中学受験・御三家のアクティブ・ラーニングへの取り組みとは?(東京・女子)

これまで何回かこのブログでも、「アクティブ・ラーニング」について解説してきました。文部科学省が、幼稚園から高等学校までの教育において、「アクティブ・ラーニング」を導入し、大学入試にも大きな改革を行うことを発表していることは、中学受験生をもつ親御さんは皆さんご存知だと思います。学校説明会でも何度も耳にされたことでしょう。

そして、この学習方法によって教育を行い、それに沿って大学入試を変革することも表明されています。具体的に変わるテストの内容などの詳細については少しずつニュースなどで報道されるようになってきましたが、まだ具体的な点については明らかになっていないので、中学に入ってから知ればいい、と思われるかもしれません。ですが、中高6年間の学習内容、成果によって大学進学の結果も変わってきますから、やはり中学入学時点である程度志望校・受験校の取り組みについては知っておきたいところですね。

入学してから、思っていた、説明会で聞いた教育内容と異なっていたら、それが大学入試にどう結びつくのか不安になるのも当然だと思います。

これまでの学校の授業のイメージといえば、先生が一方的に授業を行い、生徒はただ聞いてノートをとっておくだけ、それを丸覚えして定期テストに臨む・・・というものが多かったのではないでしょうか。たしかに、一方的な講義形式の授業が多かったのは事実です。

特に御三家といえば、大学進学実績を出していますから、知識を詰め込んで入試で使えるようにしておけばそれでいいい、生徒が自分で勉強するから特に学校は工夫をしない、と思われてきたかもしれません。ですが、実は勘違いされやすいのですが、アクティブ・ラーニングは単なる知識の詰め込み教育の改革というわけではありません。様々なことに興味をもち、生徒一人ひとりが自分の将来を切り開いていくための能力を養成するために必要なことをもっと積極的にやっていきましょう、ということです。

今回は、東京の女子御三家、桜蔭中学、女子学院中学、雙葉中学について、アクティブ・ラーニングの取り組みについて触れていきたいと思います。

突然現れたことばではない「アクティブ・ラーニング」

「アクティブ・ラーニング」ということばが世の中に出てくる以前から、授業内で発問するなどして双方向授業を行ったり、自発的に生徒の側から先生に対して指摘をしたり、授業前に質問をして理解を深める、という学習をモットーとしてきた伝統校はこれまでにもたくさんありますので、ことばとしては新しいイメージを持つかもしれませんが、以前から全くなかったわけではありません。

ですが、実際のところ、そのような双方向授業や自発的な授業を行うことができるかどうかは、正直なところ生徒の能力によるところもありましたので、基本的な学校の授業はやはり一方的な講義形式がほとんどでした、このような授業ではどうしても生徒も受け身の学習で終わってしまいます。つまり、「受動的学習」だったわけです。

それに対して、アクティブ・ラーニングとは、文字通り、「能動的な」学習のスタイルです。受け身ではなく、生徒が主体的に、能動的に、ときには協働的に学んでいく学習方法です。インプット重視の詰込み型教育は決して悪いものではありません。何か課題を与えられ、解決するためには基本的な知識は必要不可欠だからです。

ただし、インプット重視の詰込み型教育から、参加型・知識の活用に主眼を置くという点が重視され、「アクティブ・ラーニング」ということばが席巻するようになったのです。2020年に大学入試システムが変更になり、「思考力・判断力・表現力」を試そう、という方針が決まったことによって、各中学校も、さらには小学校でもさかんに独自の教育システムを模索している、いまはそのような時期です。

とくにいわゆる新興校といわれる学校はアクティブ・ラーニングを前面に打ち出して、大学入試改革に向けて何をしていくかをアピールして受験生を集めています。では、いわゆる伝統校といわれる学校はどうでしょうか。「女子御三家」といわれる、伝統と大学進学実績を誇る学校はどのような取り組みを実践しているのでしょうか

桜蔭中学校

「リケジョ」ブームの先端を行く桜蔭中学校では、毎年東京大学をはじめ、難関大学、特に医学部医学科については追随を許さないほどの進学実績を出しています。いわゆる進学校と同様、授業の進度は非常に速いです。高校2年生で文系・理系に分かれますが、速い科目では高校1年生で学習指導要領の範囲を終えるものもあります。そう聞くと、アクティブ・ラーニングとは全く逆の従来型の詰込み教育では?と思われるかもしれませんね。

たとえば数学の授業を例にとると、課題が出された場合、授業前に教室にある黒板に解法を書き、それに違う解法を書き入れるなど、授業が始まる前にすでに授業が始まっているという状態になっています。また、副教材として問題集が渡されますが、これは毎回どこまでやってきなさい、ではなく、「自分で習った範囲をコツコツやり通しなさい、定期試験ではこれも範囲です」と、先生は言いませんが、渡された以上そういうものだと生徒自身が考え、学習を進めています。

ですが、そのようないわゆる進学校においても、6年間かけて、さまざまな能動的な学習の試みが行われています。たとえば、中学1年生では、1学期の間に、研究班に分かれて浅間山について地形や植物、鉱物などについて様々な調査を行い、夏に行われる浅間山合宿で、実際に現地で調査を行い、そこで学んだことをそれまでに調査したことに加えてまとめ直します。その過程では、グループで協力して行う協働性や、問題を解決する思考力や判断力を養うだけではなく、プレゼンテーションを行う力も養われています。

桜蔭中学の文化祭で有名なのが、「サイエンス・ストリート」です。文化祭でこれを見て、桜蔭を目指す受験生も多いといわれています。科学部や物理部など、理系の部活動がワンフロアを使い、それぞれの研究の成果を発表しています。見本の実験を行い、学校見学に来た生徒に説明して実際に体験してもらうということも行っています。そのためには、「なぜこうするとそのような結果になるのか」ということを理解しなければなりません。文化祭のずいぶん前から、当日のための準備をし、話し合い、分担を決める・・・その過程には先生はほとんど介入しないで、生徒が自主的に行い、当日配布するレジュメもパソコンなどで作成します。

中学2年生では、中学3年生の自由研究発表会を聞き、そこから1年間かけて自分も卒業論文を作成するという学習を行います。テーマは自由、なかには全てのコンビニエンス・ストアのおにぎりを実際に食べて味比べをするなどというユニークなものもあります。テーマを決めたら、1年間をかけてそれぞれ論文を書き、優秀なものは生徒や教員の前でパワーポイントを使ってプレゼンテーションを行うなど、コンピューター技術も身につける密度の濃い1年間を送ります。そこで、高い思考力と表現力が養われるのです。このような卒業論文の作成や発表は、男子御三家や海城中学といった男子最難関校でも行われています。

女子学院中学

プロテスタント系のミッションスクールとして知られている女子学院中学は、制服がないことでも有名です。活発なお子さんが多く、学校行事や授業を通じて、互いに議論をしあうディスカッションの場を多く取り入れています。女子学院の文化祭は毎年非常に人気で、多くの受験生や保護者を集めていますが、どうしたら見学に来る生徒に、自分たちが日々過ごしている学校の特徴を伝えられるだろうか、ということを話し合って決めていくそうです。文化祭実行委員会はありますが、各クラブも発言権を駆使して、テーマを決め、当日の進行も生徒が自主的に決めていきます。

特徴的な学習の機会として、アジア・アフリカ研究会の勉強会があります。NPO法人の、難民支援協会代表理事が学校に直接来校し、生徒に対して今現在の世界で起こっている出来事、問題点などについて講演を行います。それを聞いて、生徒が自主的に質問をし、討論を行うというものがあります。これを中学校で行いますが、内容については、高校生どころか、大学生が行うような難しいものですが、それを必死にまとめて、勉強会の報告として、全校生徒の前で発表するというところまで行います。

問題点の発見、解決方法を試行錯誤し、意見をまとめる、これはアクティブ・ラーニングということばで表さないとしても、かなり高度なアクティブ・ラーニングといってもおかしくない内容です。女子学院は創立して非常に長い期間、女子教育に取り組んできています。プロテスタントという学校の創立過程も関係しているかもしれません。神奈川県の女子御三家中の一つ、フェリス女学院とは同じ教派ということもあり、クリスマス礼拝ではお互いの学校の校長先生が礼拝を執り行ったり、女子学院出身の先生がフェリス女学院で教えていたり、という交流もあります。

雙葉中学校

雙葉と名の付く学校は実は全国にあるのですが、東京御三家はいわゆる「四谷雙葉」と呼ばれています。女子学院はプロテスタントでしたが、雙葉中学校はカトリックの修道会が創立に関わっています。

雙葉中学校では、週に1回、宗教の授業を行い、生徒自身に「生き方とは何か」という、非常に哲学的なことを段階を踏みながら考えさせる取り組みを長年行っており、将来、広く社会に目を向けられるような豊かな人間性を養うような教育を行っています。いわゆるミッション系の学校は、このような授業を行うことが多いですが、多様な価値観を自然に自分のものとしていくような教育をしている学校は実は少ないのです。

カトリックだから、ということはあるかもしれませんが、いま世界中で起こっている紛争と宗教は切っても切れない関係にあるといっても過言ではありません。「生き方」という、一人ひとりにしか実現できないことについて深く考えさせるということはなかなか見ることのできない教育内容といってもいいでしょう。

その実践として、乳児院や老人ホームといった交流先の施設に行く活動が行われています。生徒自身がクリスマスプレゼントを考案し、作成してプレゼントします。相手の立場、年齢、そういったことを頭に思い浮かべながら作成するプレゼントですから、いい加減なものは作れませんよね。決して「いい子」でいなければいけないということではなく、人間としてどう生きていくかということを日々考え続けていく、それを自発的に行なっていくという教育は、一朝一夕ではできるものではありません。

その他にも、中学2年生のときには、農村で体験学習をおこないます。カトリックのお嬢様と農村体験・・・イメージが結びつかないかもしれませんが、聖書には「一粒の麦」ということばもあります。人間を生かしてくれる農業について肌で学んでいくことは、この学校でしか得られない体験といってもいいのではないでしょうか。

中学3年生のときには、理科の野外学習で実際に現地に行き、地質などを調査する機会もあります。雙葉中学の入試問題の中でも理科は非常に特徴的です。実験道具の仕組みがどうなっているのか、見たこともないようなものだけれども身近にある道具と原理は似ているものについて考察させたり、実験考察問題が多数出題されます。皆さんの持つ雙葉中学のイメージと少し違うかもしれませんが、中学受験で求められている力が、入学してからの学習に直結する、そのような教育を目指しているといっても過言ではありません。

まとめ

「女子御三家」こう聞くだけで、大学進学実績を上げるために詰め込み教育を行うのではないのか、というイメージを持っておられる方もいらっしゃったかもしれません。たしかに、学業を修める上で必要な知識については徹底して叩き込まれるのは3校に共通して言えることかもしれません。また、学校のホームページを見ても、「アクティブ・ラーニング」ということばは使用されていません。

ですが、それぞれの学校に共通して言えることは、長い歴史を持つ女子教育のスペシャリストであるということと、これまで実践してきた一つひとつの授業が、生徒に「学ぶこと」への興味を持たせ、受動的ではなく能動的に自ら学ぶということが学習の基本なのだということを理解させる、そういったことれきを行ってきた自負があるということではないでしょうか。

歴史のある女子校は、時代の波にときに飲み込まれそうになりながら、何度もあった教育の変革期において、さまざまな苦難を乗り越えて、教育方針を変えることなく、信念を貫いてきた、そのような経緯を経てきています。成長して社会出て、さまざまな分野で活躍している人材が数多く輩出されてきていることを考えても、単に硬直化した教育を行っただけでは不可能だったはずです。

今後も、社会で活躍できる人材の育成を考え、取り組んでいる女子御三家の教育姿勢は、たしかに入学してくる生徒の能力に負うところも大きいとは思います。しかし、その内容をみると、たしかに「御三家」と呼ばれるにふさわしいものといえます。

アクティブ・ラーニングということばが使われていなくても、御三家中で6年間をかけて行われる教育に対して、これからも目が離せないでしょう。残念ながら御三家では、学校説明会の回数が少なく、体育祭などは非公開です。ですが、私学協会主催の説明会では、実際に先生に話を聞くこともできますし、ぜひ、文化祭などを通じて、実際の生徒さんの様子を見に行くことをオススメします。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。