【中学受験】知っておきたい「国際バカロレア(IB)」の内容と、今後の展開

最近、中学受験に関して、「国際バカロレア」とか「IB」ということばをよく耳にされることはありませんか?「国際」とつくので、「おそらく、なにかしらのグローバル教育と関係があるのでは」という予想は持てると思いますが、「バカロレアって何?」「日本ではどの学校が取り入れているの?」など、よくわからないという点も多いと思います。

まず一言でいうと、「国際バカロレア」は、「世界共通の大学入試資格と、それにつながる小・中・高校生の教育プログラム」のことです。英語では、「International Baccalaureate」(インターナショナル・バカロレア)と書き、「IB」(アイ・ビー)と略して呼びます。日本国内では「国際バカロレア」と呼ばれたり、略して「IB」と呼ばれることが多いです。

先日の記事で、「IB認定校の入試について」という内容で概略をご説明しました。今回は、さらに掘り下げて、詳しくお伝えしたいと思います。

中学受験生をお持ちの親御さんにとって注目したい重要ポイントは、以下のような点にあると思います。

  • IBの教育プログラムを受けるとどのようなよいことがあるのか
  • IB教育プログラムが受けられるのはどの学校か
  • IBが今注目されている理由と、今後の見通し
  • わが子がもしこの教育プログラムを受けたら将来の選択肢はどうなるのか

今回の記事では、そのような点について詳しく説明していきましょう。学校見学に行く際にも、ぜひ参考にしてください。

国際バカロレア(IB)の概要

「国際バカロレア(IB)」とは、国際バカロレア機構が提供する、国際的な教育プログラムのことをいいます。国際的な教育プログラムなら、いろんな学校が取り入れているではないか、と思われるかもしれませんが、各中学校が独自に行っているグローバル教育と国際バカロレアは、グローバル教育という点で同じように見えると思いますが、実は全く異なります。

「国際バカロレア(IB)」は、総合的な教育プログラムの一つです。単に英語を使った教育を行うといったグローバル教育とは異なり、世界に目を向ける、という特徴があります。国際関係の複雑な仕組みや今起こっていることを理解し、それを解決する方法にはどのような方法があるかどうかを自分の頭で考える、という一連の思考、行動力に対処できる人材を育成することを目的として作られたプログラムなのです。

したがって、グローバル教育は各学校、それも中学・高等学校の中で完結するものであることが多いですが、「国際バカロレア(IB)」は、それとは異なり、中学・高等学校を卒業したその後の学生の将来につながるプログラムなのです。そのため、「国際バカロレア(IB)」=「世界共通の大学入試資格とそれにつながる小・中・高校生に対する教育プログラム」とされています。

英語では、「International Baccalaureate」(インターナショナル・バカロレア)と表記され、頭文字をとって「IB」(アイ・ビー)と略されて呼ばれています。日本国内では、「国際バカロレア」を受け、認定を受けると得ることができる資格として、「国際バカロレア資格」や、「IB」と略して呼ばれています。

では、なぜ、いま「国際バカロレア(IB)」が注目を浴びているのでしょうか?最も大きな要因としては「国際バカロレア」教育を受けることによって、国際バカロレア認定資格を得ることでき、海外の大学に進学することが可能となる、といった点があります。

「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムを受ける利点

簡単にいうと2点です。1点目は,先ほど述べたように、国際バカロレア認定資格を得ることができ、海外の大学に進学することが可能になる、という点です。「国際バカロレア(IB)」教育を受け、認定試験を受ければ、「ディプロマ」という認定証書をもらうことができます。この「ディプロマ」は、世界各国の多くの大学で正規の入学資格や入学試験の受験資格として認められています。

日本ではまだ少数ですが、海外の大学では、大学にもよりますが、「ダブルメジャー(メジャー=専攻」といって、2つ(またはそれ以上)の専攻分野を同時に履修し、無事卒業できたあかつきには、複数の学士号を手にすることができます。

たとえば、日本の大学では卒業とともに1つの学士号(「法学士」「経済学士」など)が得られるのに対して、2つ以上(「心理学士号」「国際関係学士号」など)の複数の学士号を得ることができますので、海外の大学に進学したい人にとってはより多くの武器を手に入れることができるということです。

そして、「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムを受ける利点の2点目は、この実際の教育プログラムの内容が深くかかわっています。具体的にはのちほど詳しく説明しますが、簡単に言うと、「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムには、よく練られた「グローバルに活躍するための力を身につけることができる要素」が含まれているということです。

①「ディプロマ」とはどのようなもの?

まず、1点目の、「国際バカロレア(IB)」を受けることによって得られる「ディプロマ」について解説しておきましょう。

もともと、IBは1968年に、スイスのジュネーブに設立されたインターナショナル・バカロレア機構(IBO)によって提供される国際的な教育プログラムです。IBを取り入れている学校は世界中に多く存在しますが、IBOに認可・登録されることが必要です。

そして、IBOに許可・登録された学校において、定められた教育課程を履修して、最終的に認定証書(これが「ディプロマ」です)を取得することができれば、世界100か国以上、大学の数にすると、20,000校以上の大学において、このディプロマが入学資格や、入試の受験資格として認められています

たとえば、イギリスではどの大学でもIBのディプロマを、大学入学資格として認めています。また、アメリカやカナダでは、IBのディプロマのうち、上級レベルの証明書はそのまま大学入学資格として認められ、1年を上限として、大学での単位が与えらることが多くなっています。もっとも、各大学によって対応は異なりますので、もしIBのディプロマを得たうえで海外の進学をお考えになる場合には、志望する大学によく確認をすることが必要ですので、気をつけてください。

②「国際バカロレア(IB)」の教育プログラム内容

次に、2点目の教育プログラムの内容について説明しておきましょう。「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムは、「将来グローバルに活躍するための力を身につける」ということを目的にしています。そのプログラムを効率よく行うためにも、生徒の習熟度(年齢によって決まりますが)に応じて、大きく3つの段階に分かれています。具体的には、以下の通りです。

  1. PYP (Primary Years Programme:初等教育プログラム))3歳から12歳
  2. MYP(Middle Years Programme:中等教育プログラム)11歳から16歳
  3. DP(Diploma Programme:ディプロマ資格プログラム)16歳から19歳

日本の学齢と差があるのには、国によって就学年齢がずれる場合があり、それぞれの教育プログラムを実施する年齢に差があるからです。以下、日本の学齢を考えながら、それぞれのプログラムでどのような内容の教育が行われているのか、簡単にまとめておきましょう。

PYP(プライマリー・イヤーズ・プログラム)

3歳~12歳を対象としていますので、日本の学校の学年でいうと、幼稚園から小学生程度の間の間に行われる教育内容だと思っていただければイメージしやすいと思います。このプログラムでは、まだ幼い子どもに配慮して、「精神と身体の両方を成長させること」を重視しているプログラムが組まれています。

そして、PYPのプログラムの内容を実践し、効果をあげるためには、どの言語で行うかということも重要です。すべての国で公用語が英語であるとは限りませんから、英語だけでなく、どのような言語でも行うことができるという特徴があります。

MYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)

11歳~16歳を対象としていますので、主に中学校レベルの生徒を対象にしたプログラムになっています。いわゆる「青少年」と呼ばれる年代ですね。PYPではどちらかというと、生徒自身の精神的・肉体的成長に重点が置かれていましたが、MYPは、「これまでの学習してきたこと社会を結ばせるプログラム」と位置付けられています。

MYPも、PYPと同様に、教育プログラムに使用される言語は英語に限られません。どのような言語でも教育プログラムを実施することができます。この年代の教育プログラムでは、この年代に学習すべき各教科の「基礎」を身につけることが重視されていますが、これまで日本で行われていた授業のように、それぞれの教科を単独のものとして「教える」というプログラムではありません。

それぞれの教科を単独のものとしてとらえ、学習するのではなく、ほかの教科と横断させて学んだり、実生活と関連していることをより深く認識できるようなプログラムが想定されています。

DP(ディプロマ・プログラム)

DPは、「国際バカロレア(IB)」教育の総決算ともいえるプログラムです。対象となるのは、16歳~19歳、日本でいうと高校生を対象としたプログラムになっています。DPプログラムは、将来の大学進学に直結する教育プログラムです。

そして、決められたカリキュラムを2年間履修し、最終的に試験に合格すると、「国際バカロレア資格」、つまり国際的に認められる大学入学資格を取得することができます。

DPプログラムは、大学進学後や大学卒業後の将来の進路(どのような職業につきたいか)によって必要となる、専門分野の知識やスキルを大学入学前の段階であらかじめ準備しておくという位置づけとなっており、いくつかのグループの中から選択して学ぶことになっています。

PYPとMYPはどの言語で実施してもよいことになっていましたが、DPの教育プログラムは実施する言語が決められています。あとで述べる「日本語DP」の対象科目等を除いて、原則として英語、フランス語またはスペイン語で実施されることが決められています。

「日本語DP」の対象科目等を除いて、と書きましたが、「日本語DP」については、日本の文部科学省と国際バカロレア機構が協力して、DPの教育プログラムの一部の科目を、日本語でも実施することができる、と決めたプログラムです。日本の高等学校だから必ず「日本語DP」を採用しなくてはいけない、というわけではありません。DPプログラムを採り入れている学校によっては、日本語DPを取り入れていないところもあります。

また、「日本語DP」を採用していても、一部の科目は日本語以外の、英語などで履修することになっていますので、すべての科目を日本語絵受けられるというわけではなく、必ず何かしら英語で科目を履修することが義務付けられています。本来、DPプログラムは、最終的に海外の大学に進学するための「ディプロマ」を取得することを念頭に置いていることを考えると、必要な科目については英語で教育を行われるというのは当然といえば当然ですね。

DPプログラムでは、選択科目による内部評価と最終試験による外部評価によって最終的にスコアが算出されます。合計45点満点中、原則として24点以上で、国際バカロレアの修了資格(成績証明書=ディプロマ)が授与されます。

ただし、ディプロマを授与されるのはそう簡単なことではありません。各教科あたり2点未満は不合格とみなされますし、1教科でも不合格をとると国際バカロレアの修了資格は授与されません。

世界全体でみると、国際バカロレアの修了資格の取得率は約8割程度といわれています。さきほど、国際バカロレアの修了資格を授与されるには足切りもあり、1教科でも不合格だと授与されない、ということを書きました。ただし、教科ごとの修了書は授与されます。

アメリカなどの大学によっては、特定の教科の点数が重要視されることもあり、特定の教科のみ国際バカロレアを取る生徒も多いという特徴があります。また、もし最終試験に不合格となった場合でも、19歳になるまで再試験を受験することができます。

国内で国際バカロレア入試を導入している大学もある

近年、国際バカロレアのスコアを用いた特別入試(国際バカロレア入試)を導入する大学が増えてきています。たとえば、国公立大学では、筑波大学と岡山大学が、ほかの大学に先んじて、全ての学部で国際バカロレア入試を導入し始めています。また、2015年11月現在では、17校で国際バカロレア入試が実施され、25校で国際バカロレア入試資格を利用した入試の導入が検討されています。

その他、国立大学協会が2015年9月に発表した「アクション・プラン」では、入試改革の一環として、推薦入試・AO入試・国際バカロレア入試等のを拡大することが掲げられており、2021年までに、定員の30%を目標とすることが定められています。

学校によって導入しているIBプログラムは異なることに注意しよう

「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムには大きく分けて3段階に分かれていることがお分かりいただけたと思いますが、ここで注意が必要な点があります。それは、学校によって、これら3段階のうち、どのプログラムを導入しているのかが異なる、という点です。3つすべてを導入している学校もあれば、1つだけの学校もあります。

特に気をつけたいのは、先述した「ディプロマ」を取得できるのは、DP(ディー・ピー)、つまりディプロマ・プログラムを提供している学校のみです。学校がDPプログラムを導入していなければ、ディプロマを得て海外の大学への進学や入試を受験することはできません

もちろん、IBを経ずに海外の大学に進学することはできますが、せっかく「国際バカロレア(IB)」資格の取得に期待して入学したのに、実はディプロマがもらえなかった・・・という結果になっては、入学した意味がなくなってしまうということもあり得ます。学校説明会などで必ず確認しておきましょう。

「国際バカロレア(IB)」の理念やポイントは?

先ほど、「国際バカロレア(IB)」の特徴について、1点目として、「ディプロマ」を取得することができることと、そして、2点目として、「将来グローバルに活躍するための力を身につける」ということを目的にしている、ということを説明しました。

特に2点目の、教育プログラムの中に、将来グローバルに活躍するための力を身につける要素が含まれている、ということは、教育内容を理解するうえでとても大切です。プログラムの内容は多岐にわたるので、すべてをここにご紹介することはできませんが、なぜ「国際バカロレア(IB)」というプログラムがあり、それが日本でも重視され始めてきているのか、その理念や考え方、ポイントをご紹介しておきましょう。

「国際バカロレア(IB)」の理念と、求める生徒像

まず、「国際バカロレア(IB)」の理念ですが、IBO(インターナショナル・バカロレア機構)のホームページの中に、「ミッション・ステートメント」として以下のように説明されています。

  • 多文化に対する理解と尊敬を通じて、平和でより良い世界の実現のために貢献する、探求心、知識、そして思いやりのある若者の育成を目的としています。
  • 世界中の児童・生徒に対し、他の人たちを、その違いとともに理解し、自分と異なる人々にもそれぞれ理がありうることがわかる、行動的で、共感する心を持つ生涯学習者となるよう働きかけています。

少しわかりにくいかもしれませんが、「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムが目指す教育内容は、自分の属する国だけで凝り固まるのではなく、全世界的な平和でより良い世界を実現するにはどうしたらよいのか自分の頭でしっかり考えることを前提としています。

そして、自分と違う属性(人種や性別、国など)を受け入れ、共感しながらお互いによいところを取り入れること、そして大学受験で勉強は終わりではなく、一生をかけて様々なことを吸収し、学習し続けること、を重視しているといえるでしょう。

この部分だけを読んでも、「国際バカロレア(IB)」の目指す教育が、従来の日本の学校教育とずいぶん違うことがお分かりいただけるのではないでしょうか。

このように、すべての「国際バカロレア(IB)」プログラムは、「人類共通の人間らしさ」と「地球を共同で守る心」を知り、「平和でより良い世界を築くために貢献する、国際的な視野を持つ人間の育成」を目指しています。

そして、目指す学習者像として、次の10項目を提示しています。

  • 「探究する人」
  • 「心を開く人」
  • 「知識のある人」
  • 「思いやりのある人」
  • 「考える人」
  • 「挑戦する人」
  • 「コミュニケーションができる人」
  • 「バランスのとれた人」
  • 「信念のある人」
  • 「振り返りができる人」

これらの理念や目標とする生徒像を学校教育の中で実現していくためには、教育を行う学校の側にも、このような教育をおこなうために十分な能力のある教員の確保やカリキュラム・シラバスの策定といったことが求められます。

そのため、現在のところ、インターナショナルスクールが中心となっており、いわゆる「日本の学校」ではこれから導入をすすめていこうという学校が準備を進めているのが現状です。

「国際バカロレア(IB)」の学びの特徴

「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムでの学びの特徴としては、おおきく3つのポイントが挙げられます。順にみていきましょう。

①「教科の枠にとらわれない学び」

まず1つ目のポイントとしては、「教科の枠にとらわれない学び」が挙げられます。従来の日本の学校教育は、各教科が別々のものとしてとらえられ、担当教員も「英語の先生」「数学の先生」といったように分かれてきました。

ですが「国際バカロレア(IB)」の教育では、各教科を単独で終わらせるのではなく、「各教科が横断的な関連を保つ」ということが重視されています。近年、公立中高一貫校の開校が1つのきっかけとなって、教科横断的な学習に注目が集まっていますが、これはIBが目指す教育につながるものがあります。

これまでも、たとえば麻布中学校などでは、教科横断型の教育が自然ととりいれられてきました。生徒がさまざまな方面に興味をもち、世界に目を向けて自主的に学習をすすめていく「世界」という科目は、さまざまなほかの中学校に参考にされるなど、歴史ある教科横断型の授業といえます。

また、公立中高一貫校に限らず、「思考力テスト」や「合科型入試」など、中学校によって呼び方はさまざまですが、入試の段階で教科横断型のテストを導入している学校も増えてきています。

各教科を横断的に学習するメリットとしては、各教科の連携にポイントがあります。各教科が横断的な関連を保ちながら、生徒が「自己、地域、国、そして世界の成り立ち」を学んでいくことによって、さまざまな文化的バックグラウンドを持った学生と交流し、さらには将来社会に出たときにも刺激を与えあうような素地を作ることができるという利点があります。

文系・理系といったような単純な分け方ではなく、文系の内容であっても科学的要素を取り入れた学びや、理系の内容であっても統計をどこから引用してくるか、そのためには語学などの文系要素、研究機関の環境などを理解することにもつながります。このように、さまざまな学習要素を関連付けて学習をすすめていくという点が「教科の枠にとらわれない学び」といえるのです。

②「探求」

「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムの2つ目のポイントを挙げるならば、「探究」というキーワードだといえるでしょう。ここでいう「探求」とは、「物事を深く、多角的な視点から見て、自分で考え、自分の判断で問題解決をおこなっていくために行動する」ということです。この「探求」という視点は、IBプログラムの授業そのものの中に組み込まれています

「探求」ということばが日本で注目を集めたのは、京都の公立高等学校である「堀川高校」が「探求」というコースをつくったことが一つのきっかけだったかもしれません。ことばの違いはあるにせよ、堀川高校の探求コースでは、「物事を深く掘り下げて考える」「他人の意見にも耳を傾け、多角的に物事を考える」「最初から答えを求めず、自分の頭でよく考える」「どこに問題点があり、解決の糸口はどこにあるのかということを自分なりに考える」「問題解決のために皆で連携して行動する」といったことが重視されました。そして、そのカリキュラムのもと、特に京都大学に多くの合格者を輩出するようになり、一躍注目を集めました。

これは、IBでいうところの「探求」と非常に通じるものがあります。また、IBの考える「探求」は、2020年の大学入試改革で日本が採り入れようとする「学び」と共通しています。そして、これが国際的なスタンダードであるということなのです。このような「探求」の姿勢をもつことができるように教育をおこなうことが、今後日本でも求められている教育のスタイルの中心になってくるでしょう。その中心になるのがIBの理念、それを実行する学校の役割なのです。

③「育成のための評価」

「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムの3つ目のポイントは、「育成のための評価」です。これは、学校が単に自己評価するといった評価方法はとらない、より客観的な評価を行うということです。

IBにおける評価は、単に「学びの成果」を測るためだけに存在するものではありません。評価に求める指標は、「生徒の学びを深め、進めるための形成的評価」とされています。また、生徒たちが、「自分が学んでいる内容が、決してテストや受験のためだけではなく、グローバルマインドと自立した人間交流ができる、真の国際人へと成長するためのものだ」と理解していることも求められています。

学校がIBプログラムを導入し、教育を始めるにあたっては、目指す目標を明示する必要があります。このように、目標をあきらかにしてから教員が指導をし、生徒も学習を始めることになっているので、もちろん日々行われるテストの結果は全く評価の対象にならないというわけではありませんが、逆に単なるテストで高得点をとることだけには縛られという利点があります。

具体的な学習内容としてはさまざまなものがありますが、代表的なものとして、「TOK」(ティー・オー・ケー)はぜひ知っておいていただきたいので、紹介しておきます。

「TOK」とは、「Theory of Knowledge」(知識の理論)の略です。「TOK」は「DP(ディプロマ・プログラム)」の中核的な学習プログラムです。その内容は、教科の枠を超えて、論理的思考力や批判的思考力(クリティカル・シンキング)、コミュニケーション能力などを養うための授業とされています。このような内容は、いま進められている大学入試改革で求められる能力を養成するという目的とも合致します。

「知識とは何か」「知識をどう身につければよいのか」「身につけた知識をどう使いこなすか」、といった段階的な課題について、生徒たちは自分たちで問題を設定し、自ら学習していきます。いわば「正解のない問題」に対応していく力を身に付けていくための学習であり、将来の大学進学、社会に出る際にも必要な力を養成するための学習とも言えるでしょう。

「TOK」の授業では、基本的に毎回のようにグループ・ディスカッションが行われます。生徒たちがさまざまな問題に直面した際に、「どのような知識を使うのか」「その知識が、目の前にある問題解決のためにどう使えるのか」ということをグループのメンバーに伝え、議論し、メンバーの意見を取り入れながら、議論を進めていきます。

ことばで書いてしまうと単純に見えるかもしれませんが、設定される「解決すべき問題」は非常に根本的なものであり、どの知識を使うのがよいのか、その知識を自分は持っているのか、それとも考えつかないことだったのか、などを振り返りながら議論していくので、議論自体が非常に深いものになるという利点があります。

生徒たちがディスカッションを通して「思考力」を高めることに非常に効果的なものとして位置付けられています。もちろん、教員は生徒任せで何もしないというのではなく、ディスカッションを見守り、悩んでいるときにはヒントを出すなどして、さらに生徒が思考を深める手助けをします。これまではあまり日本の学校では見られなかった形態の授業です。

このような独特の授業を通じて、生徒たちがグローバルに活躍するための素地となる「思考力」「協働力」などを身につけていくのです。

「国際バカロレア(IB)」教育を導入している国内の学校

「国際バカロレア(IB)」のプログラムには3段階あり、全て導入することも、1つだけ導入することも可能です。文部科学省の発表によると2017年6月1日現在で、国際バカロレアの認定校とされている学校は、世界140以上の国・地域、4,846校にのぼります。世界中で、国際的なプログラムとしてうけいれられており、将来の進路を考える上でも重視されているプログラムになってきているといえるでしょう。

日本国内では47校ですが、もともとIBを教育プログラムに取り入れ始めたのは、いわゆるインターナショナル・スクールが中心でした。インターナショナル・スクールは学校教育法で認められている学校とは異なるので、日本の高等学校の卒業資格が得られません。また、インターナショナル・スクールの卒業生は日本人だけではないこともあり、卒業生の多くが海外の大学に進学するケースが多かったという背景もありました。

いわゆる日本の高等学校の卒業資格が得られる学校(学校教育法第1条に規定されている学校)で、「国際バカロレア(IB)」を採り入れているのは26校です。学校教育法で定められた日本の学校の中には、このほかにも何校もの学校が教育プログラムとして採り入れようと、準備を進めており、準備中の学校は10校あまり存在すると、現在のところ判明しています。

現在の時点で、学校教育法で規定されている、いわゆる日本の学校として、国際バカロレア資格認定校とされている学校を、導入しているプログラム別にみてみましょう。

PYP導入校は1校、MYP導入校は5校、DP導入校は17校です。こうしてみると、ほとんどの学校がDPの段階のプログラムを取り入れています。卒業後の大学進学を見すえて導入している学校が多いことがわかります。その中でも、「日本語DP」プログラムを導入している学校は8校です。

これまで日本語で実施してきたすべての授業を、IBを導入することによって、すべて英語、フランス語、またはスペイン語でおこなうというのは、実際に授業を担当する教員側の負担も非常に大きいです。ただし、日本語DPプログラムであっても、一定程度の授業は英語、フランス語、またはスペイン語でおこなわなければならないので、どれだけの教員を確保し、授業の質を保つことができるのかということがこれから導入する学校にとっては検討材料として重要になってくるでしょう。

「国際バカロレア(IB)」プログラムを導入するためのハードルは高い

今後導入を検討している学校も少なからず出てきていますが、「国際バカロレア(IB)」認定校として認定されるためには、国際プログラムに対応できる教員の確保、シラバスの準備などのハードルがあり、導入を決めてから実際に始まるまでには時間がかかっているのが現状です。たとえば、このような制約があります。

  • すでに「国際バカロレア(IB)」認定校であっても、学内の指導体制が整っておらず、指導する教員の負担が大きい
  • ディプロマをとる際の、最終試験の試験料や認定料が高額。
  • 政府は、200校の導入目標を掲げているが、導入のハードルの高さから、26校にとどまっている。
  • 公立校での導入が進んでいない。2017年6月現在の公立のIB認定校は(東京学芸大学附属国際中等教育学校を除いては)東京都立国際高等学校のみとなっている。すなわち、すそ野が広がっていない。
  • フランスのバカロレアは、名称が似ているものの、フランスの大学の「大学入学資格」として認められているのに対し、「国際バカロレア」は、IB教育を受けただけでなく、プラスして語学試験や、大学独自の試験などを課すところが多く、「国際的な大学受験資格」という扱いなので、さらなる学習が必要になる。
  • 「国際バカロレア(IB)」の教育カリキュラムには、「これを使う」という教材の指定がなく、多くが教員の裁量に任されているため、学校ごとの授業の質が大きく異なるという点が導入のハードルを上げている。

参考として、首都圏で「国際バカロレア(IB)」の教育プログラムを採り入れています。その中でも、DPプログラムを導入しているところを紹介しておきます。どの段階のプログラムを採り入れているか、変更点などは各学校のホームページや、学校説明会などでしっかり導入しているカリキュラムや、学習内容、授業の進め方などについて必ず確認するようにしてください。

  • 茗渓学園高等学校
  • ぐんま国際アカデミー
  • 昌平中学校
  • 筑波大学附属坂戸高等学校
  • 玉川学園中学部・高等部
  • 東京学芸大学国際中等教育学校
  • 東京都立国際高等学校
  • 法政大学女子高等学校

特に、玉川学園中学部・高等部、東京学芸大学国際中等教育学校などは、「国際バカロレア(IB)」教育が始まった当初から導入をはじめ、注目を集めてきた学校なので、カリキュラムや指導の点で一日の長がありますす。

DPプログラムを導入している学校

DPプログラムを採り入れている学校としては、以下の学校があります。

  • 仙台育英学園高等学校
  • 山梨学院高等学校
  • インターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢
  • 加藤学園暁秀高等学校・中学校
  • 名古屋国際高等学校
  • 立命館宇治高等学校
  • 英数学館高等学校
  • AICJ中学・高等学校
  • リンデンホールスクール中高学部
  • 沖縄尚学高等学校

DPを導入している学校に高等学校が多いのは、DPプログラムが大学進学に直結したプログラムになっているという点にあります。MYPから連続した「国際バカロレア(IB)」教育をおこなっている学校の中には、中学校からIB教育を採り入れているケースもあります。IBに対応しているコースに在籍して卒業をすれば、IBディプロマと日本の高等学校の卒業資格の両方を得ることが可能です。

「日本語DP」プログラムを実施している学校 

上記の学校の中で、「日本語DP」プログラムを実施している学校は以下の通りです。

  • 仙台育英学園高等学校
  • 茗渓学園高等学校
  • 筑波大学附属坂戸高等学校
  • 東京学芸大学附属国際中等教育学校
  • 山梨学院高等学校
  • 法政大学女子高等学校
  • 英数学館高等学校
  • 沖縄尚学高等学校

その他、候補校になっていたり、今後導入を検討している学校としては、以下のような学校があります。

  • 開智望小学校(茨城県)
  • 開智日本橋学園中学校(東京都)
  • 立教女学院中学・高等学校(東京都)
  • 富士見丘中学・高等学校(神奈川県)
  • 聖ヨゼフ学園小学校(神奈川県)
  • 神奈川県立横浜国際高等学校(神奈川県)
  • 山梨県立甲府西高等学校(山梨県)
  • 滋賀県立虎姫高等学校(滋賀県)
  • 同志社国際学院初等部(京都府)
  • AIE国際高等学校(兵庫県)
  • 高知国際中学校・高等学校(高知県)

特に、立教女学院が「国際バカロレア(IB)」の認定を受けようと動き出した、との情報は、中学受験界で大きな注目を集めましたが、いまだ認定校にはなっておらず、それに代わる形で「ARE学習」を採り入れています。伝統のある人気校なので、今後の動きに注目したいところです。

ほかにも、ある東京の中高一貫女子校では、IB教育を採り入れようとしましたが、教育内容を策定できず、指導できる教員を確保することができなかったため、時期尚早として見送られたケースもあります。「国際バカロレア(IB)」の資格認定をとるのは、それほど簡単ではないということなのです。興味をお持ちの方は、ぜひ、採り入れている学校の進学実績や、指導内容についても十分注意して質問するなどして、正しい情報をとりいれるようにしていただきたいと思います。

「国際バカロレア(IB)注目される理由と、今後について

「国際バカロレア(IB)」による教育カリキュラムが、近年にわかに注目されるようになった背景には、政府が「国際バカロレアDP認定校200校計画」を打ち出したところに端を発しています。安倍内閣は、日本が国際競争力を向上させるためにはまず人材育成が重要である、そのためには、最高学府としての大学の地位を上げることや、海外の大学に進学する機会をひろげようと考えたのです。

そして、アベノミクス第3の矢である、「日本再興戦略」(2013年6月に閣議決定された)の中で、「2018年には国際バカロレアDP認定校を200校まで増やす」という目標を明記しました。そのことによって、マスコミにも「国際バカロレア(IB)」による教育が大きく取り上げられることが増えたのです。

ですが、先ほどから述べてきたように、日本の学校がIBのカリキュラムを導入するためには、大きなネックがありました。それは、基本的には授業はすべて英語、フランス語、スペイン語のいずれかでおこなわなければならない、ということでした。日本人に一番なじみがあるのは英語ということになりますが、英語によって授業そのものをおこなうという習慣はこれまで日本の学校になかったことです。

これまで先んじてIBによる教育を採り入れてきたインターナショナル・スクールは、英語、フランス語、スペイン語で授業をおこなうための素地がありました。ですが、いわゆる日本の学校教育法で定められた学校には、このような素地は一部の例外を除いてはありませんでした。

その現実をふまえてうえで、IBによる教育プログラムを普及させるためには、日本語を認定言語にしなければならないと考え、IBO(インターナショナル・バカロレア機構)と交渉を続け、2013年に、DPプログラムの中の一部科目の授業と試験、評価を日本語で実施するという、「日本語と英語による『デュアル・ランゲージ・プログラム』」、つまり「日本語DP」が導入されることになったのです。

このような取り決めが成立したことにより、2016年度の高校2年生から、「日本語DP」の授業がスタートし、2017年には「日本語DP」によるディプロマ認定者が出ることが可能になりました。

「日本語DP校」として認定されることによって、「国際バカロレア(IB)」による教育プログラムを実施するためのハードルが幾分下がることになり、導入を見送ろうとしていた学校の中にも、導入しようとする動きがみられるようになりました。

最初の申請は、2013年の10月から受け付けられましたが、その後さらに5校が申請したといわれています。今後、特に「日本語DP」を導入した学校の大学進学実績や、通常のDPプログラム教育を受けてディプロマを得た生徒の大学進学実績により、さらに制度をどのように採り入れやすくするか、という議論が続くと考えられます。

また、現在のところは、東京をはじめとした大都市圏の国立・私立の学校が認定校のほとんどを占めていますが、今後、全国の公立高校でも導入は進むと考えられます。高等学校だからこそ、生徒の将来の進路の幅を広げるためにも、DPプログラムを導入するメリットや必要性は今後も増すと考えられるからです。

もし、公立校で「国際バカロレア(IB)」、特にDPプログラムが導入されることが進むとなると、徐々に教育のスタンダードになっていくことが考えられ、多くの生徒がIB教育を受けるチャンスが広がるといえるでしょう。今後の政府などの発表や動向に十分注目していただきたいと思います。

また、すでにIB校の受験や、海外大学への進学を視野に入れていらっしゃるというご家庭には、ぜひ導入校の教育の実際を目で見ていただき、まだ導入していなくても、学校の指導により海外の大学に進学した実績と、それに伴う学びについて、学校の特徴を、学校見学の機会によく話を聞いてきていただくことをオススメします。

できるだけ、教員がしっかりIB教育について理解しているかどうかを確かめるために、個別相談なども利用して、学校の教育内容を深く調べ、志望校・受験校選びの一つの材料にしていただきたいと思います。

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