学習院中等科は、東京都豊島区目白に所在している男子中学校です。
初等科から大学までを擁しており、皇室とのゆかりも深いことから根強い人気を誇る男子校となっています。
JR目白駅前に広大な敷地を有し、都心でありながら緑豊かな恵まれた環境の中で中等科から大学までを過ごすことができるとあって、のびのびとした学生時代を過ごさせたいという受験生の保護者の方々からの信頼度は絶大です。
学習院中等科の歴史は非常に古く、1847年(弘化4年)、幕末の京都に設けられた公家の教育機関として学問所である「学習院」が開講されたのがはじまりです。
ときの孝明天皇から「学習院」の名を正式なものと認められるなど、皇室、旧華族との関係が非常に深い学問所としてスタートしました。
そんな学習院は、明治維新や第一次・第二次世界大戦の荒波を乗り越え、豊かな伝統を守りながら新しい学制に基づき時代の要請に合った姿に自らを変えてきました。
学習院の教育方針の柱は3つ。「ひろい視野」「たくましい創造力」「ゆたかな感受性」です。
異質な他者の個性を認め合い、本当の自分の個性を発見していくこと、文化をはじめとして多様なものに触れて感受性を磨くこと、そして自分から世界に向けて働きかけていくこと。
これらはともすれば「お題目」になってしまいがちなことばかもしれませんが、学習院中等科では自然な形でこうした力を生徒がはぐくめるよう促す教育を行っています。
学習院大学はG-MARCHの一翼を担い、大学受験生からも非常に人気の高い大学です。そこにエスカレーター式に進学できるため、学習院大学に進学する生徒が多いですが、近年は学習院大学にない学部・学科で学ぶため、外部大学への進学を選択する生徒も増加傾向にあります。
たとえば、医学部医学科、薬学部、歯学部などといった医歯薬系への進学者数は年々増えてきており、そうした多様性も認める学習院中等科の懐の深さがうかがい知れます。
今回は、長い伝統を誇りながらも全人格的な教育を発展させ、ますます進化を遂げつつある人気の学習院中等科について、国語の入試出題傾向や対策を、具体的に過去問を見ながら徹底解説します。
ぜひ特徴を押さえて、合格に向けた対策をしっかり行っていきましょう。
Contents
近年の出題傾向
概要
学習院中等科の国語の入試は、例年大問3題の出題が続いています。1題は漢字の書き取り(10問程度)、あとの2題は長文読解問題です。長文読解問題は、文学的文章から1題、説明的文章から1題出題されることがほとんどとなっています。
漢字の書き取り問題は例年必ず10問程度出題されますが、学習院中等科では、学年別漢字配当表に載っている漢字のみの出題だとしています。小学校で学習する漢字の知識は、中学校入学後に展開される知的活動の基礎だと学習院中等科では考えているため、漢字の問題を必ず出題しているのです。
長文読解問題に関しては、文学的文章と説明的文章から1題ずつと、バランスよく出題されます。詩などの韻文が出題されることはまずありません。
ただし、出題する文章は必ずしも児童向けの物だけから選ばれているわけではないことには要注意。新聞や雑誌、単行本などの中から一般向け(大人向け)の文章が抜粋されて出題されることも多いので注意が必要です。
雑な読み方やセオリーを無視した読み方をしていると、文章の内容を把握することは難しく、得点を積み重ねることができなくなるので、日ごろの文章読解への取り組み方がものを言います。
知的好奇心・社会的な視野を持つことを重視しているという学習院中等科の教育方針から考えても、社会動静などを簡潔にまとめた新聞記事なども読む習慣をつけることが推奨されています。
また、バランスよく様々な形式の設問が出題されるのも特徴。記述問題、文章中の空欄を埋める問題(空欄補充問題)、段落分けの問題、文章中から適切な部分を抜き出す問題(書き抜き問題)、記号選択肢問題と、一通り網羅されているため、それぞれにしっかり対応することが重要です。
共通しているのは、「文章把握能力」「思考力」。正確に文章の内容を把握して筆者の伝えたいこと(要旨や主題など)を読み取り、かつ自分の頭でしっかり考えて解答を組み立てることが求められています。
2019年度・第1回入試の出題
大問1:漢字の書き取り(10問)
「市役所のスイトウ係」「ロウホウがもたらされた」「ピアノでバンソウする」「文書にショメイする」「テッソクを守る」「カメラをカマえる」「ゾウキバヤシの中を通る」「あれこれとシアンする」「タイキョしておしかける」「予想がテキチュウする」
学習院中等科で必ず出題される漢字の書き取り問題。
学習院中等科では、漢字の知識に始まる語彙力を、中学入学後の知的探求の基礎として非常に重視しています。そのため、10問という出題にはそれなりの配点が見込まれ、必ず正解しなければなりません。
長文読解問題にしっかり対応するためには、土台となる語彙力といった基礎力が定着していることが前提条件です。
知識の引き出しを広げておき、あらゆるタイプの設問が出題される学習院中等科の国語の入試に対応できるよう、高い知識レベルをキープすることが合格のためには不可欠だと言えるでしょう。
大問2:長文読解問題(物語文)
出典:辻みゆきの文章
主人公は小学生、登場人物に病気のため障がいがある子がおり、親切心からしてあげたことが「同情」だと受け取られて悩みます。
「親切」と「同情」の違いとは、自分の考え方は間違っていたのだろうか、という試行錯誤を通して、主人公は心の中に「とてつもなく大きいものを抱えた」気持ちになり、成長に伴う悩みを文学的な表現で表している文章です。
このように、多様性や、思春期にかけての主人公の悩みを通して考えさせる文章は、中学入試でも多く出題されるようになっています。
また、「普通」とは何か、「普通」でなければ生きていけないのか、という人生の本質を突いた文章を読ませ、考えさせることは、他者を受け入れ、自己を発見するという学習院中等科の教育理念が現れた素材文の選択だったと考えられます。
素材文の総文字数は6,000文字程度であり、中学受験の国語で読む素材文の長さとしてはオーソドックスだと言えるでしょう。
ただし、試験時間と、もう1題同等の長文読解問題が待っていることを考えると、一度で文章の内容を把握し、設問にどんどん答えていかなければならないので、忙しい入試だと言えるでしょう。
設問数は9問です。記号選択式問題5問、記述問題4問の出題でした。記号選択式問題は空欄補充のためのことばを選択させるもの、理由の説明として適しているものを選ばせる問題が出題されています。
記述問題は比較的難易度が高いと言えます。傍線部を説明させる問題、文章全体を一文でまとめさせる問題が出題されており、字数制限があるものが2問、字数制限なしが2問です。
「理由」や「どういうことか」を説明させる問題は、比較的オーソドックスな出題であり、素材文を正確に読み進んでいればそれほど外すことはないでしょう。ただし、文章の表現をそのまま抜き出しただけでは説明にならないので、自分の理解が試される本質的な出題だったと言えます。
また、記述問題も傍線部についてだけでなく、文章の最後の文を題材に、文章全体の理解度を問う問題が出題されています。
「なにかとてつもなく大きなもの」とは何ですか、という設問ですが、これは主人公の身に起こったことや、主人公自身がそうした経験を経てどのように心情が変化してきたかということも理解しておかないと記述することは難しかったでしょう。
そして、最後の問9は、文章全体を一文でまとめさせるという記述問題でした。しかも、30~40字という字数制限付きです。つまりは主題を把握できているか、という、物語文の出題の本質を問う問題でした。
物語文の場合、なんとなく読めているけれど漠然としか主題を把握できていないまま終わってしまうという受験生は少なくありません。そうした弱点を突いた出題となっています。
記号選択肢問題は、選択肢の文が長くはありません。心情の把握、理由説明がないようですが、紛らわしくないだけに確実に正解しないと大きく差をつけられてしまう出題となっています。
物語文の読解で非常に重要なのは、主人公など登場人物の心情把握と、その変化です。文章の中に出てくる表現がそのまま選択肢にあるとは限らないので、ある心情を違う言葉で言い換えることも必要です。その上で、合っている選択肢を選ばなければならないので、作業としては二段階にわたります。
記述問題は、ただむやみやたらと自由に書けばよいというものではありません。聞かれていることに端的に答えることが求められているのが中学受験の記述問題です。50~60字という文字数のなかには、書かなければいけない要素が複数隠れています。
そのため、文章中のヒントを一読する際に確実に印をつけるなどして押さえておき、必要な要素をまとめていって制限文字数内に収めることが求められます。
出題者の意図としては、必要な要素をすべて過不足なく拾って書くことができればその制限字数に収まるはず、というものですから、多すぎる、少なすぎるということは本来ないはずなのです。その点を意識した記述問題対策が必要となります。
大問3:長文読解問題(論説文)
出典:鬼丸昌也の文章による
資源やエネルギーの分配について、先進国と最貧国の現状を分析し、格差社会について考え、世界平和のために何ができるか、その一歩を踏み出すべきだ、という論説文からの出題でした。
SDGs(持続可能な社会の実現)は、社会的な課題であると同時に、私たちの日常生活においてもいまや切っても切れない考え方となってきています。
そうした社会に生きる人間として、問題意識を忘れてはいませんか、一つのことが世界平和を実現できるかどうかに大きく関わってくるんですよ、という警鐘を鳴らす文章です。
文章のレベルとしては、受験生が小学生であることを考えると高度な文章が出題されたと言えるでしょう。
学習院中等科では、新聞、雑誌、単行本などから大人が読むような文章を素材文として出題することも多く、全体的に高度な読解能力が要求される出題となっています。
素材文の長さは3,000字前後、設問は8問。記号選択肢問題が4問、記述問題が制限文字数ありが1問、制限文字数なしが1問の合計2問、書き抜き問題が2問でした。
記号選択肢問題は接続語を選ぶ問題が出題されています。これは、論旨展開が理解できているかを問う問題ですから、落としてしまうと文章の内容把握そのものができない可能性があるので要注意です。
また、「当てはまらないものをすべて選びなさい」という問題も出題されており、選びそこなったらアウトですから、慎重に選択肢を吟味しなければなりません。
記述問題は、いずれも筆者の意見・主張、そして現実について冷静に読み取れているかを問う問題です。文章全体の展開を正確に把握し、筆者の意見と事実を読み分けながら客観的に読むことができないと正解するのは難しかったでしょう。
しかも、文章中に答えのヒントはあるものの、そのままの言葉を抜き出しただけでは説明できないので、自分の言葉に置き換えて「わかりやすく」説明することが求められた、難易度の高い記述問題だったと言えます。
特に重要なのは、文脈を正確に把握し、文章の展開を追うことができるかどうかです。学習院中等科の長文読解では、本文中の空欄に当てはまる語句を選択肢の中から選ばせる設問が頻出です。
こうした問題は、空欄部分だけをながめていても解答することはできません。空欄の前後、場合によっては文章の最初からの流れをしっかり把握できないと正解することは難しいでしょう。
一文ごとの内容把握はもちろんのこと、文と文のつながりを意識して、丁寧に読み進むことが求められます。間違っても集中力を欠いてはその時点で空欄だらけの文章と対峙しなければならなくなるので、最後まで集中して読み切ることも重要です
まとめ~高得点をとるカギ
学習院中等科の国語で高得点を取るカギは、以下の4つです。
- 要点を読み取るためのスピードと正確さ、読み切る力
- 文章中の根拠から外れた読解はNG
- 記述問題は部分点狙いでもいいので的を外さず必ず書く
- 漢字やことばの正確な知識・運用能力
学習院中等科の国語では、長文読解の素材文の長さは2題で9,000~10.000字程度、難関中学の中でも平均的な文章量です。
設問数はあまり多くないため、1問あたりの配点は高めだと考えられますから、1問の成否が大きな差をつけてしまう「怖い」入試でもあります。
ただし、出題自体は決して奇をてらったものではなく、むしろオーソドックスです。大切なのは、素材文を内容に忠実に読み進み、ポイントを素早く押さえること。それができれば、合格最低点に大きく近づくことができるでしょう。
普段の受験勉強の中で、いかに一つひとつの文章を丁寧に読み、文章内容を正確に把握する訓練ができるかがポイントです。
こうした傾向に合わせた対策は、これからでも十分間に合います。方向性をブレさせずに準備を進めていきましょう。
次回の記事では、学習院中等科の国語の入試について、攻略法を解説します。ぜひ参考にしてくださいね。
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参考
一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。