受験生のみなさんが志望する中学校の中には、ミッション系や仏教系の学校などの学校も多いのではないでしょうか。このように、私立の中高一貫校の中には宗教教育をカリキュラムの中に取り入れている学校が少なくありません。公立や国立の中学校にはない特徴だと言えるでしょう。
宗教教育をおこなう中学校は、教育理念によって、大きくキリスト教系、仏教系に分けられます。その中でもキリスト教系の学校は、カトリック系・プロテスタント系・聖公会系・無協会派系に分かれます。それぞれの宗派により、宗教教育の内容は異なります。もちろん、学校の教育理念によっても異なります。
お子さんを多感な時期に通わせる学校を選ぶわけですから、中高6年間にその学校が行う教育内容はやはり学校選びの大きなポイントになりますよね。また、ご家庭の教育方針にも大きく関わってくるので、入念に下調べしておきたいものです。
今回は、宗教教育をおこなう中学校の特徴を解説します。宗派ごとにおこなわれる宗教教育は違いますので参考にしてください。また、無宗教の中学校の情操教育内容についてもご紹介します。
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宗教教育をおこなう学校は信者にならないといけないの?
わが子が進学するかもしれない中学校が宗教教育をおこなっている場合、ご相談が多いのはその学校の宗教の信者にならないといけないのか、という点です。結論から言うと、入信する必要はありません。もちろんもともと洗礼を受けているなどして入信している生徒さんもいますが、全員が入信しなければいけないわけではありません。筆者は中高時代をプロテスタント系の女子高で過ごしましたが、キリスト教徒の同級生は学年で10%にも満たない数でした。また、プロテスタント系の学校であってもカトリックの信者という方も多かったですし、「この宗教でないといけない」といったことはまずありません。
宗教教育をおこなう学校は、信者の数を増やすために宗教教育をおこなっているわけではありません。それぞれ特色ある宗教的道徳を中心とした教育を、カリキュラムの中に取り入れています。学校でおこなわれる宗教教育はいわば情操教育の一環だと言えるでしょう。思春期の多感な時期を過ごす場となるわけですから、そういった年代の生徒の人格形成に宗教的教養を役立てているわけです。どちらかというと学校の理念に基づいた教育の一環として宗教教育を取り入れているというイメージが強いと言えます。筆者が通った中高でも、週に1回聖書の時間が6年間ありました。聖書の内容やキリスト教の歴史について学ぶという授業でしたが、押し付けられるわけではなく、「そういう考え方もあるんだ」といった、考え方の幅を広げさせる授業だった印象があります。
気になる方は直接学校に問い合わせても全く問題ありません。どのような宗教教育を行っているのか教えてくれます。また、学校説明会でも、学校が取り入れている宗教について知らなくても入学して大丈夫、ということを表に出している学校がほとんどなので、その宗教について触れたことがなくても心配する必要はありません。
受験勉強の際、社会の公民分野で憲法を学習しますが、「信教の自由」があることを受験生の皆さんはご存じだと思います。日本では先の世界大戦の反省から、信教の自由が保障されており、宗教教育をおこなっている学校に進学しても、その宗教を信じることを強制されることはありませんので安心してください。
キリスト教系の学校は?
キリスト教系の宗教教育をおこなっている中学校は、宗派によって大きく以下の3種類に分けることができます。
- カトリック系
- プロテスタント系
- 聖公会系
その他、数は少ないですが無教会派という、宗教色を表に出してはいないけれども、キリスト教の考え方を教育内容に取り入れている中学校もあります。鴎友学園は無教会派の代表的な学校です。では、それぞれの宗派の教育内容と、具体的な中学校を見ていきましょう。
カトリック系の中学校
カトリックは、もともとキリスト教の中心の宗派でした。日本にもフランシスコ・ザビエルが布教してきましたが、彼はイエズス会というカトリックの宗派の宣教師でした。バチカン市国に本拠地を構えており、頂点に立つのがローマ法王です。聖書には旧約聖書と新約聖書がありますが、なかでも歴史と預言を中心とした旧約聖書を重視していると言えるでしょう。
カトリック系の中学校の教育においては、伝統を尊重することと、自分を律することを信条として重視しています。その姿勢は勉強に関しても同じで、自分を律し、鍛えることに重きを置いています。そのため、カトリック系の中学校は、自主的に勉強することを重視し、生活面でも自主自律・自立を求められます。また、目上の人に対する礼儀作法などについては厳格な姿勢をとる学校が多いと言えるでしょう。
カトリック系の中学校は、修道会が中心となって設立していることがほとんどなので、男女別学が多いのも特徴のひとつです。神父さんや修道女は結婚しないので、そういった意味でも男女別学になじみやすいと言えるでしょう。
カトリック系の中学校で有名な学校は全国にたくさんありますが、首都圏の男子校では栄光学園、聖光学院、サレジオ学院、暁星中学などが挙げられます。女子校では、浦和明の星女子、カリタス女子、白百合学園、湘南白百合学園、(四谷)雙葉学園、横浜雙葉学園などが有名です。どこも伝統校で、進学実績も上がっているため人気を集める学校です。
学校見学の際、カトリック系の学校では、マリア像が象徴としてどこかにあるので、探してみてください。学校の先生も服装が宣教師、修道女の衣装となっているのでわかりやすいキリスト教系の学校だという印象を持つことでしょう。また、カトリックと言えばミサ、というイメージがあるかもしれませんが、礼拝は毎日ではなく、クリスマスなどイベントごとにおこなうことが多いようです。
プロテスタント系の中学校
プロテスタントは、もともとカトリック教会への反対運動により分裂してできた宗派です。「新教」とも呼ばれ、マルティン・ルターの宗教改革で生まれたことはご存じの方も多いのではないでしょうか。プロテスタント系の中学校は、その宗派の歴史からうかがえるように、個性と自主性を育むことを教育の信条としていることが多いです。
また、プロテスタントの中にもいろいろな考え方があるため、教育理念も「プロテスタント系」とひとくくりにできないほど千差万別です。そういった自由を重んじることもあって、プロテスタント系の学校は自由闊達で自分たちで何でもやる、明るく活発な雰囲気であることが多いです。ちなみに筆者が通った学校はプロテスタント系の中の改革派教会(リフォームド・ミッション)が母体だったのですが、改革派というだけあって、非常に自由で自主性を重んじる学校でした。
このような自由や自主性を重んじる教育方針をとりながら、プロテスタント系の中学校は礼拝の時間を非常に大切にしています。カトリックの方が毎日礼拝をしているイメージがあるかもしれませんが実は逆で、プロテスタント系の学校では日常的に礼拝をおこなっています。朝は礼拝からはじまる、という学校も多いです。筆者も毎朝礼拝で1日が始まり、礼拝の時間がのびた場合に合わせて時間割が3種類に分かれていました。また、自由は自分勝手ということではなく、自律してこそ手に入るものだという考え方を持っているので、マナーも重視しているのもプロテスタント系の学校の特徴です。また、聖書を必修科目として学ぶ学校も多く、聖書を学ぶ修養会と呼ばれる合宿も実施されることがあります。
特に女子校が多いですが、共学の大学付属校も多いです。大学がプロテスタント系なので中高も必然的にプロテスタントの理念に沿った学校教育をおこなっています。女子校では女子学院、東洋英和女学院、フェリス女学院、横浜共立学園が有名です。共学校では青山学院中等部、明治学院中学校などが挙げられます。
プロテスタント系の学校では、先生の服装は平服です。カトリックと異なる点のひとつです。
聖公会系の中学校
キリスト教系の学校のなかには、英国国教会を母体とする「聖公会系」もあります。もともとカトリック教会から分派してできた宗派なので、カトリックの信条を中心としながら、プロテスタント系の新しい教えの影響も受けています。カトリックとプロテスタントの中間の宗派といったイメージが定着しています。
学校生活はどちらかというとプロテスタント系の学校に近く、形式よりも実質を重んじる、比較的のびのびした雰囲気の学校が多いです。また、プロテスタント系の学校と同様に、毎朝礼拝をおこなっている学校がほとんどです。勉強においても自主自立を重んじながら、大学付属の学校が多いため、のびのびと生徒一人ひとりが成長できるように配慮がされています。カリキュラムも6年間いっぱい使って高校課程までを終わらせることが多いです。
聖公会系の中学校は男子校、女子校がありますが、立教系の学校は聖公会系として有名です。男子校では立教池袋、立教新座、女子校では立教女学院、立教大学への推薦枠を多く持つ香蘭女学校などが代表的です。
仏教系の学校は?
仏教系の学校は、たとえばキリスト教のカトリック系の学校のようにマリア像など目立った目印があるわけではなく、一見しただけではあまり宗教色を感じないことが多いです。仏教系の学校の中には、学校の近くにお寺があったり、お寺の敷地内に学校があるケースも良く見られます。このように仏教の施設が身近にあるという環境を活かして、学校行事のなかで法話を聴く機会を設けるなどして宗教教育をおこなっているのが仏教系の学校の特徴です。
仏教の宗派は非常に多いこともあり、〇〇教について勉強する、というよりも情操教育面で宗教教育を重視する傾向があり、思春期の時期に豊かでおだやかな心を育むことを教育理念としている学校も少なくありません。臨済宗や曹洞宗などの禅宗の流れをくむ学校では、座禅を学校教育の中で取り入れていることもあります。文化祭で仏教体験をできる機会もあります。臨済宗や曹洞宗の開祖については、受験生の皆さんならご存じでしょう。入試で仏教の内容に関する問題は出題されませんが。どの宗派が誰によって開かれたのかについてはいい機会なので整理しておきましょう。
仏教系の学校としては、男子校では世田谷学園や鎌倉学園、芝中学などが有名です。鎌倉学園は、鎌倉五山で名高い建長寺の敷地の中に校舎があり、緑豊かな環境の中で自主自立を重んじ、近年非常に人気を集め、大学合格実績も上昇傾向にあります。女子校では国府台女子学院や駒沢学園女子が有名です。共学校では文教大学付属や宝仙学園(共学部)などがあります。宝仙学園は、宝仙寺という大きなお寺が近くにあるので、仏教系だということがすぐにわかります。
無宗教の学校では情操教育はないの?
ここまで、キリスト教系の学校と仏教系の学校の教育方針や学校生活の特徴などについて解説してきました。情操教育の一環として宗教教育を取り入れているため、多感な年ごろにぶれない信念や豊かな心を育むところが魅力的だと感じる方も多いでしょう。
では、無宗教の学校では情操教育はないのでしょうか。たしかに、無宗教の学校では、キリスト教系や仏教系の学校のように宗教教育はおこなわれません。ただし、それは別の角度から教育をとらえているからです。宗教色がなくても自主性や自立・自律やマナーを学ぶ機会はきちんと設けられており、宗教がなくても人間教育をおこなう機会は少ないわけではありません。
いわゆる礼拝などの宗教教育がないかわりに、独自のプログラムやイベントを多くおこなって、生徒がさまざまな体験ができるよう機会を提供している学校は多くあります。それが宗教という形をとっていないだけで、生徒一人ひとりの人格的な教育や情操教育に重きを置いて教育をおこなっている学校はとても多いのです。
そういった独自のプログラムやイベントとして、たとえば、卒業生や著名人を招いた講演会をおこなったり、キャリアガイダンスを早くからおこなうことで職業意識を持つ機会を提供したりすることが良く見られます。また、語学留学の機会を積極的に取り入れている学校も多く、グローバル化がキーワードとなっている現代の教育に欠かせない体験を積極的にさせるプログラムが数多く考えられています。学校の先生の熱意が、宗教ではない、特色のある仕掛けという形になっている学校はたくさんあるので、ぜひ積極的に学校説明会に足を運んで特色を見つけたいですね。
具体的な無宗教の学校の教育の例として、女子校の桜蔭中学校では「礼法」の授業時間があり、小笠原流の礼法を中学1年から学びます。桜蔭というと勉強ばかりしている、という印象があるかもしれませんが、所作の美しい女性になってほしいという学校の教育理念が具現化されていると言えるでしょう。また、池上彰さんなどの有名ジャーナリストを招聘して講演会をおこなう試みもされています。女性としての本分を忘れずに、それでも幅広い職業選択の道を示し、生徒が自分で考え、つかみとっていくきっかけを提供しています。また、文化祭では「サイエンスストリート」が有名です。物理部や化学部など、理系の文化部がワンフロアを使って実験を来場者に披露したり体験してもらったりする機会があるのですが、文化祭の目玉ともいえる企画です。この運営には生徒が自主的におこない、先生はアドバイスしながら見守る、という自主独立性を養う機会にもなっています。
男子校の例も挙げておきましょう。逗子開成中学では、有名な逗子海岸が近くにあることを活かして、遠泳やヨット製作、帆走などといった海に親しむ教育に力を入れています。先生による粘り強い指導のおかげもあり、遠泳では当初まったく泳げなかった生徒も含めて毎年全員の生徒が逗子湾で約1,500メートルの距離を泳ぎ切っているとのことです。ヨット製作では、ひとつのヨットをグループごとに交代で製作していき、何か月もかけて完成させます。こういった体験を通じて、やりきることの達成感や、仲間と一丸となって協力・協働することの大切さを学んでいます。これらのことは、大学入試改革後の受験でもおおいに役立つ力をはぐくむことにつながっています。
学校の特色を意識して受験校を選ぼう
今回は、宗教教育をおこなう中学校について、キリスト教系、仏教系に分けて特色をご紹介しました。受験校を選ぶ際には、どのような教育内容の学校なのかが一番大切になってきます。そのため、やはり一度は学校に足を運び、学校の特色をしっかりつかんで受験校選びをすることをおすすめします。
宗教教育をおこなっている中学校では、宗教教育を通じて、思春期の成長著しい生徒たちが豊かな心を持てるようさまざまな取り組みをおこなっています。それは、無宗教の学校でも同じです。宗教教育をおこなわない分、独自のプログラムをいろいろ用意して学力だけでなく心を育てることに取り組んでいます。
受験校選びで意識したいのが、「わが子の力を伸ばしてくれる学校かどうか」ということです。中学高校は、心身ともに成長著しい時期ですから、その間の環境は非常に重要だと言えるでしょう。ぜひ、ご家庭の教育方針とも照らして、さまざまな学校の特色を意識して受験校選びをおこないましょう。学校を訪問していろいろな特色に触れることによって新しく気づく点があるかもしれません。第一印象だけで決めるのではなく、お子さんがどのような学校生活を送るのか、ということを忘れずに受験校を決定していきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。