皆さんは、中学受験における社会という教科の勉強をどのように進めていっていらっしゃいますか?「社会は暗記科目だから直前にまとめて覚えればよい」「今はやっている時間がないから後回し」といったご意見を受けることがあります。しかし、その考え方だと、夏期講習や秋からの志望校対策において非常にまずい状態に置かれてしまうことになるでしょう。そのころには、受験定番問題などの問題演習が学習の中心となりますが、社会は多くの方が暗記科目だと思っておられる通り「知らなければ何もできない」教科とも言えます。つまり、知識を体系的に正確に理解できていなければ、いざ問題演習中心となったときに全く太刀打ちできない教科、それが社会なのです。
中学受験の社会は、大きく分けると地理、歴史、公民の3つのカテゴリに分類されます、各学年によって最重要ポイントは変わってきます。現在6年生の受験生の方は、カリキュラムとしては公民を学習しているか、あるいは塾によっては5年生の間に大体の単元は終えているということが多いでしょう。では、4年生のときに学んだ地理の内容はしっかり理解できていますか?今、地理の演習問題を出題されたときに問題なく答えることができるでしょうか。
受験に必要な知識は、繰り返していないとすぐに忘れてしまいます。また、語句は覚えていたとしても使い方をマスターしていなければ、必要なときに使いこなすことができず結局不正解となってしまいます。「社会は暗記だから何とかなる」という気持ちで学習していては、いくらほかの教科を頑張って学習していても、一段下に見ていた社会の知識問題で足をすくわれることになりかねません。算数なら計算問題、国語でいうなら漢字やことばといった基礎中の基礎、それが社会の知識なのです。
社会は各分野ごとに効率的な学習法や受験生の方が苦手とするところが異なります。今回は、忘れてしまっているかもしれない地理の分野について、学習法と苦手意識を克服するための方法について考えていきましょう。
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忘れ去られてしまっている地理の知識
受験生の皆さんは、4年生から5年生の前半にかけて地理を学習してこられたでしょう。最初に地図の見方や地図記号などといった、これからの学習に必要な知識を覚えたうえで、まず全国のざっくりとした地理の知識を学習し、その後に地方ごとの地理的特徴を学習したことを覚えていらっしゃるでしょうか。
社会は学習範囲が広いため、毎回の単元ごとに学習する内容が異なります。そして、それが繰り返されることは講習会などのわずかな時期にとどまるため、一度覚えたはずの知識はどんどん次の知識に上塗りされてしまい、最初のころに学んだ知識は忘れてしまっている、そのような状況に陥ってしまう受験生は非常に多いのです。皆さんはいかがでしょうか。
5年生の後半から歴史、現在は公民と新しい知識を常に学習していかなければならない状況では、前に学んだ地理の知識は忘れ去られている可能性が高いです。お通いの塾によっては、定期的に思い出させるように地理の小テストを挟んでくれることもありますが、たいていは宿題として「地理のテキストの第○回を復習するように」という漠然とした指示がでるだけ、ということが多いです。
そのような漠然とした宿題では、その週に学習した4教科の宿題を優先するため、時間切れになってしまい、結局手が付けられずに放置されたまま、ということになりがちです。一握りの最上位生の場合、そこまで手を広げて学習することっも可能かもしれませんが、通常はそうはいきません。なんといっても時間的な余裕がないからです。
ですが、小学校が休校中の今の時期だからこそ、いままで積み残してきた「以前学んだはずの知識」を正確に、体系立てて再度学習するチャンスが訪れているのです。この時期に、少しでも忘れ去られてしまった地理の知識を思い出し、問題演習や模試で使いこなすことができるように振り返りを始めることは非常に重要です。
知識は単体で覚えようとしても覚えられない
社会だけでなく、知識問題は1つ1つ頭から覚えていけば何とかなる、と思っていませんか?この時期、サピックスであればコアプラス、四谷大塚屋早稲田アカデミーではサブノートや演習問題集などで知識の整理をおこなってくださいという指示が出ているのではないでしょうか。
しかし、それらは単元ごとの知識を羅列しているので、1つ答えられたら満足してしまうという受験生が非常に多いのです。それでは、ピンポイントでその1つの知識を問う1問1答の問題でもない限り正解できないでしょう。また、近年の社会の中学入試問題では、そのような1問1答の問題はまず出題されません。長いリード文を読み、設問に答えていく中で単体の知識を聞かれることはあっても、そのような問題ばかりではないことは過去問を見ても明らかですし、模試でもそのような問題はまず出ないですよね。
1つ1つの単体の知識を、知識を覚える用のテキストを使って丸覚えしようとすると、そのテキストと同じ聞かれ方をすれば答えられるでしょうが、聞き方を変えられたら一発で答えられなくなることが非常に多いのですが、それは知識を正確に理解せず、設問と1対1対応で単に丸覚えしているだけだからです。それをいくら繰り返していても、いつまでたっても成績を上げることはできません。つまり、知識単体でいくら覚えても点数には結びつかないのです。では、それを克服するためにはどうしたらよいのでしょうか。
知識は知識どうしのつながりを意識して覚えると忘れにくい
地理の学習のうえで、もちろん全国に関する地理関係や日本の気候の特徴、日本の産業についての知識は非常に重要ですから、しっかり覚えなければなりません。
ただし、地理の学習のキモは、「地方ごとの地理的特徴」をまずしっかりと覚えことにあります。なぜなら、全国的な特徴をつかむうえでも、各地方ごとの特徴を理解していなければ、全体を理解することはできないからです。
社会のテキストでも、まず全体像を学習したあとは本格的に地方別の学習が始まりますよね。そして、それがかなりのウエイトを占めます。地方ごとの農業の特徴や工業の特徴、また地理的な特徴による気候の違いを理解してはじめて、日本全国の地理的特徴の全体像を正確に理解することができるようになるのです。
知識と知識の関係の意識のしかた
今後の社会の学習においては、先ほども説明したように、ただピンポイントの知識を覚えるだけではなく、知識と知識の繋がりを含めて考えられるようになることが重要ですし、それが問題演習においても大いに役立ちます。
たとえば、香川県がある讃岐平野は、降水量が少ないという特徴がありますね。そのため、乾燥に強い小麦の栽培が盛んです。香川で栽培が盛んな小麦から作られるうどんは「讃岐うどん」として。全国的ブランドとして有名ですよね。また、讃岐平野では、かつては水不足に悩まされていたため、「ため池」という、他の地域では見られない水対策もされていました。単に「讃岐平野」という1つの用語を考えても、これだけの知識と関係性があることがわかりますね。
ここで、もし断片的に「香川県は降水量が少ない」「ため池がある」というように知識を「点」だけでとらえるだけの覚え方をしてしまうと、ピンポイントで覚えている知識以外を問われたときに答えることができなくなりますし、少し聞き方を変えられただけでもうこたえられなくなってしまいます。知識問題は、1つの知識からどこまで関連付けて理解できているかを試す問題でもあるのです。
また、ピンポイントで単体の知識を覚える学習法では、今後さらに膨大になっていく知識を詰め込んでいった際に、大きく頭の中が混乱してしまいます。知識量が多いだけに、その知識が整理され、正しいものでないと太刀打ちできなくなるのです。
混乱しないための知識関連付けの方法
そこで、次の三本の柱に分けて、知識を身に着けていくことをオススメします。
- なぜこのような地理的特徴があるのか
- 地理的特徴の説明
- 具体的な地名や産業
知識をこのように分類して覚えていくだけで、格段に理解し、正確に覚えられるようになります。つまり、段階的に知識を覚え、それを関連付けしていけば忘れないだけでなく正確な知識が手に入るのです。
さきほどの讃岐平野の例で考えてみると、まず「降水量が少ない」という特徴があります。それはなぜなのかというと、中国山地によって、日本海から吹いてくる南西方向の湿った季節風がさえぎられることと、四国山地によって太平洋から吹いてくる北東方向の湿った季節風がさえぎられるため、雨雲ができにくいからですね。「なぜ」このような地理的な特徴があるのか、ということを原因から考えていくと、山地の名前や風の名前、方向、雨雲、といった知識がいもづる式に必要であることがわかります。
このように、地理的特徴をメカニズムも含めて覚えると、どの部分を切り取って出題されても解答することができますし、覚えるときにもスムーズです。歴史については次回解説しますが、地理に限らず、歴史においても、このような「流れ全体を記憶していくこと」は非常に重要になってきます。本格的に模試を受けたり入試問題の過去問に着手する前に、このよう「段階を追って知識を理解する」「流れ全体を記憶する」といった学習法を定着させられると、非常にスムーズに移行することができるのでオススメです。
地図帳学習はとても重要
地理の学習をするときに、必ず手元に地図帳を開いていますか?地図帳を開かずにただ知識をまとめたテキストだけながめて知識を単に目に焼き付けているだけ、という学習をしていませんか?これは実は、非常に多くの受験生が陥りがちな落とし穴なのです。
地理という分野は、日本全国あるいは周辺諸国も含めた位置関係が非常に重要です。地方ごとの学習を進めるときも、全国でのその地方の位置を常に意識し、重要な都市がどこにあるのか確認しながらでなければ、知識を定着させることはできません。地図帳には、地方だけでなく日本全国の情報がすべて詰まっています。中には降水量などの気候の特徴など、必要な知識も入っています。
地理の知識を理解するために、地図帳は欠かせません。地方別の学習をする際には、地図帳の該当する地方のページを開き、どのような地理的特徴があるのか、それはなぜなのか、山地や盆地、大きな川がどこにあるのか、だから地理的特徴が生まれるのか、代表的な都市はどこか、県庁所在地はその県の東西南北どのあたりにあるのか、代表的な産業は何か,それはなぜか、といったことをどんどん連想していくっことが重要です。
地理の入試問題で求められているのは、1つの知識からどれだけ考えを展開させていくことができるか、という点です。これはピンポイントの知識暗記では対応できません。今後の模試も難度が上がり、同じように1つの知識から派生した知識を関連付けて聞いてくる問題が増えます。
白地図を利用して自分で地図学習をするのも有効
地図帳を使った学習の重要性についてはお判りいただけたかと思いますが、地図帳も単にながめて閉じてしまってはなかなか理解することはできません。そこでオススメしたいのが「白地図学習」です。市販の白地図長を用いて、その中にたとえば山脈や盆地、川などの自然だけを書き込んでみる、地方のどこがどの産業が有名なのか、工業地帯や工業地域を書き込んでみてそれぞれの特徴をまとめてみる、新幹線がどこを通っているのか、どの地点で分岐しているのか、今はどこまで延伸しているのか都市名を書き込む、などさまざまな使い方ができます。
つまり、目で見て覚えた知識を白地図に書き出して「手でも覚える」のです。目で見て手を動かすのは受験勉強の基本です。地理も例外ではありませんし、白地図をノート代わりにして本当に知識を理解しているかどうか書き込んでみて確認するのです。そうすれば、自分だけの暗記ノートが出来上がります。
社会の問題を解くときには1問ごとの頭の切り替えがとても大切
これまでの模試を振り返ってみていただきたいのですが、単なる1問1答の問題はあまりないですよね。大問では、地図や表が示され、それに対してさまざまな角度から知識が問われます。たとえば、「新幹線問題」をご存知でしょうか。地図の中に新幹線の路線が書かれているなど、出題方法はさまざまですが、日本にはいろんな種類の新幹線が走っていることを前提として、どこを走っている新幹線なのか、発着点と終着点、分岐点、新幹線が通る都市に関する問題を地名だけでなく地理的特徴をふまえて通る川の名前を答えさせたり、盛んな産業とその特徴について答えさせたりとバラエティー豊かにさまざまな知識を聞いてくるのです。
そして、社会では設問の数もとても多いのが特徴です。地理の問題ひとつとっても、1つの知識から次の知識、さらに次の知識、と1問ごとに問われる内容が異なります。設問を読み進みながら、1問1問頭を切り替えていくことが非常に大切なのです。もちろん、前の設問の答えが後の設問の答えに関係するなどということもありますが、そこにおいても頭の切り替えは必要です。
単なる知識問題だと考えて1問1答をつぶすことにこだわると、こういった大問に対応することは難しくなります。ですが、入試問題の傾向はこのような頭の切り替えを、分野ごとだけでなく1つの大問の中で求めてきます。たとえば、海城中学校の社会は1つの大問についてさまざまな角度から地理、歴史、公民などの国際関係などを次々聞いてきますし、記述の量も多いです。そのような問題に対応することができるようになるためには、単なる知識問題ととらえるのではなく、知識と知識のつながりとともに、1問ごとの頭の切り替えができるようになることが必須です。ぜひ、この視点を忘れずに学習を進めてください。
学校の教科書もおろそかにしない
地理の学習では、地図帳学習が非常に重要だということをご説明しましたが、それと合わせて重視したいのが学校の社会の教科書の地理部分です。学校の教科書には表やグラフはもちろん、カラー写真を用いた資料なども充実しています。文字だけの知識ではイメージしきれないところを、図表を交えてわかりやすく説明してくれているので、これを利用しない手はありません。
今の時期だからこそ、教科書の内容も今一度しっかり振り返ってください。教科書に書かれていることは、中学入試で求められる最低限の知識となるものです。たとえば、男子最難関校の筑波大学附属駒場中学校では、教科書の図表の下に小さく書かれている説明についての知識を問うなど、教科書を隅々まで理解しているかどうかを確認する問題が出題されます。たかが教科書、と思われるかもしれませんが、されど教科書です。中学受験の基礎中の基礎であるということを忘れないでください。
苦手分野や忘れていた内容をピックアップしてつぶしていく
社会の知識は、毎週毎週の確認テストなどでしっかり定着させていけるのが理想ですが、やはり苦手な分野、弱点となっている分野については一週間で完璧に定着させていくのは難しいことです。しかし、毎週のように新しい知識は増えていきます。一度ここで立ち止まって、自分がどこを苦手としているのか、弱点となっている分野を発見し、どのような形式の問題や設問で点数がとれないのかといったことをしっかり把握しておくことが重要です。夏期講習では、前半部分は一学期の学習の復習に充てられることが多いので、少なくともそれまでに自分の苦手分野を把握しておく必要があります。
今だからこそ立ち止まって弱点分野の克服を
毎週どんどん進んでいくんだから立ち止まることはできない、と思われるかもしれませんが、学校が休校中の今だからこそ、自宅学習時間がしっかりとれます。その間にまずは一度、これまでに学習した中で弱点となっているところをしっかり洗い出しましょう。
弱点ノートを作っておく
これまでの小テストや模試で間違えた問題の中で、自分の知識が足りなかったものや、苦手とする出題のしかたをしている問題をピックアップしてノートを作っておくとよいでしょう。ノートの作り方は簡単です。間違えた問題をコピーやプリントアウトするなどして、ノートの見開きの左ページに貼るだけです。その右側を使って、まずもう一度解いてみましょう。そこで解ければよいですが、やはり間違えたものですから、一度ですぐに正解するということはなかなか難しいかもしれません。その場合は、問われている知識について、簡単にノートの右側にまとめておきましょう。それが知識と知識のつながりを意識するきっかけともなるのでオススメです。
そのノートを作っておくと、今後模試などの際に弱点補強のためにノートを見直せば、同じ問題でまた間違えるということが激減しますよ。ぜひやってみてください。ノートを作るのは少し時間がかかるので、保護者の方が最初の問題を貼るところまではぜひやってあげると時間の節約になります。
いますべてできなくても大丈夫!
問題集を解く際も、今の時点では焦って応用的な記述問題を完璧にできている必要はありません。そもそも、記述問題なども、解答方式が違うだけで、選択問題で問われるような知識を自分自身で整理し、文章にまとめていくという形式なだけです。まずは、だれでも答えてくるであろう基本的な知識を問う選択問題で引っ掛かることのないように、知識があいまいな部分を作らないようにしっかりと潰していきましょう。
苦手なところは、放置すればするほど苦手意識が強くなり、どうしても敬遠してしまうので手をつけずに放置し、そのうち忘れてしまうため、早いうちに対策しておくことが必要です。特に、社会に関しては、入試直前の詰め込み学習にはほぼ時間が割けないので不可能に等しいと考えておきましょう。
今まで学習した内容は今のうちに理解を進め、正確に覚えられるように、こまめに復習していくように心がけましょう。そのためにも、休校中の今は大きなチャンスです。応用的な問題は、6年生の夏以降に数をこなしていくことになります。その前提として。必要な基礎知識は、今のうちに自宅学習で定着を図ることをオススメします。
まとめ
今後、中学受験の勉強を進めていくうえで重要なのは、「自分のための勉強」をしていくことです。苦手分野や弱点は、受験生一人ひとり違いますよね。小学校が休校中の今だからこそ、他の人と比べることなく、自分の苦手分野や弱点分野を振り返り、克服していきましょう。
塾での通常授業では、集団全体のスピードに合わせて、生徒一人ひとりの状態に気を配ることなく授業が進んでいきます。特に、社会は1時間足らずの授業時間の中で、ひたすら新しい知識を詰め込む授業になってしまい、問題演習は宿題という形で受験生にゆだねられます。そして、この短い授業時間でその回の必要知識を全て定着させるのはまず不可能です。だからこそ、自宅でいかに復習し、定着させられるかが周囲と差をつけるポイントになってきます。
今までに学習してきた内容について、全体を見返すチャンスが今の小学校休校期間中です。受検学年はこの先、なかなか知識問題だけに時間を割く余裕はありません。だからこそ、この時期にこれまで学習したことをしっかり身につけるよう学習を進めましょう。いくら問題演習を重ねたくても、前提となる知識があいまいでは時間ばかりかかって結局不正解となってしまいます。暗記科目、ととらえられている社会だからこそ、正確な知識の理解が無くては、問題は解けないのです。なぜなら社会は「知らないと解けない」教科だからです。
今の時期だからこそ、基礎中の基礎に立ち返り、目と手をフルに使って、自分自身の現状に向き合った学習を進めていきましょう。これができると、今後の問題演習や模試、入試過去問の学習の際に非常に楽になります。焦らず、自宅学習を進めることが今後の自信にもつながります。ぜひ、自分のための学習を意識して、苦手意識のある所や弱点を克服していきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。