2020年の大学入試改革を射程において、今や様々な中学校が対策をとり始めています。その中でやはり注目すべきは、各中学校の「アクティブ・ラーニング」への取り組みです。中学校によってさまざまな取り組みが見られるアクティブ・ラーニングですが、実際にはどのような取り組みをしているのかは、学校見学などで実際に足を運んでみないとわからないものです。
すでにいくつもの学校の学校説明会や個別相談などで学校に足を運ばれた保護者の方も多いと思います。その中で必ずといっていいほど「アクティブ・ラーニング」ということばを耳にされてこられたのではないでしょうか。もちろん、今回の大学入試改革に向けて、このように大きく取り入れられる前から、対話式、双方向的、能動的な授業、つまりアクティブ・ラーニング的な取り組みを長く行ってきた実績のある伝統校も数多くあります。
ですが、2020年が近づくにつれて、大学入試改革をみすえて、これまで特にこのような能動的・主体的な学習を意識してくることのなかった学校であっても、アクティブ・ラーニングについて研究会を立ち上げ、各学校での授業の進め方、方法などについて先生方が意見を交わしています。そして、そのような学校の中には大きく偏差値を上げてきている学校も増えています。
それだけ、どのような大学入試改革が行われるのか、そのために中学校がどのような「場」を与えてくれるのかということに対する保護者の方の期待も大きいといえるのではないでしょうか。
これから受験本番まで、学校説明会をはじめとして学校を見学する機会が多くなってきます。新・受験学年をむかえるお子さんをお持ちの方だけでなく、中学受験をお考えの保護者の皆様には、ぜひ学校に足を運び、いろいろな情報を収集してきていただきたいと思います。百聞は一見にしかず、です。核となる志望校や併願校を選ぶ上で、大きなポイントになることは間違いないでしょう。
2020年の大学入試改革を見すえて、各学校は学校なりのアピールポイントとしてアクティブ・ラーニングへの取り組みについさまざまな形て発表をすると思います。個別相談の機会にも、ぜひその学校全体がどのようにアクティブ・ラーニングに対する考えを持っているのか、授業見学ができるのであればどのように実践しているのか、文化祭などの行事の際にもアクティブ・ラーニングに対する学校の姿勢を生徒さんたちがどのように表現しているのか、ぜひしっかり見て、聞いてきていただきたいと思います。
では、そのアクティブ・ラーニングとはいったいどういうものなのでしょうか。これからの学校説明会で話を聴く際にも活かしていただくために、改めてご紹介していきます。
今回は、特徴的なアクティブ・ラーニングに対する取り組みを行っている中学校を3校ご紹介していきたいと思います。
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アクティブ・ラーニングとはどういう教育をいうのか
「アクティブ・ラーニング」は、これまでも大学や高校で取り入れられてきた例はたくさんあります。中学校でも、また今後は小学校でもどんどん取り入れられてくるでしょう。
すでに大枠はご存知の保護者の方が多いと思いますが文部科学省は、幼稚園から高等学校までの間の教育に、「アクティブ・ラーニング」を導入すること、また、この学習方法に伴って大学入試を変革することを表明しています。細かい情報についてはまだはっきりと発表されていないので、教育現場でも手探りの部分も多いようです。
数年前から導入されている学校も少なくありませんし、アクティブ・ラーニングということばが注目を集めるずっと前から学校の特色を活かしたアクティブ・ラーニングといえる取り組みを行ってきた学校も伝統校を中心に多くあります。新しくアクティブ・ラーニングに取り組み始めた中学校では、黎明期であるため学校の先生も手探り状態で、親御さんは一体どんな教育内容なのか、それが大学入試にどう結びつくのか不安、という状況にあるのが現状です。
学校の授業といえば、今までは先生が一方的に先生が授業を行い、話し、生徒はただ聞くだけ、という講義形式のものがほとんどでした。もちろん、発問を通して双方向で授業を行ってきたり、自発的に生徒の側から先生に対して指摘をしたり質問をして理解を深める、という学習をモットーとしてきた伝統校はこれまでにもたくさんありますので、ことばとしては新しいイメージを持つかもしれませんが、以前から全くなかったわけではありません。
ですが、実際のところそれは生徒の能力によるところもありましたので、基本的な学校の授業はやはり一方的な講義形式がほとんどでした、このような授業ではどうしても生徒も受け身の学習で終わってしまいます。つまり、「受動的学習」だったわけです。
それに対して、アクティブ・ラーニングとは、文字通り、「主体的・能動的な」学習のスタイルです。受け身ではなく、生徒が主体的に、能動的に、ときには周りと協働して学んでいく学習方法です。その学習スタイルを早い時期から身につけさせるような教育を行う、ということが今回のアクティブ・ラーニングの全面的な導入につながっているのです。
では、「主体的・能動的な」学習とは、具体的にどのような学習を指すのでしょうか。これまでにもいくつかご紹介してきましたが、特徴的な取り組みをご紹介します。
桐蔭学園中学校・中等教育学校「ブレイン・ストーミング」
桐蔭学園では、2016年4月から、「総合的な学習」の時間を、「探求的な学習」の時間とし、授業にアクティブ・ラーニングを取り入れています。ある課題を設定し、それに関係する情報を収集し、整理・分析して、レポートや論文にまとめて発表する、という活動サイクルによって、課題に取り組むという学習を行っています。
たとえば、グループを作り、その参加者全員が自由に意見を出し合うという「ブレイン・ストーミング」は特徴的です。ブレイン・ストーミングは社会人でもよく行われる「アイデア出し」で、テレビCMを作ったり新製品を開発したりするときに実際に会社でもよくつかわれる手法です。この方法は、たくさんの人が自由にアイデアを出すことによって、全体としてさらによい意見が出てくることを期待して行われるものです。
ブレイン・ストーミングの基本ルールは、「他人の意見を否定しないこと」「自由な発想から出てきた自分の意見を言ってよいこと」「質よりもまずは量を重視すること(さまざまなものの見方から、たくさんのアイデアを出すこと)」「他人の意見をまとめたり、それらの意見を発展させるよう議論を進めていくこと」です。
桐蔭学園では、このような基本ルールにのっとって、まずはさまざまな方向から考えられたたくさんの意見を否定することなく、ホワイトボードなどに書きだすことから始めます。まず書き出して、それに対して意見を出し合い、量から質に高めていって、最終的にはグループの中の意見をひとつの意見にまとめるという学習をしています。
このようなグループワークは、課題にそって意見を出し合いますが、自由な発想を否定しないので、委縮することなく自分の思考力や発想力を育てることができます。また、主体的・積極的に自分の意見を出し、最終的には協働してまとめていく、という、新しく求められている学習能力を育てるのに有効な方法です。もちろん、担当する教員の力も大いに問われる学習法といえるでしょう。
日本大学中学校「大学を利用した体験学習」
日本大学中学校では、異文化交流や日本文化体験、日本大学との連携による授業の体験を通して、生徒の学習意欲を刺激し、多様な文化が世界にはあるということを知る機会を与えて、主体的に学習に取り組むという姿勢を養うようにしながらアクティブ・ラーニングを利用しています。
中学1年生から取り組むアクティブ・ラーニングとしては、「体験学習」があります。コースによって異なりますが、2週間から4週間に1回のペースで行われています。これは、異文化交流や日本文化の体験にとどまらず、日本大学との連携が特色のひとつです。
日本大学は多様な学部を設置している総合大学で、16学部・87学科を有します。実際に大学で行われる授業と連携させた授業や、大学の教授による体験学習を受けたり、さまざまな学部の学習内容を知ったりと、将来の進路に対しても自分で考え、興味を持つような仕組みをとっているのが大きな特長といえるでしょう。
自由学園中学校「24時間のリアル・アクティブ・ラーニング」
自由学園中学校の男子部では、「問題の本質を見抜く力」「解答が1つではない問題に対するアプローチのしかた」「周囲と協働して問題解決に取り組む姿勢を養う」という点に重点を置いてアクティブ・ラーニングを行っています。このような方法で、自ら考え、多様性や周りの変化といったことに対応することができる「生きた力」を身につけることを目標にしています。
この目標を実現するために、教科授業の枠組みを超えて、日々の学校での活動全体をはじめ、寮生活、学校行事などのすべての実際の学校生活の中での課題解決力を身につけるような学習方針がとられています。
学校の環境づくりまでも生徒が主体となって行うことによって、「24時間のリアル・アクティブ・ラーニング」の学びを実現させるように生徒を仕向けるような教育方針をとっています。
また、「メディア・リテラシー」を重視し、「世界に1人しかいない自分」をどのように発信していくかについて考える機会を与え、自分の考え、意見をまとめて発表するという取り組みも行われています。そのために、学習に必要・適切な情報機器を使って、ソフトウェアを使って学び、プレゼンテーションする力を高めるように工夫がされています。
まとめ~ポイントは「実用的なアクティブ・ラーニング」
今回は特徴的なアクティブ・ラーニングの取り組みを行っている中学校を3校ご紹介しました。これに限らず、各中学校のアクティブ・ラーニングに対する取り組み方や考え方はさまざまです。また、アクティブ・ラーニングを打ち出していても、具体的に何を目標に学習を行っていくか、教員がどのように関わっていくかということに対しても、まだまだ試行錯誤が続いている状態です。
アクティブ・ラーニングは、長い時間をかけて醸成されていくものです。学校側も「これがうちの学校のアクティブ・ラーニングの姿である」という完成形を見せることができるようになるにはまだまだ時間がかかるでしょう。
ですが、アクティブ・ラーニングはこれからの子どもたちが将来、大学や社会に出たときに自分で課題を見つけ、考え、悩み、調べ、自分なりの仮説を立てて解決していくという一連の思考・行動を育むために、改めてことばとして導入されたものです。
学校によっては、内容を決めずに「アクティブ・ラーニング」をやりますよ、とアピールだけしているところがあるのがまだまだ現状です。ですが、それでは求められている力を育むことはできません。実際にどのような取り組みがなされているかを、受験前にしっかり見極めておくことが非常に重要になってきます。これからの6年間の学校生活の決め手、大学進学という出口に直結するからです。
学校の姿勢を見極めるためにも、学校説明会や学校見学に足を運んでください。また、個別訪問を受け付けている学校もあります。中学校の入試広報室や入試広報担当の先生に電話をかけて、ぜひ予約していってみましょう。そうすると、学校内の施設の案内に加えて、実際にどのような点が学校のアピールポイントなのか、授業の内容や学校全体の取り組みも説明してもらえますし、納得するまで質問することもできます。質問をして教員が答えられないようでは、学校の中でアクティブ・ラーニングに対して意見が分かれている可能性がありますから、よく調べる必要があります。
アクティブ・ラーニングは、子どもが「生きていくために必要な力」を身につけるためにとても大切な教育です。ですが、中学受験をするお子さんは小学生ですから、ある程度学校側からの働きかけも必要です。そのような働きかけをしてくれるのかどうか、どのような環境の中でわが子が学校生活を送り、勉強や部活動、学校行事などに積極的に取り組み、充実した期間を過ごすことができるのかを、保護者の方の目で見て、耳で聞いて、実際に学校と話をして見極めていただきたいと思います。
志望校選びのポイントの一つとしていまや無視できないアクティブ・ラーニング。どれだけ具体的な取り組みがなされているのか、「入学してみたら期待と違った」ということのないように、しっかり情報を収集していただき、ご家庭の教育方針とも照らし合わせて見ることが大切です。お子さんの「直観」も意外とあなどれません。子どもは子どもなりの視点で学校を見ています。ぜひご一緒に足を運んでいただくことをオススメします。そして、親子で時間をかけて「学校を研究」してみてください。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。