今回の記事のテーマは森林の働きと日本の林業についてです。日常生活の中で林業について意識する事はあまり多くないでしょうが,中学受験の社会を攻略する上ではこの範囲の対策が欠かせません。むしろ普段あまり林業についての話を聞かないからこそ,手厚く勉強しておく必要があるでしょう。したがってこの記事では歴史や地理と絡めて林業について解説していきます。
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林業って?
まずは林業とはどういう産業か,について抑えておきましょう。林業とは木を伐採して木材を作り出す産業のことを指します。また広い意味では,木材を作り出すために植林を行ったり,枝を幹から切り落とす枝打ちと呼ばれる手入れを行ったりすることも林業の中に含まれます。
そしてこのことは意外かもしれませんが,木材そのものだけでなく薪や木炭,竹に漆,椎茸などのきのこなども林業における生産物として扱われます。 私たちが日頃林業と聞くとき,どうしても木を切るという作業だけに目を向けがちなのですが,このような林業の広い意味を覚えておくと受験勉強でも大変役に立つでしょう。
森林の働き
それでは林業の話といきたいのですが,まずは林業の大元となる森林について,とりわけここではその役目に関してお話ししていきます。ご存知の方もいるかもしれませんが,森林は木材になって使われる以外にも,地球を支えるさまざまな役割があります。
① 生物の保護
森林には生物を守るという役割があります。森林には樹木があるだけではありません。森林は,草花やコケといった植物,鳥類,爬虫類,昆虫,その他菌類や微生物など色々な生物のすみかとなっています。
これらの生物の集まりや生物を取り囲む環境のことを生態系と言いますが,森林があることで生態系の微妙なバランスを保つことができているのです。
② 温暖化の抑制
読者の皆様も聞いたことがあるかもしれませんが,近年地球の平均気温が上昇する地球温暖化という現象が問題になっています。実は森林には温暖化を防いだり抑えたりする役割もあるのです。
地球温暖化の原因は温室効果ガスのひとつである二酸化炭素の濃度が増えていることにある,と言われています。温室効果ガスは太陽からの光を通して地面を温めたり,熱を吸収して大気を温めたりしています。しかし石油や石炭といった化石燃料の使用が増え,二酸化炭素の濃度が増加すると,どんどん平均気温が上がる恐れがあるのです。
しかし森林があることでこの現象を抑制できます。というのは,光合成が樹木で行われることで二酸化炭素が吸収されるからです。植物は光合成により二酸化炭素を吸収し,酸素を排出します。そのため温暖化を防ぐ働きがあるというわけです。
③ 地盤の安定
次に紹介する役割は土地・地盤の安定です。森林の樹木は地中深くまでしっかりと根を張り巡らせているため,山の土が流されないようにつなぎ止めてくれます。山に木がないと,大雨が降ったときに土や石が流されやすく,大きな災害につながる危険性があります。このような意味で,森林は私たちの生活を守ってくれていると言えますね。
④ 水の貯蓄
また雨が降ったとき,という話をしましたが,森には雨水を蓄える働きもあります。森の土は様々な生物によってフワフワのスポンジのような構造をしています。そのためたくさんの水を吸収し,吸収した水をゆっくりと河川に流すことができます。したがって水が溢れてしまう洪水や,水がかれてしまう渇水のような災害からも守ってくれるのです。この役割から森林は緑のダムと呼ばれたりもします。
そして土に染み込んで蓄えられて水は,だんだんと浄化されていき,やがては私たちの飲み水などになっていきます。その点で森林は私たちの生活をダイレクトに支えてくれています。
⑤ 環境の快適化
最後にご紹介する役割が,生活環境を快適にするというものです。植物は,体内の水を水蒸気として空気中に発散する現象である蒸散を起こします。この蒸散により放出された水蒸気は周りの熱を奪います。そのため夏の気温を少し涼しくしたり,気温の変化を緩やかにしたりして,快適な環境を作ってくれるというわけです。緑のカーテンというものが昔流行っていましたが,その理由もこの気温低下にあると言えるでしょう。
またその他森林には,ちりやほこりを吸収したり,防音効果・防風効果があったりと,色々な点から生活を心地よいものにしてくれます。それ以外にも,美しい木々の様子や清々しい空気は,私たちに安らぎを与えてくれますね。私たちのこころのリフレッシュにもつながる,という側面はぜひ覚えておくといいでしょう。
樹木の種類と活用方法
それではここからは本格的に林業の中身について確認していきます。森林といっても,伐採される木の種類には色々なものがありますし,その使われ方も様々です。一度にたくさんの要素を覚えるのは難しいと思いますので,ここでは代表的な樹木の区別と特徴,用途についてまとめていこうと思います。
針葉樹か広葉樹か
まず,すべての樹木は針葉樹か広葉樹に分けられます。針葉樹とはその名の通り葉っぱの形が針のように細いもの,広葉樹は葉っぱの形が広いものになります。その他の違いだと,木の形が円すいのようにとがったものになるのが針葉樹,丸みを帯びたものになるのが広葉樹になります。その他の材質でいうと,軽めなのが針葉樹・重めなのが広葉樹です。これらの特徴をまとめると,次のような表に整理できます。
このような材質の違いから,針葉樹と広葉樹とで使われる場面にも違いが生じます。針葉樹は軽い上に形が真っ直ぐとしていることから,耐久性が求められる家の柱や梁(はり)に使われます。他方広葉樹は硬くて見た目が綺麗なため,装飾性が高い家の床といった内装に使われたり,塗装されて家具に使われたりします。
常葉樹か落葉樹か
次の区別が常緑樹か落葉樹か,というものです。常緑樹とは1年を通して常に緑色の葉っぱをつけている樹木のことを指し,落葉樹とは葉っぱが春に芽を出し,秋に紅葉して冬に散ってしまう樹木のことを指します。
常緑樹か落葉樹かで使い道が変わったりはしませんが,社会だけでなく理科でも出題さやすい区別ですのでセットで覚えておきましょう。
代表的な種類
ここからは樹木の代表的な品種について覚えていきましょう。上で見たように樹木に対してなされる区別は,針葉樹か広葉樹か・常緑樹か落葉樹か,になりますが,一般的にこれらの区別を使って樹木は4グループに分けることができます。
それは常緑針葉樹・常緑広葉樹・落葉針葉樹・落葉広葉樹というものです。意味は名前を見ればわかるかと思いますが,例えば常緑針葉樹だったら,常緑樹の性質と針葉樹の性質を持ち合わせているというわけですね。以下,代表的な品種とその多さをご紹介していきます。
- 常緑針葉樹…ヒノキ,アカマツ,スギなど。あまり多くない。
- 常緑広葉樹…クスノキ,キンモクセイなど。多い。
- 落葉針葉樹…カラマツ,イチョウなど。非常に少ない。
- 落葉広葉樹…シラカバ,カシワ,ウメなど。非常に多い。
森林大国日本!
それではここからは日本に焦点を当てて話をしていきたいと思います。まずは日本の森林面積に焦点を当てていきましょう。
森林面積とはその国の国土のうち森林が覆っている部分を表しています。 似たような言葉で海洋面積と言うものがありますが,こちらは海が覆っている土地のことを指しましたね。日本の森林面積は約2500万ヘクタールで,日本の国土の68%,つまり約3分の2を覆っていることになります。ちなみにこの68%という数値は世界で見ても高い方であり,なんと世界第2位になるのだそうです。
ちなみに森林の割合が多い都道府県ランキングは1位が北海道・2位が岩手県・3位が長野県となり,森林の割合が少ない都道府県ランキングは1位が大阪府・2位が東京都・3位が香川県となります。セットで覚えておきましょう。
日本の悲しき林業事情
ここからは現代の林業の事情を説明していきます。上で見たように日本の森林面積は非常に大きいです。そのため戦後すぐ,具体的には昭和20年から30年代にかけてはたくさんの木材が伐採され,家の建造などに使われていました。
しかし需要が非常に高かったため木材が不足し,また自然災害などの影響も受け次第に木材の価格が上がっていきました。このため日本の政府が人工林を増やすなどの策を講じたのですが,それでも国内の木材だけでは足りませんでした。
このことから昭和50年ごろから外国の安い木材を大量に取り寄せはじめ,最近は少しずつ元に戻ってきたものの,平成30年時点で日本は木材の約70%を海外から輸入しています。したがって日本の林業は大きな打撃を受けてしまっている,といえます。また木材に代わってプラスチックや金属を利用した製品が広まってきたことからも,日本の林業は今後も厳しい状態が続いていくと予想されます。
私たちに必要なのは,森林を守りながらも林業が活性されていくような取り組みを考えていくということですね。
まとめ
今回の記事では林業や森林についてお話ししていきました。この辺りの分野が中学受験を攻略する上で注目されることは少ないですが,だからこそいざ出題されたときに悩まないようにしっかり覚えておくと良いでしょう。また,よければ下のおすすめ記事や参考書籍をご覧いただき,更なる知識定着に励んでいただけますと幸いです。
(ライター:大舘)