ものの燃え方に関する問題の中で,木でできたものを蒸し焼きにするときに,どのような実験装置を用いるか,蒸し焼きの結果どのような物質が作られるのか,それらはどのような性質をもっているかについて出題されることがあります。
ここでは蒸し焼きとはどのようなものなのか,また木を蒸し焼きにしたとき何が起こるかについて紹介していきます。
Contents
蒸し焼き(乾留)
化学実験の重要な操作の中に「乾留」と呼ばれるものがあります。小学校や中学校の理科においては「蒸し焼き」と呼ばれるものです。まずは「乾留」がどのようなものなのかを紹介しましょう。
「乾留」とは,新しい空気,特に酸素と目的の物質同士が触れないようにした状態で強く加熱し,物質を分解する操作です。
ここで特に重要なのは,「物質と酸素が触れ合わないようにする」という点です。ただ物質を火にかけて燃やす操作と,この点で違いがあります。「乾留」と「燃焼」の違いをより詳しく紹介します。
まずは紙を燃やすことを考えてみましょう。次々に炎によって燃えて黒く,ボロボロになる様子を見たことがある人は多いのではないでしょうか。そこでは何が起こっているのでしょうか。
紙のような,炭素(C)を含む有機物を燃やしたとき,基本的には空気中の酸素(O₂)と激しく反応して,「二酸化炭素(CO₂)」と「水(H₂O)」が発生します。一部酸素と十分に反応せずに一酸化炭素(CO)や炭(C)として残る分もあります。
つまり加熱したときに「酸素と触れあっている状態」だと有機物は二酸化炭素や水になって空気中にほとんどとんでいってしまいます。
一方で「乾留」の場合は目的の物質を,新しい空気,特に酸素と触れ合わないようにした状態で加熱します。
そうすると外から酸素が入ってこないため,燃焼のときのような,物質が結びつくような酸素はほとんどありません。ではこのとき何が起こるでしょうか。
この場合物質は熱によって分解されます。そして加熱されているため分解された後さらに蒸発しやすい物質と,蒸発しにくい物質同士に分けることができます。
もちろんここでできた物質を空気に触れた状態で燃やせば,結局酸素と反応して最終的に二酸化炭素や水となってしまうでしょう。
乾留では酸素と触れていないことで,目的の物質を,ただ二酸化炭素や水へ反応しきる前の段階で止め,元の物質が分解されてできた,新たな物質を得ることができるのです。
乾留では有機物から固体物を分離できるので,そこから生成した物質を加炭材やアスファルト添加剤、製鉄原料へ利用するといったリサイクル技術として応用しているところもあります。
ただすべて燃やしてその分二酸化炭素を発生させるより,私たちが利用できる形に変化させることができるので便利な面もあるのです。
また化学の分野で,特定の有機物質などを生成するための技術として利用されることもあります。
木の蒸し焼き
それでは実際に乾留の利用例として木の蒸し焼きの実験について見ていきましょう。
木の蒸し焼き(乾留)の実験では次のような装置を組み立てます。ここでは木として,乾いた割りばしを用いた場合で説明します。
図のように,試験管の中に新しい空気が入らないようにした状態で試験管の木を加熱します。そこで乾留を行った結果,どのような物質が生成されるのかを紹介します。
木の蒸し焼きでは主に次の4つの物質ができます。
- 木ガス
- 木酢酸
- 木タール
- 木炭
これらがどのような性質をもっているのかを確認していきましょう。
木ガス
木を乾留したときに「木ガス」と呼ばれる気体が発生します。木ガスは水素や一酸化炭素を含んでいるため,「可燃性」があります。
可燃性があるために,試験管についた管の先にマッチを近づけると燃えます。
また試験管から出てくると空気によって冷やされるため,白い煙となって見えます。
木ガスは乾留で出てくる気体でもありますが,逆に乾留用の燃料としても用いられます。
〈木ガス:大事なポイント〉
- 水素や一酸化炭素を含む
- 火をつけると燃える
- 白いけむりになって見える
木酢酸
木を乾留すると,「木酢酸」と呼ばれるうすい黄褐色の液体が発生し,試験管の口にたまっていきます。
木酢酸は酢酸や「メチルアルコール(メタノール)」を含んでおり,「酸性」を示します。
昔は酢酸やメタノールの生成源として利用されていましたが,現在では農業において動物や害虫対策として用いられていたり,生活の中では入浴剤や消臭剤として用いられています。
〈木酢酸:大事なポイント〉
- うすい黄褐色(うすい黄色)
- 酢酸やメチルアルコール(メタノール)を含んでいる
- 酸性
木タール
木を乾留するとさらに「木タール」と呼ばれる,黒褐色でねばねばした液体が出てきて,試験管の口の方にたまります。
木が腐るのを防止するために塗ったり,または燃料として利用されることもあります。
〈木タール:大事なポイント〉
- 黒褐色(黒い)
- ねばねばした液体
木炭
木を乾留すると,ほとんど炭素からできた黒い固体として「木炭」が残ります。これは有機物が分解された結果,ほとんど炭素だけが残ったためです。
木炭は燃料や消臭剤などとして広く利用されています。
〈木炭:大事なポイント〉
- 黒い固体
- ほとんど炭素
入試問題演習
ここまでに学んだことを活かして,実際の入試問題にチャレンジしてみましょう。
問題
解答
- (1) 加熱部分を上げ,試験管の口を下に向ける
- (2) 空気 または 酸素
- (3) ウ
- (4) イ
- (5) ウ
解説
(1)
試験管の加熱部分が下に向いていると,乾留によって発生した木タールや木酢酸といった液体が加熱部分にたまります。
液体が加熱部分にたまってしまうと,試験管の外側から加熱され,内側から急激に冷やされるということが起こってしまい,試験管が割れる可能性があります。
そのためこのような加熱実験では,発生した液体が加熱部分に流れ込まないように,試験管の口の方を加熱部分より下に下げて,液体が加熱部分に流れ込まないようにし,試験管の口の側にたまるようにすることが必要です。
(2)
乾留は,目的の物質が空気(酸素)と十分に触れ合わないようにした状態で加熱を行います。
これは物質が燃焼して二酸化炭素と水まで反応が進んでしまうことを防ぎつつ,熱による物質の分解反応を行うためです。
(3)
木を乾留した際に出てくる黄色の液体は,木酢酸です。
木酢酸は酸性であるため,青色リトマス紙が赤色に変化し,赤色リトマス紙は変化しません。
(4)
乾留は分解反応であるため,もともとの割りばし(木)を,木炭,木タール,木酢酸,木ガスへと分解しています。
つまり木酢酸などが,割りばしから出ていった結果,木炭が残ったという状態なので,実験の結果黒い固体として得られた木炭は,最初の割りばしよりも軽くなっています。
(5)
わりばし,つまりもともとの木は火をつけると炎を出して燃えますが、木炭の場合は、火を付けても,燃える気体がほとんど出ないため,炎を出さないで燃えます。
まとめ……の前に
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まとめ
ものの燃え方の中でも木の乾留は特に着目されます。実験装置の組み方,乾留が空気と触れ合わないようにすること,乾留の結果木炭,木タール,木酢酸,木ガスが出ることとそれぞれの物質の性質などをしっかり復習しましょう。また炎についてや,ものが燃える条件についてもあわせて学習しておきましょう。