時事問題について、前回までは政治にまつわる選挙制度などについてまとめました。時事問題と公民分野は切っても切れない関係なので、常に時事問題で出題されるとしたら、という視点を持ちながら勉強することが大切です。
時事問題はさまざまなテーマで出題されます。選挙関係はもちろん大きなトピックですが、実際の政策の中身や日本を取り巻く環境について多角的な視点から考える問題が非常に増えてきています。
実際に近年の中学入試では、日本の観光産業についての出題が目立ちます。現在は新型コロナウィルスの影響で減少していますが、それ以前は外国から日本を訪れる旅行者が急増し、いわゆる「インバウンド需要」ということばもニュースで日々報道されていました。
今後WITHコロナの時代において、政府は海外との渡航制限を緩める政策を打ち出しています。日本国内でもGo Toトラベル・イートといった政策が実施されつつありますが、観光客を呼び込むために密を避けながらも魅力を伝え、新しい旅の形を提案していくことは今後観光立国として求められていくと考えられます。
少しずつ日本への外国人旅行者の数が戻ってこようとしている時代ですから、観光についての時事問題は今後も重要テーマとして出題されることは予想できます。さまざまなデータをもとに分析させる問題や、いま日本が抱えている問題、将来的な日本の産業のすがたを考えさせる問題はよく出題されていますし、今後も出題される可能性が高いでしょう。
近年の中学入試では、「ニューツーリズム」という新しい旅のすがたを題材に出題されることも増えてきました。ですが、あまり聞きなれないという受験生や保護者の方も多いのではないでしょうか。旅行というと観光、温泉、旅館、ホテルといったことが思い浮かぶでしょうが、ニューツーリズムは旅の内容そのものが非常にバリエーション豊かになっており、さまざまな機関が取り組もうとしています。
今回は、今後形を変えて時事問題としても出題される可能性の高い「ニューツーリズム」について、その内容とともに問われるであろう関連知識をまとめていきます。政策との関係、行政との関係も念頭に整理しておくと理解が深まりますよ。ぜひ参考にしてください。
Contents
ニューツーリズムとは?
「ニューツーリズム」ということばを聞いたことはありますか?直訳すれば「新しい旅行」ということになりますが、では新しい旅行ってどんなものなのでしょうか?旅に対して皆さんが持つイメージはさまざまだと思いますが、温泉や観光地に行ってその土地の食べ物や名所を楽しむ・・・といったことが多いのではないでしょうか。
ニューツーリズムでは、もちろんそういった観光の要素は含みつつも、単に観光地を見て回るだけではなく、「体験」と「交流」をキーワードとした新しい旅の形です。いわば、何らかのテーマに基づく新しい旅のすがただと言えるでしょう。ですが、体験や交流というだけではイメージがつかめないかもしれません。ニューツーリズムのすがたを具体的に見ていきましょう。
旅のキーワードは「体験」と「交流」
皆さんは旅行に行ったことがありますか?ご家族で夏休みやまとまったお休みに観光地に行って、名所と言われるところを見て、おいしいものを食べて温泉に入る、といったイメージは定着しているかもしれません。どちらかというと、「既にある者を見て回る」というのが従来の旅としては一般的でした。
これに対して、ニューツーリズムの場合は、単に見て回るだけではなく、「体験」と「交流」が旅の要素として入ってくるのが特徴です。たとえば、ニューツーリズムの例としては以下のようなものがあります。
・その土地の伝統工芸品を作る体験をする
・漁船に乗って漁業体験をする
・ひとつの土地に長期間滞在し、交流を深めながら現地の暮らしを体験する
たとえば伝統工芸品は、これまで美術館や博物館で「見る」ことが多かったのではないでしょうか。しかし、ニューツーリズムではただ見るのではなく、実際に伝統工芸品づくりの体験をします。有名なところでは、石川県金沢市では金箔体験というものがあります。金沢は金箔が名産ですが、さまざまな器などに金箔が使われたものがあり、実際に金箔をはってみて自分のオリジナルの器をつくる体験ができる施設もあります。
また、漁業体験や生活体験をする場合は、自分だけで楽しむのではなく、いろいろな人と「交流」しながらやり方を教えてもらったり、その土地ならではの暮らしについて教えてもらったりしながらさまざまな経験をすることができます。通常の行って帰ってくるという旅行では、普段から漁業をしたり現地に住んだりしている人と交流して、非日常的な体験をするという点で非常に特徴的です。体験を通して交流もする、それがニューツーリズムのカギです。
どこが中心になって推進しているの?
こうしたニューツーリズムは、各自治体がさまざまな趣向をこらして推進しています。そのため、各自治体で考えて進めていると考えると思いますが、実際にニューツーリズムを中心となって推進しているのは「観光庁」という国の役所です。
観光という役所の名前はあまり聞きなれないかもしれませんが、観光庁は、日本を観光立国にして行こうという目的で設置されている国の役所です。観光立国とはどういうものかというと、外国から観光目的で日本にきてくれる人を増やし、その人たちが喜ぶサービスを提供して、ひいては日本の経済収入を増やして財政状態を良くしていく、そういった取り組みをすることによって特徴的な魅力ある国づくりをしていくということです。
各自治体がバラバラな方向を向いておこなっていると、かえってメッセージを発信しにくくなってしまうこともあるので、観光庁が中心となって全国各地の観光産業を活性化させていく基本方針を定め、その一環としてニューツーリズムを推進しています。方向性をある程度統一して、各自治体がそれぞれの特色を活かしてテーマのある観光を提供しているという意味で、観光庁が果たす役割は重要なのです。
ニューツーリズムで押さえておきたいテーマ
一口でニューツーリズムと言っても、内容はさまざまで、それだけテーマもたくさんあります。その中でも注目を集めている代表的なテーマをいくつか押さえておきましょう。イメージがつかみやすくなります。
・産業ツーリズム
・ グリーンツーリズム
・ ヘルスツーリズム
・ ロングステイ
・ エコツーリズム
具体的にどのような内容なのか、簡単に整理していきましょう。
産業ツーリズム
産業ツーリズム(観光)とは、旅行で行った目的地で、その土地ならではの「ものづくり体験」をする観光のことです。ここでいう「産業」というのは、主に工業関係です。農業体験などは別のニューツーリズムとして分類されていることが多いです。産業ツーリズムの代表的な例は、工場見学をしたり、先ほど挙げた伝統工芸品づくりを体験すると居たものです。工場見学で実際にある製品がどのようにできているのか、原材料を実際に見たり、出来上がったものを食べてみたりという体験ができるのが特徴で、家族連れにとても人気があります。
グリーンツーリズム
グリーンツーリズムとは、農村での暮らしを体験する観光のことを言います。先ほどの産業ツーリズムが主に工業、工芸品を対象にしていたのとはまた違う産業ツーリズムの形と言っても良いでしょう。グリーンというと、皆さんは何を浮かべるでしょうか。どちらかというと「自然に触れる」というイメージが強いかもしれません。
ただし、グリーンツーリズムでは、よくある自然に触れる旅行とは一線を画しています。特に都会に住む人や、外国から来た方が農村に滞在し、時期に応じて作物の収穫や田植えなどを体験するというのが一般的です。これまでも果物狩りなどは旅行の一環としてありましたよね。その場合はすでに出来上がった果物をとってその場で食べたり持って帰ったりということが中心でした。グリーンツーリズムの場合は、実際に自分が作物を作る体験や、農村での生活を体験することが観光の中心になるという点で新しいニューツーリズムの形なのです。
ヘルスツーリズム
ヘルスツーリズムは、「健康」をテーマにしたニューツーリズムです。旅行の目的は健康を増進することです。これはまだ世界的に見ても新しい旅の形ですが、たとえば私たち日本人になじみの深い温泉旅行もヘルスツーリズムのひとつです。温泉に行くと、そこのお風呂のお湯の効能が書いてある札が断っていることがありますよね。冷え性、リウマチ、などなどどんな病気に効くか、ということが詳しく説明されていることが多いです。
温泉旅行というと全然新しくない、と思われるかもしれませんが、ここで言うヘルスツーリズムの温泉旅行は、1回入って終わりというわけではなく、少し長期に滞在して、健康促進のための生活を送るということを想像してみてください。
昔から「湯治」ということばがありますよね。それをイメージすると分かりやすいかもしれません。湯治では、〇〇に効く、という温泉地にある程度長期間滞在して、少しでも病気の症状を軽くすることが目的とされてきました。そういう流れからも日本人にはなじみがありますね。また、温泉には癒し効果があるので、体だけでなく心ものんびりしてストレスを解消して健康につなげるという意味でもヘルスツーリズムの代表格です。
そのほか、これは大人向けですが、断食道場というものもあります。これは2泊3日や3泊4日など期間を決めて、断食(とはいえまったく何も食べないわけではありませんが)し、体脂肪を減らしたり内臓を活性化する目的で断食道場に泊まり、食だけでなく生活習慣を見直し、付近の自然にも親しむというものです。
数年前から非常に人気が高く、また断食道場は都心の喧騒から少し離れたところにあって自然豊かなので、散策したり夜には満点の星を見たりといったような体験もできるのです。お医者さんが常駐していて、血液検査などをして体の内部の問題点を指摘してくれるというので大人に人気のヘルスツーリズムとなっています。リピーターが多いのも特徴です。
ロングステイ
ロングステイとは、ひとつのところに長く滞在して、その地域で実際に生活をして、普段の生活とは異なるリズムで日常を送ってみる体験をするニューツーリズムです。たとえば、都心のタワーマンションに住んでいる人が、海や山などの自然豊かな土地に古民家などを借りて一定期間生活するといったことがあります。民宿を利用することも多いです。
たとえば、沖縄で民宿を借りて2週間滞在して生活してみた、という人がいます。1泊や2泊といった短期ではなく、ある程度長期間滞在するのがロングステイの特徴です。沖縄では農家の近くに家を借り、農業体験をしたり、海が近いのでダイビングの資格を取ったり、夜は近くに住む人々が集まる中に参加して一緒に食事をして盛り上がったり、というような経験をしたということです。
1泊や2泊では時間に追われてしまい、ゆったりと現地での生活を楽しめませんよね。ですから、ある程度の長期間滞在し、体験や現地の人との交流をするのがロングステイです。
海外留学でも現地のご家庭でお世話になるホームステイというものがありますが、現地で日常生活を支、ステイ先の家族と一緒に旅をしたりするので、ロングステイと少しイメージが似ているかもしれません。
エコツーリズム
エコツーリズムは、目的地の自然や文化を保護しつつ、体験もするというニューツーリズムです。この「自然の保護」がエコツーリズムのポイントです。たとえば、日本は自然が豊かで、また文化的建造物も豊富にあるため、世界自然遺産や世界文化遺産に指定されている地域はたくさんありますよね。特に世界自然遺産は、世界から見ても非常に数が多いです。
自然は一度崩壊してしまうと元に戻すのは非常に難しいです。もともと何百年もかけてつくりあげてきた自然ですから、戻すのにも同じかそれ以上に時間がかかります。そのため、体験を通して自然保護の大切さを学ぶのがエコツーリズムの特徴です。
世界自然遺産に指定されている場所のひとつ、北海道の知床では、エコツーリズムの取り組みが熱心におこなわれており、日本の人はもちろん、海外からの旅行者からも人気を集めています。
中学入試での出題傾向とポイント
ニューツーリズムのうち、必ず押さえておきたいテーマをご紹介しました。中学入試では、ニューツーリズムとはどういうものか、例を挙げて説明しなさい、とニューツーリズムそのものについての問題も出題されています。そのため、ニューツーリズムがどういう内容なのか、これまでの観光と何が違うのか、どのような特徴があるのか、それによってわたしたちは何を得られるのか、といったことを一度まとめておくと良いでしょう。
また、ニューツーリズムの考え方をダイレクトに問う問題だけが出題されるとは限らず、ニューツーリズムに関連する知識についての理解を問う問題も出題されているので、特に関連性の強い事項については早めに押さえておくことが大切です。
世界遺産の場所と特徴
特にグリーンツーリズムやエコツーリズムなどでは、世界遺産の知識が欠かせません。世界遺産とセットで出題されることも多いので日本にある世界遺産については地図帳を活用して場所と、それぞれの特徴を正確に覚えておきましょう。世界自然遺産はもちろんですが、世界文化遺産についても区別して混乱しないようにしておくことが大切です。
実際の入試問題では、ニューツーリズムについての設問にとどまらず、「世界遺産を指定する目的は何か」という設問が出題されたことがあります。世界遺産を丸覚えしているだけだと、固有名詞を覚えて終わりになってしまい、そもそもなぜ世界遺産というものが指定されているのかという根本的な疑問を持たずに本質を理解することができません。
たとえば、世界自然遺産はなぜ指定されるのでしょう?それは「自然遺産の保護」が必要だからです。特徴がある、普段は人があまり足を踏み入れることのない原生林や景観を守っていくことによって環境問題に対する注意を喚起することを目的としています。日本の世界自然遺産のひとつとして有名な「白神山地」という名前は皆さん知っているでしょうが、白神山地の特徴は何でしょうか。白神山地にはブナの原生林があり、それを保護するのが目的です。原則として立ち入ることはできないのですが、観光客が入れる場所もあります。実際に目にしないとどれほど自然保護が重要なのかわかりませんよね。
訪日旅行者の数
ニューツーリズムは日本の観光政策であり、外国からの訪日旅行者がどれくらいいるのか、という意識を持っておくことは必要です。観光庁が中心となってニューツーリズムを推進しているのはなぜかと言うと、外国から訪日する環境客を増やし、日本の経済をより活性化することが目的だからです。そのため、訪日旅行者はニューツーリズムを考えるうえでとても大切な指標なんですね。
たとえば、訪日旅行者は2015年から急激に増え、2018年には3000万人を突破しています。しかし、新型コロナウィルスの影響から、2020年は海外からの訪日旅行者は急激に減っており、おそらく最終的な集計でも激減という結果になると予測されています。観光にはその国、また世界を取り巻く情勢が大きく関わります。世界で今起こっている変化もつかみながら、なぜ訪日旅行者の数の増減が起こっているのか、理由を合わせてデータを読み解けるようにしておきましょう。
観光庁は国土交通省の中にある
公民分野では、行政機関がどの省庁に属しているか、ということも重要な知識です。ニューツーリズムを推進しているのは観光庁だとお伝えしましたが、観光庁がどこの省庁に属しているのか知っている人はもしかすると少ないかもしれません。答えは「国土交通省」です。各省のなかには「庁」としてある分野に特化した行政機関があります。たとえば「国税庁」は財務省の中にありますよね。
このように、行政機関についての知識が時事問題で問われることが中学入試ではよくあります。少し細かいですが、行政機関がどこの省に所属しているのかについてはしっかり押さえておきましょう。できればなぜその省に属しているか知っておくと良いですね。
まとめ
観光は、日本にとって大変大切な産業のひとつです。訪日外国人の増加に伴い、ニューツーリズムのような新しい旅の形を提案し、経済を活性化するのが現在の日本の方針です。種類がいろいろあるだけでなく、ほかの知識と結びつけて出題されることも多いので、ぜひしっかりまとめておきましょう。
まず押さえるべきは、ニューツーリズムは単に観光地に行ってみるだけではなく、体験をしたり、現地の人と交流する旅行だという点です。そして、どのような種類があり、それが日本の自然や環境とどういう関係があるか、今後の日本の産業の在り方についてもご家庭で話し合うと理解が進みます。新型コロナウィルスの影響が直撃するテーマなだけに、一度振り返って整理しておきましょう。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。