最近の中学入試では「思考力」が重視されている、とよく言われますよね。受験生や保護者の皆さんは、「思考力が必要」=難問が出る、とお考えになることも少なくありません。思考力というと、よく考えないとできない、何か特別な力が必要、その力の要請には時間がかかる・・・などなど、さまざまなイメージを持っておられることが多いです。
また、中学入試では思考力に加えて「発想力」も重視されていると言われています。よく算数では「ひらめき」が必要、とされてきましたが、果たしてここでいう「発想力」とは、いわゆるひらめきと同じなのでしょうか。そしてその力は、事前に要請することはできるのでしょうか。
大学入試改革に伴い、学習指導要領も変更されてきています。その中で思考力は非常に重視されていることはたしかです。ですが、肝心の思考力の中身がどういうものか、ということについてはかみ砕いて解説されておらず、教育現場でも試行錯誤が続いている状態であるのが実情です。
ただし、中学入試の出題傾向が変わりつつあることも事実としてあります。今回は、思考力とはどんな力なのか、中学入試ではどこまでの力が求められるのか、について考えていきたいと思います。
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想定されている「思考力」の姿
大学入試改革が進む中、文部科学省は、「国際化・情報化・科学技術の進展など今日の激しく変化する社会のなかで、子ども達は生涯にわたって、心豊かに主体的・創造的に生きていくことができる資質や能力を身につけること」が重要だとしています。
学校教育でも「思考力」は重視される
このような資質や能力を身につけるために、自ら学ぶ意欲や思考力・判断力・表現力などの資質や能力を重視して教育がおこなわれるべきだとしています。つまり、これkらの学校教育において「思考力・判断力・表現力」が重視されているということがわかります。
なぜいま「思考力」なの?
これまで、学校によって取り組み方は異なりましたが、学校の授業も集団授業なので、どちらかと画一的な授業がおこなわれてきました。生徒の個性はさまざまであり、勉強が得意な生徒もいればスポーツが得意な生徒、算数が得意な生徒もいれば国語が得意な生徒、といったように興味の対象は生徒一人ひとり異なります。ですが、学習指導要領が決められている以上、それを守って生徒に授業をおこなわなければいけないため、どうしても「平均的な」授業になりがちであり、また「教えなければいけない内容」が決められているため、遅れないように詰め込む教育になりがちでした。
本来、いわゆる落ちこぼれをなくすことを標榜して平均的・画一的な学校教育がされていましたが、過去の歴史では非行や校内暴力などの深刻な問題、場合によっては社会問題に発展することもあり、環境を求めて中学受験も過熱してきました。こういった過程の反省から、画一的な詰め込み授業から、生徒一人ひとりの「学ぶ意欲」や「思考力」を重視しよう、という新しい学力を身につけるような授業をしていこう、という視点が生まれ、いまに繋がっていると言えるでしょう。
こうして叫ばれるようになってきた「思考力」ですが、いったいどのようにして身につけていけばよいものなのでしょうか。なかには、思考力や想像力は、生まれつきの才能だ、努力して身につくものではない、と考える方もいらっしゃるかもしれません。中学受験でも思考力や想像力が必要とされているいま、「努力しても身につかない」では、受験勉強をいくらしても意味がないということにもなりかねませんよね。
結論から言えば、思考力はもちろん生まれつきの才能という部分はあるものの、それは程度問題です。柔軟な頭を持っていれば、もともと備わっている力を伸ばすことは十分できるのです。では、思考力とは、どのようような力なのでしょうか。
「学力の三要素」を理解しておこう
大学入試改革に関係して学習指導要領が変更されてきたことについて注目すべきなのは、「学力の三要素」です。いきなり出てきたように思われるかもしれませんが、実はこれまでの入試も求められていた能力です。中学受験で求められている学力とは、入学してから学習を主体的におこなっていけるのか、あきらめずに探求していけるのか、というものです。そのために最低限身につけて入学してきてほしい力を「学力の三要素」としてまとめたのが以下の3つです。
- 「知識・技能」
- 「思考力・判断力・表現力」
- 「主体性・多様性・協働性」
中学入試においてもこれらの力をところどころにちりばめた出題が増加傾向にあります。とくに、公立中高一貫校の適性検査問題ではその傾向が顕著ですが、私立中学校においても重視される傾向にあり、中学ごとに入試の形が大きく変わってきています。では、それぞれの3要素とはどういうものなのでしょうか。思考力に重点をおいて見てみましょう。
「知識・技能」
「学力の三要素」のうち「知識・技能」は、比較的理解しやすいのではないでしょうか、入試問題で求められている解答を出すために持っている知識を総動員することが必要だ、と考えていただければ良いでしょう。解答を導くために必要な知識を理解し、記憶し、定着させて使いこなせるようにする、という力だと考えてください。中学受験では必ず必要となることです。
ただし、これから中学受験で求められる「知識・技能」は、単に解答を導くためにため込んでおけばいいというものではなく、より重視される「思考力・判断力・表現力」を入試において発揮するために最低限身につけておかなければならない能力であることは注意が必要です。
ですが、最低限必要だからといって軽視してはいけません。より応用的とされる思考力・判断力・表現力を入試の現場で発揮するためには、ただその場で思ったことや感想を書けばいいというものではありません。正確な知識や技術を身につけておかないと、いくら初見の問題に取り組もうとしてもヒントさえ見つけられないということになりかねません。そうすると、現場での試行錯誤ということはまずできません。。
中学受験でも「思考力」が求められると言われてきましたが、前提としてしっかりとした基礎力、つまり「知識・技能」が必要となっています。広範囲にわたる正しい知識や技能を武器にして、初見の問題についてせいいっぱい思考をめぐらせて答案に表現する、というのが中学受験における思考力といっても良いでしょう。
「思考力・判断力・表現力」
中学入試でいま、非常に重視されているのが「思考力・判断力・表現力」です。これは、自ら課題を発見し、解決するために試行錯誤し、成果を表現して相手に伝えるために必要な力です。かみ砕いて言うと「考える力」「解答への方向を判断する力」「それをわかりやすく表現する(書く力などです)力」です。
最近の中学受験では問題文が長文化する傾向がありますが、長い問題文、多くの資料を正確に読み解き、解答の方向性を判断し、途中式や理由などを出題者にわかりやすく書く(表現する)ということが必要です。これまでも実は難関中学校の入試ではおこなわれてきたことでした。最近では、難関校に限らずすそ野が広がっており、そういった傾向の問題を出題する中学校が増加傾向にあります。たとえば、理科と社会の融合型のような問題が出題されるケースも少なくありませんよね。「この教科だからこれ」と決めつけるのではなく、教科横断型の学習が求められていると言っても良いでしょう。
中学受験で求められている思考力とは、わからないものについて試行錯誤して克服する、という姿勢が重視されると言っても過言ではありません。そのためには好奇心も必要です。そういった力を要約すると「思考力・判断力・表現力」とまとめられると考えておいてください。
思考力・判断力・表現力というと、抽象的でわかりにくいと思われるかもしれませんが、決して難しい力を要求されているわけではないので安心してください。最近の中学入試では、ただ問題文を読んでそれに対応する答えを探すだけではなく、「解答に至るまでの思考のプロセス」がより重視されていて、さらにそれを的確に表現して出題者とキャッチボールができる力が求められています。いわば、これまでの入試で求められていた力がこういった能力としてまとめられたと言えるでしょう。
中学受験で求められている「思考力」とは、解答に達するまでのプロセスと理由づけについて志望校の出題者に納得してもらうために必要な力、と言い換えることができるでしょう、考えの裏付けをわかりやすくまとめることができる力が求められていると言えるのではないでしょうか。
「主体性・多様性・協働性」
学力の三要素では、思考力・判断力・表現力の先に、主体性・多様性・協働性というものがあります。これは、主体性をもって、さまざまなバックグラウンドを持った人たちの多様な考え方を受け入れ、さらに協力して何かを成し遂げる力、といいかえることができますが、入試ではそこまでは正直のところ求められているわけではありません。
たとえば、駒場東邦中学校の入試担当の先生が以前、このようなことをおっしゃっていました。駒場東邦中学校の国語の入試問題は、長い物語文1題です。理系に進学する生徒が多く、受験生も理系志向が強い駒場東邦中学校でなぜ物語文が出題されるのでしょうか。そこで先生がおっしゃったのは、以下のような内容です。
「うちの学校は、医学部を受験する生徒や、国公立大学の理系を受験して研究者を目指す生徒が多いです。今の時代、医師といっても自分だけで診断を下し、手術などをする時代ではなく、チームを組んで、さまざまな意見を統合して診断をすることが求められています。セカンドオピニオンを必要とすることもありますし、手術の際も医師ひとりでは何もできません。患者の命を救うためには、チームでコミュニケーションをとり、最短時間で最良の治療をする必要があります。研究者も、ひとりだけで孤独に実験ばかりするのではなく、研究室に入って、チームで協力して研究を行います。外国の研究者と協働することもあります。このような場面では、他の人が考えていることをお互いに理解し合うことが不可欠です。だから、入試では物語文を出題し、登場人物の気持ちを考え、さらには作者の想いに気づいてもらいたい」ということでした。
もちろん自分の考え、意見を持つことは必要ですが、他の意見を参考にしたり、比較したり、試行錯誤しながら最終的に他の人と協力してやり遂げる、という力が「主体性・多様性・協働性」と言えるでしょう。
まとめ
今回は、思考力を中心に、中学入試で求められている力とはどのようなものかについてまとめました。決して難しい力が要求されているわけではありません。思考力がどのようなものであるかを理解したうえで、中学受験のための勉強を進めていきましょう。
次回は、思考力を身につけるためにどうしていくのが良いのか、中学受験で求められる思考力養成についてまとめてみたいと思います。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。