受験生の皆さん、時事問題対策は始めているでしょうか?そろそろ毎年各塾から出版される時事問題集が発売されますが、来年の入試の準備としては、どうしても受験の基本カリキュラムの方に力を入れることにならざるを得ません。新型コロナウィルスの影響で、1学期に押さえるべき点を消化しきれていない塾もあり、また、受験生の側も一通りカリキュラムをさらいきったとは言えない状態であるケースが多いからです。
しかし、近年の中学入試では、時事問題の出題は欠かせないものとなっています。90%~95%の中学校が何らかの形で時事問題を出題しています。時事問題の多くは社会に関するものというイメージをお持ちではないでしょうか。たしかに社会の入試問題で取り上げられるテーマは社会、それも政治や国際関係に関わるものが多いですが、現在は理科に関する時事問題や、社会・理科両方にまたがった時事問題も出題される傾向が強まってきました。
それはなぜかと言うと、大学入試改革とも関係はありますが、「この教科はこの勉強をしていればいい」という決まった形ではなくなってきていることが理由として挙げられます。社会は社会だけの勉強をすればよい、と思っていてもどうしても範囲を超えるところが出てきます。理科も例外ではありません。そうした「少しはみ出たテーマ」は、時事問題という形でさまざまな出題形式・問われ方で作問されるという点には注意が必要です。
直前期に向けて時事問題で取り上げられるテーマについてのまとめをお伝えしていきますが、今回は自然災害、なかでも水害対策についてまとめます。近年、台風やゲリラ豪雨などが猛威をふるっていますよね。ニュースで濁流に流される家や車の映像をご覧になった方も多いのではないでしょうか。土砂崩れや、河川の氾濫による水害も非常に深刻なものとなっています。
自然災害は主に理科のメカニズムに関連するテーマですが、その対策については社会の範疇であることも多いので、理科と社会の双方の視点を持って勉強しておくことが必要です。たとえば、自治体は東日本大震災を契機として、ハザードマップを作成したり、避難のための呼びかけ方法を定め、改善を図るなどして対策をおこなっています。こういう経緯もあり、近年の中学入試では水害とその対策をテーマとする時事問題の出題が多く見られます。
では、日本では水害対策としてどのような特徴ある施策をおこなっているのでしょうか。水害が起こりやすいと言われる地域と、そのまちに施されている対策などについて思い出してみましょう。一度まとめておくと応用が効くので、知識が固まっていないなと感じている方はこの記事を参考にまとめて理解してしまいましょう!
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水害対策の要塞・輪中地帯について思い出そう
近年の中学入試では、「水害」をテーマに、社会を中心に理科の内容も絡めて時事問題としても出題されることがよくあります。そのなかでも、水害関連の知識としてよく出題される知識のひとつに「輪中地帯」(わじゅうちたい)があります。4年生の時期に地理で学習した内容ですが、覚えているでしょうか。実は輪中は水害対策の要塞ともいえる存在なのです。まずは、輪中地帯について、その関連知識も合わせてまとめておきましょう。
最初に、輪中地帯とはどのような状態の土地をいうのか覚えていらっしゃるでしょうか?簡単に一言でまとめると、輪中地帯とは「堤防で囲まれたまち」ということになります。一周分、つまり360度四方ぐるっと堤防で囲まれた地域、それが輪中です。「輪中」ということばは覚えていても、いざ具体的にどういうところなのかについては忘れている受験生が多いです。また、ほかの用語と混乱しているケースも少なくありませんので、まずは輪中とはどういう地帯のことなのかしっかり押さえておきましょう。この「輪中」が水害対策の大きなヒントになるのです。
では、輪中を360度ぐるっと囲んでいる「堤防」とは何でしょうか。最近は翁川の近くに住んでいないとあまり身近に感じることがないかもしれませんが、堤防とは、土を盛り上げて作られている壁のことを言います。つまり、輪中地帯は堤防に囲まれているので、もし台風や豪雨などがあって川の水位が上がってしまった場合であっても、堤防を乗り越えてまちの中に入ってこない、水害が及ばないようにつくられているまちだということです。
近年の豪雨や土砂災害の影響で、堤防が決壊してしまうというニュースをご覧になったという方も多いかもしれません。堤防が決壊してしまうということは大雨洪水警報が出ていて、住民に避難勧告が出ている状態ですから、堤防も歯が立たないこともあるのが近年の特徴となっている点についても意識しておきましょう。堤防は天然の要塞をつくるものですが、それではもはや防ぎきれないほどの異常気象が起こっているという問題意識を持つことが大切です。
輪中地帯と言えば、の基礎知識
模試やテストで「輪中地帯」の問題が出た経験をお持ちの受験生も多いのではないでしょうか。「輪中地帯」に関する問題の多くは、「輪中」という用語を答えさせるものです。その際に出てくるヒントとしては、「家や田んぼを水害から守るために周囲を堤防で囲んだ地帯のことを何というか」とされていることが多いです。ここまでヒントがあれば、基礎知識として「輪中」という答えを導き出すことができるでしょう。
ただし、過去問演習や入試問題レベル、あるいは今後の志望校別模試などでは単に用語を答えさせるような問題はまず出ません。応用問題となると、ずばりそのものの知識を問うというよりは、関連知識がつながっていて適切に使いこなせるかどうかという力が要求されます。つまり、「輪中」についての問題であれば、関連する重要知識を現場で連想できるようにしておかなければなりません。
では、輪中という知識を肉付けし、聞かれ方を変えられたとしても答えられるようにするためには、どういった知識を理解しておくべきなのでしょうか。大きく分けて以下の5つは覚えておきましょう。
・木曽三川
・ 濃尾平野
・ 水屋と母屋
・ 三大暴れ川
・ ハザードマップ
木曽三川は輪中以外でも絶対押さえておくべき知識
輪中というとまず連想しなければならないのが「木曽三川」(きそさんせん)です。日本はもともと降雨量が多い地帯も多く、全国的に河川も非常にたくさんあります。そのため、日本全国にいくつも輪中地帯があります。そのなかでも中学入試で出題される輪中と言えば、やはり木曽三川の流域にある輪中です。ほぼこの地域の輪中が出題されると思ってかまわないでしょう。
入試問題の出題としては、有名な川の名前をヒントとして出して、輪中を連想させるような難しめの正誤問題を出すという形も多いです。
ここで問題となるのが、木曽三川の名前と位置です。もしこの知識があやふやな場合は、輪中に限らず基礎知識問題で落としてしまうことがあるので、ここでしっかり整理しておきましょう。木曽三川とは、東から順番に「木曽川」(きそがわ)「長良川」(ながらがわ)「揖斐川」(いびがわ)です。
読み方が難しい川もありますが、社会の問題では固有名詞は漢字で出題されると思ってください。答えを書くときも漢字で書けるように練習しておきましょう。この木曽三川が問題として出てきたら、直接の答えが出なかったとしてもまずは「輪中」を思い出せるようにしておくことが必要ない、大切な知識です。位置についても聞く問題が良く出題されるので、地図帳でしっかりと位置と流れ方を確認しておき、白地図でも書き込めるくらいにしておきましょう。
濃尾平野と木曽三川の関係も押さえておこう
川は必ずどこかに流れ着きます。川の上流から海に流れ込む場合もありますし、平野地帯に流れ込む場合もあります。では、木曽三川がどこに流れ込むか、覚えていらっしゃいますか?
答えは「濃尾平野」(のうびへいや)です。濃尾平野の「濃」は美濃、つまり現在の岐阜県を中心とした地域です。「尾」は尾張、つまり現在の愛知県を中心とした地域です。つまり濃尾平野というのは、愛知県と岐阜県を中心とした地域にまたがる平野だということですね。現在のどの県にまたがっているのかが分かれば、いきなり木曽三川についての知識を聞かれても迷う必要はありません。濃尾平野も大きな平野として、また木曽三川が流れ着く場所として必ず押さえておかなければいけない地域なので、地図帳でしっかり確認しておいてください。
濃尾平野の特徴は、木曽三川が流れ込むことだけではありません。日本三大都市のひとつである名古屋市が含まれることも知っておきましょう。また、工業と関連して「中京工業地帯」もあります。中京工業地帯は日本一の生産高を誇る工業地帯です。その大きな原因は、日本一の規模を誇るトヨタ自動車の本拠地(豊田氏)があるからです。中京工業地帯が関連するということになれば、横の棒グラフでそれぞれの工業地帯や工業地域の産業構成や割合などの図がパッと頭に浮かぶようにしておく必要もあります。このように、濃尾平野は大都市圏にあり工業にも大変関係があるので、重要な平野として押さえておき、どんな関連事項を聞かれても答えられるようにしておきましょう。
水屋と母屋、混乱していませんか
輪中に関連する重要な用語として、「水屋」(みずや)と「母屋」(おもや)があります。同じく「屋」という文字が付いているので混乱してしまう受験生が多いところです。
これを理解するためには、かつての輪中地帯の生活形式が大きく関係しています。かつての輪中地帯には、日常生活を送る家である「母屋」と、水害が発生したときに備えて食料をためておいたり、避難場所として使う場所である「水屋」がありました。輪中地帯以外でも、母屋と離れ、といったように1軒の家に中心となる家と来客用や倉庫としての用途で建てられた建物がある地方はいまでもありますが、ここでポイントとなるのは「水屋」です。
なぜ水屋を建てていたのかと言えば、それだけ水害が起こる可能性が高く、住民は水害が起こることを前提として建物を作っており、ライフスタイルができていたということが理由です。昔から輪中地帯においては水による被害は切っても切れなかったということが分かりますね。
母屋と水屋以外にも、「水塚」ということばも押さえておきましょう。これは、関東地方の荒川流域で今でも見られる建物で、これも水屋と同じように水害が発生してしまったときに備えておく建物です。水屋ほど知られていないので、これも関連付けて覚えてしまいましょう。
混同しやすい「木曽三川」と「日本三大暴れ川」
水害対策としての要塞、輪中についての出題と言えば「木曽三川」ですが、意外と引っかかりやすいのが正誤問題です。正誤問題の場合、記述問題のように部分点がもらえないので、正確な知識をその場で出してくる必要があります。ということは、紛らわしい知識があるということですね。
木曽三川と混同しやすいのが「日本三大暴れ川」です。受験生なら皆さん知っているはずの知識です。日本三大暴れ川は、日本国内にあるよく反乱を起こす川としてその名がついています。「利根川」(坂東太郎)、「筑紫次郎」(筑後川)、四国三郎(吉野川)ですね。特に四国三郎である「吉野川」は「四万十川」と間違えやすいので気をつけましょう。四万十川は急流で有名ですが、三大暴れ川には入っていません。
日本の名所や自然には「3」という数字が非常に多いです。「日本三景」など皆さん4年生の頃に習いましたよね。それだけに、混同しやすいので注意が必要です。正誤問題の場合、川の場所をしっかり覚えていないと正誤問題では正解できません。いま一度木曽三川と日本三大暴れ川を区別して、地図帳で場所と特徴を確認しておきましょう。
災害と言えばハザードマップ
水害は古来から日本人とは切っても切れない関係でした。古代の奈良時代から平安時代にかけては水害が良く起こりました。特に有名なのは、平城京から平安京に都が遷る間に「長岡京」という都がワンクッション置かれたことです。長岡京は長い間幻の都と言われてきました、たった11年間しか都として機能しなかったからです。平城京~長岡京~平安京への遷都は桓武天皇の時代におこなわれたことですが、水害がひんぱんに起こったことが都を移した原因だったとも言われています。
現在日本に輪中地帯があるのも、そこで暮らす人々と、その地帯の水害の歴史があるということを理由としてセットで理解できるようにしておきましょう。特に難関校では、輪中に関する問題については、その地域で暮らす人々の暮らし方と、その地域の水害の歴史をリード文として説明し、そこからさまざまな知識を問う問題が出題されます。
このような輪中地帯にすむ人々と水害の関係は、つまりは日本で以前からどの世な水害対策が行われ来たのかという歴史でもあります。ひとつには輪中を囲む堤防をつくる、といったことが挙げられますね。これはいわば「ハード面」、つまり物理的に何かを作って対策するということです。しかし、水害対策はハード面だけではありません。「ソフト面」も大切です。水害のソフト面から見た対策として必ず押さえておきたいのが「ハザードマップ」です。
では、ハザードマップとはどういうものか、しっかり押さえられているでしょうか。これは社会、理科、そして時事問題で欠かせない知識です。日本でハザードマップがクローズアップされたのは東日本大震災のころからですから、まだそれほど歴史が長いわけではありません。ハザードマップとは、災害が起こったときに想定される被害状況などを各地方自治体がまとめて市民に提供する「地図」のことを言います。
そのため、水害のときだけに使われるものではありません。津波の被害や火山活動など、地域ごとに想定される災害は異なります。そのため、地域ごとの対策が必要になるわけですね。ですから、ハザードマップは想定される災害ごとに、地域別に複数(災害の数だけ)作られているということが分かるでしょう。
たとえば、水害に関するハザードマップでは、「浸水の範囲(想定)」「浸水の深さ(想定)」、「避難場所」などが細かく決められていて、いざというときに使えるように準備されているのです。ハザードマップは毎年のように入試で出題されており、出題のしかたも単純ではありません。何のために使うものなのか、それを作ることによってどういう事態を解決できるのか、といったところまでまとめておくことをおすすめします。
輪中地帯と関連させた入試問題としては、輪中地帯とハザードマップを関連させて、ハザードマップの内容について問う問題が出題されています。関連付けて確認しておきましょう。
まとめ
今回は、近年時事問題とも関連して良く出題される自然災害のうち、水害についてまとめました。特に重要な知識は「輪中地帯」とそれにまつわる自然の仕組み、そして「ハザードマップ」の意義と内容です。
中学入試の社会の出題傾向は、リード文が非常に長くなり、さまざまな視点から設問がつくられています。そのため、関連する知識を幅広く、しかも正確に整理しておく必要があります。ひとつの用語が出てきたらどれだけ多くの関連知識を瞬時に連想できるか、ということが合格のカギを握っていると言っても過言ではありません。
社会の知識を入れるときには単に1問1答で用語だけを覚えようとするのだけでなく、核となるシンプルな知識をもとにして、関連用語を覚えるとともに「なぜそれに関連するのか」という意識を持って学習することが必要です。
知識と知識のつながりが広がれば広がるほど整理しにくいと感じるかもしれませんが、核となる知識を中心にひとつの円に関連知識を入れていくようなイメージで理解し、覚えていきましょう。細かすぎる知識は必要ないので、テキストレベルの知識を、地図帳や資料集などのビジュアル面も活用して理解してくださいね。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。