【中学受験】時事問題のカギは「なぜ?」と「因果関係」

いまや、中学受験では「時事問題」は頻出と言えるでしょう。特に社会、理科で出題されることが多いですが、なかには年号などの特徴のある数字を意識して、解答がある年号になる問題が算数で出題されたり、問題文にその数字が出てくるといった「算数の時事問題」もあります。国語でも、時事的要素を含んだ論説文などの文章が出題される傾向があります。

時事問題、というとどのような問題が頭に浮かびますか?中学入試における時事問題とは、テレビや新聞などで報道されている知識をそのまま問うというものではありません。また、その年に起こった出来事だけが出題されるとは限らず、前の年、前々年、あるいは次の年のトピックスを取り上げることも少なくないのです。世界で問題になっている国際問題は、短期間で解決できないことが多く、さまざまな国が、それぞれの事情を抱えながら何度も話し合いして解決していきます。このことからも「今年の時事問題集には載っていないから出ない」とは考えないようにしましょう。

ただし、毎年時事問題集が発売されるのは入試直前期ということもあり、塾の授業で扱われるのは冬期講習だけ、ということも多いです。これは「時事問題は自分で何とかしてね」と言われているのと同じです。世の中の出来事を正確に理解し、問題を解決するためにはどうすればよいのかを受験生がひとりで考えるのは容易ではありません。また、ほかの知識を詰め込まなければならない、という事情から時事問題まで手が回らないということも考えられるので注意が必要です。

時事問題の出題形式、出題意図は中学校によって大きく異なります。大問1題をまるまる時事問題とし、さまざまな角度から設問を用意して答えさせるという学校もあります。また、時事問題だと見せかけて、実はそれに関連した各分野の知識を多方面から問う設問を用意するという出題形式も多いです。時事問題の場合、ひとつのテーマを深堀するというよりは、頭を切り替えながら、スピーディに各設問に答えることが重要です。「頭の切り替え」が、時事問題の正誤を分けると言っても過言ではありません。

今回は、いまや中学受験対策で外すことの出来ない時事問題について、注意して学習すべき点、意識すべき点を解説します。

時事問題が出題される意図は?

夏休み前のこの時期では、まだあまり過去問などを解いていないので、時事問題をたくさん解いてきたという受験生は少ないでしょう。では、最近話題になった社会的トピックスはしっかり理解できているでしょうか?塾では、秋以降に発売される時事問題集をやればいい、とアドバイスされるかもしれませんが、その時期は志望校対策や基礎基本で弱点となっている部分を克服するのに忙しく、手が回らない可能性が高いです。冬期講習で扱うとしても、授業時間の一部をつかってさらっと流されることが多いので、まとまった時間をとって時事問題を勉強するということはあまりありません。

時事問題の特徴

時事問題は、中心となるひとつのテーマをもとに、さまざまな知識や考え方を問う設問が出題されるという特徴があります。たとえば、最近の日本の政治に関する問題であっても、憲法や三権分立、国際問題、歴史や地理など、関連する設問はたくさん作ることができます。出題する学校から見れば、さまざまな切り口から知識を正確に深く理解しているか、それを適切な場で使いこなせるか、ということを確かめられるというメリットがあります。

また、近年の傾向として、自然災害が多く起きているため、社会の問題で理科の知識を聞く、など、教科横断型の時事問題の出題も増えています。今年は異常なまでの大雨や土砂崩れ、地震などが起こっているので、そのような問題が出題されるであろうことは容易に想像できます。

時事問題は難しいという先入観

時事問題は難しい、知らない、と敬遠する受験生の方が非常に多いです。たしかに、時事問題の学習を始める時期が直前期にずれ込みやすいこと、他にやることとのバランスを考えると、新しいことをプラスして覚えるのは大変、と感じてしまい「時事問題=難しい」と思われがちです。

ですが、時事問題は、ある時事的トピックス特有の問題も出題されることがありますが、実は設問の多くは各分野の基本的な知識を正確に整理し、理解できているかどうかを確認するものです。これに気づかず時事問題は特別なもの、と考えているとハードルが高くなってしまいます。2020年の大学入試改革もあり、教科横断型の学習やグループ学習などを通して「答えがひとつではない問題をどう解決すればいいか」について試行錯誤する姿勢が重要視されていることを意識しましょう。

中学入試で問われているのは細かすぎる知識ではなく、中学校に入学後の学習についていける基礎基本を理解しているかどうかです。未知のできごとについて、「知らない」で済ますのではなく、試行錯誤して取り組み、なぜ自分がそのような思考のプロセスをたどったのかを説明できるか判定したい、という中学校側の意図があることを忘れてはいけません。それに気づかず、単に覚えられるだけ詰め込もうという姿勢で時事問題集を解いても中学校に入ってから苦労するでしょう。

時事問題学習のポイント

時事問題を学習するポイントは、ある1つのテーマについて、関連する基礎知識を瞬時思い出し、使いこなせるかどうかです。単体の知識だけでなく、知識と知識のつながりが整理されているかどうかが重要です。ここで問われる基礎知識は、学校の教科書を中心に、塾のテキストで学習する中でも基本的なレベルものが多いです。それに最近起こった出来事についての知識が加わる、と考えると良いでしょう。

時事問題を難しく考えすぎるる必要はありません。テーマとして出題された内容を全く知らないと答えることはできませんが、多くの受験生の場合、聞いたことはある、というものが多く出題されます。その問題を解く際に、自分が持っているどの知識を使えばいいかが重要なので、その年にテレビや新聞で話題になったことについては知っておいた方が良いでしょう。たとえば今年なら、新型コロナウィルスの流行がありましたから、WHOや中国、政府がどのように法律を作るのか、といった関連知識は押さえておくと良いでしょう。

問題をよく読んで設問を見ると、まったく知らない知識が問われているわけではないことがわかります。受験生なりにいま世の中で起こっていること、ニュースや新聞などで話題になっているできごとに興味を持つことが第一に必要です。そして、自分が知っている知識と関連させる意識を持つことが重要です。

何月ごろまでの出来事が出題される?

時事問題の多くは、入試の前年に起こった世界の重大なニュースから出題されます。早い学校では4月~5月ごろには作問者を決め、夏休み中に実際に問題を作成し、夏休み後に会議で問題を吟味して決定する、というのが多くの中学校で行われる問題作成の流れです。

この流れを考えると、基本的には夏休み中、8月ごろまでのできごとを題材にした時事問題が作られることが多いと考えられます。ただし、なかには11月、12月といった入試直前期に起こったできごとについて問う問題が出題されることがあります。2019年には浦和明の星女子中学校で、11月にパプアニューギニアで開催されたAPECについて出題されましたし、2020年には12月に起こった医師の中村哲さんについて出題した学校もあります。

教科書にリンクした社会問題、教科横断型問題が頻出

時事問題で頻出なのは、実際に起こっている社会問題で、学校の社会科学習や教科書に載っているできごとにリンクした問題です。多くの中学校は、時事問題を作問するときに小学校の教科書を確認しながら作っていますし、教科書の細かい説明部分から問題を出題する筑波大学附属駒場中学校のような中学校もあります。学校説明会に行くと、小学校の教科書をもとに問題を作っていると説明をする中学校もあるほどです。だからこそ、教科書レベルの社会問題については普段から意識しておく必要があると言えるでしょう、

また、近年は、社会と理科に共通する、教科横断型ともいえる時事問題が増えているのも特徴です。たとえば地震、津波、台風、降水量の異常な増加、土砂崩れなどの自然災害は代表的な例です。地震のP波S波の仕組みなどは理科の知識として学習する内容ですよね。このように、理科にも社会にも関連する知識について、教科横断的な内容が出題されるケースも増えています。

「なぜ?」を考えると興味がわくのが時事問題

時事問題にひるむことなく学習を進める際に大切なのは、「なぜ?」「どうしてこうなるの?」という疑問を常に持ってできごとを考えることです。子どもは本来好奇心旺盛ですから、新しいことに触れたら「どうなっているんだろう」という疑問を持つものです。ただし、受験生活が長くなると、すぐに答えを見つけなければ、と「なぜ?」「どうして?」の過程を省いてしまうようになってしまうのでこの点は注意してください。

世の中のできごとに興味や関心を持つことは時事問題においては非常に重要です。時事問題は、そのできごとの背景を理解できているかどうかを問う目的で出題されることも多いので、「なぜ?」と疑問を持ってできごとを考えてみると興味がわいてきます。そうすると、もっと知りたくなり、自分で調べるという能動的な学習姿勢を持つことができます。それをきっかけにほかの教科の学習についても良い影響が出ると考えられます。

実際の中学入試の問題では、多くの学校で「なぜこうなるのですか。理由を答えなさい」という、説明型の記述問題が多く出題される傾向にあります。こういった問題に答えるためには、「なぜ?」と疑問を持ち、背景を知ることが学習の出発点とも言える大切な発想として必要だと言えます。このように大きな力を持つ「なぜ?」を時間がないから、と切り捨てるのではなく、ぜひそういったお子さんの疑問を大切にして、ときには一緒に考えることをおすすめします。

「歴史」「因果関係」を考えると面白さ倍増

時事問題を学習する上でもうひとつ大切な視点が「どんなできごとにも歴史がある」という点に気づくことです。特に、できごとの歴史的経緯について考えることはとても重要です。たとえば、日本と中国の関係を考えるにあたっては、これまでの二国関係の歴史が大きく関わっています。今年の新型コロナウィルスの流行について、中国はカギとなる国のひとつですが、これを契機に中国との歴史的関係がどう進んで現在に至るのか、ということをまとめてみると通常の社会の問題にも役立ちます。

また、コロナ対策のための特措法がありますが、法律はどの機関が作るのか、内閣はどのような役割を果たすのか、司法はどうかかわるのか、といった関連事項の知識を再度正確に理解しておく、ということも大切です。

今年はアメリカで大統領選挙がおこなわれますが、日本には大統領がいませんよね。アメリカの政治について詳しく知るところまでは必要ありませんが、たとえば各都道府県知事は、「大統領型」の直接選挙で選ばれ、議会との関係も内閣とは異なります。内閣総理大臣は国会議員の中から選ばれる間接選挙であることと、都道府県知事はアメリカの大統領選挙と同じような直接選挙で選ばれることを対比させて、なぜそういう違いがあるのか、内閣の権限と知事の権限の違いについて疑問を持ち、調べ直して整理しておくことは大切です。今年の時事問題で問われることの多いだろうアメリカの大統領選挙というトピックスとの因果関係が大きいので、出題する中学校は多いでしょう。

災害については、地震についての理科の知識のほかにハザードマップや、災害時の知事の権限、ボランティア活動などについても関連付けて考えられると良いですね。これらは、小学校で学んできたことや、教科書の内容が非常に役に立ちます。塾のテキストにはハザードマップの具体例はあまり詳しく載っていることはありませんが、学校の教科書には図入りで載っています。また、ホームページなどでも探すことができます。具体的な形を知っているかどうかによって、理解度も変わります。「なぜ?」と同時に、なぜそのようなものができたのか、歴史や因果関係に注意して整理することをおすすめします。

家族で新聞やテレビの話題を話し合おう

2020年の大学入試改革では、「思考力・判断力・表現力」を柱のひとつとしています。中学受験でも数年前からこういった力を問う問題が出題されるようになってきています。ただし、思考力・判断力・表現力とはいっても、問題文をしっかり読めなくては使いようがありませんよね。ですから、「読解力」こそが「思考力・判断力・表現力」の基礎となります。

受験生の皆さんは普段なかなか読書をする時間はとれないことが多いと思います。塾のテキストの国語の文章などを題材にして、その読解に取り組んでいることでしょう。入試までの時間を考えるとそれは一つの有効な方法なので好きでもないのに読書をする時間を無理に取る必要はありません。ただし、隙間時間などを使って「新聞」を読む習慣を夏休みのいま、身につけることをおすすめします。

新聞は、大人の記者が書いた文章なので少し難しいと感じるかもしれませんが、中学入試の国語の文章と比べてそう難しいものではありません。専門用語や漢字が多いので難しいと感じるかもしれませんが、さまざまなニュースについてコンパクトにまとまっているうえ、必要なデータや図が入っていることもあるので、論理的な文章に触れ、データを読み解く力が付きます。最近の新聞は難しいキーワードには解説がついていたり、データについての読み取り方のヒントが書いてあったりしますから、読解力をつけるにはとても良い教材だと言えるでしょう。通常の新聞ではちょっと難しすぎる、という話題については、朝日小学生新聞など、小学生向けの新聞を利用してもいいですね。

普段はなかなかお子さんと一緒の時間が取れないというご家庭でも、夏休みにはぜひご家族そろって新聞を読み、その日一番お子さんが興味を持ったできごとについて一緒に話し合ってみることをおすすめします。ただ新聞を読んで終わり、だと定着しませんが、それについてラフな気持ちで意見を言い合うことで、どういうできごとなのか、なぜそのようなことが起こったのか、解決するにはどうすればいいのか、ということを自然に考えるようになります。もし時間がなければ、見出し部分に目を通し、「こういう話題についてどう思う?」というように、保護者の方から働きかけてあげるのも良いでしょう。もし知らないことばがでてきたら、書き留めておいて一緒に辞書や地図、テキストなどで調べてみるとさらに理解が深まります

また、ビジュアル重視なら、テレビのニュースを一緒に見て、その中で話題になったことについて意見交換するのもいいですね。読解力というよりは聴く力を養成することになりますが、これも論理的に考える力を身につける上でとても重要です。ご飯を食べるときなどに一緒にニュースを見て、お子さんの「なぜ?」「どうして?」を引き出すように話しかけてみると良いでしょう。社会の公民分野の入試問題はかなり突っ込んだ問題が出題されることもあります。知らないこともたくさんあるでしょうから、大人の目線で情報を取捨選択し、お子さんにわかるようにかみ砕いて話してあげることをおすすめします。

夏休みは詰め込み過ぎず、できることを着実に

夏休みというと、中学受験の天王山、としてどうしてもあれもこれも詰め込んだ壮大な計画を立てがちです。しかし、大切なのは「現実的にこなしていける質量」を日々着実にやっていくことです。土台となる部分ができていないのに応用的なものをいきなりやると言ってもできるわけはありませんし、盛りだくさんにしすぎると、できないことが続いてしまってお子さんのモチベーションが下がってしまうことにもなりかねません。

夏休みの学習計画は、もちろんカリキュラムにしっかりのっていくことも必要ですが、メリハリをつけて実現可能なものにすることが大切です。弱点克服の時間を上手く取り入れ、「できなかったところができるようになった」という達成感を持たせてあげることも必要です。ぜひ参考にしてください。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。