【中学受験】変わりつつある出題傾向をつかむ!算数編

大学入試改革や学習指導要領の変化によって、中学入試の出題傾向は大きく変わりつつあります。特に算数は、年度によってち、また中学校によって出題傾向にさまざまな特徴があります。以前は計算問題や基本問題が中心だった学校も難問を入れてきたり、出題れる単元も年度によって異なる学校もあれば、必ずこの単元は出題するという学校もあるなど様々です。一時、非常に難化した学校の問題が易化して平均点が跳ね上がるということも少なくありません。

中学入試において、算数は受験生の多くがまず何とかしなければ、と一生懸命になる中心科目です。これまで小学校で学習する範囲を超える出題がなされることもあり、カリキュラムも非常にハードです。それは以前から変わりません。

ただし、最近は基本の解法を頭に入れたうえで、一見して見たことがない、でも実は解いたことのある問題が多く出題される傾向が強まっています。単にパターンを暗記しただけでは解けない、ですが「見たことがある」問題に引き付けて考えることができれば解ける、という問題も少なくありません。

算数は最終的に解答があっているかどうかで点数が大きく上下するために、正解しなければ、と必死になる受験生の方が多く、ひとつでも多くの問題パターンを頭に叩き込もうとしてひたすら問題演習を繰り返す、ということも少なくありません。また、塾のテキストもできるだけたくさんの問題を詰め込んで、ひとつでも多くの解法パターンを覚えさせる、という作りになっており、当然それを使う塾の授業もどうしてもそういった解法パターンの暗記に走りがちです。

ですが、そういった解法パターンありきでは太刀打ちできない出題も増えています。単元はたしかにあるのですが、単元を融合させたり、前の問題が次の問題のヒントになっていたりと、中学校側は「その問題で何を聞いているのか」という本質部分をフォーカスして問題を作るようになっています。そういった問題には、単に解法パターンをたくさん覚えていても歯が立ちません。一見すると、「知らない問題」に見えてしまうからです。

そういった問題を攻略するためにはどうすればよいのでしょうか。各単元において重要な解法パターンを理解することはもちろん必要ですが、算数は1問1答ではありません。ある解法をどのような問題のときに使うのか、「解法を理解したうえで使いこなす」能力が求められていることを忘れてはいけません。

大学入試改革や学習指導要領の改訂に合わせて様変わりしつつある中学入試ですが、いわば先取りをしていると言えます。覚えていればできるという問題は減り、理解を前提として現場で試行錯誤させる問題が増えています。現場で考えることのできる柔軟な思考力がこれからさらに求められます。

また、問題文が長くなってきているのも近年の算数のトレンドです。長い問題文の中に条件がいくつも入っており、それを整理したうえで一つひとつの問題に取り組む必要があるのも最近の傾向として押さえておくべきです。

今回は、変わりつつある算数の出題傾向や、今後の入試問題では何が合否を分けるのかについて解説します。対処する方法についても解説しますので、ぜひこれからの学習において必要な視点を意識して学習を進めていきましょう。

算数の問題は3つの種類に分けられる

算数、と一口に言っても図形、文章題、計算問題・・・とさまざまですよね。もちろん、各単元をしっかり学習し、弱点を克服していくことは何よりも大切です。ただし、どの単元を学習する場合も、単に問題を何の意識もなく解いているだけでは、算数を得点源にすることはできません。

では、算数を得点源にする、少なくとも「解き負けない」ためにはどのようなことを意識すればよいのでしょうか。ここでは、算数の問題を、単元ではなく、段階に着目して分類してみましょう。算数の問題は、大きく分けて以下の3つの種類に分けられます。

  1. 受験生が誰でも解いてくる基礎基本問題
  2. 「差がつく」受験定番問題
  3. 解ける人がほとんどいないいわゆる「難問」

これは、普段から問題演習をする際にぜひ持っていただきたい視点です。受験生が誰でも解いてくる基礎基本問題については、やはり必ず解けるようになりたいものです。ですから、こういった基礎基本問題、計算問題などについては、日々欠かすことなく訓練を積んで、どんなものも必ず解けるようになることが必要です。

基礎基本問題を押さえるためには、日々の学習が欠かせませんが、学習計画の中に織り込んでしまいましょう。朝勉強に30分程度、毎日組み込むなどすると良いですね。使う問題集は、計算と一行問題の問題集です。塾によって異なりますが、サピックスの基礎トレは注意が必要です。表裏面で同じ問題となっているので、ただこなすだけになってしまいがちだからです。

基礎トレをやるなら、まず1回解いたら、間違えた問題だけ少し時間を空けて解くなどの工夫が必要です。特に計算問題の場合、解答を覚えてしまって、途中式をおざなりにしてしまいがちです。計算問題ひとつとっても、段階を踏んで式を立て、最終的に計算に持ち込むというステップを忘れずに丁寧に取り組むことが必要です。決してやっつけ問題にならないように注意しましょう。

また、3.の難問については、できる問題、できない問題がありますし、今の段階ではあまり時間をかけすぎる必要はありません。難問は複雑なので、1問完璧にするにはかなりの時間を必要とします。そして、お子さんは難問を解くときに時間をかけていますが、その間頭をフル回転しているとは限りません。ある程度時間を区切って、今の段階でどこまでできるのか、ということを把握する程度にとどめておきましょう。

一番力を入れるべきなのは、「差がつく」受験定番問題です。受験定番問題ですから、難しすぎず易しすぎないという特徴があります。ここに、各中学校の特徴が出るのです。「差がつく問題」とは、その問題が解けるかどうかで合否が決まる、大きく点数差がつく、ということです。この「差がつく問題」はおおむね模試や入試問題で40%~60%程度含まれています。それだけの点数を取れるか取れないかで、以下に大きく差がつくかがわかりますね。

それほど難しいように見えない問題であっても、一ひねりしてあったり、処理に時間がかかったり、というのが「差がつく」問題の特徴です。また、難しそうに見えても実は知っている知識で解けるという問題もこれに含まれます。そこをしっかり見極めて、ときには解く順番を考えながら解き進むことが必要になってくるので、勝敗を分けるポイントになるのです。

次項では、このような「差がつく受験定番問題」についてご紹介します。

 「差がつく」定番問題が合否を分けることを知っておこう

「差がつく受験定番問題」は、一見して知らない問題に見えることが多いのが特徴です。いわゆる難問は歯が立たないことも多いですが、受験定番問題は、「定番」と言われるだけあって、必ずどこかで一度は見たことがある問題を、少し形を変えて出題していることがほとんどです。

それに気づくことが出来るかどうかが「差がつく」原因なのです。定番問題である以上、受験生はみな訓練してきます。だからこそ、受験で出るだろうとされている定番問題に対する対処は、受験対策として非常に重要になってくるのです。

多く出題される単元は?

差がつく定番問題として多く出題される単元にはどのようなものがあるのでしょうか。模試などで傾向を分析している方もいらっしゃるでしょうが、分野別に出題されやすい単元としては、「割合」「比」「速さ」「平面図形」「立体図形」といったものです。これらは、苦手とする受験生も多いところであり、また、非常に様々な見た目の問題を出題しやすい単元です。また、一口に「割合」といっても、様々なパターンがあります。そして、そのパターンだけでは対応できないのが、差がつく定番問題と言えるのです。

中堅校と難関校の間で違いがあるのが「速さ」の出題割合です。速さの問題は、グラフや図、水に関する問題や場合の数に絡む問題など、非常にストライクゾーンが広いので、理解に時間がかかります。そのため、難関校では出題が多く、中堅校では定番的な問題が多い、というのも特徴です。

記述説明問題が増加しているのも特徴

近年、非常に注目を集めているのが、算数でも記述説明問題の出題が増加傾向にあることです。定義や原理、法則について「なぜそうなるのか」ということを根本に戻って説明させる問題が出題される傾向があります。なかには、「=」の意味や、はとの巣原理などについて説明させる問題もありました。算数にはたくさん情報が詰まっているだけに、正確に法則や原理を理解して、それを使いこなせるかどうかを見るためにこういった問題が増加していると考えられます。

立体図形では回転体は差がつく定番

近年、立体図形の問題で、「回転体」の問題が多く出題されています。立体図形問題は差がつく受験定番問題ですが、角柱や角錐といった立体図形の単純な切断問題の出題よりも、回転体の出題が目立ちます。また、回転体の出題といっても、解答にたどり着くまでのプロセスが複雑化し、計算量が増えている印象があります。

「この解法を使えばとけるだろう」というめどを立てることはできても、最後の計算に持ち込んだときにミスしてしまう、という問題も多いですが、パッと見て「立体図形の回転体だということはわかるけれど、解法のめどがつかない」という問題も出題されています。これは差が付きますよね。

また、問題文の読み誤りによって差がついた問題が出題されることもあります。数年前、桜蔭中学校で回転体の問題が出題されましたが、定番問題であればどこを軸にして回転させることが多い、というパターン問題に一見見える問題であっても、軸が通常のパターン問題と異なるところだということを見落として、パターン問題に飛びついて点数を落とす受験生が続出したことがありました。これは急ぐがあまり、問題文を読み誤った受験生が非常に多かったということです。このような問題文の読み取りも差がつくポイントになるので注意しましょう。

球体の問題は少ないけれど差がつく

球体の問題については、出題する中学校はそれほど多くはありません。また、それほど難問といったものも出題されることはあまりありません。ですが、球体になれていない受験生は多く、さきほどご紹介した回転体と同じように、立体図形の問題のバリエーションのひとつとして差がつくため、押さえておきたいところです。

球体の問題の場合、切断面を作図させる問題が多く出題されます。切断面がどうなるか、球体も含めて実験してみると良いでしょう。100円ショップでスポンジが売っているのですが、それを球体にして、切断面をいろいろ作ってみると実体験として身につき、ひるむことなく問題に取り組めます。これは、球体以外の角錐や角柱、また円錐などの切断問題にも役立つのでぜひやってみてください。

作業量や計算量が増加している

立体図形の回転体のところでも解説しましたが、全体として算数の問題では、作業量、計算量が増加している傾向にあります。たとえば、「速さ」の問題では、問題文に書かれている条件や、グラフの読み取りが複雑化し、また、ヒントも少ないという問題が増えています。

また、得意な受験生と苦手な受験生が分かれる「場合の数」では、計算パターンで簡単に答えが出るというものではなく、実際に書き出したり調べたりして手を動かして作業を必要とする問題が増えてきています。筑波大学附属駒場中学校や桜蔭中学校といった、最難関校ではこういった「数え上げる」問題はこれまでも頻出でしたが、今後、さまざまな学校でこのような現場で試行錯誤させる問題が増えてくると考えられます。

「どこかで見たことがある」問題こそ差がつく

これまでも頻出だった難問は、最難関校ではこれからも変わらず出題されると考えられます。いわゆる「思考力タイプ」の問題ですね。本来、思考力タイプの問題は差が付きづらいものです。なぜなら、得意な何人かは解いてくるけれど、多くの受験生は解けないからです。

その反動とも言えますが、「どこかで見たことがある」定番問題の、ひとひねりした難問は大きく差がつく問題だと言えます。これには、先ほど述べた数え上げなども含まれますし、グラフの読み取り、条件の把握も含まれます。こういった、定番の難しめの問題をしっかり解けるようにしておくことが、算数の得点を安定させるためにとても重要です。

ただし、こういった問題は定番問題とは言え、解法を丸暗記してもまず解けません。必ず、「なぜそうなるのか」ということまで理解を深め、自分のことばで説明できるようにしておきましょう。それが出来るかどうかが、差のつく受験定番問題を解ききって、他の受験生と差をつけられるきっかけになります。

正答率の低い定番問題がカギ

このように、差がつく定番問題が入試においては合否を分けます。ですから、差のつく受験定番問題を確実に解ききることが非常に重要だと言えるでしょう。今後の対策としては、定番問題をまず安定した得点源としたうえで、正答率の低い定番問題でどれだけ得点を積み上げられるかということを大切にしていきましょう。そういった正答率の低い定番問題が合否を分けるポイントとなります。

思考力系の問題も中には含まれますが、受験学年の皆さんはすでにそういった問題に触れているはずです。いわゆる難問ではなく、模試の正答率などをみて、20%~40%程度の正答率の定番問題を潰していくことをおすすめします、早い段階からそのような意識を持っていると、どこが合否を分けるのかを意識しながら学習を進めることになるので、算数の得点のしかたを体感していくことができます。

まとめ

大学入試改革や学習指導要領の改訂によって、中学入試問題の算数は変化を続けています。その変化についていくためには、どういった問題で実際に差がつくのか、ということを意識して1問1問大切に問題を解いていくことが必要です。

定義や法則、解法について説明させる問題も増えているので、「なぜそうなるのか」ということを常に意識しながら問題を解いていきましょう。「テキストにこう書いてあるからそれを覚えて問題を解く」という姿勢では、「なぜそうなるのか」を理解することができず、差がつく定番問題に対処することはまずできません。差がつく定番問題は、まさにそういった「なぜそうなるのか」を理解できているかどうかを試す問題だからです。

今の段階でもチャレンジできる問題はたくさんあります。難しすぎる問題に時間をかけるよりも、正答率低めの受験定番問題に対する対策をしっかりとっていきましょう。ただし、そういった問題を確実に解いていくためには、正答率の高い受験定番問題で間違えないことが大前提です。そういった問題で実力を把握したうえで取り組むことをおすすめします。

算数は、最終的には式を立てて計算に持ち込んで解答を出します。その際には、正確で速い計算能力が必須です。計算問題をおろそかにしていると、いくら差のつく定番問題の解答の糸口をつかんでも結局は不正解になってしまいます。そういうことの内容、バランスよく計算能力を養成するための訓練も日々積むようにしていきましょうね。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。