受験学年のお子さんをお持ちの保護者の皆様の大きな悩みとしては「成績がなかなか上がらない」ことではないかと考えられますが、この時期ご相談が非常に多いのが「自分から勉強しようとしない」「集中して勉強しない」といった、学習態度に関するものです。
お子さんがなかなか自分から勉強しようとしない、という点は、受験学年のお子さんに限りません。低学年であれば受験に対するモチベーションを持ちにくいこともあり、学習習慣が身についていないのでやむを得ないところもあるでしょう。しかし、本格的に受験本番を意識する受験学年の場合、学習習慣を一から、と言っている時間はないというのが実情ではないでしょうか。
「自分から勉強する」ためには集中力やモチベーションが非常に重要です。いくら保護者の方が「勉強しなさい!」「6年生でしょう!」といったところで、受験生であるお子さんご自身が自分から学習に取り組まなければ進めるべき受験勉強は進みませんし、集中力を身につけることもできません。
中学受験は「親の受験」とも呼ばれることは皆さまご存じでしょう。小学生が受験をするわけですから、いくら大人びたお子さんでもある程度は保護者の方がお子さんを引き上げてあげたり、サポートしてあげたりする必要があります。お子さんが受験学年であれば、保護者の方としては受験のために何でもしなきゃ、という気持ちになるのではないでしょうか。ですが、「受験のために」何でもすると思うことは、必ずしも「お子さんのため」にできることは何でもしたいということとは異なります。
保護者の方の接し方ひとつで、お子さんの成績は大きく上下します。受験生といってもまだまだ小学生ですから、「保護者の方を喜ばせたい」という気持ちが勉強する際に大きく関わってくるからです。
ただし、先回りしてやるべきことをすべて拾ってしまっても、お子さんが自分から勉強するという積極性に必ずしもつながりません。それどころか、主体的に学習することができず、自分の頭で受験勉強について考えることをやめてしまいます。だからこそ、この時期の保護者の方の受験生への接し方が非常に重要になってくるのです。
今回は、これから非常に重要になってくる保護者の方の接し方について「成績」を中心に解説します。お子さんのことを思うばかりにやってしまってしまっていることが見つかるはずですよ。
Contents
保護者は冷静なプロデューサーになる
保護者の方は、普段受験生のお子さんにどのように接しているでしょうか?新型コロナウィルスの影響で4月、5月は家でご一緒に過ごす時間が長かったですよね。その間、何度お子さんを叱りましたか?そしてその内容はどんな理由によるものでしたか?
「親が言わないと勉強しようとしない」「自分から勉強しているところを見たことがない」といった学習姿勢に関することから、これまでの成績を見直して「なんでできないの!」と成績に対して怒りをあらわにしてしまうことがこの時期特に目立ちます。それは保護者の方自身の不安の裏返しでもありますが、実際に勉強するのはお子さんですし、入試を受けるのもお子さんです。ですから、保護者の方は不安を覚えたとしてもそれをお子さんにぶつけることはしないことが賢明です。
子どもは自分で成績管理ができない
受験生とは言っても、お子さんは小学生です。まだ精神的発達の途上です。だからこそ、いいことは自分の力、できないことからは目をそむける、ということが少なくありません。できないことから目をそむける、ということは、自分がなにができていてなにができていないのか、ということを自分から理解するのは難しいということに直結します。
また、お子さんはまだまだ視野が狭いです。これまで学習してきたこと全体を見回して、自分ができていることとできていないことを俯瞰することはまずできません。だからこそ、保護者の方が手伝って全体を見回して弱点を把握し、克服する方法をお子さんと話し合う必要があるのです。
お子さんは自分で成績管理をすることがなかなかできません。また、テストの結果の分析も自分ひとりではなかなかできません。そこで、保護者の方が成績を管理し、弱点を把握してあげることが必要なのです。ただし、成績を見ているうちに怒りがわいてきてお子さんにそれをぶつけ、「なんでこんな問題も解けないの!」としかるのは逆効果です。自分で成績管理ができないのですから、「なぜその問題が解けなかったのか」と漠然としたしかり方をしてもなぜしかられているのかも理解できないからです。
お子さんを「のせて」成績向上に持っていくのがプロデューサーの役割
「なぜこんな問題も解けないの!」ということばにはいろいろな意味が含まれています。点数が取れなかった、解けなかった、までは仕方ないかもしれませんが、「こんな問題」というのは、お子さんの学習を否定しているのと同じです。できなかったことは仕方ないことです。ですが、「こんな問題」ということばには、「こんな簡単な問題」という意味が含まれてしまいます。
お子さんはもちろん、1つでも多く問題を正解したかったはずです。そこで「こんな簡単な問題もできなかったの」という意味のことばをかけてしまっては、「自分はこんな簡単な問題も解けないんだ」と、受験に対するモチベーションが大きく下がってしまいます。
モチベーションは自分で上げていくもの、と大人は思うものですが、小学生に関しては、自分でモチベーションを上げるのは大変難しいことです。ひとつ覚えたことをすぐ忘れてしまうのと同じように、「何のために日々勉強しているのか」という意味を見出せなくなるお子さんは大変多いです。
そこで、保護者の方には声掛けや接し方を含めて、お子さんが力を発揮できるように、そしてモチベーションを持ち続けられるようにうまく持っていく「プロデューサー」の役割に徹していただきたいのです。つまり、お子さんに前向きに、一生懸命勉強することに集中してもらうために、保護者の方は勉強がうまく回るためのプロデュースをしてあげていただきたいのです。勉強をするのはお子さん自身ですから、保護者の方が実際に勉強するわけではありませんよね。だからこそ、支えてあげることがとても大切です。
成績自体を責めない
受験生を抱える保護者の方ならご経験があると思いますが、模試の結果が返ってきて、点数や偏差値といった数値だけを見てお子さんを責めていませんか?日々成績を上げていくように勉強しているはずの我が子がひどい点数を採ってきた、成績がなかなか伸びない、という状況では、保護者の方としても頭に来ますよね。それはとてもよくわかります。
成績だけしか言及しないのは受験生にとってマイナス
ですが、お子さんにとってみると、保護者の方が点数や偏差値ばかりを気にしている姿を見ると、自分がすごくダメな存在に思えてしまうものです。もし顔に出さない、成績が悪くても気にしていないように見えたとしても、よほどのことがない限り、お子さんは「こんな成績をとってしまった」「お母さん、お父さんを怒らせてしまった」という思いにさいなまれてしまっています。
そうすると、問題を解くときに「これは解けそう」「これは解けなさそうだから手を付けないでおこう」といったように先入観を持つようになり、結果的に次の模試でも同じように成績が上がらない、ということを繰り返してしまいます。
そして、保護者の方と同じように点数や偏差値だけを気にしてしまい、実際には前回解けていなかった問題が解けるようになっているなどの進歩があったとしても、そこに目を向けず、親子で点数を、偏差値をどうしたらいいのか悩むことになり、本質的な解決にはならないのです。
今大切なのは基礎的問題に穴をつくらないこと
これまでの記事で、各教科についてそれぞれ勉強法・克服法についてご紹介してきましたが、模試は入試本番ではありません。模試は、入試に向けて、どこがお子さんの弱点となっているのか、知識の穴がないか、といったことを把握するために受けるのです。それを忘れて、「こんな問題も解けなかった」という意識をお子さんに植え付けてしまうと、受験生なら誰でも得点してくるであろう基礎問題をおろそかにしてしまい、結果として成績が上がることはありません。基礎問題をおろそかにしては応用問題を解けることはありませんし、基礎的な問題が解けないとそれこそ点数が全く取れないということもあり得るのです。
たとえば、サピックスでB問題はとれてもA問題でボロボロ、という受験生は少なくありません.B問題はある程度問題パターンを覚えていると意外と解ける問題もありますが、A問題はそうはいきません。知らなければ解けませんが、あとで覚えればいいや、と思って放置してしまい、結局基礎的な問題で点数を落とし続けることになります。
保護者の方が「こんな問題」と言っていては、お子さんは基礎的な問題を正解することの大切さを理解することができないまま、次の模試を迎えることになります。どうしても難しい問題を解けたときはほめ、基礎的な問題が解けてもほめてあげない、ということになりがちですが、基礎的な問題をしっかりとれてこそほかの問題も解けるので、その重要性を意識することをぜひ親子で共有するようにしてください。
「どこが」「なぜ」できなかったのかを分析しよう
模試で問題を間違えると、どうしてもその問題を直視したくなくなるものです。ですが、模試は入試本番ではなく、入試を意識したテストです。ですから、今後弱点を克服していくための確認だということを忘れないでください。
よく、次の模試で点数を取るにはどうしたらいいですか、というご相談を受けます。漠然とできなかった、という意識では、次の模試の対策はとれません。次の模試で点数を取るために必要なのは、前回×だったところを〇にする、ということです。
×を〇にするために必要なことは、模試の結果をしっかり分析することです。それは点数や偏差値を見直す、ということではありません。模試の内容を見直すのです。ポイントは「どこを」間違えたのかということと、「なぜ」それができなかったのか、ということを把握することです。これができてはじめて模試を有効活用でき、実戦に活かすことができるのです。
まとめ
受験生の保護者の方は、どうしてもお子さんの成績の数字ばかりを見てしまいがちです。ですが、入試まではまだ時間があります。×を〇に変えていくことによって成績を伸ばしていこう、と前向きにお子さんに接してあげてください。
中学受験は親子の二人三脚です。受験生は小学生なので、受験勉強全体を俯瞰して把握することはまずできません。そのため、保護者の方が全体進行や進捗状況を把握してあげるプロデューサー役に徹して支えてくれることが欠かせないのです。
保護者が成績の数字だけを意識しすぎて責めてしまうと、お子さんは委縮してしまい、できるものもできなくなったり、受験に対するモチベーションが下がってしまいます。モチベーションが下がってしまうと、成績を上げることは非常に難しいです。いろいろなものをがまんして受験勉強をしている意味が分からなくなってしまうことになり、「あの中学校に行きたい」という気持ちが弱くなってしまうため、直前期の過酷な問題演習に耐えることができなくなります。
保護者の方は、受験生の一番の応援団長でいてください。勉強自体はお子さんがやるので、学習計画を立てたり体調管理など、保護者の方はお子さんが安心して自分の勉強ができるように支えてあげる立場に徹してください。そのようにうまく役割分担ができると、受験生も勉強に集中することができます。あくまで冷静に、というのは受験生のお子さんを持つ保護者の方には難しいかもしれませんが、そこを一緒に乗り越えてこそ受験の結果がついてきます。
次回は、保護者の接し方について、模試の活用法や、やってはいけないポイントについて解説していきます。本記事と合わせて参考にしてください。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。