みんな、憲法って知っていますか。憲法は国のルールを定める大切な大切な法律です。憲法は、すべての法律の土台みたいなもので、柱みたいなもので、お父さんやお母さんみたいなもので、これがないと、他のどんな法律もすべて崩れてしまうような、それぐらい大きな影響力を持っているルールです。(難しい言葉で言うと「最高法規」ってことになります、強うそうでしょ?)日本では今までに2個の憲法がつくられました。当然、1個めの憲法と、2個めの憲法ではその作られ方も、時代も、中身も全部違います。それぞれどのような違いがあるのかというのをこの章ではみていきたいと思います。
Contents
日本国憲法と大日本帝国憲法
日本で最初に近代憲法がつくられたのは、明治時代でした。それまでの江戸時代では武家を統制するための武家諸法度のようなルールはありましたが、国家全体を縛るような憲法は存在しませんでした。しかし、明治時代に入ってから、江戸末期に欧米列強と締結した不平等条約の改正の第一歩として、また、世界の様々な国と関わる機会が江戸時代と比べて格段と増えて、そうした国はしっかりと憲法が制定されていてちゃんと国家として対等にかかわりあえる国としか関係を結ばないという立場をとっていました。日本はまだ憲法が制定されていなくて、他の国からはちゃんと「近代国家」として認められていなくて、外国と関係を結ぶ際も、決して対等ではなく、国として下の立場になって関係を結ぶしかありませんでした。これでは、外国とうまく交渉をしたり、国を発展させたり、貿易を行ったりするにあたって、大きな障害となってしまいます。そこでいち早く「憲法」を制定することを当時の明治政府たちは決心したのです。こうして明治時代にできた憲法を「大日本帝国憲法」といいます。これにより、日本は近代国家としての道を歩み始めるようになったのです。ちなみに、近代国家というのは、ここでは、憲法によって国家権力を押さえつけて、その憲法に基づいて政治をやっている国を指しています。こうした憲法に基づいて政治を行っていくという考え方を「立憲主義」といいます。明治時代から日本は、「立憲主義」体制を取る近代国家になったのです。「大日本帝国憲法」に基づいた政治体制は、1945年に第二次世界大戦が終わるまで続けられました。
しかし、第二次世界大戦が終わった後、日本は憲法の見直しをアメリカをはじめとする連合国(戦争で勝った国々)から迫られます。というのも、連合国側は、日本が戦争を起こした要因の一つとして、大日本帝国憲法の中身に問題があったと考えたからです。もう日本が二度と戦争ができない国になるために、大日本帝国憲法の改正が求められ、そうして新しくできあがったのが、現在にも続いていく「日本国憲法」なのです。最近(2010年代後半〜)では、この「日本国憲法」を改正すべきだという議論も起こっておりますが、こうした議論にみんなもしっかりと加わって考えられるように、ここで大日本帝国憲法と日本国憲法の違いと、日本国憲法というのがどのような性質の憲法なのかということをしっかりと理解しておきましょう。
では、まずは大日本帝国憲法と日本国憲法を比較して、その違いをみていきます。
2つの憲法を比較してみよう!
成立年月日
まずは、大日本帝国憲法と日本国憲法の成立年月日を確認しておきましょう。大日本帝国憲法が発布されたのは、1889年2月11日に発布(公布)され、1890年11月29日に施行されました。発布(公布)というのは、日本全体に向けて「これからこんな感じで憲法に基づいて政治をいくので知っておいてくださいね」と事前にお知らせをすることです。そして、実際にその憲法が効力をもって、その憲法による政治が有効になるのが「施行」ということになります。ちなみに、大日本帝国憲法が発布された2月11日という日付は、みなさん何の日か知っていますか?正解は「建国記念日」です。この日は日本の祝日でみんなは学校がお休みになりますね。「建国記念日」は、日本の初代天皇と言われている神武天皇が即位をした日として伝えられているのですが、その日が大日本帝国憲法の公布日になりました。この大日本帝国憲法のもとで、明治時代・大正時代・昭和時代と3つの時代を渡り歩き、しかし昭和時代初期に第二次世界大戦が起こり、日本は敗戦し、その後、二度と同じ過ちを繰り返さないように、新しい憲法の作成が戦後に行われました。そうしてできたのが日本国憲法で、こちらの公布日は1946年11月3日で、施行日が1947年5月3日です。現在は、日本国憲法の公布日の11月3日は「文化の日」として、5月3日は「憲法記念日」として、それぞれ国民の祝日になっています。それぞれの憲法の、公布日と施行日をしっかりと覚えておきましょう。
大日本帝国憲法 | 日本国憲法 | |
発布/公布日 |
1889年2月11日 *毎年2月11日は建国記念日 |
1946年11月3日 *毎年11月3日は文化の日 |
施行日 | 1890年11月29日 |
1947年5月3日 *毎年5月3日は憲法記念日 |
[成立年月日による新旧憲法の比較]
憲法の制定者
さて、今度は憲法の作成者で、大日本帝国憲法と日本国憲法を比較してみましょう。大日本帝国憲法をつくったのは、「天皇」です。このように天皇が作った憲法のことを「欽定憲法」といいます。一方で、日本国憲法をつくったのは、私たち「国民」です。このように国民がつくった憲法のことを「民定憲法」といいます。大日本帝国憲法では、天皇がつくったということもあり、とても天皇の権力(君主権)の強い憲法で、軍隊を動かす権利や、政治を動かす権利など、多くの特権を天皇はもっていました。しかし、戦後、第二次世界大戦という悲惨な戦争が起こってしまったのはひとつに「君主権」の強すぎる憲法が要因としてあったということで、日本国憲法では、国民全体が主体となってつくる「民定憲法」という形をとったのです。
主権者
主権者は、それぞれの憲法をつくったひとと同じです。大日本帝国憲法は「天皇」、日本国憲法では「国民」ですね。日本国憲法の三大原則の一つに、「国民主権」というのがありましたよね。かつては「天皇主権」のもとで政治を行い、その中で度重なる戦争という悲惨な経験をしたという反省を生かして、築き上げられた原則です。国民みんなの意見で政治を動かしていけば、きっと同じ過ちは犯さないはずだと、そんな思いから、絶対に守らなければいけない日本国憲法の原則として、「国民主権」が定められたのです。
天皇の立場
大日本帝国憲法では、「天皇」は絶対的な力を持つ権力者でした。だから、天皇は積極的に国の政治に参加していて、たとえば法律を決める際も意見を発することができたり、議会に対して解散を命じることができたり、外国との交渉を行うことができたり、軍隊を動かすことができたりといった多くの権利を持っていました。これらすべてを合わせて「天皇大権」というのですが、大日本帝国憲法下では、天皇は日本の中で最高の政治的な権力を有していました。
しかし、現在の日本国憲法のもとではどうでしょうか。日本国憲法の第1条にはこのように書かれています。
第一条
天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
現在の日本国憲法のもとでは、天皇は日本の「象徴」としてのお立場なのですね。「象徴」というのは、「〇〇といえばこれ」というようなシンボルを表すもので、たとえば平和の象徴といえば「鳩」というように、「〇〇といえばこれ」というものを連想させるようなものです。すなわち、世界から見て日本の象徴といえば「天皇」となるような立場でいるのが天皇であって、大日本帝国憲法下で主権者であった天皇は、日本国憲法下では政治の主体者ではなくなりました。あくまで「象徴」としての存在であって、実際の政治には基本的には関与しないというのが現在の天皇のお立場です。これも戦争が「天皇主権」のもとで起こってしまったことの反省から定められました。現在天皇は、内閣総理大臣を任命したり、栄典を授与したりなどの国事行為のみを行って象徴天皇との勤めをされています。
軍隊の存在
軍隊に関しては、大日本帝国憲法下ではその存在が認められていました。陸軍・海軍・空軍の部隊が常駐していました。そして、その軍隊を動かす権限を天皇が有していました。ただ、実際には軍隊を動かしていたのは当時の国務大臣である陸軍大臣や海軍大臣であったのですが、彼らは天皇の名のもとに軍隊を動かす権限を有していました。このような天皇が軍隊を動かす権限のことを「統帥権」といいます。しかし、日本国憲法では「統帥権」が認められていないどころか、軍隊の存在すら否定されました。これもまた、軍隊が存在したことが戦争を引き起こした大きな要因であるということから、二度と戦争をしない国にするために規定されたものなのです。これにより、現行の日本国憲法では陸軍・海軍・空軍やその他の戦力を日本は持ってはいけないことが規定されました。これは憲法第9条に規定されていますね。しかし、現在は「自衛隊」という部隊は存在しています。「自衛隊」を軍隊と認識するのか否かに関しては様々な議論がありますが(一応、政府の公式見解としては、自衛のための必要最小限度の「実力組織」として戦力には当たらないという、若干苦しい解釈をしています…)、「自衛隊」を動かす権限を現在有しているのは、天皇ではなく、軍人でもなく、文民である防衛大臣か内閣総理大臣となっています。このように軍人ではない人が軍を統制することを「シビリアンコントロール」といいます。自衛隊に関する議論は今後も日本の国益にとっても非常に重要な議論になってきますので、ぜひみなさんも関心をよせてください。
人権の保障
大日本帝国憲法下では、人権は一応定められてはいたものの、その範囲は法律で規定されている範囲内に限られていました。つまり、法律で人権を否定するようなものができてしまえば、それはそれで認められてしまうというものでした。これを「法律の留保」といいます。基本的には認められるけど、法律の定める範囲によっては必ずしも守られるべきものではないというのが、大日本帝国憲法の立場です。しかし、これによって大日本帝国憲法下で人権を侵害されてしまった多くの人がいました。戦争に行きたくなくても国民の義務だから行かなければいけなかったり、「天皇制」という政治体制を批判したら逮捕されて拘留されてしまったり、逮捕されて拷問を受けたり、様々なところで人権が侵害されてしまうことがありました。これもまた、戦争が起こされてしまった一つの要因であろうと当時の人たちは考えました。そこで、人権は生まれながらにすべての人が有していて、絶対に保障されなければならない権利として日本国憲法では規定されました。こうしてできたのが「基本的人権」です。自由権・社会権・平等権など人間が自由に安全に生きていくために必要な権利が、日本国憲法で初めて認められました。日本国憲法では、第11条で基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」として、定められています。
国民の義務
大日本帝国憲法では、納税の義務・教育を受けさせる義務・兵役の義務がありました。納税と教育は現在も一緒ですが、かつては成人男性の全員が兵隊さんになる義務が課されていました。こうした義務を果たすために、戦争にわたった成人男性たちがたくさんいました。しかし、戦後は兵役の義務がなくなり、日本国憲法下では、「納税の義務」「教育を受けさせる義務」「勤労の義務」の三大原則に変わりました。みんなも大人になったら、一生懸命に働いて、国に対して税金を納めなければいけません。そして、子どもが生まれたらその子どもに対して、ちゃんと小学校・中学校の義務教育を受けさせてあげなければいけません。これがみんなに課された義務なのです。日本国民であるからには、この義務を果たすことが絶対的に求められます。みんなのお母さん・お父さんもこの義務を立派に果たしているのですよ。
憲法の改正の方法
大日本帝国憲法下では、憲法を変える権限を持っていたのは天皇でした。天皇が「憲法を変えよう」と発議をして、それを帝国議会で、衆議院と貴族院の両議院の3分の2以上の出席かつ、その出席議員の3分の2以上の賛成で改正することができました。一方で日本国憲法では、憲法の改正案をまずは国会で審議をして、それぞれ各議院の3分の2以上の賛成で、国会の名で「憲法を変えましょう」と発議されます。そして、それを最後は国民が「賛成」か「反対」かを国民投票によって判断し、国民投票で賛成が過半数以上であれば、憲法を改正することができます。国民投票は満18歳以上の人であればだれでも投票することができます。ただ、そもそも各議院で3分の2以上の賛成を獲得するというのはかなりハードルが高く、1946年に日本国憲法が公布されて以降、一度も憲法改正の国民投票が行われたことはありません。それぐらい、憲法を改正するというのは大変なことなのですね。このように簡単には変えることができない種類の憲法のことを「硬性憲法」といいます。憲法は日本国民にとって大切な大切な法律だからこそ、簡単には変更できないようになっているのですね。簡単に変えられてしまったら、みんなの大切な権利も簡単に奪えてしまうかもしれないですからね。
知識の確認
最後に簡単な問題を出したいと思います。ぜひ知識の確認に役立ててみてください。
【問題】
問1:明治時代に成立した日本初の近代憲法? 問2:日本国憲法の公布日と施行日はいつか? 問3:欽定憲法は大日本国憲法と日本国憲法のどちらか?また、欽定憲法とは誰によって作られる憲法か? 問4:日本国憲法において三大原則とされている3つの義務は何か?
【模範解答】
問1:大日本帝国憲法 問2:公布日 1946年11月3日、施行日 1947年5月3日 問3:大日本帝国憲法、天皇 問4:納税の義務、教育を受けさせる義務、勤労の義務
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まとめ
ここまで、大日本帝国憲法と日本国憲法の比較を見てきましたが、大きくそれぞれの憲法の違いを挙げると、大日本帝国憲法は天皇の権限が強く、日本国憲法は国民の権限が強いというところです。この大きな違いをおさえたうえで、それぞれの細かい違いをしっかりと復習して確認しておきましょう。
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