今回のテーマ
前回扱った立憲主義というトピックの続きになります。
今回は法の支配と、それに関連の深い法治主義について、わかりにくいところも分かりやすく解説していきます。
法律で縛るのは誰?
法の支配という言葉を聞いても、当然のことを言われているだけだと思うかもしれません。確かに今の日本は法律があり、破ったらそれぞれ何らかの法律で罰せられることになります。
しかし、法の支配というのはそういったミクロな話ではなく、立憲主義にとって不可欠な基本原理の1つです。
権力者を法で縛り、国民の自由と権利を守る、これが法の支配の持つ意味です。
法の支配と対する関係にある言葉に「人の支配」という言葉があります。これはイメージするなら、独裁者が権力を自由に振るうことのできる状態です。
絶対王政だった時代はこういった状態が一般化していました。法律であっても王様の一声で簡単に覆り、法律より優越する権力に人がいる、それが人の支配です。
一方、法の支配ではその逆の現象が起きます。法が王様や権力者の力に優越するため、すべての基準が法という、明確なものにすることができます。
法の支配のはじまり
法の支配という思想の始まりは、中世イギリスのコモン=ローの優位という思想からです。
2つの単語がくっついてできた言葉なので、一つ一つ分けて見ていくと、コモンとは普遍的という意味を持つ単語です。ローは法律、つまりこれは普遍的な法という意味になります。
このコモン=ローは12~13世紀のイギリスで形成されました。全国に共通する普通法として誕生したコモン=ローですが、皆さんの想像する条文になった法律とは大きく異なります。
裁判所がいくつもの裁判を行い、その判例を蓄積して1つの基準とする、慣習法と呼ばれる法体系がこのコモン=ローです。
一方、日本の刑法や民法のような議会が制定し明確な条文がある法律は制定法と呼ばれます。
出題されたときに、コモン=ローを制定法と混同させるような問題が出たら、裁判例からの蓄積だということを思い出して間違えないようにしましょう。
時代は流れ、17世紀のイギリス。裁判官のエドワード=コーク(1552~1634)はジェームズ一世の裁判干渉に抗議する中で「国王といえども神と法の下にある」というブラクトンの言葉を引用して対抗しました。
王権神授説を唱えるジェームズ一世の上にあるのは神だけだと考えられていた中、この言葉は明確にこのコモン=ローの優位を主張するものでした。
アメリカへと伝わる法の支配
イギリスから独立した国家であるアメリカでも、この法の支配は徹底されました。
次に挙げる法治主義との比較という意味でも、1803年に最高裁判所の判例より確立した違憲審査制というシステムが確立したことはとても重要な意味があります。
今の日本にも違憲立法審査権があるように、憲法に違反する法律を裁判所が無効にするこの制度は、議会や行政が誤った行動をとり、人権を侵害するような状況を防ぐためにあります。
この違憲審査制は司法権の優位という考えに基づくものですが、これは日本国憲法にも書かれてあります。この違憲審査制というシステムで、他の権力に対してより抑制的に振る舞うことができます。
もちろん、裁判所だけに権力を持たせるわけではなく、日本では弾劾裁判や最高裁判所長官の任命権など、裁判所への権力抑制システムもあります。そういう意味でもこのシステムは非常に優れていると言えるでしょう。
法治主義とは
一方、この法治主義は戦前ドイツで生まれました。19世紀に生まれたこの考えは、公権力は議会が定めた法律に従う必要があるという原則です。
法によって権力者の力を抑えようとする考え自体は同じですが、ここでは立法がより強い立場に置かれています。
しかし、これには重大な欠陥がありました。議会が制定する法律はその手続さえあっていれば適切かどうかについてあまり検討されることがなく、「悪法もまた法なり」とする、法律万能主義に陥ってしまいました。
結果、少数者の人権保護がおろそかになってしまう恐れがありました。
コラム:その後のドイツ
法治主義の行き詰まりをナチズムという形で経験したドイツは、法律の内容についてもより重視する方向に動きました。
現在は実質的法治主義に移行し、違憲審査制も取り入れたことで実質的には法の支配とほぼ同じ意味を持つものになりました。
日本での法の支配・法治主義
大日本帝国憲法を制定した時点では、ドイツのプロイセン憲法を手本としていました。そのため、形式的な法治主義の影響を強く受けていました。
一方、日本国憲法では憲法の最高法規性(98条)を宣言し、同時に適正な手続き、そして人権の保障を行うだけでなく裁判所の違憲審査を採用したことで、法の支配を徹底するようになりました。
まとめ
今回出てきた法の支配と法治主義の違いはこうなっています。
法の支配 | 法治主義 | |
司法 | 優位 | 議会 |
違憲審査で修正 | 法の誤りに対して | 「悪法もまた法なり」 |
判例などの慣習法も利用 | 法律の形式 | 形式法、手続きが適正であること |
この2つの意味をしっかり分けて理解し、テストに出たときに間違えないようにしましょう。
次回はまた切り口を変えて近代国家の成り立ちについて解説していきます。
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参考
慶應義塾大学の中村駿作です。
塾講師として2年間、主に国語と社会科を担当しています。特に現代文と政治経済科目には自信があるので、記事もそういった科目を中心に取り扱っていこうと思います。勉強方法が分からないという声も多い国語や、あまり重要視されないお陰で勉強し辛い倫理・政治経済といった科目の理解を深められるような解説を心がけます。また、中学受験と高校受験のどちらも経験しているため、そのときの知識や経験を元にした解説も行えたらと考えています。普段は趣味でスポーツ、とくに海外サッカーとF1を見ています。ヨーロッパやアメリカの昼間に行われているお陰で、日本で見ようとすると夜ふかししなければいけないのが身体に毒ですが、それでもやめられないです。その他、空いた時間に小説を書くことやトレーディングカードゲームをプレイすることも趣味の一つです。