小説問題読解〜いとうみく『朔と新』〜[中学受験国語過去問解説シリーズ]

今回は2021年度の栄光学園中学校の国語の過去問を一部修正して小説の問題の解き方を説明していきたいと思います。本文はPDF、もしくはいとうみく『朔と新』(講談社)を参照してください。 

問題

問一

傍線部①「さっきより少し和らいだ表情をしていた。」とありますが、それはなぜですか。 

  • 【解答】
    無事に電車に乗れた上に、座れたので、緊張がゆるんだから。

傍線部①の次の文に、 

 外を歩くときの朔は、口数も少なく、表情もかたい。隣を歩いていても緊張しているのがわかる。

とあります。緊張していた朔が「さっきより少し和らいだ表情をしていた。」理由がこの問題では問われています。それは傍線部①の前にある部分にヒントがあります。 

 最寄り駅から東京行きの快速に乗ると、梓は朔の腕を引いて座席に座った。
「空いててよかったね」

無事に電車に乗れた2人は座席に座れたことが分かり、それが理由になります。 

問二

傍線部②「ふーん、と曇った返事をする」とありますが、ここから梓のどのような気持ちが読み取れますか。 

  • 【解答】
    視力を失ってから初めて電車で外出する朔に、盲学校の関係者なら、最寄り駅まで迎えに来るなど気を遣ってほしいと不満を抱いている。

傍線部②の後の朔と梓の会話に注目しましょう。

「だったら、もう少し気を遣ってくれたっていいのに」
「気を遣う?」
「最寄り駅まで来てくれるとか」

梓は盲学校の人間だったら「気を遣」って「最寄り駅まで来てくれる」など配慮しても良いものだと考えていることが分かります。また「ふーん、と雲った返事」と言う表現や「梓の不満気な声」という表現から不満を抱いている様子なども推測できるといいでしょう。 

問三

傍線部③「梓は朔を見て、視線をさげた。」とありますが、それはなぜですか。最も適当なものを次の中から選び、記号で答えなさい。 

  • ア、自分が朔のことを、手助けしてあげなければならない対象として見ていたことに気がついて、気まずくなったから。
  • イ、盲学校のボランティアであるならば障がい者を深く理解すべきだと決めつけていたことを、恥ずかしく思ったから。
  • ウ、久しぶりの二人きりの外出であるのに、自分がもちかけた話題で暗い雰囲気になってしまったと、後悔したから。
  • エ、ボランティアの境野の方が自分よりも良き理解者であると朔が考えていることが分かり、がっかりしているから。
  • オ、自分が朔のことを思って発言した意見に対して、批判的なことを言ってくるので、じわじわと憎しみを感じたから。
  • 【解答】ア 

傍線部③の前の朔の発言をみてみましょう。

「アズは、俺が視覚障がい者だから、境野さんは気を遣うべきだって思ってるんじゃない?」

この発言をうけて「梓は朔を見て、視線をさげた。」となります。視線を下げた⇨気まずさや気恥ずかしさを感じていると推測できます。

それは梓が無意識に朔が身体障がい者であるから気を遣うべき手助けすべきだと考えていたことに対してだと考えられます。 

以上を踏まえて選択肢をみていきましょう。 

  • イ、盲学校のボランティアであるならば障がい者を深く理解すべきだと決めつけていたことを、恥ずかしく思ったから。理解すべきではなく、理解しているはずだから気を遣うべきだと考えています。
  • ウ、久しぶりの二人きりの外出であるのに、自分がもちかけた話題で暗い雰囲気になってしまったと、後悔したから。話題が暗くなってしまったことに対する後悔は描かれていません。
  • エ、ボランティアの境野の方が自分よりも良き理解者であると朔が考えていることが分かり、がっかりしているから。⇨良き理解者であると朔が考えている記述はなく、梓自身の考え方に対し気恥ずかしさを感じているのであてはまりません。
  • オ、自分が朔のことを思って発言した意見に対して、批判的なことを言ってくるので、じわじわと憎しみを感じたから。憎しみを感じたという記述はなく、あてはまりません。 

問四

傍線部④「滝本君!」と声をかけられたことで、朔は境野の存在に気づきます。この後の文中に、境野が視覚障がい者一般に対して必要な配慮を示している箇所があります。そのふるまいが描かれた一文を抜き出し、最初の五文字を答えなさい。(字数には句読点等もふくみます。) 

  • 【解答】境野は珈琲 

視覚障がい者はどこに何があるのか、どのような景色なのかを目で見て確認することができません。代わりに確認するには触れるか、言葉で説明してもらわないといけません。珈琲店に入った朔に対し、境野は

「水の入ったグラスは正面、その左におしぼりを置くよ」

と言っています。目で確認できない朔に対し、言葉で何があるのか説明したのです。境野が言葉で説明し、実際にそこに置くことで朔は触れて確認することができるのです。 

よって言葉で何があるのか説明すること=視覚障がい者一般に対して必要な配慮を示していると考えられ、最初の五字は「境野は珈琲」となります。 

問五

傍線部⑤「じゃあ、これも食べてみる?」とありますが、「じゃあ」の部分を、その内容がはっきりするように、分かりやすく言いかえなさい。 

  • 【解答】
    目が見えていたときに絶対していなかったことをしたいなら

傍線部⑤の前の朔の発言に注目してみましょう。

「いままでのオレとは違うことをしてみたいんだ。どうせ始めるなら、見えていたときのオレなら絶対にしていなかったことをしたい」

今までの自分だったらしなかったマラソンに挑戦したいという朔の発言。その発言を受け、梓は「じゃあ、これも食べてみる?」と言います。そう言って生クリームをすくったスプーンを朔の顔に近づけます。スプーンを近づけられた朔が苦笑して断ったことから朔は生クリームや甘いものが得意ではないことが分かります。 

得意ではない甘いものを梓がすすめたのは今までとは違うことをしてみたいという朔に対する悪戯心だと推測できます。

まとめ

今回の問題は比較的傍線部の前後に答えのヒントとなる場面が描かれていることが多く、その多くは会話文がキーとなっていました。それぞれ誰のどのような発言を受け思ったことか、言ったことか把握することが大事です。

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