時代の変化と共に必要性が高まっている新しい人権についてわかりやすく解説します!

日本国憲法には明確に規定されていないけど、時代が経っていくことによって後から「必要だな」ということになって、規定された人権のことを「新しい人権」といいます。「新しい人権」が私たちの安全・安心な暮らしにとってどれくらい大切な権利なのか、一緒に考えて学んでいきましょう。

新しい人権が必要になった訳

みなさん、日本国憲法に規定されていた基本的人権の中身をしっかりと覚えていますか。国家から解放されて自由に生きる権利である自由権とか、生まれながらの環境や性別などによって差別をされない平等権とか、もしも自由に行動した結果貧しい生活を強いられてしまったり、教育を受けられなかったり、民間の企業から強制的な労働を強いられてしまったりしたときに、国家がそこから救済してくれる社会権であったり、たくさんの権利がありました。

(詳しくはこちらの記事を参照のこと)

日本国憲法が制定されていた当時は、これらの権利があれば、人々の人権はしっかりと保障できるだろうと思っていました。しかし、時代が経ってくると、最初に定めた権利だけではカバーできない人権の問題が出てきてしまいました。そこで、流れていく時代の中でも、しっかりと人権を最大限に保障するために、新しい権利が生まれました。その新しい権利のことを「新しい人権」といいます。

「新しい人権」にはどのような権利があるのだろうか?

では、具体的に「新しい人権」って何でしょうか。例えば、今みなさんの住んでいる世の中では、パソコンや携帯電話・スマートフォンがあることはとても当たり前のことですよね。でも、昔、日本国憲法ができたころは、そのようなものは一つも存在しませんでした。だから、日本国憲法はパソコンや携帯などがある世の中を想定していない憲法になっています。

みなさんはきっと気付いていると思いますが、パソコンや携帯電話を使うことは、とても便利な反面で、危険なこともたくさんありますよね。みんなの名前や住所などが流出しやすくなってしまったり、簡単に自分の顔が世の中に広まってしまったり、今までパソコンや携帯などなく普通に過ごしていれば出会うことのなかった人と、出会うことになったりと、様々な危険が伴っていきます。

そうすると、みんなの「個人情報」であったり「プライバシー」が侵害されてしまうことがあるのです。でも、今の日本国憲法では「プライバシーの権利」などを保障する明確な記述がありません。そこで、新たに日本国憲法に基づいて、新しい権利としてつくった権利を「新しい人権」というわけです。

最近よく耳にするようになった「プライバシーの権利」というのも、最近になって生まれた「新しい人権」の一つなのですよ。他にもたくさん「新しい人権」があります。では、ここからはその一つ一つを見ていきましょう。

環境権

みんな、生活するなら空気がきれいとか、周りがうるさくないとか、太陽の光がちゃんと当たるとか、そういう良い環境の中で過ごしたいですよね。日本国憲法ができたばかりのころは、だれもがそれなりの環境で過ごすことが当たり前のことでそこまで「環境」の重要性を考えてきませんでした。

しかし、日本は1950年代後半ごろから、高度経済成長期という、ものすごく世の中が豊かに発展する時代を迎えます。このころに、新幹線が走ったり、たくさんの高速道路がつくられたり、東京タワーが建てられたり、一家に一台テレビが置かれるようになったり、東京オリンピックが行われたり、大阪万博が行われたり、など多くの変化が起こりました。

戦争が終わってすぐはみんな食べるものも住む場所もなくとても貧しい生活を送っていましたが、高度経済成長期を迎え世の中が発展したことで、日本人は戦後とは思えないものすごく速いスピードで、だれもがそれなりのお金持ちになれる時代になりました。この高度経済成長期という時代は1970年ごろまで続きました。

しかし、高度経済成長期を迎えている反面で、大きな良くない問題が生まれていました。それが、「環境問題」です。高度経済成長期のとき、人々はとにかく世の中を豊かにするために、工場をずっと動かしつづけて、工場からでた有害な廃棄物を海や大気にそのまま流したり、電車や自動車が一日中動き続けて夜もうるさい音が響き渡ったり、生活が豊かになって物を消費する人も増えてゴミなどの増えたり、みんなが自動車に乗るようになりました。

自動車の排気ガスが大量に空気中に放出されたり、人々が発展した都市に集まるようになって、そうした人たちが住める環境を作るために、高い高いマンションやビルを建てたりしていきました。その結果、もともとはきれいであった環境が、どんどんどんどん汚れてきたなくなっていくという状況が起こってしまいました。

(四大公害についてはこちらの記事を参照のこと)

これでは、人間は落ち着いて安心して生活することができませんよね。そこで、「人間らしい生活環境で過ごすこと」もまた、人間が持つ大切な人権の一つであると考えられるようになって、新たに1960年代ごろから「環境権」という新しい人権が生まれてくるようになりました。この「環境権」は、日本国憲法第13条の「幸福追求権」や、第25条の「生存権」をその根拠として定められています。では、「環境権」として認められているいくつかの権利を確認しておきましょう。

  1. 日照権
    自分の住んでいる家のとなりに、超高層マンションが建ってしまって、まったく太陽の光が家の中に入ってこなくて、一日中部屋の中真っ暗となったらとても嫌ですよね。洗濯物を干すこともできません。そうならないように、たとえ隣に高層マンションが建つとしても、ある程度の太陽の光が当たるように日照を確保するように工夫して建てなければいけないことになっていて、日照を妨げるようなビルやマンションの建設は制限されています。このように日照を確保することを保障している権利を「日照権」といいます。
  2. 嫌煙権
    世の中にはたばこを吸う人と吸わない人がいます。一般的にたばこは身体に悪いものとされていて、特にたばこを吸う人がはく煙(難しい言葉だと副流煙なんて言ったりします)は、とても有害な物質を多く含んでいるということが言われています。つまり、たばこを吸っていない人でも、たばこを吸う人の影響を受けてしまうことがあるということですね。

    そうすると、たばこを吸わない人の健康等が損なわれてしまうかもしれませんし、世の中にはたばこの煙を好まない人もたくさんいます。昔は、電車の中・バスの中・職場の中でたばこを吸うことはごく当たり前の時代もありました。社内や会社内はたばこの煙でモクモクです。

    でも、最近ではこれはよくないということになって、多くの会社やお店で、タバコを吸ってもいい場所と悪い場所を分ける「分煙」や、一切吸ってはいけないスペースを設ける「禁煙」などが広がっています。このようにたばこを吸わない人が害を持たないで過ごしやすく、またたばこを吸う人も吸わない人の迷惑にならずに吸うための権利が定められています。これが「嫌煙権」です。

プライバシーの権利

みんなの名前・年齢・生年月日・住所・性別、これらはすべてみんなの個人情報です。これからみんなが生きていくうえで、これらの個人情報を扱う機会はとても増えていくことになります。例えば、インターネットでなにか物を買うときには個人情報の入力が必要であったり、自分の家を買うときにも、携帯電話を買うときにも、自分がどこかの会社に働くことになったりするときにも、個人情報の伝達を求められます。

しかし、これらの個人情報は外に流出してしまうととても危険なことがあります。例えば、自分の個人情報が外に流れてしまったことによって、まったく見たことも聞いたこともない人に自分のことを知られてしまって、つきまとわれてしまったり、勝手に身に覚えのないモノを買わされてしまっていたり、お金を抜き取られてしまったり、自分の家族の情報も特定されてしまったりなど、とても危険な状況に陥ってしまうことがあります。

特に、最近では携帯電話やスマートフォンをみんなが持つようになって、あっというまに個人情報が日本国内どころか世界中に広まってしまう時代になりました。そこで、個人情報を守ることもまた、国家が保障すべき大切な権利であると近年認識されるようになりました。そこで、誕生した新しい人権が「プライバシーの権利」です。

知る権利

みなさん、日本国憲法の三原則を覚えていますか。「国民主権」「平和主義」「基本的人権の尊重」の3つでしたね。その中で、「国民主権」というのは、国民が中心となって政治を行っていくという理念でした。しかし、みなさんは政治に参加しているという実感はあるでしょうか。あまりないですよね。

実際に政治を動かしているのは、選挙で選ばれた国会議員の人たちや地方議員の人たちであるわけですから、実感がないのは当たり前なのかもしれません。しかし、国民主権である以上、その国会議員の人たちや地方議員の人たちがどんな仕事をしていて、どんな結果が生まれているのかというのを知ることが必要ですよね。よく、問題になるのが、国会議員の人が国民から集めた税金を何にどのくらい使ったのかを国民に知らされずに、あとから不正に税金が使われていたなんてことがわかったりすることがあります。

まだ自分たちが払った税金が何に使われていてのかがわかればいいですが、何に使われているのかもわからずに、ましてや不正に使われていたなんてことになっていたら、国民としては絶対に許せないですよね。だから、国民は政府が税金をどういう風に使っているのかであったり、政治をどのように行っているのかということを知る義務があります。そこで生まれた新しい人権が「知る権利」です。

知る権利」というのは、国民が国や地方公共団体に対して情報の公開を求める権利のことを言います。この権利に基づいて、1970年代から「情報公開制度」がつくられました。これにより、国民はいつでも国や地方公共団体に対して、自分たちが知りたい政治に関する情報を国や地方公共団体に対して請求できるようになりました。(この知る権利と前述したプライバシー権は、互いに相反する価値を評価するものなので、度々どちらを優先するかで問題にもなっています)

まとめ

新しい人権というのは、時代が経つにつれてもともとあった日本国憲法の規定だけでは時代遅れになってしまって生まれた新しい権利です。もしかしたら、今後も新しい人権が生まれてくるかもしれませんね。私たちがよりよく幸せに生きていくためにとても大切な権利たちです。ぜひ復習をしっかりとしておいてくださいね。

(もしかすると、近い将来、上記以外の新しい権利も登場するかもしれませんね)

演習問題

  • ①人間生活と権利を守る必要から新たに生まれた基本的人権のことを何というか。 →新しい人権
  • ②新しい人権のうち、よりよい環境を享受し、これを支配する権利を何というか。 →環境権
  • ③環境権のうち、近隣に建物などができることによって日照が遮られないことを主張できる権利のことを何というか。 →日照権
  • ④環境権のうち、非喫煙者が公共の場所などで、他人の喫煙による被害を拒否する権利のことを何というか。 →嫌煙権
  • ⑤新しい人権のうち、私生活をみだりに公開されない権利のことを何というか。 →プライバシーの権利
  • ⑥新しい人権のうち、マスメディアを通して自由に情報を受けとたっり、国家に対して情報の提供を求めることができる権利を何というか。 →知る権利

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参考