2020年からはじまる大学入試改革や新・学習指導要領の流れを受けて、中学受験にも影響が出てきています。なかでも「思考力」「表現力」というキーワードはずいぶん前から中学受験でも意識されており、サピックスなどの集団塾では入試直前の対策コースに「思考力」コースを設けているところもあるほどです。
中学入試の形式も変化してきており、「思考力入試」「アクティブ・ラーニング型入試」といった、前面に思考力を押し出している入試を実施する中学校もあります。公立中高一貫校の適性検査がさらに引き金を引いた形になっていますが、従来の知識偏重の入試から、現場で試行錯誤させる入試が増えてきています。私立中学校でも適性検査型入試が取り入れられてきていますよね。
近年非常に増えてきている思考力重視の入試ですが、単にその場で考えれば正解できるという単純なものではありません。あくまで問われていることは何か、求められている力はどのようなものか、ということを意識しなければいくら現場で一生懸命考えても合格することは難しいでしょう。
では、これからも重視されていくであろう思考力、表現力はどうしたら身につけることができるのでしょうか。さまざまな形式になっていくことが予測される中学入試においても欠かせないこれらの力をつけていくためには、ただ問題をたくさん解けばいいというわけではありません。より問題自体を深く掘り下げて考え、自分の考え以外にもどういう考え方があるか、という根本的なところを理解しなければ思考力や表現力は身につけることは難しいでしょう。
今回は、近年増えている思考力入試や適性検査型入試など、新しい入試にも対応できるような思考力、表現力を身につけていくのに大切な受験勉強における「対話」について考えていきたいと思います。ひとつだけの視点でものごとを考えるのではなく、多角的に考える姿勢がそこでは求められます。本質的な力である思考力、表現力を身につけるために大切なポイントをしっかり押さえていきましょう。
Contents
正解はひとつとは限らない!別の視点も意識しよう
思考力や表現力を問う問題は、普段の受験勉強でも頻出になってきましたね。こうした思考力・表現力を重視する問題の大きな特徴は、「正解がひとつとは限らない」ということです。
これまでにも記述問題は難関校を中心に出題されてきましたが、たとえば200字程度の記述問題であれば、いくつか必ず書かなければいけない要素はありますが、つなぎや表現については何通りも考えられるので、必ずしも模範解答通りでなかったとしても部分点を重ねていって点数をとっていく、という必要がありました。むしろ模範解答通りの表現でなくても点数をとることはできたのです。
つまり、従来の長文の記述問題でもそうであったように、思考力や表現力を問う問題においては、正解はひとつだけとは限らず、中学校側が求めている要素をきちんと入れることができれば表現は自由であっても点数をとることはできるということができます。
そのため、思考力や表現力を問う問題を解く際には、答えがひとつではないことと、間違いを恐れない、模範解答通りでなくても押さえるべきポイントを押さえているか、という点に注意しながら取り組むことがとても大切です。ですから、必要以上に間違いを恐れないことも知っておきましょう。もちろん的外れではいけませんが、模範解答と違うところがあるからと言って×にしてしまう必要はないのです。
そして何より大切なのは、問われていることをつかみ、問題自体を自分なりの視点でとらえることです。そうして道筋を自分で作り、間違いを恐れずに表現していくことによって点数をとることができるようになります。思考力・表現力を問う問題の特徴として、自分の意見以外に違う視点から見たらどうなるか、対比して答えさせるという、多角的視点を求めるという点があります。まずは問題を自分はどう思うかということをベースに、では反対側の意見ならどうなるか、ということを考えてみるのです。そして比べたうえでどちらかを選択して結論付けるのです。
こういった対比させる問題は、実は難関国立大学では以前から出題されていました。多角的な視点を持つことが、ゼミ授業などで積極的に自分の意見を表現し、他者の考え方を受け入れたうえでより深く考えていくことに必要だからです。そういう要素が中学入試にも及んできたと言えるでしょう。
こういった問題に対応できるためには、まずは間違いを必要以上に恐れずに、「対話」をしていくつもの考え方を発見していくことが有用です。つまり、対話型の学習が思考力・表現力を問う問題対策として非常に有効だと言えます。過去問を使うのも良いですし、時事問題としてニュースなどで話題になっている事柄を使うのも良いでしょう。対話はひとりではできないので、ぜひ保護者の方と一緒に、親子で話し合ってみることをおすすめします。
否定するのはNG
ご家庭での対話は、思考力・表現力を身につけるためにとても大切です。ただし、注意しなければならないこともあります。あまりに思考力や表現力を身につけさせようとするあまり、お子さんが自分なりに考えて口にしたことを「そうじゃないでしょ」と否定してしまうことです。
否定されてしまうと、お子さんは「じゃあもう言わない」となってしまい、試行錯誤することをやめてしまいます。それでは思考力どころではありません。大切なのはお子さんが言った意見やことばを「否定しない」ことです。少しその考えは無理があるのでは・・・?と思うことは大人の目からするとたくさんあるでしょうが、あくまで中学受験を迎える小学生ですから、もちろん未熟であるに決まっています。ですから、そんな幼い考え方では合格しない、という考え方で接するのではなく、思考力・表現力の根本に立ち返るようにしましょう。
まず受け入れてみることが大切
まずは、お子さんが自分なりに一生懸命考えた意見をよく聞いて一度受け入れてあげてください。その際にお子さんが話している間、遮ることはしないでください。お子さんが何を伝えたいのか、ということを受け止めてあげることが何より重要です。そのうえで、「なぜそういうふうに考えたの?」と、お子さんがそのような思考に至った背景、理由を聞いてあげましょう。そうすると、お子さんは理由を一生懸命考えて答えるようになります。このときに「思考力」が養われるのです。思考力の根本は一生懸命自分なりに理由付けをして「考え抜く」ことです。そのために対話をするのですから、お子さんが臆病にならないで意見を言えることが大切です。
そのうえで別の視点を示してあげる
お子さんの意見を聞いたところで、次のステップに行きましょう。これは、ひとつだけの視点ではなく多角的な視点で考える訓練にもなるものです。お子さんの意見を否定するのではなく、たとえば「こういう場合だったらどうなるかな?」「こういう考えの人がいたら、あなたはなんて答える?」といったように、自然とお子さんの思考が別の視点に移行するように働きかけてあげてください。あくまでお子さんの考え方を引き出すのが目的だということを意識しておきましょう。
たとえば、少子高齢化、人口減少は現在の日本にとって非常に深刻な問題ですよね。ニュースでも、よく人口減少に悩む町のすがたが報道されます。そういった社会問題を取り上げてみると良いですね。もし可能なら新聞などから写真やグラフなどの資料を用意するとより思考力養成に役立ちます。
人口減少について考える場合、「もしあなたがこの自治体の長だったら、どのような対策をしますか」という問題が出題されることが多いです。つまり、その町の人間として(実際には住んでいませんが)、人口減少を防ぐために何をするのが良いのか考えさせるという形です。人口減少に限らずさまざまなテーマで問題を作ることができるので、こういう形式にはぜひ慣れておきたいものです。
では、人口減少に悩む町の町長さんだったとしたら、お子さんはどういうことをして対策を考えようとするでしょうか。まず考えられるのは、特産品をつくることや、観光スポットを新しく作る、あるいはリニューアルする、また、会社や公共施設を誘致することなどではないでしょうか。
このなかから、たとえばお子さんが「ディズニーランドみたいな遊園地を作って人が来るようにする」と考えたとしましょう。いったんそれを受け入れたうえで、違う視点を提示して行くことがこの後の思考のポイントになります。「それはいい考えだね」と受け入れたうえで、違う視点から「でも、地図を見たらわかるけど、ここは交通がとても不便な町だから、車でしか来られないよね。皆来てくれるかな」「隣の大きな町には大きな遊園地があるよね」「遠くから人が来てくれるためにはほかにどんな方法があるかな?」といったように、条件をつけてさらにお子さんの思考を深堀りしていくのがコツです。ヒントを出す際には、お子さんの考えがさらに深まるようにしてあげましょう。
あくまでもお子さんの考え方は考え方として否定せずに「その方法もあるね」というように受け入れることが前提です。思考力・表現力を見ようとする問題を出題する学校では、違う視点をただ出せばよい、違う考えを否定すればよい、という意図は持っていません。ある考え方があることを前提に、違う見方から考えるとどういう意見が出てくるかを見るのが本質だということを忘れないでください。
最終的に求められているのは、人口減少がテーマであれば、人口減少の解消ですよね。そういった課題点をつかんでいるか保護者の方は意識して働きかけてください。もし、課題点があるということに気づいていない場合は、さりげなくそこに気づくように仕向けてあげることが必要です。求められているのは課題点を見つけだし、自分ならどう考えるか、それによって課題点は解決できるのか、ということを筋道立てて説明できるかどうか、です。そういうステップをお子さんが粘り強く考え、違う視点を持って新しい考え方を導き出していくことが大切です。お子さん自身が粘り強く考えられるようにヒントを与えてあげて、最終的には「最初はこう考えたけれど、こういう問題点があるから、やはりこの方法の方がいいかもしれない」と解決策を自分なりに出すことができるように働きかけてください。
お子さんに教わってみるのも良い方法
思考力や表現力を問う問題は、ありとあらゆる分野から出題される可能性があります。なかには、お子さんが出した最初の答えとは違う視点を示すことが難しいこともあるかもしれません。そういう場合は、お子さんに効いて「説明してもらう」ことも有効です。保護者の方もすべての分野で深い理解をできているとは限らないので、お子さんに教わりながら自分も違う意見を出して対話を進めていく、というのも良い方法です。
このような場合は、お子さんが意見を言ったら「それってどういうことなのかな?詳しく教えてくれない?」というように、お子さんが説明しやすいよう水を向けてみましょう。素朴な疑問をぶつける、というイメージです。もしお子さんが詳しく説明してくれたら、そのうちのひとつを取り上げて反対意見を言ってみるのもいいですね。あくまでお子さんの説明を否定しないように気をつけて「こういうこともできるんじゃない?」というように疑問をぶつけてみましょう。
また、お子さんにとっても少し理解がしにくく、詳しく説明して、と言われてもできない可能性もありますよね。そういった場合は、一緒に調べてみるというプロセスを踏むことをおすすめします。インターネットで調べても良いですし、新聞などで資料を見つけてみてもいいですね。思考力・表現力を問う問題が出題される場合は、必ず何かしらの資料やデータが付いていることが多いですから、どういうところからデータを持ってくるのか、そしてそれをどう読み解いていくのか、という姿勢を養うことも大切です。その際には「何を、どのように調べるか」という「調べ方」を知ることもとても大切です。
調べて分かったことをお子さんにまとめさせて、「わかったことを発表する退会」を親子でやってみてもいいですね。入試ではプレゼンテーションをさせる中学校もあります。その対策にもなりますね。重要なのは間違っているのかあっているのか、ということではありません。自分なりに根拠を示しながら、「だから自分はこう考える」ということを伝えることです。相手に理解してもらうように話すためには表現力も必要ですから、思考力だけでなく表現力を強化する練習にもなります。お子さんがまとめて発表したことについて、さらに深く対話していくと、お子さんの目の輝きが大きく変わってきますよ。
間違いを恐れず楽しむことが重要
先ほどもご紹介しましたが、思考力を問う問題の場合、2つの考えが挙げられていて、どちらに賛成するか、そしてその理由はどういうところにあるか、を説明させる問題が非常に多いです。一応の正解は用意されていますが、説得力のある論理展開ができていれば、結論自体は正解でなかったとしても、途中の考え方のプロセスを評価して点数をもらえることもあります。中学受験の時点では、まず「自分の頭で考える」「課題点を考える」「理由を考えたら、それを結論とどう結びつけるか自分なりの理屈を考える」ことができれば十分です。
特に、結論と理由付けをどう結びつけるか考える過程はとても大切です。いわば理屈をこねるわけですが、自分なりの考えなので理由付けを必死で考えるでしょう。そのタイミングこそ、思考力が伸びる瞬間だと言っても過言ではありません。
お子さんなりに理由付けを考えてみたらそれを聞き出してみましょう。なかには「それはちょっと無理があるのでは」という理由付けもありえます。その場合も否定するのではなく、「おもしろい理由だね」とまずは受け入れてあげてください。お子さんなりの試行錯誤のプロセスを否定しないことが大切です。
そして、どうしてそういう理由付けになったのか、お子さんなりの試行錯誤のプロセスを説明してもらいましょう。説明している間に「こっちの方がいいかも」と新しい発想が生まれることもあります。その場合大切なのは、間違いを恐れずに試行錯誤をすることですから、いったん受け入れたうえで「こういう考え方もあるよね」「その理由なら、こういう理由はかんがえられないかな」といったように対話をしてみましょう。あくまで肯定的な誘導をしてあげることを意識してください。
知識と実体験が結びつくと思考力は飛躍的に伸びる
すべてのことを実体験することは難しいですが、思考力とは、実体験と知識を結びつける力です。思考力を伸ばすためには、できるだけ多くの実体験を積むことも大切です。たとえば新幹線を題材にした問題も良く出題されますが、旅行などの際に新幹線が止まる駅と止まらない駅の違いを実体験してみたり、乗換駅の発展のようすなどを実際に目で見ることによって実体験と新幹線についてのテキスト上の知識が結び付きます。ぜひ、低学年や4年生など、時間があるときには旅行や博物館、美術館、動物観、水族館やキャンプに行くなどして、親子でいろいろな実体験をしてみましょう。
そしてその実体験の際に、親子で一緒に「あれはなんだろうね」「どうしてこういう形になっているんだろうね」「なぜこんなに人が集まるのかな」といったように対話を重ねてみると自然に思考力が身についてきます。頭の中で知識と実体験が結び付いた瞬間に、思考力が発揮されます。現在は新型コロナウィルスの影響などで遠出はできないかもしれませんが、その場合はニュースなどの映像、インターネットである場所を調べてみて対話しても良いですね。たわいない会話に思えるかもしれませんが、まずは「対話」してみること、それが思考力を養うための第一歩です。
そして、お子さんがある意見に到達したら、理由を聞いてみてください。わかるように説明することによって思考力に加えて表現力が養われていきます。思考力と表現力は分けて考えられがちですが、一体のものです。意識して分けるのではなく、まず考える、そして理由付けを考える理屈をこねる楽しさと、相手にわかりやすく説明するというプロセスを踏むことによって双方の力が身につきます。
思考力や表現力を重視する入試をおこなう学校で出題される問題は実は決して突飛な設定ではありません。むしろ、世の中で起きていること、身近で起こっていることについてどう考えますか?それをどう説明しますか?ということが問われているという根本を意識するようにしましょう。時事問題対策にもなりますし、常に問題を解いているときに「この方法だったらどうだろう」という考えができるようになるので思考力も表現力も広がっていきます。日常生活のちょっとした一場面を使って、親子で思考力・表現力を身につけていきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。