中学受験動向 今年度入試と大学入試改革の関係について

2018年度の中学入試が終わってから早くも数か月がたち、次の関心は来年度、2019年度の中学入試に移っています。

特に受験生の保護者の方にも、また塾で教える側からしても気になるのが、2020年の大学入試改革が中学入試に及ぼす影響がどれほどのものになるか、ということです。

中高一貫校の進学校は、まさに新しい大学入試に向けた教育をおこなっていくことになるでしょう。大学附属校の中学に進学すれば大学入試改革に無縁でいられるかというと、そうとも言えません。目的は大学に進学してどのように学生が主体的に学習できるかということにあるのですから、附属校であっても、大学と連携した教育や試験が行われるようになるのではないかと考えられます。

2020年はもうすぐです。実際にどのような入試になるのかはまだわかりません。ただし、これまでのように解答が一つ、というような試験ではなく、さまざまな方向から考察を加えるような問題が出題される方向性は予測できます。出題の形式も多様化すると同時に、解答も自分で模索し、説得力のあるものを作り上げていくような入試が中心になっていく可能性が高いでしょう。

ただし、現在、新しい大学入試について詳細が発表されているわけではないので、中学入試にどのような影響があるかはまだ明らかになっているとは言えません。しかし、大学入試の変更は着実に進んでいるので、入試をおこなう中学校も出題形式や入試科目、コース分けなどについていろいろと模索している最中です。

今回は、2018年度の中学入試で出題された題材をふまえて、来年度の中学入試と大学入試改革の関係について考えていきたいと思います。

キーワードは「学力の三要素」

2020年の大学入試改革において重視されるべきキーワードは、「学力の三要素」です。内容はのちほどかいつまんで解説しますが、これから学校説明会や塾などで志望校を選ぶ際には、中学校がこの「学力の三要素」をどのように授業や学校生活に取り入れているのかを考慮に入れるようにすべきです。

「学力の三要素」は、これまで学習指導要領などではっきりと明記されていたわけではありません。しかし、内容を見ると、大学進学の際に備えていることが望ましいと考えられている能力であることは間違いありません。大学進学の先、社会に出てからも必要な能力でもあります。

これまでも、特に私立の中高一貫校などでは、これらの学力の要素を取り入れた授業をおこなってきました。その目的は、もちろん大学入試という「出口」に対する意識もありますが、中高6年間を通して「自分から問題意識をもつ」「その解決のための糸口を自分で考える」という姿勢を養うためでもありました。

そのような能力を身につけることにより、大学入試のためのつめこみの受験勉強で伸びきってしまうことなく、将来にわたって自分自身で自分の能力を磨いていけるような環境を整え、授業をおこなってきたのです。

大学が、これから改革されていく新しい入試で試したい学生の能力とは、つまるところ、「大学に入ってから学問を主体的に追究していけるか」というものです。一言でいうと簡単に思えるかもしれませんが、「主体的に学ぶこと」「それを継続していくこと」はそう簡単なものではありません。途中で問題にぶつかったり、考え方自体を見直さなければいけないことも出てくるかもしれません。

そのような状況を自分自身の力でのりきっていくことができなければ、これからの時代、大学卒業はおろか、社会に出ても自分の力を伸ばしていくことは難しいでしょう。そのため、大学に入学する際に最低限身につけて入学してきてほしい力を「学力の三要素」ということばで表わし、小学校時代から意識して学習していくことが求められていると思っていただければよいでしょう。

「学力の三要素」の中身とは

では、「学力の三要素」の中身とは、いったいどういうものでしょうか?現在、文部科学省が発表している内容は、以下の3つです。

  • 「知識・技能」
  • 「思考力・判断力・表現力」
  • 「主体性・多様性・協働性」

2020年の大学入試改革では、これらの「学力の三要素」を備えていることを前提に入試問題が作問されると考えられます。具体的な内容はふたを開けてみないとわからないところはありますが、大きく変化するのは、入試の形式よりも中身そのものになる可能性があります。

形式を変えただけでは、大きな改革とは言えません。そのような大学入試改革は、中学入試にも影響してきています。たとえば、公立中高一貫校では、この大学入試改革を見すえて入学試験にあたる適性検査ブラッシュアップされてきており、変わらず高い人気を誇っています。

では、「学力の三要素」の具体的な内容について簡単にまとめておきましょう。大学入試だけでなく、高等学校、中学校、小学校にいたるまで、逆算して教育改革がおこなわれ始めているので、保護者の方もこの点については十分意識してお子さんの中学受験を考えていっていただきたいと思います。

「知識・技能」

「学力の三要素」のうち、「知識・技能」は、比較的理解しやすいのではないでしょうか。入試問題が、受験生に「何を聞いているのか」「何を求めているのか」ということをしっかり理解し、把握し、正解するための土台となる基礎力が、「知識・技能」という学力です。

つまり、求められている解答(考え方)を導くための土台として必要な「知識」を理解し、定着するまで何度も練習し、覚え、定着させ、さらにそれを使いこなすことのできる力のことを指しているといえるでしょう。

「知識」というと、単に「暗記すればよい」と思いがちですが、暗記するにしても、すぐに忘れてしまっていざというときに使うことができなければ意味はありません。中学受験でも必ず必要な力ですよね。

単に丸覚えをするのではなく、正確に理解し、定着するまで何度も繰り返し、自分のものにする、それができてこそ「知識が身についた」と言えるのです。中学受験でも当然身につけていなければ問題が解けない、最も土台となる能力です。そして、それを使いこなす「技能」も同時に必要とされるのです。

これまでの大学入試でももちろん、こういった「知識・技能」は必要とされてきました。ですが、どちらかというと決まっている「一つの解答」を導き出すために身につけていく、いわば「問題ありき」のものでした。論述問題などでは、単に知識を並べただけではもちろん正解できないもんだいもたくさんありましたし、現場思考が必要な問題もありました。

ですが、2020年の大学入試改革が求めている「知識・技能」の能力は、今まで求められていたものよりさらに深いものだといえるでしょう。なぜなら、「知識・技能」は土台であり、さらにそれを活用することが求められているからです。身につけた「知識・技能」を使いこなすためには、単に「覚えている」だけでは足りません。

今後求められるであろう「知識・技能」は、それを使って「思考力・判断力・表現力」が身についているかどうかを判定するための基準の一つだといえます。最低限身につけていなければならないものであるだけでなく、それをもとに試行錯誤することが重要視されていくでしょう。

「最低限」必要なもの、というと、レベルが低い、と思われてしまうかもしれませんが、決してそうではありません。「知識・技能」を軽視してはいけません。より応用的な「思考力・判断力・表現力」を入試で発揮するということは、問題を見てただ思ったこと、現場で考えたこと、感想を書けばよいというものではありません。

あくまで正確な「知識・技能」を思考を発揮するための土台として身につけておかないと、現場で初見の問題に直面したときに、最初にどこから取りかかればよいかというヒントさえ見つけられない、ということになってしまう可能性が高くなります。

これは、中学受験でも同じことがいえます。近年、中学受験でも、「思考力」というキーワードが飛び交っていますね。大手塾の難関校を目指すクラスでは、「思考力養成」をうたった授業がおこなわれていたり、授業中でも当たり前のように「思考力を身につけなさい」と言われているのではないかと思います。保護者の方も、塾の面談などで、「お子さんの課題は思考力ですね・・・」などと言われたご経験があるのではないでしょうか。

ですが、「思考力」と一言でいっても、ピンとこないことが多いのではないでしょうか。「自分の頭でよく考える力でしょ」というイメージできるくらいかもしれません。「思考力」については次に詳しく解説しますが、中学受験でいえば、しっかりとした基礎力、つまり「知識・技能」を身につけたうえで試行錯誤をいとわず、問題に食らいつく力と言ってもよいかもしれません。

大学入試では、さらに広範囲にわたって「知識・技能」の正確さが求められ、それに基づいて初見の問題に対して「思考力・判断力・表現力」を発揮して、採点者に対して自分の能力をアピールするということができるかどうかが合否の分かれ目になると考えられます。

「思考力」はすぐに身につくものではありません。「知識・技能」の習得と共に少しずつ身についていくものです。いきなり「思考力=難関校に合格するのに必要な力」と飛びついても、「知識・技能」が身についていないお子さんにとっては非常に苦痛なものです。中学受験の勉強をするときも、また中学に入ってから進めていく学習においても、「知識・技能」、つまり確固とした基礎力を徹底して身につける必要があるということを忘れないようにしてください。

「思考力・判断力・表現力」

「思考力・判断力・表現力」とは、自ら課題を発見し、その解決に向けて探究し、成果などを表現するために必要な「考える力」「解答への方向を判断する力」「それをわかりやすく表現する(書く力などです)力」です。先ほども書きましたが、中学受験でも、いまやこのような能力を問うような出題が増えてきています。

最近の中学受験では、どの教科においても、問題文が長文化してきている傾向にあります。これは、単にいたずらに長い文章を読ませるのを目的としているのではありません。長い問題文や多くの資料を読み解き、設問で聞かれていることをしっかり把握すること、そして解答の方向性を試行錯誤しながら判断し、途中式や理由付けなどを、採点者(答案を読む人)にわかりやすいように記述する(表現する)ということが求められています。

このような入試傾向は、難関中学校の入試ではこれまでもずっと続いてきていました。現在では、学校によってレベルの差はあるにしても、このような傾向の問題を出題する中学校が非常に増えてきました。

また、理科・社会を融合したような、教科横断型の出題も増えてきています。教科を分けずに、合科型、あるいは総合テストのような形で、どの教科を解くときにも常にほかの教科の知識や内容と関連していないかどうか意識することを求めるような入試も増えてきました。

本質的になにかを探究するためには、好奇心や、わからないものを試行錯誤して克服していこうという姿勢が不可欠です。2020年の大学入試改革では、そういったことが前面に押し出されています。だからこそ、将来の大学生となる学生には早くからそういった能力を伸ばしてほしいいと中学校も考えているため、中学入試の出題傾向も変わってきているのです。そこで求められている力をキーワードでまとめるとすると、「思考力・判断力・表現力」ということになるわけです。

「思考力・判断力・表現力」は、中学受験でもとても重要で必要な能力です。特に塾の上位クラスではよく聞かれますよね。志望校に合格するためには、こういう力を身につけなければならない、そのためにはもっともっと難しいことができるようにならなければならない、と思われる方も多いと思います。ですが、「思考力・判断力・表現力」は、決して特別難しいことを求めているわけではないということを忘れないでください。

「思考力・判断力・表現力」は、自分の力で定着させた「知識・技能」を、本番でいかに、使えるか、ということが重視されます。また、入試の現場で「これに対して答えてほしい」という学校側のメッセージが最もこめられている部分ともいえます。それほど身構える必要はありません。

中学校がこのような力を求めるのは、ただ問題文を読んで答えを探す「知識・技能」にとどまるだけではなく、自分で考え抜いた解答に至るまでの「思考のプロセス」がより重視されているからです。さらに、受験生一人ひとり異なる「思考のプロセス」を、自分だけがなっとくするのではなく、読み手(出題者)にも納得してもらえるだけの表現力を身につけてきてほしい、というメッセージを受験生に伝えたいからです。それを確かめるために行われるのが「中学入試」なのです。

中学入試の問題は、中学校から受験生に向けられたメッセージです。もちろん、大学入試でも同じです。今後、中学・高校、大学、大学院に進むにつれて論文を書くこと葉必須になってくるでしょう。そのときに、ただ「自分はこう思う」と書いても、指導教官はおろかほかの学生や研究者にはまずわかってもらえなません。根拠がないからです。

最近、中高一貫校では、高校に進学する前に、論文を書かせ、プレゼンテーションさせる学校が非常に増えています。中学校に入学したらすぐにテーマを決め、時間をかけて研究し、書きあげていくのです。論文を書いたり、プレゼンテーションをするということは、もはや大学生になってからの問題ではなくなってきているのです。

論文を一例に挙げましたが、何か自分で試行錯誤して結論を出した際に、それを理解してもらうためには、なぜそのような理由づけから結論に達したのか、納得してもらう必要があります。大学生や大学院生、研究者などになってから書く論文は、それこそただ書いて終わりではありません。

それを日本中の、さらにはそれにとどまらず、世界中の研究者に引用され、その考えの裏付けをさらに発展させ、応用する方法をさまざまな人が考えるきっかけになるほどの高いレベルが求められます。その基本形を、大学入試までに理解し、身につけてほしいというのが「思考力・判断力・表現力」を前面に改めて押し出した理由だと考えられます。

「主体性・多様性・協働性」

学力の三要素のうち、最も分かりにくいのは、この「主体性・多様性・協働性」ではないでしょうか。パッと見てもよくわかりませんよね。また、それぞれがどのような関連性を持っているのかも分かりにくいのではないかと思います。

簡単にいうと、自分なりの考え方や行動(主体性)をもつこと、さまざまなバックグラウンドを持った人たちの多様な考え方を受け入れることや自分との違いを受け入れること、さらには、他の人と協力して何かを成し遂げる力、ということになるでしょう。それでも、まだ抽象的かもしれませんね。

はかられているのは「コミュニケーション能力」

東京の最難関男子校の一つ、駒場東邦中学校の入試問題の国語の問題は、毎年長い物語文1題です。そうすると文系向きなのでは、と思われるかもしれませんが、ご存知の通り、駒場東邦中学校は、医学部や国公立難関大の理系に進学する生徒の多い、どちらかというと理系志向の強い中学校です。実際に、芝浦工大柏中学校など、理系大学に進む方が多い中学校では、論説文や説明文、物語文であってもどちらかというと理科系の文章が出題されることが多いです。

理系志向が強いというと、説明文や論説文など、論理性や科学的な考え方が問われる文章の方が、受験生にとっては理解しやすいと思われるのではないでしょうか。でも、出題されるのは物語文なのです。それには、中学校なりに考えた結果、どのような文章を出題するかという理由があるのです。

駒場東邦中学校の先生はこのようにおっしゃいました。「うちの学校は、医師を目指して医学部を受験する生徒や、研究者を志して国公立大学の理系を目指す生徒が多いです。ですが、現代は、医師といっても一人だけで診断を下し、一人だけで手術をする時代ではありません。チームを組んで、さまざまな意見を統合して診断をします。中にはセカンドオピニオンを必要とすることもあります。

たとえば、手術をするときも、医師一人ではすべての手順をやりきることはできません。執刀医だけでなく、麻酔医、手術器具を手渡す看護師など、患者の命を守るために何人ものチームで事前に打ち合わせをし、手術をします。

そして、手術をするときには、チームでコミュニケーションをとって、最短時間で最良の治療をしなければなりません。医師でなく研究者も、一人で孤独に実験を行うのではなく、研究室に入って、何人かで協働してアイデアを出しながら研究をおこないます。ときには、国を越えて外国の研究者と協働することもあります。

このように、理系だからといって一人で何もかも完結するということはありません。「他の人が考えていること」をお互いに理解したうえで行動しないと、前に進むことができないのです。これは文系であっても同じです。何よりも大切なのは、将来どのような進路に進むにしても、「コミュニケーションをとること」です。

このような理由から、駒場東邦中学校では、毎年物語文を出題し、登場人物の気持ちを考え、さらには作者の想いに気づいてもらいたいと考えています」、ということでした。ほかの難関中学校でも、物語文1題の出題をしている学校もありますし、論説文などと同時に物語文を出題する中学校が非常に多いのは、理由あってのことなのです。

「主体性」だけ備わっていても十分ではないことを意識しよう

もちろん、「主体性」、つまり自分の考えをしっかり持地、自分から行動することはとても重要なことです。しかし、独りよがりになって、自分の考えだけに固執することはコミュニケーションを阻害することになってしまいます。

他の人の意見を取り入れることや、自分の考えと比べてみて、どちらを軸にするか、他の人のどのような意見を取り入れるとよりよくなるか、自分と他の人の意見の違いはどこにあるのか、実は共通点があるのではないか、などと試行錯誤し、最終的に多くの人と協力して何かを創り上げることができる力、それが「主体性・多様性・協働性」ということばで表現されているのです。

たとえば医学部の入試では・・・

大学入試では、すでに数年前から変化が表れ始めています。たとえば、私立の医学部の多くは、一次試験として、まず学力試験を行います。一次試験に合格した受験生に対して、二次試験が課せられます。大学によってはいずれか一方を課さないこともありますが、ほとんどの大学では、二次試験で小論文と面接が課されます(中には小論文を省略したり、一次試験のときに課す大学もあります)。

私立医学部の小論文の試験では、順天堂大学の医学部の試験が有名です。絵画を見せて、それについて受験生に考えを書かせるというものです。その絵画は、階段を上っていく男の人の背中であったり、貝殻に耳をあてている少女であったり、一見、医学部受験と関連していないようなことがほとんどです。

そのため、果たして医学部入試に必要な小論文試験といえるのだろうか、とこれまでも予備校も分析に苦労してきたという経緯があり、「順天堂の小論文は対策の立てようがない」とずっと言われてきました。もちろん、何が模範解答か、ということも分析不能だったのです。

ただし、合格者に聞いてみると、絵画を見て、無理に医学に関連させて小論文を書くのではなく、大切なのは「何を」「どのように伝えるか」という、文章の構成と読みやすさがポイントだったのではないか、と口をそろえて言っていたことが印象に残っています。

このような出題以外にも、さまざまな大学で、文学的な作品や、評論文を出題して、それに対して受験生に相対する考えを示させ、自分はどちらの考えに賛同するか、それはなぜか、といういわば「1人ディベート」をしてそれを文章で表現させるものも数多く実施されてきました。

また、二次試験では面接も課されますが、こちらも形式面、内容面とも変化が見られます。以前は、個別面接や、集団面接という形をとっていても、実際には順番に1人ずつ面接官から問いが投げかけられ、それに対して答えていくという形式が多かったのですが、近年は変化が見られます。

面接時間が倍以上に長くなったり、個別面接から集団討論に方式をを変えた大学が増えています。以前は、一次の学力試験でほぼ結果は決まると言われていましたが、現在は二次試験の倍率も非常に高くなっています。二次試験が非常に重視されるようになってきていると言えるでしょう。面接で問われているのは、自分の意見を主張し、周りの意見を整理し、賛同できるものは取り入れ、最終的には協働して結論を出す、ということであり、そこに至るまでのプロセスが評価の中心とされるように変化してきています。

こういった形で、「主体性・多様性・協働性」はこれまでも合否の判定の基準に使われてきました。今回新たにはっきり打ち出したことにより、どのような形で大学が出題してくるのか、一番読めないところでもあります。

このような「主体性・多様性・協働性」もすぐに身につけられる能力ではありません。そのため、中学受験でも、このような能力が求められるようになってきています。

では、これらの「学力の三要素」が中学入試に及ぼしている影響について、解説していきましょう。

中学入試で特に重要視されるのは「思考力・判断力・表現力」

2020年の大学入試改革にともない、中学校や高等学校の教育内容も変化してきています。先ほども述べましたが、各学校によってさまざまな取り組みがおこなわれており、これまでのような、教員による一方方向の授業ではなく、生徒が主体的に、持っている知識などを総動員して学習をおこなうように変化が起きてきています。

そして、そのような学習をおこなうにあたって、より重視されるのが、「学力の三要素」の中でも「思考力・判断力・表現力」だといってよいでしょう。「知識・技能」を入り口とし、「主体性・多様性・協働性」が出口だとするならば、そこに至るまでに生徒一人ひとりが試行錯誤し、自分の頭で考え抜くための「思考力・判断力/表現力」を鍛えなければならないからです。

そのため、中学校や高校には、特に「思考力・判断力・表現力」の育成が重要課題として課せられるようになってきています。その間にこれらの能力を育成するためには、中学入試の段階で、「思考力・判断力・表現力」がどの程度備わっているかを判断し、さらにその後の6年間で、その力をどのように伸ばしていくか、という教育内容を学校が用意する、という傾向がっ強くなってきています。

そのような入試改革の背景の中で、中学入試の出題傾向や問題形式にも、少なからず変化が見られるようになってきています。具体的に、どのように変化しているかを見てみましょう。

【従来の中学入試問題】

従来の入試問題は、量とスピードが重視されてきました。多くの知識を頭に入れ、それを問題に合わせて当てはめる(吐き出す)ことが中心でしたので、いわゆる「記憶力のよい受験生」「解法をたくさん知っている受験生」に有利な入試であったといってもよいかもしれません。

【これからの入試問題の傾向】

これは、まだ各中学校の中でも試行錯誤が続くと考えられますが、少なくとも「知識偏重」からは脱却する方向に進んでいくのではないかと考えられます。量に関しては、全体に読まなければならない量が増えるので、スピードが重視されなくなるということはまずないでしょう。

しかし、知識の量、解法の量を問う出題から、以下のような特徴をもった入試問題に変化してきている傾向が見られます。

  1. 従来よりも長めの課題文を読ませて、「論理的思考力」をはかる問題
  2. 「現代社会において問題となっているテーマ」について、関心や理解を問い、考えを述べさせる問題
  3. 身近なできごとを取り上げて、自分の意見を書かせるような問題(「正解が一つとは限らない問題」)
  4. 教科だけで完結させるのではなく、教科の仕切りを取り払った、教科融合型(合科型)の問題

2018年度の入試の段階では、全体的に見れば、このような変化はまだ劇的なものとは言い切れません。大学入試改革が近づく2019年度以降の入試では、さらにこのような傾向が強くなるのではないかと考えられます。

大学入試改革が決まっているのに、2018年度の中学入試ですべての中学校がこのような波に乗らなかったのはなぜでしょうか。考える理由としては、二つあるように思えます。

ひとつは、中学校側も、急激な入試問題の変更に対するためらいがあるという点です。あまり急激に入試を変えると、受験生はどのように受験勉強をすすめればよいのか側からなくなってしまいます。また、問題を作成する学校側の方針の決定もまだ確固なものとなっていないということが言えるのではないかと考えられます。

一度「あの学校の入試傾向はこうだ」と思われると、受験生はそれに合わせて受験勉強をすすめようとするものです。ですが、受験生の将来を考え、また、中学校の評判を考えると、急激に変化させるのにはちゅうちょせざるを得ないのでしょう。

もうひとつは、大学入試改革の内容が、2020年に近づいてきているものの、いまだ流動的で、はっきりした発表がなされていないことが挙げられます。特に、国公立大学の二次試験(個別試験)や、私立大学の入試問題が具体的にどのように変わるのか、がよくわからないので、そのための準備をする中学校側も入試問題にどのような工夫を加えたらよいのか戸惑っていると考えられます。

中学校からすれば、自校の入試問題を、大学入試改革に合わせて変更していく必要があることは十分理解していても、現在のところ、あまりに大胆に変更してしまうことに不安を感じ、時期尚早だという思いがあるのでしょう。

さらにいえば、中学校が大学入試改革に合わせてやるべきことは、単なる中学入試問題の改変をすればよいというものではありません。入学してから、中学・高校の6年間おこなう教育内容の変革こそが求められている役割なのです。新たな大学入試に対応できる能力を、6年間かけて生徒に身につけさせることこそが求められており、力点を置くべきなのはまさにその部分です。

中学入試の改革は6年間の教育をどのように行っていくかということと表裏一体です。そのため、現状ではあまりに大胆に中学入試を変更することに二の足を踏んでいるというのが実際のところでしょう。

特に、難関校は、これまでも少なからず今後行われる大学入試改革にフィットするような入試をおこなってきています。そして、6年間の教育内容も大学入試改革が将来おこなわれるか否かにかかわらず、「生徒が将来主体的に学習をしていけるためにはどのように教育をするべきか」「そのような教育についてこられる生徒を選抜するために入試をおこなう」ということを考えられたものとなっていました。

そのため、今回の大学入試改革に対して特に動じる必要はない、今まで通りでよい、という強い信念を持っています。そのような学校の受験生側から見れば、入試問題の傾向に大きな変化はない、という安心感を持つことができるため、大きな動揺は今のところ見られていません。

2018年度入試で目立った出題は?

そうはいっても、2018年度の入試で全く変化がなかったかというとそうとも言い切れません。いくつかの変化も見られました。ここでは、主な変化についてご紹介します。

社会的なテーマを扱った問題

社会は、3年以上前の過去問を解いてもあまり意味はないと言われるほど、日々変化が起こり、データも年々変わっている教科です。2018年度の入試問題では、さまざまなテーマに基づく長文を読ませて、設問に答えさせ、さらには、それをもとに受験生に考えを整理して述べさせる、という形式の出題が多くみられました。

たとえば、以下のようなテーマについての出題がありました。中には、理科においても社会的なテーマを扱った出題もありましたので、例を挙げておきます。

  • AI・未来社会について(芝中・社会【4】問4)
  • スマートフォン・SNSについて(頌栄女子学院中・社会【1】問7、8)
  • 訪日外国人について(香蘭女学校中・社会【3】問8)
  • 長時間労働について(埼玉栄中・社会【3】問3)
  • 「働き型」について(西武文理中・社会【5】)
  • 憲法第9条・前文について(江戸川学園取手中・社会【5】)
  • 地球温暖化対策について(早稲田実業中・理科【5】【6】)
  • シャルリー・エブト本社襲撃事件(筑波大学附属駒場中・社会【3】)

この中で、筑波大学附属駒場中学校の問題は、決して長文の問題ではありませんでした。非常にデリケートな内容を含む問題でしたので、小学校6年生がどの程度問題文を理解できたかについては、正直なところはわかりませんが、非常に内容の濃い評論文という形で出題されています。

以上に挙げたようなテーマは、昨年度もいくつかの中学校で出題されています。たとえば、地球温暖化対策については、慶應湘南藤沢中で出題されました。

また、女性に関する問題も出題されています。女性の労働力率について(工学院大附属中)、婚姻届について(公文国際学園中)、昨年度非常に目を引く問題が出題されています。女性に関する問題は、女性だけの問題ではなく、男性も関心を持つべき、という学校側のメッセージが伝わってきますね。

最近、「働き方改革」はテレビのニュースや新聞でもよく取り上げられており、見たり聞いたりすることも多いキーワードの一つですね。西武文理中の社会で、「働き方」についての出題がありました。非常にタイムリーともいえる問題でしたので、例として、どのような入試問題が出題されたのかご紹介しておきます。

【問題】「働く」ということについて、次の文章を読み、あとの問に答えなさい。

かつてあるイギリスの経済学者は、「将来は一人が一週間に15時間働けば十分な世の中になる」と言いました。
また、生活を送るために十分なお金を全員に与える「ベーシックインカム」という取り組みを実験的におこなった地域もあります。
さらに、「AI(人工知能)の発達によって不要になる職業」も最近話題となりました。
このように考えると、「人が働くのは当たり前」という考え方自体が大きく変わるのかもしれません。

(設問)働かなくても生活をするために十分なお金が国からもらえるとしたら、あなたは
「働きますか?」「働きませんか?」どちらか一方を選んだ上で、その理由を具体的に答えなさい。

条件を設定して、どちらかの立場に立ったうえで自分のとった結論とその理由を記述させるという問題は近年非常に増えてきています。この問題は、「人は、お金さえあれば働かなくなるのかどうか」という、大人が考えても難しい普遍的・究極的ともいえる問いかけに対して、自分の意見を述べさせるものでした。

このような問題は、今後さらに増加すると考えられますが、小学校6年生がどのように考え、記述するのか、また、学校がどのようなレベルを求めているのかなど、非常に興味深い問題だったと言えます。学校説明会などで機会があれば、ぜひ中学校の先生に聞いてみてください。中高6年間の教育と、入試に込めた思いを聞くと、これからの入試改革に受験生がどう対応すべきなのか、ヒントが得られると思います。

2017年度に起こった時事問題

毎年、社会では時事問題が多くの学校で出題されます。ニュースや新聞などで興味をもって触れていることができれば、それほど細かい知識が要求されるものではありませんが、知っているか知らないかで大きく差がつきました。

たとえば、ラ・サール中、浦和明の星中、学習院中等科、城西川越中、世田谷学園中などは時事問題が出題されています。ほかの学校でも、大問でなくても、時事的視点を必要とする出題が多くみられました。

思考力・表現力を求める問題の出題も目立った

社会的なテーマとはまた別に、思考力や表現力を求めるという出題も、最近よく見られる傾向です。統計資料や地図、天気図など、問題文だけではなく、多様な資料などから解答のヒントを見つけ出していくという、「読解力」が要求されている問題が増えています。

このような問題は、社会に限らず、全教科にまたがる資料が出題されるような問題もあり、教科横断的な学習をしてこないと、入試問題を見ても面食らうばかりで、解き方のヒントが見つからずに時間が足りなくなってしまうでしょう。教科の区分けを越えた横断的な学習は、今後中学受験で非常に重要になってくるでしょう。

たとえば、以下のような入試問題が出題されました。

【慶應義塾中東部・社会】

慶應中等部では、昨年度までは、記述問題は、選択問題の一部として、小問1問だけ、短文の記述問題が出題されてきました。しかし、2018年度は、記述問題が独立し、大問【7】として出題され、しかも文字制限もなくなるという大きな変化がありました。解答蘭からすると、おおむね150字前後を記述することを想定した問題だと考えられます。

テーマとしては、スマートフォンや携帯電話を学校に持ち込むことについてでした。他の中学校でもよく扱われるテーマですので、内容自体は決して難問だったとは言えません。しかし、身近で気軽に使えるスマートフォンや携帯電話を学校に持ち込むことは、今や社会問題となっています。

このような問題の重要性をどの程度わかっているか、普段から意識しているか、という経験がないと、150字という、長めの文章にまとめることは難しかったでしょう。また、採点者が読む文章としての長さを考えても、わかりやすく書く必要がありました。まさに、「思考力・表現力」を試す問題であったと言えるでしょう。

【頌栄女子学院中・算数】

頌栄女子学院中では、これまで毎年、計算問題、文章題、図形問題などがまんべんなく出題されてきましたが、2018年度は、解答に至るプロセスを説明させるような問題が目立ちました。

一つひとつの解答プロセスについて、明確に理由付けして解答することが求められているので、理由付けも単に「こう思ったから」ではなく、採点者が理解できるように説明することが必要な出題です。普段の受験勉強から、ただ式を書き連ねるのではなく、なぜ次にその式が来るのか、必要なのか、行間をしっかり説明できるようにする訓練が必要な問題でした。

このような問題は、頭の中が整理されていなければ正解することができません。計算をして出た数字が何を指すのか、ということを一つひとつていねいに整理していくことを、普段の学習の中で習慣づけることが、どこの中学校でも今後求められていくでしょう。

【渋谷教育学園幕張中・社会】

渋幕の入試問題は全体的に非常に難しいのですが、中でも、理科と社会を融合させた問題は数年前からよく出題されています。

2018年度の問4では、まさに理科と社会の垣根を越えた時事問題が出題されました。「飛行機の飛行には、空気の薄さや湿度が影響を与える」といった知識が、社会の問題の中で必要とされました。

「これは社会の問題だから」という固定観念をもってしまうと、ほかの教科の知識は全く必要ない、と思いがちですが、特に理科と社会は融合問題として出題されることが増えています。このような教科横断型の問題では、先入観を持たずに、問題文をよく読んで、条件を整理していくことが必要です。難関校に限らず、理科・社会を合科型科目として出題する学校はますます増えていくでしょう。

今の時代特有の問題が多く出題されている

時事問題に限らず、問題文の設定を、受験生になじみのある表現を使って出題するような問題も増えています。国語などは、今の時代に特有のシチュエーションを題材にしたような出題が以前からされてきましたが、国語以外の教科でも、今の時代だからこそ受験生に親しみやすく、ですが内容は難しく、という問題が増えてきています。たとえば、以下のような出題がされました。

【海城中・算数【5】】

海城中学校は、以前から最先端の問題が大好きな学校です。パッと見て何の問題だかよくわからないような問題もよく出題されますが、よくよく問題文を読んでいくと、大切な条件が潜り込んでいる、というような問題が多い学校です。

2018年度の算数では、小学生になじみがあるであろう、ゲームを題材にした問題が出題されました。魔王に連れ去られた姫を勇者が救いに行き、連れ戻してくる冒険物語が問題文として出題されました。算数の問題としてです。少し意外ですよね。

このようなゲームを攻略した受験生も多かったでしょう。ですが、楽しみながら解けそうな問題に見えながら、細かい場合分けが必要となる問題でしたので、解答を出すまでにはかなりの根気が必要な問題でした。

一見解きやすそう?と思っても、実際にはかなり高度な算数の知識や解法、発想力、根気よく書き出す力など、オールラウンドな算数の知識が必要な問題でした。読みやすい問題文だからといって、条件を読み飛ばしてしまうと正解できない問題です。このような、一見とっつきやすいように見えて実は持てる力を総動員しないと正解できないという問題は、これからも増えていくと考えられます。

【函館ラ・サール中・社会】

函館ラ・サール中は、男子の難関校を第一志望にする受験生が1月にまず受験する学校としても有名です。2018年度は、北海道のお土産で有名な商品名の原材料や、由来を答えさせる問題が出題されました。

社会では、東京の学校でも、地域に密着した題材を問題にして出題することが増えています。伝統的に有名なのは、開成中の「東京問題」ですね。山手線一周の車窓から見える風景を題材に、歴史や地理、すべての社会の知識を総動員して解く特徴のある問題です。

このほか、中学校のある地域の地層や、地形などについての出題をする学校も増えています。地層や地形は意外に軽視されやすいところなので、近年出題が増えています。日常生活の中での一つのページを切り取ったような問題が多く出題される傾向が高まっていますので、普段から意識して学習しておくとよいでしょう。

まとめ

社会や理科、算数などについて、2018年度の入試では身近でありながら、実は問題文をよく読まないと条件を見落としてしまうような問題が出題されていたことをご紹介しました。

国語の問題でも、一般社会で取り扱われるような題材(心理の裏表、社会問題についての賛否の意見など)を出題し、小学生なりの思考力・想像力を働かせて考えさせる問題もたくさん出題されています。記述問題でもよく出題されるテーマですが、最近目立つのは、選択肢問題などでも、かなり高度な論理的思考力を要求する問題です。

すべての教科で共通することですが、問題文は長文化傾向にあり、その内容を分析し、条件を見落とさないようにすることが要求されています。そして、2020年の大学入試改革に向けてさらにこの動きは加速していくでしょう。

大学入試改革の影響が、今後の中学入試の出題にどの程度、どのように反映されるようになるのかは、今後の推移を見ていく必要があります。ただ、一つ言えるのは、「学力の三要素」のうち、「思考力・判断力・表現力」を要求する問題は非常に増えてくると考えられるということです。

中学入試に必要な学力は、まず土台となる基礎力である「知識・技能」をしっかり身に着けること、そして「思考力・判断力・表現力」を磨き、どのような形式で出題されたとしても、最後までくらいついて執念をもって問題を解く力です。

知識・技能を完全なものにし、問題で聞かれていることをしっかり考え、つかむこと、それが中学入試に対応するための第一歩です。そして、この問題に必要なことはどれか、必要でないことはどれかを判断し、作問者である読み手に読みやすい答案を作ること、それが求められています。

まだまだどうなるかわからない大学入試改革ですが、その影響はじりじりと中学入試に影響力を及ぼしてきています。奇をてらった学習をする必要はありません。知識を正確に理解し、整理すること、問題文を読んでその場で必要な情報を整理すること、そこに知っている知識をどう応用していくかが非常に大切です。ぜひ、日々の受験勉強の中でも意識して取り組むようにしていきましょう。

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。