水と氷の間の状態変化~”状態変化の正体”と”物質の体積や密度の変化”との関係について知ろう~

 状態変化の問題のテーマと言えばよく水が取り上げられますが,実は様々な物質と比べると水は特殊な性質を示すことが知られています。ここでは水の密度に着目して,他の物質と比べたとき何が特殊なのか,そもそも状態変化とはどういう現象なのかをより深く掘り下げていきましょう。

水の密度

水の体積変化

 水は温度を変化させたとき,普通の物質とは違う体積変化を見せます。一般的な物質は温めれば体積が増えるし,冷やせば体積が減ります。しかし水は必ずしもこの通りではありません。

 水は冷やしていくと4℃までは体積が減ります。しかし4℃で水の体積が最大になった後,さらに冷やすと4℃~0℃の間は冷やすほど体積が増えます。どうして水がこのように体積が変化するのかは後ろの「3.水と氷」の部分で詳しく説明します。実際に水の体積変化をグラフに表すと下のようになります。

水の温度と体積のグラフ
図1 水の温度変化に対する体積変化
水の体積は冷やしていくと4℃で最低になり,そこからさらに冷やすと再び増えます。

水の密度変化

 水のこの特殊な体積変化は密度という視点で出題される場合もあります。ここで水を冷やした時に水の密度はどのように変化するのかも一応見ておきましょう。温度を変化させているときに水の質量が変化しないと仮定すると,水の温度変化に対する密度変化は上のグラフを上下逆転させたような形になります。

水の温度と密度のグラフ
図2 水の温度変化に対する密度変化
水の密度は冷やしていくと4℃で最大になり,そこからさらに冷やすと再び小さくなります。

 どうして水の密度のグラフは体積のものと逆の形になるのかを確認しておきましょう。

 物質の密度は質量を体積で割った値で表されます。

密度の公式

 今、水の質量は変わらないと仮定しているので,温度を変化させたとき,右辺は分母の「物質の体積」の部分だけが変化します。物質の体積が大きくなると分母が大きくなるので物質の密度は小さくなり,逆に物質の体積が小さくなると分母が小さくなるので物質の密度は大きくなります。

 このように物質において質量が変化しないとき,体積と密度の増減はそれぞれ逆の関係になります。だから体積と密度のグラフの形はそれぞれ逆転させたようなものになるのです。

水の密度のまとめ

水と氷

粒子と状態変化

 上では水のときの密度や体積の変化だけを考えましたが,今度は水と氷の間の体積と密度の関係を考えてみましょう。

 普通物質は気体から液体,液体から固体へと状態変化を起こすと体積が小さくなります。まずどうしてこのような体積変化が起こるのかを説明していきます。

 全ての物質は小さい粒からできています。気体・液体・固体ではこの粒の動き方が異なるのです。それぞれの状態で物質を作る粒同士がどのように運動しているのかを知るためにまずは下の図を見てみましょう。

物質の三態
図3 物質の状態と物質を構成する粒の様子

 物質が固体の状態では,物質を構成している粒同士はお互いに強く引っ張られているせいでそれぞれの位置が固定されており,一定の形や体積を示します。少し熱はあるためわずかに振動や回転はしています。

 固体の物質を加熱していくと熱のエネルギーによって粒はある程度動けるようになります。この状態が液体です。

 液体の状態ではまだ粒同士がお互いに引っ張り合う力の影響が大きいため,粒が離れ離れになることは難しいですが,ある程度は動けるので,体積はほとんど一定に保たれますが,一方で自由に形を変えられる性質(流動性)をもっています。

 液体をさらに加熱していくと,熱による粒の運動が激しくなって,粒同士がお互いに引っ張る力を振り切って離れていくことができるようになり,拡散していきます。この状態が気体です。気体ではその形や体積は決まっていません。

 図を見ると温度が下がって気体から液体,固体と変化していくにつれて粒同士の間隔が狭くなり,逆に温度が上がって固体から液体,気体へと変化していくにつれて粒同士の間隔が広くなっていることが分かります。

 このことによって物質は加熱することで膨張し,密度が小さくなるのです。これが普通の物質ですが,水と氷は特殊な変化を見せます。次はそれを見ていきましょう。

水と氷

 水を冷やして氷にすると普通の物質とは異なり,体積が増えます氷の体積は水の約1.1倍です。どうして液体から固体となるのに体積が増えるのでしょうか。ここではその理由を説明していきます。

 実は水が氷になるとき,水を構成する粒同士が規則的な結晶を作るのですが,この結晶は粒同士の隙間がそこそこ空いている構造をしています。実際の構造を見てみましょう。

氷の結晶構造
図4 氷の結晶構造
本来の氷の結晶は周りに水の粒がこの配置のまま,もっと繋がっています

 このように図の真ん中あたりで粒に囲まれた空間ができていることが分かると思います。水が氷となるとき,このように粒同士の中に大きな隙間を空けるようにお互いが結びついて結晶を作るため,自ら氷となるときに隙間の分だけ体積が大きくなり,密度も小さくなるのです。

 最後に水を冷やしていったときに最初に示したようなグラフの形のように体積が変化する理由を説明します。

 4℃までは冷やすことによって普通の物質と同じように粒同士の運動が弱まっていってお互いに引っ張られることによって粒同士の間隔が狭くなっていくため体積が小さくなります。

 しかし4℃付近になると上の図のように氷の結晶を作り出すため水の粒同士に大きな隙間ができ,この影響が大きくなることで4℃以下では今度は体積が大きくなっていくのです。

 つまり4℃において,「冷却によって粒同士が互いに引っ張られる影響の大きさ」を,「氷の結晶を作ることによって大きな隙間ができて体積が大きくなる影響」が上回ることで特殊な体積変化が起きるということです。

水と氷 まとめ

入試問題演習

 今回の記事で学んだ知識を使って実際の入試問題に挑戦してみましょう。

問題

入試問題1
入試問題2
(西大和学園中 2018)

解答

  • (1) (ⅰ) い→あ (ⅱ)う→い
  • (2) ア
  • (3) すきまが大きい
  • (4) 1.09倍
  • (5) ウ・カ

解説

(1)

  • (ⅰ)
     まず図では記事で説明したように,あの図が液体,いの図が気体,うの図が固体を示しています。

     やかんから出たばかりの水は気体の水蒸気となり,空気によって冷やされることで液体の水滴,すなわち湯気になって見えるようになります。よってこれは気体から液体への状態変化です。

  • (ⅱ)
     ドライアイスは二酸化炭素の固体ですが,少し特殊で室温では液体の状態を経由せずに気体へと状態変化して見えなくなります。よってこれは固体から気体への状態変化です。

 

(2)

 物質は圧力を上げて無理やり粒同士の隙間を狭めることでも状態変化を起こします。また固体から液体への変化は「融解」と呼ばれます。

 氷は特殊で圧力を上げると水へ変化します。身近な例として,スケート靴で床の氷に圧力をかけて水に解けることで滑る現象が挙げられます。

 

(3)

 記事で書いた通り,氷の結晶は粒同士の隙間がとても大きいため水から氷となった時に体積が大きくなります。

 

(4)

 今水の質量を〇gとすると,0℃の水の密度は0.9998g/cm3であるため,水の体積は0.9998×〇cm3

0℃の氷の密度は0.9170g/cm3であるため,氷の体積は0.9170×〇cm3

したがって0℃の氷の体積が0℃の水の体積の何倍かを計算すると,

(0.9998×〇)÷(0.9170×〇) = 0.9998÷0.9170 = 1.090…

小数第三位を四捨五入して,答えは1.09倍となる。

 

(5)

  • ア:4℃から0℃では水は冷やすと水の密度は小さくなるので間違い。
  • イ:氷をさらに冷やせば0℃より温度の低い氷ができるので間違い。
  • ウ:4℃のとき水の密度は最大である。よって正しい。これによって4℃の水は沈んでいく。
  • エ:0℃の氷の密度は0℃の水の密度より小さいため浮く。よって間違い。
  • オ:4℃の水は密度最大により底まで沈んでいく。よって間違い。
  • カ:オと同じ理由で正しい。

まとめ

 水や氷は普通の物質とは異なる体積や密度の変化を示します。身近な物質でありながら普通とは異なる水という物質の性質に注意しながら学習を進めましょう。

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参考