計算の順番について考えてみましょう——四則と「かっこ」、それと「分配法則」について

 この記事では、加法、減法、乗法、除法(足し算、引き算、掛け算、割り算)を合わせて行うときの、計算のルールについて見ていきます。

足し算だけの計算では、どこから足し算を始めてもよかったのですが(覚えていますか?)、4つの計算が合わさると(「四則」とか「四則演算」とか言います)、色々なルールが出てきます。記事では、それを理解し身につけることと、そこからさらに出てくる「分配法則」という約束について見ていきます。

きっちりしたルールから……

 四則の計算には、

①累乗、かっこの中を計算する

②乗法(掛け算)、除法(割り算)を計算する

③加法(足し算)、減法(引き算)を計算する

というルールがあります。

 でも、こんな教科書にもあるようなことについて、わざわざ記事を読んでくれているみなさんには、納得がいかないはずです。「どうしてそんな順番になるんだよ!」という気持ちでしょう。

 そんなみなさんに私はまず①——は置いておいて、②からこう説明します。

「そうなっているから、そうなの。」

 記事を閉じないでください!

 大学に行って難しい数学を勉強すると「どうしてこの順番が良いのか」を考えることもあるらしいのですが、この規則について、大切なのは、「どうしてこの順番か」という話ではないのです。

 では、何が大切なのでしょう?

なんでルールが必要なの?

 ルールに対して疑問を持つとき、「どうしてこのルールなのか?」というのの他に、「そもそもなんでルールは必要なの?」という疑問の持ち方があります。この二つは別々の疑問です。例えば「どうして、眠いのに、8時50分から一時間目なの?」という疑問と「どうして、みんなで一時間目の時間に集まらないといけないの?」という疑問とは別のものです。

 この記事では四則のルールについて、後ろの疑問、つまり、「どうして、計算の順番を決めないといけないの?」という疑問に注目したいのです。

 例えば、\(8+3×4\)という計算について考えてみます。この計算について、a, かけ算を先に計算するとしたらどうなるかb, 足し算を先に計算するとしたらどうなるか、を考えてみます。

a, の場合。

 \(8+3×4=8+12=20\)

b, の場合。

 \(8+3×4=11×4=44\)

 この二つの計算について考えるときに重要なのは「答えがズレる」ということです。そして、もしみなさんが「掛け算を先に計算する」というルールを持っていないとしたら、どっちを先に計算してもいいということになりますから、①も②もあり得る。計算に二種類の答えがあるということになります。

 「なんで順番が必要なのか?」という僕たちの問題を考えるときには、このことが大切なのです。「なんで?」と思うんだったら、これを「順番を気にしないでいい計算」と比較してみてください。

 例えば、上の③では「加法、減法を計算する」と言われていますので、加法と減法とは、順番を気にしないでもいいはずです。\(5+8-3\)をそれぞれa, 加法を先に計算するb, 減法を先に計算する、でやってみましょう。

a, の場合。

 \(5+8-3=13-3=10\)

b, の場合。

 \(5+8-3=5+5=10\)

 このように、答えは同じになるのです(たまたまだと思う人は、他の加法と減法だけの計算を作ってやってみるといいでしょう)。

 「答えがズレる」ということと「順番を決める必要がある」ということとは関わっていそうです。なんででしょう?

 思うに、これは、言葉のやりとり、「コミュニケーション」の問題なのです。以前「負の数」というものを考えるときに、「個数」という考え方からは離れたのですが、それでも、計算のもとにある、「個数」の数かぞえを考えてみましょう。

「4個が2つと、3個が3つ」

 この場合、何個ありますか? 17個ありますね。

「乗法を加法より先にやる」と決めた場合、数学の式では、これを、\(4×2+3×3=17\)というふうに表せますよね。

もし、「乗法を加法より先にやる」と決めなかったら、こうは考えられません。「前から順番にやりたいな」と思った人は、\(4×2+3×3=8+3×3=11×3=33\)

「大好きな足し算を先にやりたいな」と思った人は、\(4×2+3×3=4×5×3=60\)

というように、各々で違う数を出してしまうのです。

 ルールを決めないと、そもそも数学がしようとしていた「数についてのやりとり」が他の人とできなくなってしまうのです。

 そのために「かけ算を先にしよう」と決めているのだと考えることができます。

 まとめましょう。

 「乗法を先に計算する」ことよりも「先にどっちを計算するかを決める必要がある」ということの方が大切である。

なぜならば、乗法・除法を先に計算する時と、加法・減法を先に計算する時とでは、答えがズレてしまうからである。このズレを許したままでは、数についてお互い伝え合うことができなくなってしまうのである。数学では、乗法を先にやることに決めた

キャッチボール

「やりとり」のことを、「内容をお互いに受け取り合う」ということで「会話のキャッチボール」ということがあります。キャッチボールだって、ルールを決めないと、すぐドッチボールに変わってしまいますよね。そこでは会話が失敗しているのです。

累乗はどうして先に計算するの?

 上の計算のルールでは一番最初に計算するのは、累乗とかっこだ、ということが言われていました。こっちについては、実は「なんでそれを最初に計算しなくちゃいけないのか」説明することが(簡単に)できるのです。

 前の記事で「累乗」を「自分と同じ数を重ねる」ことだという仕方で決めました。実は、「累乗を最初に計算しなければならない」というルールはここから出てきます。

 \(3×4^2\)という式を例に考えて見ましょう。

 この式の「2乗」という部分は、4についていますから、「4に4という同じ数をかけてね」ということを言っているわけです。

 これを、もし、かけ算を先にしてしまうとどうなるか。

 \(3×4^2=12^2=144\)

 注目して欲しいのは、真ん中の\(12^2\)という式です。この式は「12に12という同じ数をかけてね」となっている。さっきの式と、掛け合わされる数が違っていることが、問題なのです。

 同じ数をかけるためには、累乗は先に計算しなければなりません。「累乗」という言葉の決め方(「定義」と言います)から、累乗を最初に計算するということは出てきます。

「かっこ」ってなに?

 もう一つ、先に計算する「かっこ」については、なんで先か説明するのは簡単です。なぜならば「かっこ」自体が「先に計算してね」ということを表すための記号だからです。

 「かっこ」は出てくるのは、次のような計算の場合です。

「4個が2セット、あっ、さらに3セット買い足して

 この場合、4×2+3と式を作ったのでは、計算がずれてしまいます

 4×2+3=8+3=11ですが、元の文章は、4×2と、4×3を、合わせて買うことを考えているからです。これは、8+12=20ですよね。

 こういうとき「何セット?」の方を先に足してしまえば「結局5セットだよね」とわかって計算が楽になる。したがって「かっこ」を使って「こっちの足し算を先にやってね」と決めるのです。上の計算は、正確には、こう式で表現されます。

 \(4×(2+3)\)

このとき、かっこの中の計算を先にやるわけです。

鉛筆

「セット」を考えるときに、よく出てくるのが鉛筆の12本=1「ダース」という単位です。「2ダースと3ダース」なら、「12×2+12×3」ですが、先に5ダースだとわかれば「12×5」とも計算できます

「分配法則」を考えてみよう!

 ここで、これから先ずっと使うある「法則」が出てきます。次のようなものです。

 a, b, cを数とする。このとき、

 \((a+b)×c=a×c+b×c\)

 \(a×(b+c)=a×b+a×c\)

 なんだか、見るだけでへこたれてしまいそうな式です。しかし「法則」というのは「いつも成り立つこと」ですから、これはいつまでもついてきます。ひとつ、しっかり理解してみましょう。

 そう思って、考えてみると、実は、これはなにも難しいことを言っていないのです。

 上の節で、「かっこ」の計算の話をしたとき、「4×2と、4×3を、合わせて買うことを考えている」と言いましたね? 一方、この計算は、「4×(2+3)」と表せるのでした。

 最初のかぎかっこについて考えてみましょう。「合わせて買う」ということは、4×2と、4×3「足し合わせる」ということです。つまり、4×2+4×3をするということ。

 これが、次のかぎかっこ「4×(2+3)」と同じなのですから、この「同じであること」は、次のように表せます。

 \(4×(2+3)=4×2+4×3\)

 この式って、さっきの「法則」の、下の方に似てませんか? aを4、bを2、cを3だと考えれば、ピッタリ同じじゃないですか?

 「分配法則」という、さっき見た難しそうな式が言っているのは、実は、これだけのことなのです。

 つまり「「4が2セットと、4が3セットとを合わせる」のと「4が(2+3)セット」というのは同じだよ」ということです。

 上の式にピッタリ当てはまる言い方をしましょう。

 \((a+b)×c=a×c+b×c\)、この式は「「(a+b)セット、cがある」のと、「aがcセット、bがcセットあるのを合わせる」のとは同じだよ」と言っているのです(難しいなら、a, b, cにじっさいの数を入れて考えてみましょう)。

 \(a×(b+c)=a×b+a×c\)、この式は「「aが(b+c)セット」のと「aがbセットと、aがcセットとを合わせる」のとは同じだよ」と言っているのです。

 続いて、いくつか練習問題を解いてみましょう。

練習問題……の前に

 

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練習問題

 次の計算をしなさい。

(1) \(5+8×(-3)\)

(2) \(9-(-2)^2×(-4)\)

(3) \(15×(\frac{1}{3}-\frac{3}{5})\)

(4) \(9×78+9×22\)

解説

(1)

加法より先に乗法を計算する約束でした。

\(5+8×(-3)=5+(-24)=-19\)

(2)

減法よりも乗法よりも先に、累乗を計算する約束でした。

\(9-(-2)^2×(-4)=9-4×(-4)=9-(-16)=25\)

(3)

かっこの中を先に計算しても構いません、しかし、分配法則を使ってみると簡単ですね。

\(15×(\frac{1}{3}-\frac{3}{5})=15×\frac{1}{3}-15×\frac{3}{5}=5-9=-4\)

(4)

少し難しいです。上で見た分配法則について、式を右から左へ(つまり、a×b+a×c=a×(b+c)という仕方で)、使ってやるのです。

9×78+9×22=9×(78+22)=9×100=900

この計算では、aを9, bを78, cを、22と見ています。

 この記事では、四則の計算のルールと、「分配法則」といういつでも成り立っている法則をみました。数学は計算を使って考える科目です。そして、計算が出てくるところでは、いつでも、このルールが成り立っています。ですから、たくさん練習問題をやってしっかり身につけるようにしてくださいね。

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参考

(ライター:菊池)

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東京大学文科III類出身、現在は哲学系の学科にいます。 数学の記事のほか、専攻に近づけて「勉強論」みたいなこともこれから書いていきたいと思っています。 読書のほか、昔のアメリカ・フランス映画を観たり、料理したりするのが好きです。いつの間にかつまらなくなった勉強の中に、新しいことを知ったり、できるようになった時のうれしい気持ちが戻ってくるような記事を書きたいです!