『竹取物語』については耳にした事がある人や、教科書で学んだ人が多いでしょう。
大体のあらすじは知っているかもしれませんが、詳しい内容についてはあまり知らないのではないでしょうか。
今回はそんな『竹取物語』について、文学研究的視点で詳しく説明していきたいと思います。
要約
詳しい内容を見ていく前に、まず話の要約を確認しましょう。
竹取の翁がある日、光る竹のもとを切ったら小さな女の子が出てきて、嫗と共に「かぐや姫」と名付けて育てます。
姫は美しく成長し、その噂を聞いた貴公子がかぐや姫を尋ね求婚しますが、かぐや姫は一向に見向きもしません。それどころか無理難題を押しつけ、貴公子はそれぞれに挑戦しますが、かなわず諦めます。
最後に帝からも求婚されますが、姫は断りました。その頃、姫は月をみては泣くことが増え、不思議に思った翁と嫗がたずねると、自分は月からやってきて、次の満月に月に帰らなければらならないと言います。
帝の兵が翁の邸宅を囲ってかぐや姫を月に行かせないよう見張りましたが、月の人の前では何も抵抗できず、かぐや姫は月の人に迎えられました。
かぐや姫はせめてもと、翁と嫗に別れを告げ、身に付けていた服と不死の薬と手紙を渡し、兵を用意した帝にも言付けを頼みました。
そして天女の羽衣を羽織ると、地上での記憶は消え、月に帰っていきました。翁と嫗と帝は、かぐや姫がいないのに不死でいても仕方ないと薬を燃やしてしまいました。
話の要約は以上の通りです。
成り立ち
次にその成り立ちについて見ていきましょう。
『源氏物語』の「絵合」巻に「物語の出(い)で来(き)はじめのおやなる竹取の翁i」という記述があります。
当時すでに『竹取物語』は存在しており、物語文学の「おや」と表記されているように、作者が存在し、物語として存在した最初の文学という立ち位置にあったのではないかと考えられています。
また、『源氏物語』「蓬生」巻には
はかなき古歌、物語などやうのすさびごとにてこそ、つれずれをもまぎらはし、かかる住まひをも思ひ慰むるわざなめれ。(末摘花は)さやうのことにも心遅くものし給ふ。
(中略)
古りにたる御厨子あけて、『唐守』『藐姑射の刀自』『かぐや姫の物語』の絵に描きたるをぞ、時々のまさぐりものにし給ふ。ii
とあり、「かぐや姫」という名も知れ渡っていたことがわかります。
『源氏物語』だけでなく、『大和物語』や『うつほ物語』にも「竹取」や「かぐや姫」の表記が見られます。
また物語だけでなく、歴史物語である『栄花物語』にも、
今宵(八月十五夜)の月はめでたきものと言ひおきたれど、まことに明かきはいとありがたうのみありけるに、今宵の月ぞ、まことにかぐや姫の空に昇りけむその夜の月かくやと見えたる。iii
と、「かぐや姫」の表記が見受けられます。
成立年も作者も未詳の『竹取物語』ですが、様々な研究がなされ、先ほど述べたような他の文献による記述などをもとに、おおよそ貞観(859~877年)から延喜(901~923年)までの間に作られたのではないかと考えられています。
作者については、文体や貴族社会について詳しい点や、中国の伝承や仏教についての知識が豊富である点から貴族の男性が作者ではないかと考えられています。
従来、源順iv、源融v、僧正遍昭viなどの知識人や、かぐや姫の名付け親が三室戸の斎部の秋田であることから、斎部氏viiの一族などの説が挙げられていましたが、どれも確証はなく未だ分かっていません。
逸話
『竹取物語』の特徴として、多くの伝承説話の型があることが挙げられています。
物語幕に即して、それぞれの説話について紹介していきたいと思います。
一 かぐや姫の生ひ立ち
- 竹から生まれたかぐや姫が成長する→化生説話
- かぐや姫が生まれた後、根元が光っている竹を切ると黄金が出るようになり、翁が裕福になった→致富長者説話、長者説話
二 貴公子たちの求婚
三 五つの難題−仏の御石の鉢(以下四〜七 難題の内容が続く)
- 貴公子たちがかぐや姫に求婚、かぐや姫が難題を出す→求婚難題説話
九 天の羽衣
- かぐや姫が月に帰る際、月の人から天女を着るよう促される。羽衣を着ると地上の記憶がなくなるという→羽衣昇天伝説
十 富士の煙
- かぐや姫が残した不死の薬を燃やす場所として「天に一番近い山かどこか」と聞き、駿河にある山に不死の薬を燃やした。以後その山を「富士の山」と呼ぶ→地名起源説話
富士山の地名の起源に関する説話は『日本書紀』など様々な文献にあり、『竹取物語』もその一つとされている。
補足ではありますが、それぞれの説話について説明していきたいと思います。
化生説話
“化生”とは仏教用語の一つで、母胎や卵などではなく、忽然と生まれることを言います。
かぐや姫のように不思議な生まれ方をした子供が成長していく説話の型のことを言います。例をあげると『桃太郎』『瓜子姫』などです。
致富長者説話、長者説話
“致富”は富を得るに到るという意味です。
長者説話は長者になって結婚する話や、長者になる話、長者の栄華を語る話といくつかありますが、『竹取物語』においては、かぐや姫の恩恵により、翁が長者になっていく話です。
他には『わらしべ長者』『産神問答』など。
求婚難題説話
男性が女性に一目惚れをし、その女性を得ようとして女性の両親等から難題を突きつけられる話の型です。
この型は世界各地にみられるもので他にも“課題婚譚”、“難題婚譚”などとも言われます。
例をあげると、「絵姿女房」また日本の神話では大国主命が須勢理毘売命を得ようとして須佐之男命から無理難題を課せられる話が『古事記』等に描かれています。
羽衣昇天伝説
羽衣昇天伝説は白鳥処女伝説や天人女房譚とも言われ、日本でも多くの説話があり、三保松原に伝わる羽衣伝説は謡曲にもなっています。
天人女房は、衣を奪われ天に帰れない女房が人間の男と結婚しますが、ある時衣を見つけ、天に帰ってしまうという話が多く、『竹取物語』とは少し異なりますが、かぐや姫は最後天に帰る際天の羽衣を羽織っており、天女の話の変形にあたるとされています。
最後に
長々と述べてきましたが、短い『竹取物語』の中にも様々な昔話や説話の類型があり、様々な角度から研究がされています。
それだけでなく、『竹取物語』のなかで大きなテーマとして研究されているのが“なぜ、かぐや姫は地上にやってきたのか”ということです。
『竹取物語』の本文中のかぐや姫を迎えにきた月の人が話している内容に、「かぐや姫は、罪つくり給へりければ、かく賤しきおのがもとに、しばしばおはつるなり。罪の限り果てぬれば、かく迎ふるを、翁は泣き嘆くviii」とある。
つまり、かぐや姫は月の世界で罪を犯し、そのために地上に下ろされました。しかしその罪の償いが終わったので月から迎えが来たということなのです。
その罪がどんな罪なのかは本文中に詳しい記述はありません。
様々な論がありますが、中でも私がおすすめしたいのは神道学者である三橋健『かぐや姫の罪 』(新人物文庫)です。
また、ジブリのアニメ「かぐや姫の物語」も『竹取物語』の内容を踏まえつつ、独自の解釈で描かれています。
問題
最後に『竹取物語』について簡単な問題を出したいと思います。
問1、『竹取物語』を「物語の出で来はじめの祖」と表記した物語は何ですか。
問2、『竹取物語』に出てくる姫の名前は何ですか。
問3、『竹取物語』に出てくる説話の型を一つ答えなさい。
問4、物語の最後、不死の薬をまいた山はその後何と呼ばれていますか。
問5、求婚した貴公子は何人ですか。
→次回は古今和歌集について解説します!