中学受験の理科の生物は、範囲が非常に広いです。植物や動物についての知識だけでも多いですが、なかでも受験生が苦手意識を持ちやすい単元が「人体」です。特に「消化」のところは、覚えなければいけない栄養素や消化酵素などの種類が多くて混乱しやすく、弱点となりやすいところです。
ただし、学年が進むと、「知っている」ことを前提に問題演習がおこなわれます。ですが、人体については苦手意識を持つ受験生が多く、そもそも人体の問題が出てくると拒否反応を示すことも少なくありません。
そういった傾向を見越してか、難関校をはじめとして多くの中学校が入試で人体、しかも消化のところを出題する傾向があります。ですから、苦手だからといって放置するわけにはいきません。
私たちは毎日ご飯を食べ、消化していますよね。身近な存在であるはずの消化のところですが、いくら自分の体の中で毎日起こっていることといっても、一つひとつの仕組みや要素について覚えられているとは限らないのが消化の難しところです。
覚えることが多い単元ですが、実体験と重ねて考えると、理解が進み、知識が定着しやすくなります。今回は、消化と吸収について、必ず押さえておきたいポイントをまとめます。ぜひ克服の材料にしてください。
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三大栄養素、覚えていますか?
私たち人間は、生きていくために栄養を取らなければなりません。なかでも、三大栄養素は多く摂取しないと強い体をつくることが出来ません。では、受験生の皆さんは「三大栄養素」と言われてすぐに答えることができるでしょうか?三大栄養素とは、「デンプン(炭水化物)」「タンパク質」「脂肪」です。どういった食べ物に多く含まれるのかが理解できると、これらの栄養素がどのように体内で使われているのかが理解しやすくなります。一つひとつ見ていきましょう。
デンプン は糖になる
デンプンは、米やパンといった、いわゆる「主食」に多く含まれています。受験生の皆さんも毎日何かしら主食としてデンプンを摂取しているはずです。ではこのデンプンは、口に入るとどのように変化していくのでしょうか?
デンプンは体内に入ると、分解されます。この分解の仕組みが「消化」です。デンプンは消化されると、「糖(砂糖など)」になります。デンプンがなぜ大切かというと、生きていくためのエネルギーになるからです。人間だけでなく、地球上のほとんどの生物は、デンプンをとって体内で消化し、糖にします。そして、その糖を燃やして、生きていくためのエネルギー、パワーのもとになるのです。疲れたときに糖を採ると頭がはっきりしませんか?デンプンは糖をつくり、人間が動き、生活するためのパワーを作ってくれる大切な栄養素です。
タンパク質 はアミノ酸になる
タンパク質は、肉や大豆などに多く含まれています。ステーキや焼き魚、豆腐や納豆などを思い浮かべると良いでしょう。結構がっつりした食べ物のように思えるかもしれませんが、実はそういった食べ物に含まれるタンパク質は分解(消化)されると、「アミノ酸」という小さい単位になります。アミノ酸は、体をつくるために欠かせない存在です。
私たちの体の多くの部分は筋肉をはじめとした「肉」でできていますよね。この「肉」がタンパク質でできている、ということが理解できれば三大栄養素として重要だということがわかるでしょう。
体の肉を作るのがタンパク質なので、体を大きくしたり、弱ってしまった部分を治したりするためには、やはりタンパク質が必要になるのです。タンパク質をつくるためには、食べ物に含まれるタンパク質を分解してできる「アミノ酸」が必要です。最近、自動販売機で売られている飲み物に「アミノ酸」という表示が多く使われていると思いませんか?主にスポーツドリンクなどに含まれていることが多いですが、運動後に疲れた体を治したり、体をつくるためにアミノ酸が欠かせないことがわかりますね。
脂肪 は「脂肪酸」「モノグリセリド」になる
三大栄養素の3つめは、「脂肪」です。脂肪というと、太る原因、と思われたりして敬遠されがちですが、実はとても大切な働きをしています。
脂肪は、「油」の仲間です。イメージが付きやすいのは、揚げ物や炒め物などに使われている食用油や、脂身の多い肉の周りの脂肪に多く含まれています。脂肪は、分解(消化)されると、「脂肪酸」と「モノグリセリド」の2つの物質に変化します。体内で、栄養分として貯めておき、必要なときに使われます。
たとえば、雪山で遭難した時には、皮下脂肪が多い方が生き延びやすい、と聞いたことはありませんか?それは、対内に脂肪が蓄積されているので、その脂肪が寒さから身を守るバリアの役割を果たしてくれるのです。また、なかなか食事がとれないときなどにも、燃料として体内に貯めておけるので、そこから燃料として働く脂肪を使うのです。
人間を守るバリアとして脂肪は非常に重要なものですが、あまりたくさんとりすぎると、ついてほしくないところに脂肪がついてしまいます。それはずばり「お腹」です。脂肪は、寒さに対するバリアになってくれましたよね。お腹は特に寒さに弱いので、とりすぎた脂肪はお腹を守ろうとしてついてくれてしまうのです。だからこそ、脂肪は悪者にされやすいのですが、適度な脂肪は体のバリアとして非常に重要です。
消化の仕組みを押さえておこう
三大栄養素は、体の中に入ると分解されますよね。その仕組みが「消化」です。体に入った大きな物質を小さくして栄養素にするわけですが、では消化の仕組みについて、どのような流れで行われているのかをしっかり理解できているでしょうか。ここを押さえることができると、人体や消化について苦手意識を持つことも亡くなります。
消化(分解)の大まかな流れ
食べ物は、口から体内に入ます。そして、口 → 食道 → 胃 →(十二指腸)→ 小腸→ 大腸へと通っていき、不要なものはこう門から体外に排出されます。この一連の流れのなかで、食べ物に含まれている三大栄養素は、主に「口」「胃」「小腸」の3か所でひとつずつ分解されていきます。厳密に言うと、もう少し複雑な過程を踏んで少しずつ消化されていくのですが、中学受験ではそこまでの知識は必要ありません。まずは、消化(分解)の大まかなイメージを理解することが先決です。では、口・胃・小腸の3か所では、どのように分解されていくのか見ていきましょう。
口では、だ液(つば)によって、デンプンは「糖」に分解されます。たとえば、お米を口のなかでしっかりかみ続けていくとだんだん甘くなっていきますよね。これは、デンプンであるお米が口の中で「糖」に分解されているからです。
胃では、タンパク質が胃液によって分解されます。分厚いステーキを食べたときに胃が痛くなることはありませんか?肉を食べすぎると胃が痛くなるのは、胃でタンパク質(ステーキ)が十分に消化しきれなくなったからです。私たちの体の大部分は「肉」でできていることは説明しましたが、胃の表面はしっかりとした胃の膜でおおわれているので、胃が消化する際に出る胃酸で溶かされてしまうようなことはありません。
小腸では、すい臓で作られる「すい液」を使って脂肪酸が分解されます。しかし、脂肪は油でできているので、そのままの形では、水を多く含んでいる「すい液」と混ざりにくいのです。そのため、必要な準備がおこなわれます。その準備とは、脂肪が小腸に到達する前に、十二指腸の段階で「たん液」(油と水を混ざりやすくする液体)と混ざる仕組みを利用することによって、脂肪がすい液と混ざりやすくなるので、小腸でより効率的に消化ができる仕組みになっています。
小腸では「栄養分」、大腸では「水分」が吸収される
三大栄養素が分解(消化)されると、それぞれ「糖」「アミノ酸」「脂肪酸とモノグリセリド」に変化します。分解してできたこれらの栄養分は、小腸で吸収されて、血管などを通って全身に運ばれていきます。小腸は栄養分を吸収するとても大切な臓器なのです。
小腸では、栄養分をより吸収しやすくするためにつくりにも特徴があります。それは、長く、複雑な作りになっているという特徴です。人間で言うと、小腸の長さは約6~7メートルのあります。平均身長の何倍にもなりますね。小腸を切って広げたときの面積は約200平方メートルにもなり、テニスコート1面分に相当します。そんな大きな臓器が私たちの体の中に収められていて、日々働いているのは興味深いですよね。
このように、小腸では栄養分がしっかりと吸収されて、必要なところに運ばれていきます。でもその過程で、不要なモノもあるので、そういったものは大腸に送られます。大腸では、主に水分を吸収します。体内に残しておく必要がない、不要物だと判断されたものは、肛門から便という形で体外に排出され、捨てられます。
ここまでが、消化の一連の流れです。苦手意識がある場合は、まずこの大きな流れをしっかり押さえましょう。
人体では消化の仕組みの理解が大切!
受験生の中にも苦手だ、という方の多い人体ですが、押さえておくべき大切な部分はまず「消化」です。消化の仕組みがどうなっているのか理解できると、できるようになる問題が飛躍的に増えるので、苦手意識が少しずつ減っていきます。
消化のところは、中学受験の理科でしっかり流れを理解し、どこで何がおこなわれているのか、確実に押さえておきたい単元です。特に、以下の三大栄養素の消化については、今すぐ覚えてしまいましょう。
・デンプン:口で、だ液により「糖」に分解される
・タンパク質:胃で、胃液により「アミノ酸」に分解される
・脂肪:小腸で、すい液により「脂肪酸」と「モノグリセリド」に分解される
三大栄養素と、消化されると何に代わるのかは混乱しがちなところですが、このように整理しておくと、覚えやすいです。なかなか覚えられない場合は、解説した内容から、三大栄養素の特徴をしっかりつかんで覚えてしまいましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。