今回のテーマ
今回は近代国家の基本原理である立憲主義と、関連の深い権力分立というシステムについて詳しく解説していきます。
「立憲」という言葉自体は政党名にも使われていることもあり、ニュースで聞いたことがあるかもしれませんが、その詳しい意味についてよく知らないという人もいるでしょう。
今回はその立憲主義について解説します。
そもそも立憲主義って何?
「立憲主義」とは一言で説明すると、憲法によって国が持つ権力を制限して、国民の権利や自由を守る思想です。
これだけだと、まだ具体的なイメージにつながらない人もいると思いますので、より身近な例を出しましょう。
例えば国が勝手に「明日から一定以上の広さの家に住んでいる人は懲役10年」みたいな法律を作ったとしましょう。あなたはその対象者です。
当然、捕まりたくないので何らかの方法を使って抵抗したいですが、警察がその罪で家に訪ねてきた場合逃げられるでしょうか。正直かなり難しいことは容易に想像できますね。
しかし、実際にそんなことが起こらないのはこの立憲主義という考え方が生きているからです。国家権力である立法、そして警察のような強制力を持った権力を憲法が抑える。
こういう形で立憲主義という考えは役立っています。
また、今の日本を含め多くの国家が採用している近代憲法の原理はこの立憲主義に基づくものとなっています。
その中で、この近代憲法の基本原理には4つの柱があります。
- 人権保障
- 国民主権
- 権力分立
- 法の支配
これら4つの基本原理のもと、近代の憲法は成り立っています。
上2つは以前取り扱ったので、今回はここから権力分立について詳しく説明していきます。
正しく政治を行うためのシステム
国にとても強大な権力があることは、これまでの説明で理解できていると思います。しかし、これらの権力は国を維持する上で、そして国民の権利を守るためにも必要なものです。
ではどうやって、その権力をコントロールするのでしょうか。
権力分立はそのためのシステム・原理です。一般的に独裁者、と言われると悪役のイメージがありますが、この権力分立はそういった存在を生み出さないためのものです。
1人や、あるいは1つの機関に権力が集中すると、その権力を濫用して国民の権利を不当に奪うようなことがあり得るでしょう。抗議しようにもその手段ごと奪うことだってできてしまいます。
そこで、権力を分割して相互に抑制と均衡を図ることで防ぐことが大切になります。これが権力分立の原理です。
権力分立の理論的な成立
本格的な権力分立を訴えた人物として挙げられるのはロックとモンテスキューです。
ロックは「統治二論」で議会に立法権を与え、そして国王に執行権と同盟権を与えることで相互に抑制することを主張しました。
同盟権とは外交や戦争を遂行する権利のことで、今の日本では国会や内閣が担うような権利の一部にあたります。
また、このときロックは立法権を持つ議会が国王の権力に対して優位にあるという主張も行いました。
日本の三権分立ではそういった権力の優位関係は存在しないので、問題で出てきたときはよく注意して読みましょう。
次にモンテスキューですが、「法の精神」で権力の三権分立を説きました。この時代はまだ絶対王政があったため、その批判という意味もありますが、ここで初めて現代の日本に通じる、三権分立が成立しました。
このときの三権とは立法権・執行権・司法権の3つです。日本が立法・行政・司法の3つに分かれていることからも、非常に似ています。
また、同時にモンテスキューは同じ本の中で権力者が権力を濫用することは、数多くの経験の中から示されているという主張をしているように、権力分立の思想は基本的に権力者への不信が根にあると考えられるでしょう。
このことを端的にあらあわす言葉に、アメリカ独立宣言の起草者であるジェファーソンが「自由な政府は信頼ではなく猜疑に基づいて建設される」というものがあります。
この人物はまた別のトピックで出てきますが、名前とその内容は押さえておきましょう。
【ロックとモンテスキューの違い】
ロック | モンテスキュー | |
立法・執行・同盟 | 権力 | 立法・司法・執行 |
立法が他に優位 | 優位 | すべて均等 |
権力分立を採用する国家
権力分立制は現代の西洋型民主制国家のほとんどで採用されています。
その中でも、イギリス型の議院内閣制とアメリカ型の大統領制に分類することができるこのシステムですが、議院内閣制は議会が行政の長を決定するためその分立は緩やかなものになっています。
一方、大統領制は国民が直接大統領を選ぶシステムであることから、三権が明確に分離するようになっています。
一方で、この権力分立制を取らない国家もあります。旧ソ連や、中国のような社会主義国家はこのような権力分立の制度をとらず、権力集中制(民主集中制)をとり、権力分立を否定する立場をとっています。
選択肢にこれらの国家が含まれる場合はこのことを念頭に置いて解くようにしましょう。
まとめ
今回の単元では権力分立という考え、そして権力分立が果たす役割とそれを採用する国家について解説しました。
次回は、近代憲法の柱の1つである法の支配について詳しく解説していきます。
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参考
慶應義塾大学の中村駿作です。
塾講師として2年間、主に国語と社会科を担当しています。特に現代文と政治経済科目には自信があるので、記事もそういった科目を中心に取り扱っていこうと思います。勉強方法が分からないという声も多い国語や、あまり重要視されないお陰で勉強し辛い倫理・政治経済といった科目の理解を深められるような解説を心がけます。また、中学受験と高校受験のどちらも経験しているため、そのときの知識や経験を元にした解説も行えたらと考えています。普段は趣味でスポーツ、とくに海外サッカーとF1を見ています。ヨーロッパやアメリカの昼間に行われているお陰で、日本で見ようとすると夜ふかししなければいけないのが身体に毒ですが、それでもやめられないです。その他、空いた時間に小説を書くことやトレーディングカードゲームをプレイすることも趣味の一つです。