御三家のアクティブ・ラーニングへの取り組みとは?(東京・男子)

これまでの日本の教育は、インプット重視の詰め込み型教育、と言われてきました。学習において、もちろんインプットはとても大切です。そんな中、近年ではインプットはもちろんですが、「参加型・知識活用型」の学習に主眼が置かれるようになってきました。いわゆる、「アクティブ・ラーニング」と呼ばれる、能動的学習です。

2020年に大学入試改革が行われ、センター試験のシステムなども大きく変わります。そこで求められるのは、「思考力・判断力・表現力」です。そういった力は単なる受け身の学習では身につきません。そこで、各学校も盛んにアクティブ・ラーニングを掲げ、学校の特徴とするようになっています。

では、伝統のある私立中高一貫校での取り組みはどのようなものなのでしょうか?今回は、東京の「男子御三家」、開成中学校、麻布中学校、武蔵中学校がどのような学習への取り組みを行っているのか、ご紹介していきます。

開成中学校

特別に「アクティブ・ラーニング」という言葉を使うことなく、これまでの教育方針やシステムを大きく変えた、ということはありません。ですが、アクティブ・ラーニングが叫ばれ始める前から、「思考力」「能動性」「協働性」といった力を養う教育を行ってきています。

開成は普段の授業を大切にしており、基礎学力を重視して、その上で生徒の思考力や創造性を育てることを目指してきました。その考え方は一貫して変わりません。教育理念として、学問を行うときには「注意・観察」が重要であり、これは学ぶ側の生徒が持っておくべき姿勢である、ということが挙げられています。自分で工夫するとか問題を設定することは大変ではあるけれども、一方的に教えられて真似をすることばかりでは、「思考」しなくなるという危険性がある、と開学間もない時から言及しています。

アクティブ・ラーニングでは、「思考力」がキーワードの一つですが、開成中学校では、もともと学問においては記憶力と思考力はどちらも書くことのできない要素であり、記憶力は思考力を養うための土台だと考えられています。そこで、中学のカリキュラムでは、従来のレベルを保ちながらより発展的、創造的なカリキュラムを作成することが目指されています。

「総合的な学習の時間」を通して、基礎的学力を含む総合的な学力の充実をはかり、ホームルーム活動の時間を設けるなど、生徒が能動的に学習に取り組む仕組みを作っています。各教科でも、特に興味深いテーマを取り上げたり、実験や観察を通して、知識や考察力を身につけさせる学習が行われています。数学の授業はあえて大人数で授業を行い、三か所の黒板に生徒たちが解法を書き、その解法について意見を出し合う授業が展開されています。

現在の柳沢校長は、「これまでも知識には二種類あり、一つは知識の理解、一つは知識の定着である」ということを、学内だけでなく学外でも機会あるごとに発信しています。知識は、定着することによって活用できる知識となり、創造力が生まれるという考え方と言えるでしょう。その教育方針は一貫してブレることなく実践されており、以前から、いまでいう「アクティブ・ラーニング」を自然に取り入れてきた学校、と言えると思います。

また、開成中学校の最大のイベントと言えば運動会です。このような学校行事でも、アクティブ・ラーニング的要素は以前から取り入れられていたといえます。実行委員がリーダーとなり、意見を出し合い、協力して問題を解決し、リーダーの資質を磨いていく貴重な経験とされています。

そして、この運動会に対して、学校は、「運動が得意な人、絵が得意な人、音楽が得意な人、演奏が得意な人、編集が得意な人、記録が得意な人、後輩の指導が得意な人、管理運営が得意な人、実務が得意な人など、開成生の全員に重要な役割があります」という見方をしています。自己の役割の中で試行錯誤し、問題を解決し、さらに強い自己を確立していく取り組みと言っても良いのではないでしょうか。

麻布中学校

以前からユニークな授業を展開してきており、ほかの学校にはない総合型、参加型の授業も活発に行われています。

たとえば、中学1年生の「生活総合」では、「ユニバーサルデザイン」の開発に取り組み、サンプル作成や実験を自分で考えて行っています。その内容をまとめ、企業に送付し、意見をもらうなど、なかなか他では見ることのできないユニークな授業です。

また、中学3年生では「卒論」をグループで製作します。個人で卒論を提出させ、プレゼンさせる学校は増えてきていますが、グループで卒論を製作するのは、まさに「協働性」を育むのにもってこいの学習と言えるのではないでしょうか。目的は、豊かな感性や論理的思考力を育て、高校からの主体的学習姿勢を作ることにあります。

いわば、麻布中学校では「すべての授業がアクティブ・ラーニング」と言ってもよいかもしれません。麻布中学校では、以前から自ら調べ、考えるという教育を実践しています。現代文の授業では作品に対する自分の考え方を発表し、議論が活発に行われています。

数学では、問題の背景にある数学的構造を見抜く姿勢、手を動かして自分で本質を発見する姿勢、直感的なイメージをどう数学的に表現するかという姿勢を養うことを主眼に置いています。

そして、社会では中学1年生で世界という科目が設けられています。以前、麻布生の方が、この「世界」が非常に面白い、知的好奇心を刺激される授業で、視野が広がる実感があると言っていたことがありました。地理と歴史の分野を融合した授業で、ただ地理を覚える、歴史を覚える、という授業とは異なる、それぞれの関係性まで踏み込む授業だということです。

また、開成中学校でも紹介しましたが、学校行事にも手を抜きません。文化祭や運動会など、実行委員が中心になり、生徒たちが積極的に参加して創り上げるものになっており、先生は見守り、相談があったときに助言する立場を貫いています。教職員参加の演芸会や、プロ顔負けの音楽会なども行われています。

このような学校行事にどのように主体的に、能動的に参加するか、どのようなものを創り上げたいのか、と試行錯誤する姿勢は、教科授業とは異なる場面かもしれませんが、校長先生が「すべてがアクティブ・ラーニング」と言われているように、能動的教育の目指すものと言えると思います。

麻布中学校の授業については、アクティブ・ラーニングを研究している学校の先生も見学に来たり、教職員どうし意見を交わしたり、ということも活発に行われているようです。以前から行われている授業が、アクティブ・ラーニングの参考になる、麻布中学校の学習への取り組みはそのような位置づけとして、学ぶものが多いと言われています。

武蔵中学校

武蔵中学校の3つの建学精神の一つに、「自ら調べ自ら考える力ある人物」を育てるということが挙げられます。そこでは、本物に触れるなどの良質な原体験が心の豊かさを育て、自分で考える力を育む、と考えられています。

たとえば、教科学習では、理科の授業授業で様々な実験を行うこと、社会や国語の授業ではいかに資料を読みこなすかを自分で試行錯誤してやり切っていくなど、アクティブ・ラーニングという言葉を使わなくとも、思考力や判断力、表現力を養う授業が長年行われてきています。

また、武蔵中学校の教育方針は「本物に触れて学びをつかむ」というものですが、校外学習が非常に充実しています。中学1年生では埼玉県での山林遠足、群馬県での3泊4日の山上学校、箱根での地学巡検などがあります。中学2年生では千葉県で3泊4日の海浜学校、中学3年生では天文実習などです。様々な校外学習を通して自然と対峙する経験を通して生徒は大きく成長する、という考え方です。

そのほかにも、記念祭、体育祭、強歩大会、国外研修での留学経験をはじめ、課外活動での先輩、後輩との繋がりから、教科授業だけでは学び得ないことを学びます。野外研究奨励の制度を使ってグループで旅をし、研究成果を発表する生徒もいます。「自分の目で、手で確かめること」これを何よりも大切に学校生活の主眼に置いています。そして、これも有名な話かもしれませんが、武蔵ではヤギが飼われており、当番の生徒は盆暮れ正月関係なく世話をしているそうです。

武蔵中学校の教育方針は、「社会で必要とされる本当の学力」について、対象を自分自身で選び、考え、楽しみ、追究する、そのような力であり、学校としてはそのような本当の学力を生徒に身につけさせたいというところにあるのだと思います。考え、楽しみ、追及や試行錯誤をする・・・。それは、ある問題があったらすぐに答えを出して終わるのではなく、回り道をすることも時には必要であり、考える過程も楽しむことができる力こそが本当の学力だと言っているように感じます。

まとめ

そもそもアクティブ・ラーニングがクローズアップされ始めたのは、大学入試改革ももちろんありますが、「社会で必要とされる本当の学力とは何か」ということを改めて考えたときに、必要な学力をどう生徒に身につけさせるか、それぞれの学校が取り組み始め、研究していることがきっかけです。

社会に出ると、答えのない問題に遭遇することの方が多いのですから、学生時代にただ目の前に問題がある→答えを出すという短絡的な思考を繰り返していると、思考力はおろか、学力を含め生き抜いていく力をつけることは難しいでしょう。そういう意味で、受け身の学習だけでは足りないということになったわけです。

アクティブに、つまり能動的に活動するならば、失敗したり、回り道をするなど無駄なことに時間がとられることもあるでしょう。しかし、自分でよく考え、試行錯誤し、自分の責任で行動した結果、そこに失敗や無駄があったとしても、それ自体が生徒本人が問題を解決していくための力をつけていくために通るべき道です。

今回は、「東京の男子御三家」と呼ばれる伝統校について、アクティブ・ラーニングという観点から教育内容をご紹介しました。それぞれの学校では、基本的には時代の流行に合わせたアクティブ・ラーニングという言葉を必ずしも使っているわけではありません。

これらの学校では、アクティブ・ラーニングという言葉がクローズアップされるようになるずっと前から、知識の活用や表現の重要性、自分で問題を探しに行って解決方法を試行錯誤する、そのような授業を行い、体験の場を数多く設けてきた結果、おのずといま求められている「思考力・判断力・表現力」といった学力を身につけて卒業していく生徒が多い、ということなのではないでしょうか。そのような人物になれる生徒を求め、ブレずに教育方針を貫いてきた点も、さすがは伝統ある御三家、といえると思います。

ぜひ、志望校選びの際には学習への取り組みをしっかり把握しておかれることをおすすめします。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。