最近の中学受験の社会の問題では、選択肢問題だけではなく、記述問題を出題するケースが増えています。記述問題というと、国語がまず頭に思い浮かぶかもしれませんね。国語の場合、記述問題に触れる回数も多く、対策する時間をとろうという意識が働くっことでしょう。ですが、社会の記述問題についてはどうでしょうか?時間をとって対策をしていらっしゃるでしょうか。
社会の記述問題では、20字程度の短いものから、200字程度の長いものまでさまざまな出題スタイルが見られます。各内容も様々です。ですが、何を書いても良いというものではないという点に注意が必要です。受験生の皆さんは、社会の記述に必要な知識や、書き方のポイントについて意識して学習したことがあるでしょうか?おそらく、知識を入れなければと1問1答の問題集を繰り返すといった学習をしていることが多いのではないでしょうか。
ですが、それだけでは社会の記述問題には対応することができません。かつては比較的単純だった社会の記述問題は、最近一見しただけでは何を書いたら良いのかわからない、というものも増えているからです。
今回は、社会の記述問題について、まず、国語と違う社会の記述問題の特徴と、「書く」前に必要な実質的な基礎知識について解説します。今まで社会の記述問題についてあまり注意を払ってこなかったという方も、これを機会に記述も意識した社会の学習をしてみてはいかがでしょうか。
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社会の記述問題ってどんなもの?
社会の記述問題では、「あるできごとについて、その原因や理由を答えさせる」ということが多いです。これは非常に基本的な社会の記述問題の形と言えるでしょう。そのほかに最近増えているものは、「あるできごとそのものについて詳しく説明させる問題」といったものや、「これまでの内容を踏まえて、今後の社会がどうなっていくと考えられるか」という、将来を見据えた社会全体の方向性について考えさせるといった問題も見られるようになってきました。
社会というとどうしても知識さえあればなんとかなる、と思われがちです。そのため、何とか知識を詰め込もう、という学習をしている受験生の皆さんは非常に多いです。ですが、難関校で主に出題されてきた社会の記述問題は、すそ野が広がっており、中堅校でも出題されることが増えてきています。ですから、やはり対策を講じておく必要があります。
では、社会の記述問題をしっかり解くためには、何が必要なのでしょうか。まずは、国語の記述問題との違いや、記述問題にも対処できる知識の理解の方法についてご紹介します。
国語の記述問題との違い
社会の記述問題については、これまであまり意識してこなかった受験生の皆さんも多いことと思います。そのため、記述といってもどう対策していったらよいのか迷うという受験生や保護者の皆さんは非常に多いです。模試でも記述問題が出題されることがありますが、それほど字数が多くなかったり、ピンポイントのテーマであったりするため、「とりあえず書く」という処理のしかたをしてきたという方も多いのではないでしょうか。
ですが、社会の記述問題は、国語の記述問題ともちろん共通することはありますが、決定的に違うことがあります。そのことを意識しなければ何を書いたらいいかわからないという状態から抜け出すことは難しいでしょう。
受験生の皆さんは、社会の学習と言うとどんな勉強法を思い浮かべるでしょうか。地理、歴史、公民分野それぞれにおいて、とにかく地名や歴史上の人物の名前、できごと、政治分野の暗記など、単語を中心に頭からがむしゃらに覚える、という学習をしている受験生の方もも少なくないのではないかと思います。
たしかに、実際の入試でも社会の設問の中で多くを占めるのは、穴埋め問題や選択肢問題など、知識そのものを問う問題でであることは受験生の皆さんが考えている通りです。しかし、地理・歴史・公民の各分野において、必ず1問は記述問題が出題される傾向に現在ではなってきてます。
記述問題というと、やはりば国語のイメージが強いですよね。ですが、受験生の皆さんは国語の記述問題を白紙で出していたりしていませんか?必要以上に時間をとられていないでしょうか。思い当たることがあるかもしれませんね。実際のところ、国語の記述問題に苦手意識を持っている受験生の皆さんは非常に多いです。設問で問われていることに対して、文章中の内容を中心としつつ、自分のことばで説明しなければならないなど、いくつもの段階を踏んでいかなければいけないため、書いているうちに混乱してしまい、結局書いた記述の最初と最後が平仄が取れておらず不正解になってしまう、ということも少なくありません。
社会の記述問題についても国語の記述問題と同じように考えている受験生の皆さんも多いことでしょう。ですが、社会の記述問題と国語の記述問題では、一見似ているように見えて、解答の際に押さえておかなければならないポイントは少し変わってくるので注意が必要です。
国語の記述問題の場合
国語の記述問題を解くときに意識しなければならないことといえば、まずは設問をよく読み、「何を聞かれているのか、何について答えるのか」ということを把握することです。これは記述問題においては最も重要な点だと言えるでしょう。何について記述をしていかなければいけないのかわからないままでは、書こうと思っても1文字もかけない、ということも少なくありません。
国語の記述問題で「聞かれていること、答えるべきこと」を見極めるには、与えられた問題文章の「読み方」がものを言います。最初に文章を読み進むときに、この文章の重要なところはどこなのか、どういう展開で文章が書かれているのか、ということを意識して読み、文章中の重要だと思われるところに線を引いたり、その段落で書かれていることがどういう内容なのかということをあとから見てわかるようにしておくことが大切です。
説明・論説文ならば筆者の意見なのか、その理由なのか、具体例なのか、反対意見なのか、結局何が言いたいのか、ということについてあとから一目でわかるようにしておくことが大切です。物語文であれば、登場人物の心情、心情の変化、場面が変わったところ、情景描写で何が描かれているのか、筆者が文章を通して何を伝えたいのか、といったことについてヒントとなるところにしるしをつけておくことによって、記述問題が出題されてもヒントがあるのでまとめやすくなります。
このように文章を読み解いたら、自分でしるしをつけておいたヒントをもとに、設問それぞれに適したポイントを探し出していきます。記述問題の場合は、その内容を文章として整えて解答していくことになります。この「文章として整えて解答する」ということが、国語の記述問題の一番の特徴だと言えるでしょう。
社会の記述問題の場合
では、社会の記述問題の場合はどうでしょうか。国語の記述問題の場合は、文章中にすべて答えがあるため、知らないことがあっても対処することが可能です。
しかし、社会の記述問題の場合は、答案の組み立て方が国語の記述問題とは異なります。当然のことながら、社会の学習の基本といえば、知識の正確な理解と定着です。問題文の中にすべての解答に必要な要素が用意されている国語の記述問題とは異なり、社会の記述問題では、その問題の中に書かれていないけれど記述に必要な知識を頭の中から引っ張り出してきて、それを組み立て、最終的に文章として整理して解答するというステップを踏む必要があるのです。これが、国語と社会の記述問題の一番大きな違いだと言えるでしょう。
「なぜこうなるのですか」ということを問われている社会の記述の問題の場合、あるできごとや特徴について、その理由となる知識がしっかり自分の頭の中で整理されていないと、ぴったり合ったものを引っ張り出してくることができません。しっかり会った知識でなければ、点数をもらえることはありません。だからこそ社会の記述問題は訓練を積み、適切な知識を入れて解答を作っていくということが非常に大切なのです。
必要なときに必要な知識をきちんと記憶の中から呼び起こす、つまり「使いこなせる」ためには、通常の社会の学習の際の取り組み方が非常に重要です。使いこなせない知識は、記述問題はおろか、選択肢問題などでも正解することにはつながりません。
ですから、普段の社会の学習の際に、地名や人名などの固有名詞を覚えるだけでは足りません。ピンポイントの用語だけ覚えていてもそれは単に点の知識を問う問題にしか答えることが出来ません。社会の記述問題では、ある答えとその理由、といった、点の知識と点の知識をつなぐいわば「線の知識」が必要です。1問1答で知識をいくら詰め込んでも、このような知識と知識のつながりを問われる線の部分を問われるような問題には答えることはできません。
たとえば、○○年に△△でこのような事件が起こった、という知識はあっても、どういう経緯、因果関係があったからそういうった事件が起こったのかまで深く正確に理解できていなければ、理由を問うような記述問題に答えることはできませんよね。
だからこそ、普段の学習の際、知識をどのように覚えていくか、そして何に気をつけて知識を線の形で入れていくのか、ということが必要になるのです。では、どのように社会の知識をみにつけておけば記述問題にも対処できるのかについて、次に見ていきましょう。
社会の記述問題では基礎知識が重要
社期の記述問題では、何といっても基礎基本の知識が重要になってきます。これは受験生なら皆さん意識していることですよね。ですが、記述問題に対処できるような、知識と知識のつながりである「線の知識」を身につけるためには、また違った形で知識を理解していくことが必要になります。以下に、例を挙げるので考えてみてくださいね。
社会で「線の知識」を身につけるためには
ここでは、手薄になりがちな「キリスト教の伝来と普及」について例を挙げて知識をどのように入れていくべきなのかを解説します。
キリスト教は、1549年に、イエズス会の宣教師であるフランシスコ・ザビエルによる布教活動の一環として、日本に伝来しました。それ以降、織田信長に代表されるような戦国大名は、南蛮(ポルトガルやスペインなどのヨーロッパの国)との貿易によって得られる利益を重視し、キリスト教を容認する立場を維持していました。織田信長が本能寺の変で命を落としたあとを継ぎ、日本全国を統一した豊臣秀吉は、キリスト教の布教を制限しようとしたのですが、結果として南蛮貿易への影響を考慮したため、キリスト教宣教師たちの活動は活発化したままだったのです。
一方、大坂冬の陣、夏の陣などを経て豊臣政権が倒れたあとに政権を握ったのは徳川家康ですね。徳川家康が開いた江戸幕府は、最初のうちはキリスト教に対して従来の立場を維持していました。しかし、しだいにキリスト教に対する態度を硬化させていったのです。その結果、1612年には最初の禁教令を出し、島原の乱(天草四郎が有名ですね)などの騒動を経て、1639年には南蛮船の入港を禁止し、完全な鎖国政策を取るに至っています。
ここまでの一連の流れについては、受験生の皆さんであれば覚えているのではないでしょうか。ですが、それはまだまだ「点の知識」にとどまっています。ここからが「線の知識」を身につけるために大切なことです。
では、なぜ江戸幕府は、南蛮貿易という重要な資金源を犠牲にしてまでキリスト教を規制しようとしたのでしょうか?細かく見ていくといろいろな要因が挙げられますが、中学受験の社会において意識しなければならない知識としては、いかの2点が非常に重要です。受験生の皆さんは、ここまで突っ込んで学習したことはありますか・
- 江戸幕府の目指した支配構造
- 幕府にとってのキリスト教の教えの不都合さ
まずは1.の「江戸幕府の目指した支配構造」を見てみましょう。江戸幕府は、強固な支配体制を固めるために、「士農工商」と呼ばれる身分制度をしきました。この身分制度自体は古くからあったものなのですが、江戸幕府ではこれを世襲制にし、「士」が指す「武士」は唯一苗字帯刀を許され、切捨御免といった特別な権利も与えられて優遇されるなどして、他の身分に属する人々に対して大きな支配力を持つようなシステムが作られたのです。
次に2,の「幕府にとってのキリスト教の教えの不都合さ」について考えてみましょう。1.の江戸幕府の目指した支配構造のところで述べたような士農工商の身分制度を実施した江戸幕府に対して、キリスト教の教えの中には、聖書にも載っているように「人は神のもとに平等である」という考えが根底にあります。この何人も「平等」という考えが、もし農民などの非特権階級に浸透してしまうと、幕府のしいた身分制度が崩壊してしまい、支配構造にとっては大変不都合ですよね。実際に、島原の乱の際には農民がキリスト教の教えを拠り所としていたことが判明したため、幕府に大きな衝撃を与えたのです。この事件のあと、鎖国政策はエスカレートしていくことになりました。
このように、「鎖国」「島原の乱」といった単語だけを覚えていても、記述問題に必要十分に答えることはまずできないでしょう。このような知識が必要な問題としては、キリスト教弾圧の理由、といった内容が考えられますが、そのような記述問題に答えていくためには、「鎖国」「島原の乱」という知識だけでは足りませんし、第一答案を埋めることもできません。
このようなことから、社会の記述問題対策をおこなうためには、歴史上の出来事や地理的特徴などが及ぼした影響まで考える必要があります。今回の例でいうと、キリスト教の教えが日本の人民に対して与えた影響、そして島原の乱が幕府に与えた影響を考えることで、江戸幕府による鎖国政策のきっかけをひも解くことができるため、さまざまな形でキリスト教弾圧に対して設問が出されたとしてもしっかり答えられることでしょう。基本的な用語を記憶するのは大前提です。社会の記述問題に答えていくためには、その語句と語句との間を埋めるできごとの流れを意識した、「線の知識」の定着を心がけていくことが非常に大切です。
まとめ
社会の記述問題は、国語の記述問題と異なり、問題文中に出てきていない知識をいかに適切に引っ張り出してきてまとめる、ということが必要です。つまり、出題された文章中にすべて答えがあるわけではなく、基礎基本の知識があることは前提に、知識と知識のつながりを説明できるようにしておかなければ答えられないのが社会の記述問題です。
社会の記述問題の対策は、「線の知識」を理解することを意識することによっておこなっていくことができます。「線の知識」を身につけるためには、用語一つひとつに対して、その理由、背景についてもしっかり理解していくことが大切だということを意識して社会の学習を進めましょう。
次回は、実践編として、どのように実際の記述問題を解いていくか、テクニックを含めて解説します。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。