今回は詩の表現方法について、その中でも倒置法について詳しく説明していきたいと思います。
まずは、倒置法は、その成分をなす語や文節を、普通の順序とは逆にする表現法です。逆にすることで語気を強めたり、強調させる効果があります。
例をあげてみてみましょう。
「鳴いているよ、鳥が」
普通の文では、「鳥が鳴いている。」となりますが、主語「何が」にあたる「鳥」と述語の「鳴いている」を逆にすることで受け手をひきつけ、強調する効果があります。
このように主語と述語の順番を入れ替え強調させるほかに、目的語を入れ替える場合もあります。例をあげてみてみましょう。
「先生が褒めている、あなたを」
倒置法を外した文にすると「先生はあなたを褒めている」となります。「誰が」「何を」「どうした」の中で「何を」にあたる目的語と「どうした」にあたる述語の順番を入れ替えています。
倒置法は短歌においても非常によく使われている表現です。以下の例を見てみましょう。
金色のちひさき鳥のかたちして銀杏(いちょう)ちるなり夕日の岡に
(与謝野晶子、山川登美子、茅野雅子の合同歌集『花衣』より)
倒置法が用いられているのは「銀杏ちるなり夕日の岡に」の部分です。倒置法を使わない文にすると、「銀杏夕日の岡にちるなり」となります。文の成分をみてみると、主語は「銀杏」述語は「ちるなり」、「夕日の岡に」は目的語となります。
また、「金色のちひさき鳥のかたちして」とは、「銀杏(いちょう)」にかかっています。銀杏(いちょう)の葉を「金色のちひさき鳥のかたち」とたとえており、ここには隠喩が使われていることがわかります。
【補足】隠喩とは
「〜ようだ」「まるで〜」という言葉を使わずに、ある物事を別の表現でたとえる表現技法。
更に倒置法の例をみていきましょう。
やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに
(石川啄木『一握の砂』より)
「目に見ゆ」の「見ゆ」は「見える」の文語であり、終止形の形です。「北上の」でさしているのは石川啄木の故郷である岩手県に流れる北上川のことです。この短歌における主語は「北上川」をさします。
「やはらかに柳あをめる北上の岸辺」が主部、「目に見ゆ」が述部、「泣けとごとくに」は「目に見ゆ」にかかる修飾部になります。倒置法を使わなければ、「やはらかに柳あをめる北上の岸辺泣けとごとくに目に見ゆ」となります。
現代語訳とともに倒置法の効果の違いをみてみましょう。
「やはらかに柳あをめる北上の岸辺目に見ゆ泣けとごとくに」(倒置法)
訳:柔らかに柳の青葉が揺らぐ北上川の岸辺が目に見える、私に泣けと言わんばかりに
「やはらかに柳あをめる北上の岸辺泣けとごとくに目に見ゆ」
訳:柔らかに柳の青葉が揺らぐ北上川の岸辺が私に泣けと言わんばかりに目に見える
「泣けとごとくに」という心情を訴えかける部分に倒置法を使うことで強調されより心情が伝わりやすくなる効果があります。