2020年度の理科の出題から入試傾向を読み解く!どんな問題が出題されるかも予想

大学入試改革初年度とあって、2021年の中学入試の出題に注目が集まっています。なかでも理科は、この数年特に実験観察問題など、ただ単に知識を知っているだけでは解けず、また計算問題だけという単純なつくりでもなく、長いリード文を読み解き、条件を整理し、グラフや表・図を分析したり実際に描いたりと、実にさまざまな能力を要求する問題が出題される傾向が続いています。

すでに難関校では10年以上も前から出題されてきたようなタイプの問題が、中堅校でも出題されるようになってきているのです。この傾向は来年度、2021年度入試でも続くと考えられます。学習指導要領も大きく舵が切られました。その先頭に立って、中学受験では大学受験をも見据えた学力を測る、そんな問題が出題されるようになっていています。

中学入試の理科で要求されている能力は、いわばオールラウンドな能力と言っても過言ではありません。まずはリード文を正確に「精読する力=読解力」、その中から条件を抽出する力=分析力、そのようなデータを使い、仮説をもとに課題を解決する際に何が使えてどのように考えていくか試行錯誤する力ー思考力、そして記述問題や途中式などで、課題解決のために答えを導き出し、そのプロセスを説明する力=表現力、といったものです。これは理科だけに限ったことではありませんよね。どの教科にも共通する力です。

ただし、教科によって出題の仕方が異なるので、理科においてはまず「これは何に関する問題なのか」を素早く見極め、リード文や設問に示されている条件を必要十分に抽出し、分析してから実験内容を吟味して求められている答えを出す、という一連の力が試されます。

もちろん、何の基礎知識もなく、また理科の現象にまつわる原理原則をまったく知らずに初見の問題にあたってもまず解けません。自分がこれまで解いてきた問題、得てきた知識を的確に使い、その問題を解くために「何をすればよいのか」という判断を瞬時に行うことが求められます。ですから、問題を解く前提として、原理原則の正確な理解、単元ごとに必要な受験定番の基礎知識はしっかり身につけておく必要があることは忘れないようにしましょう。

では、2021年度の中学入試の理科ではどのような問題が出題されるのでしょうか。今年は新型コロナウィルスの感染拡大があり、例年とは異なる受験勉強をしなければならなかった受験生に対して、基礎問題を中心に出題する、と発表している中学校もありますが、それほど多くはありません。多くの中学校では、これまでの出題傾向を大きく変えることなく、受験生の実力を試す問題が出題されるでしょう。

そこで、今回は2020年度のに出題された理科の入試問題の出題傾向を見ながら、来るべき2021年度入試に向けて押さえておきたい出題のポイントをまとめます。昨年とまったく同じ問題は出題されませんが、どのような傾向の出題が続いているのかを知っていることによって、追い込みの対策が立てられます。生物・地学・化学・物理の4分野について、それぞれ学習ポイントや今後の出題傾向についてまとめるので、ぜひ参考にしてください。

生物:環境問題と論理的思考を測る新しい問題がカギ

生物分野は身近な分野ではありますが、範囲が非常に広いのが特徴です。また、4分野の中では最も覚えておく知識が多い分野でもあります。そのため、「暗記のところだから後回しに」してしまうご家庭は少なくありません。しかし、そのような考え方は危険です。なぜなら、生物分野はいろいろな単元を絡めて非常に多種多様な問題を作りやすい分野だからです。

科学の原理原則と基礎知識は必須

たとえば、植物について見てみましょう。植物については、4年生の受験カリキュラムの最初のほうから取り上げられており、また小学校でも多く学ぶところです。アサガオやアブラナなどは教科書で取り上げられている植物ですし、夏の自由研究でアサガオを家に持ってきて観察日記を書いたことがある方も多いのではないでしょうか。

こうした植物のつくりや光合成などの働きの仕組みについては入試でも頻出です。また、動物では昆虫のからだのつくり、育ち方の特徴など、知識レベルとしては基礎知識を問う問題が多くの学校で出題されています。こうした植物、動物の基礎知識を問う問題であっても、単なる1問1答方式というのではなく、特徴を設問にして逆引きで答えを出させるものや、実験を行う際に植物の特徴を答えさせるなど、出題のされ方はさまざまななので注意しましょう。決して単純な問題の形では出てこないので、深く正確な知識を身につけておくことが大切です。

そのためには、塾のテキストももちろん大切ですが、小学校の教科書に載っていることを隅々まで理解しておくこと、暗記しておくことも大切です。特に実験の図の説明部分として小さく書かれている部分が入試で聞かれることは非常に多いです。読み飛ばすことなくしっかり理解しておきましょう。また、資料集でカラーで植物や動物の特徴をつかんでおくことも大切です。

今後の入試のキーワードはズバリ環境問題

2020年度の理科の入試で最も大きな特徴と言えるのは、「環境問題」に絡めた出題が非常に多く見られたということです。たとえば、農薬に使われる化学物質の「DDT」が、食物連鎖の過程で草食動物や肉食動物の体内に蓄積していくというデータを読み取らせる問題が出題されました。また、社会問題にもなっている「プラスチックごみ」に関する問題など、時事問題を1つの大問として考えさせる問題も出題されています。

こうした問題を考える際に、単に化学物質の名前を知っていても解けませんよね。食物連鎖の仕組みそのものが分かっていなければ、いくらグラフが出されていてそこに答えがあっても何が正しいのか読み取ることができません。また、プラスチックごみについても、単にそういうことばを聞いたことがあるな、という程度では、それに関してありとあらゆる角度から出題される設問に答えることができず、芋づる式に失点してしまうことでしょう。理科の場合、前の設問の答えを発展させて次の設問に答えさせる問題や、問題文と課題について記述させる設問が最後に用意されていることが多いからです。

こうした傾向は数年前から続いており、今後も続いていくと考えられます。なぜなら、単なる知識問題や計算問題では受験生どうし差がつかないため、学校側としては「どれだけ本質的な理科の問題に関心を持っているか」というところを突き、差がつく問題を作問してくるためです。そうした問題に答えられてこそ、中学校が求める科学的好奇心が身についていると判断されるのです。

今後の入試では、たとえば植物や動物についての基本的な知識を聞いた後で食物連鎖について思考錯誤させ、さらに環境問題につなげていく、という問題構成の出題も予想されます。そして、そのようにテーマをいくつか1つの大問で取り扱うような問題が増えていくと考えられます。記述問題を出題する学校では、環境問題について、条件をつけたうえで、どのような対策をとればよいのかについて、受験生に意見や課題解決法を書かせ、根拠も示させると言った記述問題を出題するところも出てくるでしょう。

そのため、理科と時事問題は切っても切れない関係だということは意識しておきましょう。あまりにも難しい内容が出題されるわけではありませんが、時事問題、環境問題についての問題が出てきたときに、「どのようなことが社会問題になっているのか」「自分ならこのような解決方法を考えつく」といったようなことをその場で簡単で良いので考えておくことが重要です。

小学生が考えることですから、中学校も難問を用意しているわけではありません。ただ、知識偏重になっていませんか?自分の頭で今よの中で起こっている問題について考えたことがありますか?という中学校からの問いに対して答える姿勢を養っておくことが重要だということは理解しておきましょう。

論理的思考力を試す問題も

理科には科学的な論理的思考力が不可欠です。ですが、単に思考力と言われてもピンとこないかもしれません。そこで例を挙げてみましょう。論理的思考力を測る問題として考えられるのは、たとえばDNAや血液型などの「遺伝」をテーマにした問題の出題です。この単元は、大学入試、特に医学部入試でも重視される生物の大きなテーマです。そこまでの知識レベルや思考力は必要ありません。中学入試は中学入試ならではの出題に慣れておきましょう。

DNAや血液型など、遺伝にまつわる出題の場合はどのような形式で問題がつくられるのでしょうか。考えられるのは、まずリード文(おそらくかなり長くなるでしょう)で、DNAや血液型の「遺伝の法則」について図などを用いて説明し、ときには実験を行って条件などを読み取らせるパターンです。そうした長いリード文や実験、条件、図などを正確に読み解き、設問で様々な角度から遺伝について考えさせる、という問題が出題されるでしょう。

実はDNAや血液型の遺伝は、小学校で学ぶ範囲ではありません。だから解けないんじゃないの、と考えるご家庭も多いかもしれません。しかし、そういう考え方は中学入試では通用しません。なぜなら、こうした問題の場合、遺伝法則の細かい知識を答えさせるのが目的ではないからです。

あくまでもリード文に出てくる内容は「題材」に過ぎず、リード文の中で詳しく説明されているので、書かれている内容をしっかり正確に読み取り、理解し、図や表からデータを抜き出し、条件を加味して考える、という、ほかの題材をもとにした問題と何ら変わりはないのです。

つまり、リード文の内容をきちんと理解できていれば、一般的な生物の知識を使って答えることができるようになっているのです。「知らない問題だから解けない」と投げ出すのではなく、どのような問題でも興味を持って取り組む姿勢が問われていると言えるでしょう。こうした問題は実は差が付きやすく、合否結果を分ける問題ともいえるのです。

生物はリード文と条件の読み取りがカギ

生物分野と言うと、どうしても暗記と思われがちです。たしかに覚えなければいけない最低限のことはありますが、単に細かい知識を問うような問題は現在の中学入試では減少傾向にあると言って良いでしょう。つまり、知識量だけで正解できるような時代ではあり暗線。

今後の入試問題の理科の問題も、リード文やデータ、条件をしっかり読み取り、その中で身につけてきた知識を以下に現場で引き出し、使いこなせるかどうかがポイントになると考えられます。

地学:天体・気象・地震など時事問題に絡めた出題が増加

地学分野は、時事問題と絡めた問題が非常に多く出題される分野です。今年も探査機はやぶさの帰還や、民間宇宙飛行に日本人の宇宙飛行士が参加し、国際宇宙ステーションに滞在して実験を行う、というニュースが流れましたね。

時事問題は地学では必須

2020年度の中学入試でも時事問題に絡めた天体の問題が多く出題されました。2019年には探査機「はやぶさ2」が小惑星「リュウグウ」へのタッチダウンに成功したというニュースを題材に取り上げた中学校がありました。

理科の時事問題に関しては、普段から興味を持って科学のニュースに接しているか、という姿勢が見られています。2020年には、部分日食、火星の接近、土星と木星の接近が観測されました。また、オリオン座のベテルギウスが大きく減光していることも話題になりました。そのため。こういった題材が2021年度の入試で出題される可能性があるでしょう。

地球以外の天体からの観測問題も頻出

このほか、2019年はアポロ11号の月面着陸から50周年でした。このことから、「月」に関する問題も2020年には多く入試で出題されたのです。地球から月を見たときの満ち欠け、日食に関する問題は定番ですが、地球からではなく月から、あるいは宇宙ステーションから地球や太陽を観測したらどうなるか、という問いを投げかける問題を出題する学校もありました。

2020年も多くの天体ショーや天体にまつわるニュースがありました。そのため、時事問題と絡めた地学の問題は多く出題されるでしょう。ただし、細かい知識を知っているかどうかを問われるわけではありません。それぞれの天体の動き方や見え方といった基本事項をしっかり理解し、条件が変わったところで見方を変えられるかどうか、そうした柔軟性を問う問題が多く出題されるでしょう。いわば観察眼が問われていると言えますね。

従来の理科の入試問題では、「地球から見た」月や惑星の動きを答えさせるのが定番でしたが、最近では、火星から北極星やオリオン座を観測した場合の星の動きを答えさせるなど、地球以外の天体から星を観測したという設定の問題の出題が増えています。こうした問題に対処するためには、どうしてもパターンを覚えようとしてしまうのですが、いくつもパターンがありすぎて混乱してしまいます。ですから、考え方を変える必要があります。

こうした、地球以外からの場所から天体を観測した設定の問題に対処するためには、まずは地球から見た星の動きについて正確にしっかり理解することが問題解決の第一歩です。ほかのパターンはすべてこの基本形の応用に過ぎません。まずは基本形をしっかりマスターしたうえで、ほかの天体上でその動きがどうなるか応用していくというステップを踏むことが大切です。

気象や地震も基本と時事問題が融合する傾向

「気象」の単元では、2020年度の入試では「露点」に関する問題を出題する学校が目立ちました露点とは、空気中の水蒸気が冷やされて水滴になるときの温度のことです。空気中に含むことができる最大の水蒸気量、つまり飽和水蒸気量は、温度が高いほど多くなることはテキストでも勉強しているはずです。

その基礎知識をもとに、各温度ごとの飽和水蒸気量を示した表や、湿度を求める公式などをリード文に詰め込んで、湿度や温度を計算させるといった問題が数多く出題されました。これにとどまらず、露点から雲の発生に問題を発展させ、フェーン現象につなげる、といった問題も多く出題されたのです。

単に露点ひとつとっても、それをもとにした科学現象に結びつけることによって、さまざまな問題を作ることができます。ですが、実は聞かれていることは基本的な知識で答えられるものがほとんどです。ただ、露点→雲→フェーン現象、と題材が変化しているのを見ただけで「見たことがない」「複雑そうでできない」と見た目だけで判断して解けなかったという受験生もいた、つまり差がつく問題となったのです。

理科の問題は一見複雑そうに見えて、実は1問1問の難易度はそれほど高くないことがほとんどです。しかし、範囲が広がり、1つの大問で出てくる単元が増え、問題数が多く見えてしまうと、その時点で諦めてしまう受験生は少なくありません。ですが、それは非常にもったいないことです。

解いてみれば「なーんだ、簡単だった」と思っても、入試本番ではそうもいっていられません。初見の問題に対して、「何に関する問題か」仕分けして、知っている知識を総動員し、何よりリード文や条件、グラフや図といった問題にある材料を余すところなく使い切る姿勢が大切です。

また、気象については、「台風」に関する問題も最近頻出ですし、2020年も大きな台風による土砂災害などがありましたから、2021年も変わらず頻出単元だと言って良いでしょう。台風を上空から見たときの地上付近の風向きについて知識を覚えているでしょうか?反時計回りに強い風が吹き込みます。また、台風の進行方向の東側と西側ではどちらが風が強いかについても問う問題は例年多くの学校で出題されています。リード文はかなり長くなると考えられますが、実際に聞かれていることは基礎的な知識です。ここでもあわてず、知っていることを総動員して諦めずに問題にあたりましょう。

12月に入ってからも、各地で地震が頻発しています。日本は地震国ですし、首都直下型地震がいつ起こるかもわからない状態にさらされています。そのため、中学入試の理科では「地震」に関する問題は頻出中の頻出と言って良いでしょう。東日本大震災など、実際に起こった大きな地震を題材にしながら、地震計のP波とS波の波形のグラフを読み取り、波の速度や震源について考えさせる問題が非常に多いです。2020年には、震源をコンパスで作図させる問題も出題されているので、地震はやはりしっかり押さえておくべき単元です。

地学分野は、時事問題を絡めた問題を作りやすい分野なので、2021年も天体、気象、地震、災害に関する問題を出題する学校は増え続けるでしょう。まずは現象を理解し、基礎知識を押さえたうえで、2020年度の他校の入試問題を解いてみることも対策としておすすめです。

化学:二酸化炭素とろうそくの問題が多く出題

2020年度入試では、科学分野について、いろいろな物質を特定したり分類したりする問題が多く出題されました。これは毎年のように出題されているひとつのトレンドです。こうした問題を解くためには、それぞれの物質の基本的な性質を理解することがまず必要です。

とくに「水溶液」については、酸性・中性・アルカリ性といった「性質」、解けているもの(溶質)の状態、つまり固体・液体・気体、またリトマス試験紙やBTB溶液の色の変化などは必ず覚えておかなければならない基礎知識です。

化学反応は入試の鉄板

気体の発生や中和など、化学反応に関する問題が多く出題されるのも中学入試の理科ではずっと続いている傾向です。たとえば、亜鉛に塩酸を加えると「水素」が発生しますが、亜鉛と塩酸が過不足なく反応するときの割合を考えさせるという問題になると急に難易度が上がります。計算問題が入ってくるのもひとつの要因です。

こうした化学反応に関する問題では、実験のデータを表やグラフで提示されていることがほとんどです。リード文を読み、実験とその条件を整理しながら実験結果のデータを読み取り、そのうえでグラフを作成させたり、データを解釈させたり、条件を加えてさらに計算させたりするのが典型的な化学反応の出題だと言えるでしょう。

こうした問題は、物質が初めてだとあわててしまうものですが、必ず問題に実験結果などの必要なデータは入っています。あわてずに知っている物質の場合の実験知識を近づけて問題に当たれば、それほど怖くないので普段の実験考察問題をていねいに解いて対策しましょう。

2020年度に多く出題された単元

2020年度の入試問題では、気体のなかでも「二酸化炭素」に関する問題が非常に多くの学校で出題されました。二酸化炭素の性質を聞く問題や、物質を燃焼させたあとの二酸化炭素の量を計算させる問題などです。中には、二酸化炭素を固体にした「ドライアイス」を題材に取り上げた学校もありました。二酸化炭素は身近な気体なのでそれほど難しいとは思わないかもしれませんが、形を変えると途端に難しく見えてしまいます。また、燃焼の問題と絡めやすい単元なので、これも頻出となっている理由のひとつだと言えるでしょう。

燃焼について触れましたが、科学分野の入試問題ではこの「燃焼」も超・頻出分野です。2019年にノーベル化学賞を受賞した吉野彰さんが、科学に興味を持ったきっかけとしてファラデーの「ろうそくの科学」という本を挙げていましたね。買って読んだという受験生も多いのではないでしょうか。このような経緯もあり、2020年度はロウソクの実験をテーマにした問題が多く出題されています。

決して突飛な題材ではないので、2021年度の入試でも十分出題される可能性があります。また、ノーベル賞は2020年度は日本人の受賞はありませんでしたが、話題となっていたテーマやニュースで取り上げられたことに関する出題は今後も続くと考えられます。前の年のできごとを形を変えて出題することも十分あり得るので、ぜひ時事問題にも興味を持っておくことをお勧めします。

入試定番単元はしっかり押さえておこう

化学分野の入試頻出の定番単元と言えば、やはり水溶液、水溶液の性質、気体の発生、中和、燃焼といったところです。これらは必ずと言っていいほどどこの中学校でも何らかの形で出題してきます。もちろんこれだけに限ったことではありませんが、融合問題として、ほかの単元と絡めて出題されることも多い単元です。

必ず出るなら必ず得点したいですよね。こうした単元の問題も、長いリード文を読み、条件を整理し、実験内容を押さえ、結果のグラフや表を読み取り、計算や記述で答えていくということは変わりません。まずは原理原則と基礎知識をしっかり確認し、実験データの読み取りに細心の注意を払っていくことが大切なので、ぜひ意識してください。

物理:密度やLEDの問題が増加傾向

最近、物理分野においては、「密度」という概念を扱う問題が頻出傾向にあります。皆さんは、「密度」と問われたときに正確に答えられるでしょうか。密度とはつまり、1㎤当たりの重さです。それが水よりも重いものは水に沈むという性質があります。たとえば、油などの物質を見ずに入れるとどうなるのかをたずねたり、実験を行ってその結果から密度を求めさせたりする問題が増えている稽古にあります。

実はこの「密度」は、従来は「浮力」の中のひとつの問題として扱われてきたという経緯があります。浮力では、物質が水に浮いたり沈んだりする現象を取り扱いますよね。そこで密度を切り口にする問題がいわば独立してきたような感じです。浮力の学習をする際には、物質の密度についても意識しながら勉強すること、何より浮力の基礎知識を確実に理解しておくことが必要です。

力学は組み合わせ問題に注意

物理分野では、力学に関する問題は頻出です。苦手とする受験生が多く、特に女子の場合非常に差が付きやすい単元ですので、難関校を中心に多くの学校で出題されています。

中でも、てこのつり合いについての問題は毎年のように出題されていますが、2020年度の入試で目立ったのは「さおばかり」に関する問題を出題する学校が見られたことです。てことばねを組み合わせた総合問題ともいえるものですが、てこ、ばね、それぞれ単体を取り上げても難しく感じるのに組あさったらお手上げ、と考えて敬遠した受験生も多かったようです。まさに差がつく問題だったと言えるでしょう。

こうしたてこやばねなど、力学の単元を組み合わせた総合的な問題を攻略するためには、解くためのプロセスを意識することが何よりも大切になります。問題演習で受験校以外の理科の問題から、比較的易しめの組み合わせ問題を選んで演習してみると良いでしょう。良く練られた問題が毎年のように出題されているので、力をつけるためには過去問をうまく使って実戦的な問題に慣れるのが良いでしょう。

ただし、こうした組み合わせ問題であっても、基本は一つひとつの力学の問題に分解することができる、という意識は持っていましょう。最初から組み合わされたものと意識してしまうと、自分で問題の難易度を上げてしまうことになってしまいます。そこで、ここまではばね、ここからはてこ、などというように、知っている基礎知識に問題を分解して近づけていくことを習慣化してみましょう。一見とっかかりが分からなかった問題でも基礎知識に近づけられたらしめたものです。

電気に関する問題は目に見えないので注意

電気も、物理分野では頻出です。電気については、たとえば乾電池と豆電球をつないださまざまな回路を出題し、豆電球の明るさや流れる電流の大きさを考えさせる問題は頻出です。しかし最近では、それにとどまらず、回路にLEDをつなぎ、流れる電流の向きや大きさを考えさせる問題が非常に増えているのが特徴的です。

また、手回し発電機とコンデンサーに関する問題も増加傾向です。これまでは一部の難関校の専売特許の問題と言えましたが、そうとは言えなくなってきます。LED、手回し発電機、コンデンサーを電気回路と絡めた問題は、今後も増えていくことが予想されます。

また、受験生が苦手とするのが「電流の磁気作用」です。これまでは電磁石の問題が単体で出題されることが多かったのですが、そこから発展させて、電磁誘導を題材として取り上げた学校も2020年には見られました。電磁誘導とは、もちろん塾のテキストで勉強していますが、コイル内で磁界が変化することによって電流が流られる現象のことです。これは受験生なら皆持っている知識です。実際に出題される問題としては、電磁誘導について説明がされたあとで、磁石と電流が流れる向きのデータを示し、そこからさまざまな方向から設問に答えさせるというものです。

受験生になじみがあるようにする問題として、電磁誘導を利用したIHクッキングヒーターといったものが題材となる可能性もあります。ご自宅のキッチンがIHだというご家庭も多いことでしょう、身近なところに電磁誘導を利用したものがあるというのはもしかすると盲点かもしれません。

ただし、IHクッキングヒーターという形をとっているだけなので、必要な電磁誘導の知識や、実験や条件、結果をまとめたデータの読み取りといったことは変わりません少し目先が変わっても、そのこと自体が問題なのではなく、仕組みそのものの深い理解と正確な知識が必要だということを念頭に置いておきましょう。

物理分野は、物理現象を理解できるかどうかが点数に直結する分野です。原理原則が何よりも重要な分野だと言えるでしょう。まずは原理原則と木曽千sh気をしっかり確認し、リード文の読み取り、条件やデータの読み取りや作成の練習を、易しめの過去問でしっかり行うことをおすすめします。

入試の理科では総合的な問題を解く力が求められる

2020年度の中学入試の理科の出題を振り返り、2021年度入試に向けての対策についてご紹介しました。2020年度の入試は、いわば「テキストの学習だけでなく、身の回りの現象に関心を持ってきてほしい」という中学校側からのメッセージが強く感じられるものでした。理科、という教科と考えるよりも、身の回りの現象に興味を持ち、なぜそういった現象が起こるのか、条件を変えたらどうなるのか、疑問に思ったことを試行錯誤し、理科的想像力、思考力を持って入学してほしい、そんな中学校側の思いが読み取れます。これは中学校に入ってからも非常に大切な力だからです。

大問数自体は、大きな変化はありませんでしたが、本文の字数や設問の字数が増えている傾向にあることには注意が必要です。単に知識を問うだけの問題は減り、正確に読んで自分の頭で現場で考えることが重視される時代になってきたと言えるでしょう。実は理科だけでなく、ほかの教科でも同じことが言えます。中学入試では、読解力の有無が結果を分けると言っても過言ではありません。理科で言えば、リード文に書かれている原因、プロセス、実験結果が説明されていることが多いので、内容を正確に読み取り、整理して分析していく練習がとても重要です。

文章中に入っているさまざまな条件を読み落とさないことも重要です。たったひとつ条件を読み落としただけで結果との整合性が取れなくなり、時間ばかり過ぎてしまいます。また、覚えた知識を無理に使おうと思い込みで解くとまず間違えます。初見の問題だからこそ、クリアな頭でリード文や設問をていねいに読めるかどうかが合否を分けるポイントです。

塾のテストと入試問題の違いを知っておこう

最近非常に顕著にみられる傾向なのですが、塾のテストの問題と、入試問題の間には乖離が進んでいることをご存じでしょうか。塾では毎週のカリキュラムに合わせて一定期間に学習した単元を理解したかどうかを確認するテストが主流です。しかし、入試問題はそうではありません。一つひとつの大問が総合問題になっているのです。中には1つの大問の中に異なる分野が入り込んでいる問題もあります。

しかし、塾では基本的に単元ごと、分野ごとの問題を解くことが多いですから、そこで入試問題との乖離が出てしまうのです。入試問題では、たとえば天体を例に挙げると、月、太陽、星それぞれについての問題は解けたとしても、それらすべてが絡んだ問題が解けるかどうかはまた別の問題です。そうした問題が解けないと合格するのが難しくなっている、それが最近の理科の入試問題です。

もちろん、解く際には単元に仕分けて「ここまではこの問題」といったあたりをつけて、自分の知識に問題を近づけて解くわけですが、初見で総合問題だと考えると、そう冷静に解けないということも起こり得ます。こうした総合問題を解くための力をつけるためには、普段の学習で学んだ内容がほかのどれと関連しているのかを考えたり、やはり入試の過去問を利用して総合問題を解く練習を積むのが良いでしょう。

入試問題は練りに練られた良問が揃っています。難問を解く必要はありません。苦手なタイプの問題があれば易しめのものをピックアップして解いてみて、自分が身につけている知識を使いこなせるかどうか確認する、そうしたステップを踏んで学習を進めていきましょう。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。