかけていないかどうか一度振り返ってみて、お子さんの気持ちを落ち着かせるように言葉をかけてみましょう。「あなたの頑張りは見ているよ」「でも、だらだら解いていても時間がかかって退屈でしょう」「だったら、ここまでって決めて集中してやってみたら?」というように、ポジティブな声掛けをしてあげましょう。頑張りを認めてあげることが、勉強態度を注意する際にも大切です。
勉強内容は塾とお子さんに任せる
勉強姿勢や態度について、やるべきことをやらないことを注意することはタイミングにもよりますが必要なことです。しかし、勉強内容のこととなると話はまた別です。
一つひとつの勉強内容に保護者が口を出し過ぎると、塾の教え方と異なったり、キャパシティオーバーな内容を今日中にやるということを強要したりということに繋がってしまいます。塾の教え方と違うことを言うとお子さんは混乱してしまいますし、日々スケジュールがいっぱいのところに「勉強のつけたし」をしてしまうと一気にモチベーションは下がります。
そういうことの内容に、この時期、勉強の内容については塾と受験生本人に任せましょう。もちろん、いつまでにどこまでをやらないといけない、というスケジュール管理は保護者の方の役割です。ですから、各教科ごとに弱点補強と過去問演習の両輪を回すように管理してあげてください。
ですが、解けない問題があったからと言って怒るのでは、先ほどの勉強に対する姿勢や態度と同じで、過去のことを持ち出して責めてしまうのと同じです。解けない問題を解決し、克服するのはお子さん自身です。ですから、「勉強ができない」ことを責めることはしないようにしましょう。
主体的に勉強することがこれからは非常に大切になってきますが、お子さんにそれを望むのであれば、勉強内容については塾とお子さんに任せると割り切って、「信頼しているよ」ということを伝えてあげてください。信頼されていると分かるとお子さんのモチベーションはがぜんアップします。
また、塾の先生との連携も大切です。志望校に合わせてどの単元を自宅学習でやるべきか、毎日のスケジュールも合わせて相談してみましょう。その内容をお子さんとも共有し、勉強内容は塾とお子さんに任せて、保護者の方は進捗状況をチェックすることに専念する方が、お子さんの自主性を引き出すことができます。
子どもの話をしっかり聴くと成績は伸びる
保護者の方も、家事やお仕事などで目の回るような毎日をお過ごしだと思います。また、受験が近づいてきているので出願準備なども必要になってくる時期です。そうした忙しい状況だと、どうしてもお子さんと会話する機会が少なくなってしまいます。
お子さんはお子さんで塾に行き、宿題をしているだけで1日が終わっているかもしれませんが、口に出さないだけでいろいろと思いをため込んでいる可能性は十分にあります。お子さんは保護者の方に甘えたいという気持ちを持っています。もちろん、受験勉強については甘えは禁物ですが、勉強時間以外に少し時間をとって、お子さんの話に耳を傾けてあげることもときには必要です。
なぜなら、常に受験勉強のことばかり話題にしているとついヒートアップしてしまい、保護者は大人の理論でお子さんを問い詰めてしまうケースが多いからです。そのような状態になると、お子さんは話したいことがあっても言葉にすることができず、フラストレーションをためてしまって主体的に勉強するどころか勉強が手につかなくなり、しまいには口もきかなくなってしまいかねません。
たとえば、お子さんの態度が良くなく、それを注意したとしましょう。きっとお子さんは「だって・・・」と何か言いかけるでしょう。それに対して「言い訳なんか聞きたくない1」「口答えするんじゃないの!」と言ってしまっていないでしょうか。
これはお子さんの人格を否定するのと等しい行為です。こうしたことが繰り返されると、お子さんは「何か言っても怒られるだけだから話さないでおこう」と思うだけでなく、保護者の方が何か言っても聞こうとしないという事態に陥ってしまいます。
ある受験生のご家庭では、保護者の方が日常的に非常に厳しくお子さんに接していたため、受験直前には何か言ってもお子さんは上の空で別のことを考え、その時間が過ぎることを待っているという状況になってしまいました。そこで家庭教師の先生を頼んで受験についてのことはすべてその方を通して話すようにして、普段の親子の会話を取り戻したのです。
子どもは親の言うことを聞くもの、そう思いがちですが、お子さんは保護者の方とは別人格です。幼くはありますが、自我も芽生え始める時期なので、ちょっとしたできごとでも忌憚なく話し合えるようコミュニケーションを取るように保護者の方が意識して行動を変えることも必要です。
勉強以外のことを話してほっと一息つけると、その楽しい時間のことを思いながら、お子さんはまた機嫌よく勉強できますし、それが続くと主体的に勉強するようになっていきます。たわいない会話のように思えるかもしれませんが、会話は国語力を養成するためにも必須です。
できるだけコミュニケーションを取って、お子さんが自分の気持ちを口に出せる環境を作ってあげましょう。家庭でのコミュニケーションは受験勉強の下地になり、いろいろなことに興味を持って自分から勉強することにつながります。時事問題など、テレビのニュースを一緒に見ながら話し合う時間をとってみるのも良いですね。机に向かって黙々と問題を解くだけが受験勉強ではありません。学習習慣の基礎をつくるためにも、お子さんの話に耳を傾け、どうしてほしいと考えているのか考えて会話のキャッチボールをしてみてくださいね。
保護者だからこそできる準備をすすめよう
これからの時期は、お子さんは勉強そのものに集中し、保護者の方は保護者だからこそできる準備を進めていくようにしましょう。そのためにも、お子さん、保護者の方、塾の役割分担はとても大切です。
勉強の内容と進め方については塾とお子さん、それ以外のハンドリングは保護者の方と役割分担をして、お互いに密に連携を取ること、何より「あの学校に合格したい・させたい」という同じ方向を向いて準備を進めていくことが大切です。
中学受験は3年間もの長丁場ですから、お子さんもその間に成長していますし、保護者の方も必ず経験値が上がります。毎回の成績に一喜一憂することはこれからもあるでしょうが、そこはグッと我慢して、お子さんではなく塾の先生に理由を分析してもらうなど冷静な対応を取ることをおすすめします。
これから直前期に向けては、お子さんの志望校に対する想いをアゲアゲにしていくことが大切です。それこそがモチベーションとなり、主体的に勉強できる原動力とも言えます。それを支えるために、受験のスケジュールや必要な費用、過去問のスケジュール管理や願書の取り寄せ、提出の段取りなども手帳やカレンダーで一元管理しておくとすぐに見直すことができて間違いも起きにくいです。
保護者は保護者にしかできない準備を着々と進めていき、お子さんと二人三脚で志望校合格に向けて前向きな気持ちで直前期を進んでいきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。