皆さんは「熱の移動と温度変化」ときいてどのようなことを思い浮かべますか? 「考えたこともない!」「カロリー計算とか……?」と感じる人もいるかもしれません。熱の移動と温度変化に関する問題は、中学受験理科の物理分野の中でも、あまり注目されることのない内容なので、存在感が薄いと感じる人もいるのではないでしょうか。特に、実際の入試問題の演習を始めている人の中では、「過去問では見たことないから勉強してない……」という人もいるかもしれません。
ですが、「熱の移動と温度変化」の問題は、回数は少ないとはいえ、実際に出題されており、特別な知識や考え方も必要になりますので、対策が必要です。
今回はそんな、「熱の移動と温度変化」を解説します! 基礎的な内容からしっかり確認していきますので、自分でほとんど勉強したことのない人も、この記事で内容をおさらいしましょう! 最後には練習問題の解説もしていますので、今まで「熱の移動と温度変化」を十分に勉強してきたという人はぜひ挑戦してみてください! 今回の記事では以下のことを解説します。
- 「熱」とは「ものの温度を変化させるエネルギー」である。
- 熱は温度の高いものから低いものへ移動する。その逆は成り立たない。
- 熱を受け取ったものの温度は高くなり、熱を放出したものの温度は低くなる。
- 2つのものの温度が等しくなったとき、熱の移動は止まる。
- 発泡スチロールは物体を「断熱」する。
- 同じ物質であれば、量が多い方が温度変化しにくい。
- 温度変化ははじめの方が大きく、時間がたつにつれて小さくなる。
それでは解説していきます!
Contents
「熱の移動と温度変化」の基本事項をおさらいしよう!
具体的な問題に入る前に、まずは「熱の移動と温度変化」について、その基本的な事柄を復習しましょう!
「熱」とは一体何か? その正体は存在しない?
まずは「熱」という基本的な単語について理解しましょう。「熱」は日常的に使う言葉ですが、それを言葉で説明しようとすると意外と難しいと感じるのではないでしょうか?
「熱」を簡単に言葉にすると、以下のようになります。
ものの温度を変化させるエネルギーのこと
「そんなことは言われなくてもわかる!」と感じる人もいるかもしれませんが、「熱」には「りんご」や「みかん」のような実体はありません。それを言葉で表現するためにこのような言い方になっているのです。すなわち、「熱」自体を観測することはできませんが、「熱による温度変化」は温度計などを使って観測することができます。したがって、熱をあつかうときに、温度という数値を用いると、あたかも熱を観測できているかのような状況になるのです。
実際の入試問題で「熱」の意味が問われることはないかもしれませんが、当たり前のように感じることを疑ってみることも大切ですので、上に書いたことについて、今一度確認しておきましょう!
熱の移動と温度に関するポイント3つ
熱の概念がわかったところで、必ず押さえておくべきポイントを確認しましょう。次の3つに要約できます。
- 熱は温度の高いものから低いものへ移動する。その逆は成り立たない。
- 熱を受け取ったものの温度は高くなり、熱を放出したものの温度は低くなる。
- 2つのものの温度が等しくなったとき、熱の移動は止まる。
一つ目のことについては、部屋の中に熱いお茶をおいておく状況を考えると良いと思います。熱いお茶は室温よりも温度が高いですが、このお茶を部屋の中に放置しておくと、熱は温度の高いものから低いものへ移動します。反対に、部屋の中に氷水をおいておく状況を考えてみましょう。このとき、温度の低い氷水から部屋の中に熱が移動することはないです。もし移動したどうなってしまうかを次のポイントで確認しましょう。
二つ目ののことについても、部屋の中にお茶や氷水をおいておく状況を考えます。一つ目のポイントから、熱いお茶の熱は温度の低い部屋の中に移動していくことになりますが、このとき、お茶の温度はさめて低くなりますよね。なので、熱を放出したものの温度は低くなるということがいえます。
また、氷水の場合を考えてみましょう。このとき、熱は氷水の方に移動して氷水の温度が高くなり、ただの水になります。ここで、もし氷水の熱が部屋の中に放出されてしまったらどうなるかを考えてみましょう。このとき、氷水の温度は低くなるので、氷水は普通の部屋においてあるにも関わらず、どんどん氷になっていきます(!)。ですが、そのようなことは起こりませんよね。このことからも、一つ目と二つ目のポイントが正しいことが確認できると思います。
三つ目のことについても考えてみましょう。先ほどからお茶の例を考えていますが、熱いお茶の熱は部屋の中に放出され、温度がどんどん下がっていきます。このあと、長い時間が経つとどうなるでしょうか。もし、温度の低下が止まらなければお茶の温度は下がり続けて氷になってしまいますよね。ですが、そのようなことは起こりません。なぜかというと、お茶の温度と部屋の温度が同じになったとき、熱の移動が止まるからです。熱の移動が止まれば、それ以上の温度変化はありません。
同じように、部屋の中で温度が上昇し続ける氷水も、ある時点で温度が変化しなくなり、常温の水ができあがりますね。ちなみに、熱の移動が止まったこの状態のことを「平こう状態」とよびます。
問題を解きながら熱の移動と温度変化について理解しよう!
熱の移動と温度変化の基礎知識について理解したところで問題を解いてみましょう!
問題
図1のように、熱いお湯\(200\,\mathrm{g}\)が中に入った大きなビーカーの中に、冷たい水\(100\,\mathrm{g}\)が中に入った小さなビーカーを入れます。大きなビーカーの中に小さなビーカーを入れてから、このお湯と冷水の温度変化を調べました。このとき、次の問いに答えなさい。ただし、大きなビーカーは発泡スチロールのような断熱材でおおわれており、熱の移動はビーカーの間でしか起こらないものとします。
図1
(1) 2つのビーカーの中の液体が同じ温度になるまで、熱はビーカーの間を移動しますが、このとき熱は
- 大きなビーカーから小さなビーカーへ移動する
- 小さなビーカーから大きなビーカーへ移動する
のどちらのように移動するでしょうか。
(2) 2つのビーカーの中の液体の温度変化を図にしました。この図を表したものとして、図①~④の中から最も適当なものを選びなさい。
(3) 新しく2つのビーカーを用意し、大きなビーカーには熱いお湯を、小さなビーカーには\(0^{\circ}\mathrm{C}\)の水と氷を入れた。この状況で再び温度変化を測定したとき、それを表す図は①~③のどれになるでしょうか。最も適当なものを選びなさい。
解説
解説に入る前に問題文にある「大きなビーカーが発泡スチロールでおおわれている」ことの意味を確認しましょう。なぜ発泡スチロールが必要なのでしょうか?
それは、「熱の移動がビーカーの間でしか起こらない」ようにするためです。例えば、この2つのビーカーが冷蔵庫の中に入っていたらどうなるでしょうか。このとき、大きなビーカーに入っている熱は冷蔵庫の方に逃げてしまいます。これでは、お湯の温度変化が、小さいビーカーの中の水によるものなのか冷蔵庫によるものなのかわからないので、問題が成立しませんよね。
このようなことを防ぐために、発泡スチロールなどの「断熱材」を使います。ものを断熱材の中に入れるということは、「魔法びん」の中に入れることと同じだと思ってください。魔法びんの中のお湯は、北極でも山の上でも砂漠でも、同じ温度のお湯になっています(十分に性能が良ければですが……)。考えている物体の外側の温度の影響を受けないために、発泡スチロールなどの断熱材を使うのです。
問題文の状況がわかったところで問題の解説に入りましょう。
(1) これは3つのポイントのところで確認した「熱は温度の高いものから低いものへ移動する」ということを知っていれば解ける問題だと思います。温度が高い液体が入っているのは大きなビーカーで、温度が低い液体が入っているのは小さなビーカーです。したがって、答えは
大きなビーカーから小さなビーカーへ移動する
となります。
(2) ここでは、2つの新しい知識を使います。それは、
- 同じ物質であれば、量が多い方が温度変化しにくい
- 温度変化ははじめの方が大きく、時間がたつにつれて小さくなる
ということです。いまの場合、熱いお湯の方が量が多いので、お湯の方が温度変化しにくいです。つまり、2つのビーカーが同じ温度になったとき、その温度ははじめのお湯の温度に近いということがいえます。したがって、図①と②が正解のこうほになります。
また、温度変化は初め方が大きいということを考えると、図の左側で縦に大きく変化している①が答えということになります。
(3) これはおまけの問題です。「熱の移動と温度変化」と関係が深いわけではありませんが、知っていると面白い問題です。氷は温度が\(0^\circ\mathrm{C}\)の液体の中に入っていますが、「氷水の温度は常に\(0^\circ\mathrm{C}\)」です。なので、氷がとけるまでは、液体の温度は\(0^\circ\mathrm{C}\)のままです。液体がとけたあとは(2)と同じように温度変化するだけなので、答えは②ということになります。
最後に
本記事では、「熱の移動と温度変化」について解説しました。中学入試では頻出ではないとは言えども、特別な知識が必要な問題も多いということが理解できたのではないでしょうか。必ずしも勉強する機会は多いとは限りませんが、最初に紹介した「熱」の考え方や、発泡スチロールでビーカーを断熱することなど、より深く勉強すると面白い内容がたくさん含まれています。「受験であまり必要ないから……」といって切り捨てるのではなく、ものや値が変化する背景を考えるのが物理の面白いところなので、好奇心のままに勉強してみるという時間があってもいいと思います! それでは引き続き中学受験理科の勉強を頑張ってください!