最近の中学入試の理科では、実験・観察問題が頻出です。それにともない、実験器具の使い方に関する問題が非常に増えています。小学校でも理科の実験を行いますから、積極的に参加して実験器具の使い方を学んでいれば、それほど難しいことではありません。しかし、グループでやるということもあり、自分自身の手で、目で、実験器具の使い方を一から確認するという経験は意外と積んでいないのが現状です。
ですが、実験・観察問題を解くにあたっては、実験器具の使い方を正確に理解しているかどうかが分かれ目になることもあります。また、見たことのないような実験器具(でも、じつは知っている実験器具を少し変えたもの)について考えさせる問題も増えています。
今回は、実験器具の使い方について、苦手意識を持ってしまうポイントと、克服する勉強法について書いていきます。
実験・観察問題が苦手になるのはなぜ?
実験器具に関する問題は、普段から理科に対する関心が高く、小学校でも実験や観察の授業に主体的に取り組んできたお子さんには易しく感じると思います。そのようなお子さんは、実験・観察問題が出てきても落ち着いて取り組むことができます。しかし、学校での実験に消極的だったり、観察をいい加減にしてきたお子さんにとっては、かなりハードルが高くなります。
塾や学校で習う実験・観察は結果がわかっている基本的なものがほとんどです。未知の実験ではありません。中学入試の実験・観察問題のベースもそこにあります。ですが、実験の結果だけを覚えるだけは不十分で、「なぜそのような結果になるのか」「何を知るためにこの実験をしたのか」「なぜその器具が必要になったのか」などを理解することが求められます。つまり、科学的思考力や探求心が問われます。実験器具に関する問題はそこをついてくるのです。
ダメな勉強法ーただの丸暗記では対応できない
実験器具の使い方には、取り付け方や使い方に一定の「順番」がありますが、それをただ呪文のように唱えているだけでは、実際の問題で「使いこなす」ことはできません。また、実験器具や器具の部位の「名前」についても、ただそれを覚えるだけでは足りません。実験器具には「必要だから」その部位があるのであり、どのような実験に使うのかについても、「その器具が使いやすいから」使われるのです。すべてに意味があることを忘れてはいけません。
どのように勉強するか
実験器具の取り付け方や使い方の「順番」が定められているのは、先ほども書いたように、「理由」があるからです。ただ実験器具の使い方や名前を丸暗記するのではなく、その「理由」を理解するようにしましょう。単なる順序の記憶では足りないのです。実験器具の部位の「名前」を覚えるときは、それが何のための部品なのか、その「目的」も併せて覚えるようにしましょう。
入試では、学校に合った実験器具とは多少異なったイラストや写真が使用されることもありますが、このように「理由」や「目的」をきちんと理解していれば、戸惑うことはありません。
本来は、この「順番」や「名前」は、机の上で学ぶだけでなく、実践で覚えていくものです。ですから、実験・観察には、いまからでも遅くありませんから、ぜひ積極的に参加しましょう。
例題
これは、横浜共立学園中学の2016年度の入試問題です。①②の操作を行うときに必要な器具を選ぶというものです。
①は、海水に混ざっている砂を取り除くのに必要な器具を選ぶ問題ですが、海水に混ざっている砂は水に溶けるものではないですから、「ろ過」することで取り除くことができますね。ろ過で使うものは何でしょうか?ろうと、ろ紙、ろうと台、ガラス棒、ビーカーです。ですから、答えは、ウ、ク、ケ、サとなるわけです。
それぞれの実験器具について、使い方や、なぜそれを使うのかについて簡単にまとめてみましょう。
これは「ろうと」です。液体を口の細い容器に入れたり、ろ過したりする際に用いる器具です。
「ろ紙」は、ろうとの上に置く紙です。4つ折りにしてろうとの上に置き、水を垂らしてろうとと密着させておきます。
これは「ろうと台」です。ろうとを固定するために使います。ろうとだけではぐらぐらしてしまいますから、台が必要なことは理由を考えればわかりますね。
ただの棒に見えますが、「ガラス棒」です。4つ折りにしたろ紙の3重になった部分にガラス棒を当てます。ろ紙の丈夫な部分に液体を当てるようにするわけです。液体はガラス棒に添わせるようにして、ろうとに注ぎます。そうすることで、跳ねることなく静かに注ぐことができるわけです。ただの棒に見えても、「実験器具」として考えれば、必ずそれが必要になる「理由」があります。
これは「ビーカー」です。誰でも一度は見たことがありますね。ろうとの足は斜めに切れていることに気づきましたか?とがったほうをビーカーの端につけるようにすると、ろうとから流れた液体が、足のとがったところをつたって、静かにビーカーに流れていきます。
②の問題は、砂を取り除いた後の海水にとけている塩分を取り出すのに必要な器具を選びます。海水に溶けている塩分は、水分を蒸発させると取り出すことができますね。蒸発皿、三脚、アルコールランプ、金網が必要だということがわかると思います。
これは「蒸発皿」です。液体を蒸発させて、何が残るかを調べるときに使います。
これは「三脚」です。この中にアルコールランプを設置し、上に金網と蒸発皿を置きます。
これは皆さんごぞんじの「アルコールランプ」です。アルコールを燃料としたランプで、今回のように水分を蒸発させたりするときによく使います。
一瞬何だろう?と思うかもしれませんが、これは「金網」です。蒸発皿を直接火にかけるととけたり割れたり、破損する恐れがあるので、金網の上に蒸発皿を置くようにするのです。
まとめ
いくつもの実験器具を並べられると混乱してしまうこともあるかもしれませんが、一つ一つ見てみると、すべて学校の理科実験室で見たことがあると思います。また、テキストにも載っていますね。実験・観察問題は怖いものではありません。一つ一つの実験や観察が、「何のために」行われているのか、そのためには「どのような実験器具が必要なのか」、という基本を知っていることを前提にしています。実験器具については、名前や使い方などをしっかり覚えなければなりませんが、それも丸暗記するのではなく、「なぜこの実験にはこれが必要なのか」という「理由」を確認しながら覚えていけば、器具の名前や部位、使い方の順序もしっかり理解することができます。それができれば、実験のイメージをつかむことができますから、問題を解くのもそれほど困難ではないのです。ぜひ、実験・観察問題をしっかり解くためにも、実験器具に対する意識をしっかり持って、基本を早めに整理しておきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。