『生物は暗記科目である。文系科目だと思ってひたすら暗記しなさい。』
生物を選択している人なら一度や二度はこの手の言葉を言われたことがあるのではないかと思います。確かにそうです。生物という科目には、暗記すべきことが大量にあり、またそのすべてが既知の事実であって、計算や予測を伴う部分はほとんどありませんから、基本的には暗記量がモノを言う世界です。
ただ、やはり基本は理系科目ですから、愚直に文字の羅列を暗記しなさい、と言われても、普通の人だったらなかなか頭に入って来ないと思います。(斯く云う私も暗記が苦手だから理系を選択したクチでした)
また、生物という科目は、
- ①似た言葉がたくさんある
- ②言葉自体が専門的すぎて,それが何を指す言葉なのかイメージがわかない。
という、暗記嫌いの嫌悪感に拍車を掛ける2つの大きな壁があります。
まずは、この2つの問題について考えていきましょう。
生物では、例えば
- 『エンドサイトーシス』と『エキソサイトーシス』
- 『競争的阻害』と『非競争的阻害』
- 『優性遺伝』と『劣性遺伝』
など、生物には似た言葉で対になっているものが多いので、似ているだけにその違いを理解していなければどちらがどちらなのかの区別までわきまえた上で暗記することは難しいのです。
また、例えば世界史であれば『ヴィットーリオ・エマヌエーレⅡ世』と言われれば人の名前、『オスマン帝国』と言われれば国の名前、といった具合に、それが大凡何を指すものなのかぐらいは判断できますから、覚える時も、これは人の名前だな、とか、これは国の名前だな、などとと割り切って覚えるしかないわけで、そこに『どうしてそういう呼び方をされるのか』はないわけです。(語源的にどういった意味があるのか、ということは調べることはできますが…)
一方で、生物を見てみると、『優性遺伝』と『劣性遺伝』と言われれば、ああ。遺伝に関係する言葉なのかな、ぐらいの判断はできるにしても、優性って優れているってこと?劣性って劣っているってこと?、と疑問がわいてきてしまいますし、また『エンドサイトーシス』と『エキソサイトーシス』に至っては、その言葉だけいきなり聞いても、一体どんな分野のことを指しているのかさえ想像することが出来ないわけです。
しかし、生物にはすべて、なぜその言葉でその事実を言い表すことになったかという成り立ちや理由が必ずあり、例えば優性遺伝であればその遺伝子が優れているということではなく、その因子を保持していた時に、両親からの遺伝子両方にその因子がそろっていなくとも、片方だけにその因子があれば形質となって現れることを言います、という説明がつきます。(一部用語については、誤訳や今考えると別の表現をした方が良かったんじゃ…?というものも無くはない、というか結構ある気がしますが)
そして生物では、このようなひとつひとつの事項が複雑に絡み合い、相互に関連し合って成り立っているので、それぞれの言葉がどういう事象を指していて、なぜそう呼ばれることになったか、またそれに相対する現象=言葉は何か、といったところまで含めて把握することで、初めてその言葉が消化できる、つまり理解してあたまに入れることが可能になるのです。逆に言えば、覚えるべきことが多いですが、ただ人名や地名や年号をひたすら単純暗記するだけのものより、そのしくみや成り立ちから理解しているわけですから、一度頭に入ってしまえば忘れにくい、という利点があります。
つまり、生物の暗記を行う時は、
『言葉を丸暗記するのでなく,しくみを理解する』
こと、そして、
『なぜその現象はそう呼ばれているのかという,現象の呼称の由来を知る』
ことが生命線なのです。
全ての生命体は水とタンパク質から出来ているので、生物の話のほとんどはタンパク質の話になります。そこで、思考の過程を辿ると、
細胞はタンパク質で出来ている
↓
DNAもタンパク質で出来ている
↓
タンパク質の組み合わせで、体の各部の機能や特徴が決まる
↓
タンパク質の働きには、酵素の助けが必要である
↓
タンパク質は、器官の成分となるだけでなく、栄養を運んだり筋肉の収縮を助けたりと、実に様々な機能を果たしている
といった具合になります。生物の勉強はタンパク質の勉強といっても過言ではありません。そしてそのタンパク質について、例えば『細胞』というくくりで、あるいは『遺伝』というくくりで見て行きましょう、というのが高校生物の章立てなのです。そのしくみはとても複雑ですし、それを形成するミクロの世界で切っていったものがあまた存在するわけで、そのそれぞれのものに呼称がありますから、それを覚えるのは簡単ではありません。しかしどうか単純暗記するのでなく、その一つ一つのしくみの『ストーリー』と『生命の神秘』にまずは興味を持っていただき、そのしくみや登場するものたちの呼称、そしてなぜそう呼ばれることになったのか、ということを理解し、焦らず順番に頭にしまっていって下さい。きっと、思ったよりずっと早く、生物の用語や事項が覚えられるはずです。
生物を選択されているすべての受験生が、楽しく、そして将来につながる生物の勉強をされて、受験で成功をおさめられることを願っています。