広尾学園中学校・高等学校は、東京は広尾という閑静な環境にある進学校です。もともとは女子校でした。1918年に順心女学校として設立され、その後、順心女子中学校・高等学校となりました。さらに、2007年に広尾学園という現学校名に改称し、共学化しました。
近年、女子校がグローバル教育などを掲げて共学化するが強まっていますが、広尾学園はその中でもかなり早い時期に共学化・グローバル教育に目を向けた学校と言えるでしょう。その結果、偏差値も大きく上がり、難関校の仲間入りをしています。
広尾学園と学校名を変更すると同時期に、「インターナショナルクラス」を設置しました。最近、アクティブ・ラーニングでもよく取り入れられているICT教育をはじめとして、グローバル教育に対する先進的な取り組みを数多く行っていることもあり、中学入試においても高い倍率を誇る人気校となっています。
今回は、広尾学園中学・高等学校が、グローバル時代を見据えてどのような教育を行っているのかについて、ご紹介していきたいと思います。
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広尾学園ではいつからグローバル教育を行っているのか
広尾学園は、前身の順心女子中学校・高等学校の時代から、帰国子女を受け入れる指定校として、長い歴史を誇っています。2006年から3年間は、文部科学省によって、SELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)として指定されました。
また、2007年には、J8(ジュニア・エイト)サミットの日本代表として、G8ドイツサミットに参加しました。そこでは、現在の安倍首相をはじめ、各国の首脳たちに向けて英語でプレゼンテーションを行ったりという、実践的な活動もしました。そのような、長年にわたって積んできたグローバルな活動の実績や伝統のもとに、「インターナショナルコース」を設置し、現在も引き続いて本格的なグローバル教育に取り組んでいます。
2020年の大学入試改革でもキーワードの一つとなっている「グローバル化」ですが、それを具体的にどのように行うか、これまでの活動に加え、さらに新たな取り組みも行っています。
注目を集める「インターナショナルコース」について
広尾学園では、グローバル教育に力を入れていますが、特に英語教育には特徴があります。中学校では「インターナショナルクラス」と呼ばれていますが、英語教育をAGクラス、SGクラスの2つのクラスに分けて行っています。
2つのクラスは、基本的な授業はすべて英語で行う「アドバンストグループ(AG)」と、基礎から英語を学び、英語力を伸ばす「スタンダードグループ(SG)」に分かれています(高等学校では、『インターナショナルコース』として一本化します)。それぞれのグループの違いは、以下の通りです。
「アドバンスグループ(AG)」は、主に帰国子女など、入学時にすでに英検2級程度以上の英語力を持っている生徒のためのグループです。このグループでは、国語と社会の一部以外はすべて英語で授業を行っています。入試では、「インターAG回」という選抜回を設けています。12月の国際生入試で30名を募集し、2月に行われるインターAG回で10名を定員としています。
一方、「スタンダードグループ(SG)は、基礎から英語を学ぶグループです。ですから、基本的に一般入試を受験して入学してくる生徒を対象にしています。インターナショナルSG回という入試も行っていますが、12月に行われる帰国生対象の入試では募集人員は若干名(本科、医進・サイエンスと合わせて10名)、2月の入試で、本科と合わせて2回の入試があり、合計の定員は105名です。したがって、SGグループは、中学校に入ってはじめて英語を本格的に学ぶ生徒が主体のグループになります。
SGグループで行われる英語の授業は、週5時間は、日本人の教員からいわゆる文法的知識を学び、週2時間は、外国人の教員から、会話を中心とした英語を学びます。このほかに「TestPrep.」という、英検やTOEFL対策の授業も、外国人教員が担当しています。さらに、美術や技術・家庭といった科目は、AGグループと一緒に英語で学びますので、合計で英語に触れる時間は、週に10時間以上にのぼります。中学校の英語の一般的なカリキュラムに比べて、英語の授業時間数はかなり多いですね。
SGグループで英語力を上げる取り組みは?
AGグループは帰国子女中心で、通常のほとんどの授業を英語で行っています。そう聞くと、一般入試で選抜されるSGグループの生徒とはかなり英語力に差がついてしまうと思いますよね。やはり、中学校に入学した時点では、多くの授業を英語で受けるAGグループと、日本人の教員の授業で英語の文法を中心に学ぶSGグループの生徒とでは差があることはやむをえないことでしょう。
ですが、SGグループの生徒でも、日々の授業を受けることによって、まずは中学3年生までに、最低限、英検2級をとれるように指導がされているということです。同じクラスにAGグループの生徒がいますし、共通で受ける授業もありますから、その生徒たちに負けまいと頑張るモチベーションをもって授業に臨むことができるという環境があるということも、SGグループの生徒の英語力が伸びる秘訣なのかもしれません。
SGグループの生徒は、基本的には一般入試を通って入学してきていますので、国語・算数・理科・社会の4教科の基礎学力が高い生徒が多いという特徴があります。一方、AGグループの生徒は、海外生活が長い帰国子女が大半なので、英語は得意で、話すことや読み書きにも抵抗がないですが、帰国子女であるがために、「国語が苦手」という生徒も必然的に多くなります。
このようなバックグラウンドの違いがあるので、SGグループとAGグループの双方がそれぞれ強みと弱点を持っています。それをマイナスととらえるのではなく、プラスにとらえて、お互いに弱点を補い合うことによって、切磋琢磨する環境があるという、グループ分けによるメリットがあるようです。
グループを分けることによる相乗効果
英語力以外にも、グループを分けることによる相乗効果を期待する要因はほかにもあるようです。たとえば、一般的に日本人は、海外の人に比べて、シャイでよく考えてから発言する、恥をかきたくないといった性格が目につくため、広尾学園の生徒、特に一般入試で入学してくるSGグループの生徒さんにもそのようなシャイな生徒さんが多いようです。ですが、AGグループの生徒さんの中には、海外で生活してきたことによって、積極的に発言する性格が身についている生徒さんももいらっしゃいます。
その違いは、育ったバックグラウンドの違いによるところが大きいものです。そのような、文化や価値観の違う環境で育った生徒が一緒に学校生活を送ることによって、お互いに異なるバックグラウンドからくる人格によって、うまく刺激し合って良い影響をお互いに与え合うことができるというメリットがある、と学校側も考えているようです。
英語力によるグループ分けは行うものの、あえて完全な別クラスで交流しないということにはせずに、1つのクラスにSGグループ、AGグループの生徒を混在させているのも、そういった考え方からくるものだと思われます。さらに、修学旅行などの学校行事は、SGグループ、AGグループの生徒全員合同で行っているので、お互いに刺激を与えあう良いきっかけになっているようです。
インターナショナルクラスから海外大学への進学状況は?
高等学校からはインターナショナルクラスになるわけですが、このコースが出来てから10年あまりが経ちました。その卒業生の中には、UCLAなど、海外の有名大学に進学した生徒もいるということです。一方、海外の大学には進学せず、国内の大学に進学した生徒たちの多くは、いわゆるMARCH以上の難関大学に多く合格者を出しています。
特徴としては、早稲田大学の国際教養学部や、明治大学の国際日本学部など、国際系の大学・学部に進学している生徒が多いことが挙げられます。これは、広尾学園が行っているグローバル教育が生徒に与えた影響と言えるでしょう。
そして、国内の大学に進学した生徒の中には、海外の大学に高校卒業後すぐに進学するよりも、まずは日本の大学に入学してのちに、海外の大学に1年間留学したり、あるいは大学を卒業し、大学院から海外へ行くという目標を持っている生徒さんが多いということです。
日本で教育を受けた後に、海外の大学に進学するということには、保護者の理解と協力も大切です。お子さんが帰国子女だからといっても必ずしも海外の大学への進学を希望するわけではなく、国内の有名難関大学への進学を希望する親御さんも多いのが実際のところです。
そこで、広尾学園では、海外の大学への進路ガイダンスなどに保護者に参加してもらい、実際の大学進学について考えてもらう機会を作っているということです。学校側としては、グローバル教育に力を入れていることもあり、本人の希望があり、ご家族の理解がある場合は、できる限り海外の大学への進学にチャレンジしてほしいと考えているということです。
「本科クラス」におけるグローバル教育
インターナショナルクラスが注目を浴びる広尾学園ですが、インターナショナルクラスではない「本科クラス」が存在します。本科クラスでの英語の授業は、週に7時間行われています。そして、中3までに英検2級をとるように指導をしているということです。これはSGグループと同じレベルの英語力を身につけることを目指しているといえます。
ただし、ほとんどの生徒さんは海外経験がありませんので、中学3年生の段階で、短期留学などを利用して英語力を上げるチャレンジができるようなカリキュラムが用意されており、実際にそれを利用して海外経験にチャレンジしている生徒も多くいるということです。
このような短期留学の希望者は、だいたい1学年で150名ほどいるということですが、全員が行けるわけではなく、英語力などでセレクションをして、おおむね40名程度が中学3年生の夏休みに、約3週間かけオーストラリアに短期留学に行っています。
この短期留学では、ホームステイをしながら現地の学校に通うという形をとっているということです。ホームステイをし、現地の学校に通うため、日常生活でも学校生活でも、英語を使う体験を多くするように計画されており、結果的に生徒が生の異文化に触れる良い機会にもなっているということです。短期留学で英語圏の日常生活、学校生活に触れたことをきっかけに、英語を学ぶ意欲がさらに増し、急激に英語力を伸ばす生徒さんもいるということです。
高校から始まる医進・サイエンスコース
広尾学園では、2011年度から、「医進・サイエンスコース」という、医学部や、最先端の理工学部への進学を希望する生徒さんを対象としたコースを新設しました。医学部医学科の人気が高まっている中で、非常に注目を浴びているコースです。
医進・サイエンスコースでは、サイエンスラボ(理科実験室)を使った授業も多く行われており、課外でもグループごとの研究活動を行ったりしています。このような研究活動は、単なる身近な実験考察にとどまらず、大学や大学院で扱うようなかなり高いレベルのテーマを設定して研究を行っているということです。中には学会で大学生や大学院生、研究者に混じって発表を行った生徒さんもいらっしゃるそうです。
医進・サイエンスコースでは、「メディカル・サイエンス・セミナー」が行われています。ある年は、医進・サイエンスコースの生徒のうち、希望者30名程度が、アメリカの大学に17日間滞在して行われました。具体的には、最初にカリフォルニア大学デービス校で、大学の教員による指導を受けながら、生徒が自分たちの研究をブラッシュアップし、最終的にスタンフォード大学に行って研究成果の発表をしたということです。世界中でも最先端の研究機関で、学会を含めて、国際的な舞台で通じるプレゼンテーション力を養うことを目的として行われるプログラムです。
医進・サイエンスコースにおけるグローバル教育は?
広尾学園ではグローバル教育に力を入れていることは先ほども書きましたが、医進・サイエンスコースの生徒さんのうち、だいたい3分の1程度が医学部志望で、ほかの3分の2の生徒さんは、その他の理工系学部を志望しているということです。
サイエンスの分野も、ほかの国の研究チームと共同研究を行うなど、グローバル化が進んでいるので、理系の専門知識だけあればいいというものではなく、やはり高度な英語力も必要です。実際に広尾学園でも、中学校ではインターナショナルクラスに所属して、高校から医進・サイエンスコースに進み、英語力を生かしながら受験勉強にチャレンジする生徒さんが増えているということです。英語力に理系専門知識をプラスして、生徒さんがグローバルに活躍する選択肢を増やし、夢をかなえるための進路を指導しているようです。
広尾学園が考える「グローバルに活躍するための力」とは?
グローバル教育に力を入れ、さらに医進・サイエンスコースなど、専門的な進路を選択するコースを設けている広尾学園ですが、そのようなコース分けを行う広尾学園が考える、「グローバルに活躍するための力」とは何でしょうか。
学校側が考える「グローバルに活躍するための力」には2つあるということです。1つは、「問題解決能力」です。自ら問題を発見し、論理的に考え、答えを導き出す力です。これは、2020年の大学入試改革でも求められている重要な能力です。広尾学園では、すべての教科で、生徒が自ら考える、能動的な授業を行うようにカリキュラムを組んでいるということです。
従来多数派だった、教員が一方的に生徒に「教える」受動的な授業ではなく、生徒自身に考えさせ、問題を発見し、解決できるようになるためにはどのような授業をするのがよいのか、日々授業研究をしてるということです。
そして、もう1つの「力」は、「伝える力」です。グローバル社会では、自分が考えたことをほかの人にいかにわかるように伝えるか、ということがとても重要です。広尾学園では、プレゼンテーション能力の育成を重視しています。たとえば、文化祭では、必ず全生徒が1人15分程度のプレゼンテーションを行っています。生徒会が決めたテーマに沿って、生徒各自が自由に内容を決めてプレゼンテーションを行います。中でも、インターナショナルクラスの生徒はプレゼンテーションを英語で行うということです。
グローバル教育においては、語学力ももちろん大切ですが、ただ語学力があるだけでは足りません。グローバルに活躍する人材になるためには、まず自分の考えをまとめて、それを「ほかの人に理解できるように伝える」ということができるようになることが最も大切です。広尾学園では、語学力の育成以外にも、プレゼンテーションの練習や、能動的に生徒が授業に参加できるようにカリキュラムを組むことによって、そのような生徒さんを数多く育てていきたいと考えるということです。
まとめ
数年前、広尾学園を米国Google本社のシュミット会長が訪れ、講演をするという機会をもったそうです。医進・サイエンスコースの高校1年生・2年生が受講していたそうですが、講演後には直接英語で質疑応答をしていたということです。質疑応答できるだけの語学力、講演者の話をよく聞いて疑問に思うことを物おじせずに質問することができる力、そこに広尾学園が目指すグローバル教育の一環が表れているといえるのではないでしょうか。
世界で活躍している、レベルの高い人々の話を聞くことができ、直に触れ合うことができるということも、広尾学園で学ぶことの魅力の一つと言えるのではないでしょうか。共学化、グローバル化にかじを切った大改革から10年がたちますが、広尾学園はまだまだ新しい試みにチャレンジし、進化している途中なのだと感じます。
「グローバル教育」ということばだけにどうしても目が行ってしまいがちな志望校選びですが、実際にどのような教育が行われているのか、学校の生徒に対する接し方やカリキュラムの実現のしかたなど、中身についてはしっかり調べないと入学してから思った環境と違った・・・ということにもなりかねません。今回は広尾学園について、グローバル教育に対する取り組みをお伝えしました。
将来、わが子にグローバルに活躍してほしいとお考えの親御さんは、ぜひ学校に足を運んでいただき、実際の授業の様子や、生徒さんの学園生活の様子、質問したときの学校の先生の対応などを注意して話を聞いてきていただきたいと思います。遠慮することはありませんし、質問をしたからと言って入試で不利に扱われることはありません。
ぜひ、学校のいう「○○教育」の中身を良く調べて、志望校・受験校選びの参考にしていただきたいと思います。お子さんがどれだけグローバル教育に興味をもっているか、も考える材料に入れてみてください。少しでも興味をもっていらっしゃるようでしたら、さまざまな学校のグローバル教育を比較してみて、ご家族でよく話し合い、志望校としていただくと良いと思います。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。