夏期講習も終わり、通常授業が始まって約1カ月がたちました。5年生の皆さんは受験勉強道のりのちょうど真ん中にいる時期です。夏期講習ではかなりの問題を解き、毎日長時間学習をしていたことと思います。折り返し地点に立った今、さらに多くの問題を解き、学習時間も増えていることでしょう。
ここで、一度振り返っていただきたいことがあります。それは、「これまでに学習したことが身についているか」ということです。
夏期講習前の通常授業での積み残し、夏期講習で毎日たくさん解いた問題の積み残しがたまっているころではないでしょうか。5年生はまだ新しい単元を学習する時期なので、通常授業でも日々新しい分野、単元の学習を繰り返している時期です。それまでにすでにかなりの単元を学習してきたにもかかわらず、目の前の新しい単元だけを見ていませんか?
単元ごとのテストを指標にする場合はそれでも何とかなるかもしれません。ですが、範囲のない組み分けテストなどの総合テストで成績が下がってきたように思う、ということはありませんか?それは、これまで学習してきた範囲の復習が十分できていないことが原因になっていることが多いのです。
新しい単元を学習する5年生の皆さんにとっては、毎週の範囲をこなしていくのに精いっぱいという時期であることはたしかです。ですが、塾で「6年生になったら総復習をするから大丈夫」と言われたことはありませんか?総復習をする時期が来るんだから今は目の前のことをやれば、というのは半分正解で半分間違いです。6年生でいう「総復習」というのは、すべての単元を融合させた難度の高い総合問題を解いて全範囲をざっとみる、という意味だからです。
そこで大切になってくるのが、新しい単元の学習と並行して、これまでに習ってきたところの復習です。すべての範囲をまんべんなくやらなければいけないというわけではありません。
今回は、これまでに習った範囲の復習の方法と注意点についてお伝えしていきたいと思います。
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5年生で学習する内容が入試の結果に直結する!
勉強の習慣づけがメインだった4年生と違い、5年生は受験勉強の中でも重要な内容を非常に多く学びます。一見、中学受験においては6年生が最重要期間に思われますが、実は入試問題に出題される主要な内容は5年生で学習するもので、6年生はほぼ復習と最後の基礎固めに徹することとなります。5年生の間に学んだ知識をどこまで定着させられるかによって、6年生になってからの余裕もかなり変わってくるでしょう。
受験勉強をしていると、一つひとつの単元を学習していながら、本番は6年生からだから・・・と思っていませんか?6年生になると入試の過去問演習をはじめ、総合問題演習が中心になるので、そこで点数がとれるようになればいいや、と漠然と考えている受験生のご家庭は非常に多いです。
ですが、テストなどで点数がとれなくて「何が原因なのかわからない」「どうしてこんなに時間をかけて勉強しているのに成績が下がるのか」という悩みを抱えてしまうこともまた多いのが現実です。なぜなのでしょうか。
それは、「中学受験では5年生で習う部分が非常に重要である」ということに気づかず、ただいわゆる単元学習ととらえて学習してしまうからです。中学受験で学習する範囲は非常に広く、その基礎部分は4年生から5年生までの間に学習します。そして、4年生で習う範囲より5年生で習う範囲の方がずっと広く、また難度も高く設定されています。
つまり、5年生で学習する範囲を軽視すると、後になって非常に困ることになってしまうのです。そのことを意識せずにただ毎週のカリキュラムに追われていると、ただ問題を解いて満足するという実のない学習になってしまい、6年生になってからの学習がうまく進まない原因を作ってしまうことになります。
4年生のときとは学習の仕方が変わる!
5年生は、ざっくりとした知識を定着させていた4年生の頃とは打って変わって、膨大な知識を詰め込む学習をすることになります。そのため、4年生以上に上手な時間の使い方、効率的な学習方法が求められます。
4年生は、授業と復習のルーティーンを確立することが大切ですが、5年生になると、ここに予習も加えないと勉強が追いつきません。講習中は余裕がないため復習ほどきっちりやる必要はないので、テキストの見出しを読んで要点の把握だけでもしておきましょう。これだけでもしておくことで、授業を漫然と聞き流すのではなく、要点をしっかりとメモするなど有意義なものにすることができます。
どの教科も5年生で学習する単元が入試での出題必須の範囲です。中学受験の場合どうしても算数に目が行きがちですよね。算数も、比の考え方をはじめ図形問題も複雑なものを理解する必要がありますし、四則計算の難度も受験レベルに近づき、徹底的に練習しておかないと6年生からの学習についていけなくなります。
また、理科では物理分野や化学分野の計算問題が入試で頻出ですが、これらを中心的に学ぶのも5年生です。社会では、入試全体の4割程度を占める歴史を5年生の短期間で一通り学習します。これらのような難度の高い部分を学習するのが5年生ですが、ここで学ぶことが6年生の学習に向けてどのくらい重要なことなかを意識しながら学習しないと、6年生になってもう一度一から学習しないと問題が解けないということになりかねません。ですが、6年生になってから一からやり直す時間はまずありません。
国語も、6年生になると読解問題の難度が急に上がります。5年生までに読解の基礎や漢字・ことばの学習を徹底していれば自然に入っていけますが、国語はどうしても後回しにされてしまう傾向にあります。皆さんは普段の学習で国語に割く時間はどのくらいでしょうか?他の3科目を優先して国語に関しては塾の授業でやってくるだけ、家に帰ってからは復習はせず、模試はぶっつけ本番という受験生も多く、また国語の重要性から目を背けてほかの教科の成績にも影響が出てきてしまうという、実は「怖い」教科であることを実感して学習に活かせるのも5年生の間までです。
このように、5年生というのは、新しい単元を学ぶだけでなく、5年生になってから習った範囲を常に振り返り、さらには4年生で習った範囲も復習を常にしていかなければならないという非常に忙しい学年だということをまず意識していただきたいと思います。それを意識しないで「6年生で総復習」ということばに惑わされてしまうと、6年生の間に取り戻すことができず常に不安感を抱えながら学習していかなければならず、成績も上がらないという結果になってしまいます。
では、どのように復習をしていくのがよいのでしょうか?復習法や注意点について解説していきます。夏期講習までに習った範囲の教科別復習法と、復習のときに忘れてはいけない視点についてお伝えします。
夏期講習までに習った範囲の教科別復習法
5年生で習う範囲が中学受験で非常に重要な部分を占めるということについてはお判りいただけたのではないでしょうか。5年生の新しい単元学習はまだ続きます。どんどん新しい知識を詰め込まなければならない5年生。効率的に復習しなければ追いつかなくなってしまいます。科目毎に復習方法を見ていきましょう。まずは、夏期講習までに学んだ範囲についての復習の積み残しをどのように攻略するべきか、教科別にご紹介していきます。
算数
中学受験生が一番気になる教科、それはやはり算数だと思います。2020年からの大学入試改革も見据えて、各中学校の入試問題も典型問題ばかりではなく、見たこともない問題を出題してくることも増えてきています。見たこともない問題と言っても、習ったことで解けないという意味ではありませんので、構える必要はありません。
算数は特に差がつきやすい科目です。4年生では単元毎にパターンを覚えるだけで済みましたが、5年生では、例えば同じ図形問題でも面積の求め方と合同な図形の性質についての二つの知識を駆使して問題を解かなければなりません。また、少数や分数の計算も4年生と比べて飛躍的に難しくなります。特に分数の概念をしっかりと理解していないと、5年生の算数で最重要単元でもある割合が苦手分野となってしまいかねません。例題で見ていきましょう。
(問1)たかしくんは10歳、お父さんは40歳です。お父さんの年齢はたかしくんの何倍ですか?
これは簡単ですよね。40÷10=4、つまり4倍です。
では、この場合はどうでしょうか。
(問2)たかしくんは10歳、お父さんは40歳です。たかしくんの年齢の、お父さんの年齢に対する割合はいくつですか?
少し聞き方を変えられるだけで急に非常に難化、複雑化したように感じられますね。しかし、やることは最初の問題と同じです。4年生までの感覚ではどうしても、もととなる数が比較対象の数より大きいことに違和感を感じてしまいがちです。割合という言葉を使ってはいますが、数の大小が逆になっているだけで概念としては「倍」と変わりません。ここでカギになるのは分数についてしっかり理解しているかどうかです。分数の概念をしっかり理解しているかどうかでスムーズに理解できるかどうかが変わってくるのです。
5年生の夏期講習後は、特に図形と割合の二つの単元を完璧に理解することが重要です。図形に関しては、もともと得意不得意がはっきりと分かれるところです。苦手意識を持たないように、まずは公式などの知識をしっかりと定着させ、それを利用した問題演習を重ねましょう。よく「図形問題はセンスが問われる」と言われますが、センスだけで点数がとれるほど甘いものではありません。数多くのパターンを理解し、覚えて使いこなせるようになることによってはじめて解けるようになるということを忘れないようにしてください。
国語
国語は、4年生よりもかなり文章が長くなります。問題の文章だけでなく、設問の文も非常に長くなるので、急に点数がとれなくなったという方も多いのではないでしょうか。しかし、文の構造を理解し、部分毎に要約して内容を把握するという基礎的な作業内容は学年によって変わることはありません。説明文・論説文ならば筆者の意見と説明のまとめ、物語文ならばクライマックスでの登場人物の心情の動きが最重要要素となるので、そこを的確に読み取れるようにすることが大切です。これは6年生になっても同じですから、苦手意識がある方は今のうちにしっかり読み取りの方法をしっかり身につけておきましょう・
問題文が長くなり、設問も長くなるため、選択問題で時間がかかってしまう方も多いと思います。また、以前に比べて選択問題の正答率が下がってきたという方も多いのではないでしょうか。それは、設問をしっかり読んでいないことと、問題文の構造を理解できていないために陥ってしまう穴があるからです。これも、文の構造を理解することで解決できます。例題で見ていきましょう。
(問題文)
皆さんは、地球温暖化という言葉を聞いたことがあるでしょうか。日本ではあまり話題に上りませんが、海外には温暖化に歯止めをかけようと声を上げる熱心な活動家も多く、政治家も関心を寄せています。では、地球温暖化によって起こる弊害とは何なのでしょうか?
まず、よく議論の場に上がるのは、海の氷が融けてしまうという問題です。気温が上がることで北極などの氷が融け、海水面が上昇すると、標高の低い土地は沈んでしまいます。
二つ目は、生態系の変化による悪影響です。例えば、マラリアを媒介するマラリア蚊は、現在亜熱帯と熱帯を中心に分布しています。しかし、地球全体の気温が上昇すればこの蚊の分布域が広がり、日本でもマラリアが流行してしまう恐れがあります。
このように、地球温暖化が深刻化すれば、私たちの日常生活にも大きな影響が出てきます。他人事と思うのではなく、自分も地球の住人の一員だという自覚を持ち、身近な所から問題に向き合っていくことが大切ではないでしょうか。
(問い)筆者は、地球温暖化によって起こる弊害として何を挙げていますか?以下の選択肢から選びなさい。
ア)気温が変化することで、農作物に影響が出る。
イ)生態系の変化によって、病気が流行する恐れがある。
ウ)夏の暑さが強くなり、熱中症になる人が増える。
エ)海水温が上がり、魚が死滅してしまう。
まず、この文章を、テーマ・説明・まとめの三つに分けることができるでしょうか?分けることができたら、問題で聞かれている内容がどこに書かれているかを探しましょう。地球温暖化によって起こる弊害については、2・3段落に書いてありますね。文章全体から探すよりも、答えが見つけやすくなると思います。答えはイですね。
このように、まず文章の構造をしっかりつかむ訓練を今のうちにしっかりしておきましょう。文章を読みながら構造を余白にメモするなどしておきましょう。そして、設問で何が聞かれているのかということを読み取り、文章中に自分が残したヒントをもとに解答を考えていくという手順を踏むと選択式問題の正答率が上がるのでぜひやってみてください。
また、選択肢自体にひっかけがあることが多いので、選択肢を吟味することも大切です。文章中に書いていることに沿っていないと正答することができないのですが、お子さんは時間が足りないなど困ると一般的に正しそうな解答を選んでしまう傾向があります。文章中に書いていないことであるにもかかわらず、です。そのようなことを避けるためにも、文章中にしっかり自分でヒントを残し、選択肢の正誤をしっかり見極めるようにしましょう。
読解に加えて、ことわざや慣用句などの知識問題も一気に増えます。読解問題は問題を解き直す必要はないので文章のどこに何が書いてあるかを把握できるようにし、知識問題を何度も反芻して完璧に覚えるようにしましょう。その際には、特にことばの問題を意識しましょう。正確に意味を覚えているかどうかということを反復して覚えていくと忘れにくいです。漢字も一つひとつの意味を理解しながら練習しましょう。漢字の意味を無視して語感だけで熟語を作ってしまうことがお子さんによくみられる「国語病」の一つです。知識問題だからと軽視すると読解の成績に大きくかかわってきますので、重要なことだと理解して学習するようにしてください。
理科
理科に関しては、勉強方法は4年生とあまり変わりません。しかし、他の科目と同じく細かい知識が増えます。また、科学分野や物理分野だけでなく、地学や生物分野でも計算問題が増えます。
理科の暗記に関して有効なのは、図をしっかりと観察して覚えることです。植物の花の構造、雲の形、電流の回路のつなぎ方など、頭で図を思い浮かべられるようになればスムーズに解くことができます。テキストの図をしっかりと覚えましょう。そのためには自分で手を動かして書いてみることもとても大切です。手で書いて目で見て理解した知識を活用すると解ける問題が飛躍的に増えます。
5年生になると水溶液の問題などで、まだそれほど複雑ではないですが計算を求められます。ここでミスをしないよう、文章題からしっかりと必要な数字を拾って解けるようにトレーニングしましょう。そのためには正確な計算力と、比例・反比例の考え方が重要なので、しっかり身に着けておくようにしましょう。
社会
社会は、4年生では地方ごとにざっくりとした知識しか学ばなかった地理の知識がさらに細かいものになります。そして、なんと言っても歴史の学習が始まり、膨大な暗記量が立ちふさがります。社会の歴史分野で暗記をする場合は、人物名や戦いの名前、年号などをそれぞれバラバラに覚えていてはいつまでたっても身につきません。5年生でも、やはり知識と知識のつながり、因果関係がとても大切になってきます。
たとえば、「1600年の関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康が、1603年に征夷大将軍となり江戸幕府を開いた」というように、流れで覚えるようにしましょう。こうしておくことで、どこを空欄にされても答えることができ、6年生になって本格的に入試演習を行うようになってからは、記述問題も解きやすくなります。
復習するときにはテストを意識しよう
夏期講習やその後の通常授業では大量の知識を詰め込んだことと思います。そしてそれは6年生までずっと続いていきます。ですが、ただ知識を詰め込んで満足するのではなく、しっかりと定着させなければなりません。講習明けの総合テストや、組み分けテストなど範囲のないテストで成績を取ることは定着度の確認になります。クラス分けを兼ねている場合は秋以降ハードになる勉強のモチベーションアップに繋がります。
テストでしっかり点数をとるためには、先ほど書いたように教科ごとに必要な学習を進めることが第一ですが、何より積み残しをそのままにしておかないことが大切です。
夏期講習で習った内容をそのまま放置していませんか?毎週新しい内容を学習する通常授業に入っている今は、学習に使える時間が限られていますね。だからこそ、集中して積み残しをつぶしておくことが今後冬期講習、そして6年生になってからの学習に大きな影響があるということを知っていただきたいと思います。今の時点で積み残しがたくさんあると、それを克服する時間はあまりなくなります。この秋が定着度を上げるチャンスです。
講習期間中は、帰ったらまず何よりも先に宿題と復習を終わらせ、ざっくりと予習もして・・・という毎日だったでしょう。講習では毎日一つずつ単元を進めるため、自分の苦手な単元が把握しやすかったのではないかと思います。積み残しがある場合は、自分の苦手単元をピックアップして重点的に復習することが必要です。そして、総合テストの前には苦手を克服できていて、ひとつでも苦手なところを克服できているようにするのが理想です。
同じ問題を何度も解き直している余裕はないので、まずは間違った問題を自力で解けるようになるまで繰り返し解き直しましょう。同じ日に何度も繰り返すと答えを覚えて解けた気になってしまいかねないので、日を空けてから再度解くのが効果的です。
冬期講習までの期間に、夏期講習までの積み残しをできるだけ解消しておきましょう。少なくとも、どこが自分が苦手とするところなのかというところを意識することが大切です。通常授業の復習の合間に、その前に学習した苦手分野の復習をこまめに入れて、知識のつながりを作り、応用問題に使えるようにしていきましょう。
まとめ
5年生は中学受験におけるターニングポイントとなる重要な学年です。特に講習会では、毎日膨大な知識を詰め込むことになったと思いますが、通常授業のときも、授業時間内だけ勉強して満足しているようでは、到底定着させることはできません。そうすると、テストでもなかなか点数がとれずにモチベーションが下がってしまいます。
今の時期にこれまでの積み残しをできるだけ解決しておきましょう。そして、教科ごとのつながりを意識することもこれからは大切です。教科ごとだけの学習では近年の中学入試には太刀打ちできません。さまざまな教科が融合しているような問題が出題される傾向にあります。
このような視点を持って、日々の宿題をこなすだけではなく、予習復習といった家庭学習の時間をしっかりと確保しましょう。その際には、自分が今何を学習しているのかということをはっきり自覚することが必要です。「この問題を解ければよい」という考え方では、5年生も後半に入った今の時期からは太刀打ちできないものが増えてきます。
ある知識がどこに使えるのか、その使いこなし方も含めて学習です。実際に問題が解けなければ知識も無駄になってしまいます。知識の引き出しをたくさん作り、それを使うべきときに取り出して自由自在に使うことができるよう整理することもこれからはとても大切です。
ぜひ、断片的な知識を覚えるだけでなく、知識同士の因果関係を意識して、どこで使える知識だろうか、ということを学習するたびに意識してください。意識するだけで定着の仕方が全く変わってきますよ。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。