日本では、自民党の総裁選挙が告示され、選挙が実施される運びとなっています。安倍内閣総理大臣の突然の辞職表明を受けてあわただしく票集めがされています。前回は、この自民党総裁選挙と日本の内閣総理大臣の選挙の仕組みについて解説しました。
また、今年は11月にアメリカでも大統領選挙がおこなわれます。トランプ大統領が、新型コロナウィルスの影響があるので、大統領選挙を来年に延期しようなどと発言したこともありましたが、共和党・民主党ともにそれは無視して、予定通り今年大統領選挙がおこなわれます。
アメリカは大統領、日本は内閣総理大臣が政治の代表です。呼び方が違うように、選ばれ方もずいぶん違いがあります。ただし、それぞれに国がとる政治方式があり、それに最も適しているという制度がとられているという意識を持つと時事問題も理解しやすくなります。
では、アメリカの大統領選挙はどのような仕組みでおこなわれるのでしょうか?日本と似ているところもあればまったく異なる点もあります。細かいところまで覚える必要はありませんが、大統領選挙がおこなわれることにより、日本の選挙制度について考えさせる時事問題が来年の入試で出題される可能性は非常に高いと考えられます。
今回は、アメリカ大統領選挙の仕組みや政治制度についてまとめてみます。日本と共通する点、異なる点を意識しながら整理しておき、アメリカ大統領選挙にも興味を持ってニュースなどに触れてみてくださいね。
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アメリカ大統領選挙は候補選びから
アメリカの元首は大統領です。大統領は政治部門の代表であり、副大統領とともに政治的問題の解決のため活動し、国会と対決します。アメリカの大統領選挙では、大統領と副大統領がワンセットで選挙で選ばれます。副大統領は、大統領を補佐するとともに、大統領が万が一職務不能になった場合は、副大統領が職務を変わって遂行する、とされています。
候補になるのもサバイバル!
今回の大統領選挙では、共和党はトランプ大統領とペンス副大統領、民主党はバイデン大統領候補とハリス副大統領候補がすでに候補者として指名を受けています。日本の総裁選挙のように、出たい人が同じ党の中でそれぞれ立候補して選ばれるというのとは異なる形を採っています。
ただし、大統領・副大統領候補のペアは、簡単に選べるものではありません。まずは大統領候補なら、「私が○○党の大統領候補として立候補する」という人が党ごとに何人かいて、その中から生き残った人が最終的な候補になるサバイバルゲームが候補者を選ぶ段階ですでにおこなわれているのです。
大統領として立候補したい人は、党員集会などをおこなって自分の政策などを訴え、どれくらい支持を得られるかという戦いをします。党員集会や政治集会を開くだけでも非常に多額の資金が必要になるので、寄付などを募り、政治資金を集めます。そして、支持が得られるか、政治資金は十分かなどを考えながら、このままだと支持も得られそうにないし政治資金も集まらなそう・・・という場合には、残念ながら大統領候補線から撤退する、ということになるのです。アメリカでは、党の大統領候補に選ばれるまでがまず大変です。
また、アメリカの選挙戦では、党員による戸別訪問がおこなわれます。1軒1軒党員が回り、誰に投票しますか?○○党のだれだれに投票してくれませんか、と訴えかけるのです。アメリカ人は選挙に対する関心が高いので、党員集会などにも足を運ぶケースが多いですが、ダメ押しとして党員が戸別訪問をするというのは特徴的です。
予備選挙で党の大統領候補が選ばれる
党員の支持が得られて、ある程度党の候補になれそうかな、という候補に絞られてきたら予備選挙がおこなわれます。予備選挙は、大統領候補者にだれを選ぶか、という選挙です。多くの場合は、予備選挙段階ですでに大統領候補はこの人に一本化かな、と決まっていることが多いです。立候補を回避して、選ばれそうな人に票を入れる、いわば勝ち馬に乗るケースが多いのもアメリカ大統領選挙の特徴です。
各州ごとに党員集会がおこなわれ、予備選挙がおこなわれますが、たとえばスーパー・チューズデイということばを聞いたことはありませんか?これは、その日に多くの州の予備選挙が集中しているからそのような名前が付いています。それが大統領候補選出の大きなカギを握るため、「スーパー」と大げさな名前が付いていますが、大統領候補となれるかどうかが決まる大切な日だと言えるでしょう。ここで大票田の予備選挙で勝利できれば、グッと大統領候補に指名される可能性が高くなるので、このスーパー・チューズデイに照準を合わせ、候補者に自分の政策を訴えることによって指名を受けるべく予備選挙を戦うのです。
予備選挙がおこなわれ、大統領候補者が選ばれると、それぞれの政党は党員集会をおこない、正式にわが党が誰を大統領候補とする、という「大統領候補指名」をします。現在大統領候補となっている共和党のトランプ候補、民主党のバイデン候補ともに、それぞれの政党から大統領候補として指名を受けています。
大統領候補は、指名されると次に自分とペアになる副大統領候補を指名します。自分だけではカバーできない部分を埋めてくれる人を選ぶことが多いです。例えば民主党のバイデン候補は白人ですが、マイノリティのインド・ジャマイカ系のハリス候補を副大統領候補として指名しました。一方、共和党のトランプ候補は、現職の大統領なので、同じく現職の副大統領であるペンス候補が副大統領候補となっています。
アメリカでは、大統領専用機をエアフォース・ワンといい、副大統領専用機をエアフォース・ツーと呼びます。海外に2人が移動する場合には、飛行機の故障などで万が一にも2人とも亡くなるということのないように、専用機も分けているんですね。副大統領が、大統領の代理を務めることからも双方の立場がそれぞれ独立して重視されていると分かります。
アメリカは二大政党制
ちなみに、アメリカは二大政党制となっており、共和党と民主党の一騎打ちに毎回なっています。もちろん第三の政党、候補者もあるにはあるのですが、共和党と民主党があまりにも大きく、また実力伯仲しているので、この2つの党で争われることがほとんどです。共和党と民主党を覚えておけば十分です。
両者の違いはもちろん政策に表れていますが、共和党はどちらかというと保守的、民主党は革新的と言われています。支持する層も共和党は白人が多く、民主党はマイノリティと呼ばれる小数民族の人からの支持も集めているのが特徴です。ちなみに、トランプ大統領の前のオバマ大統領は、民主党でした。広島を訪れたので記憶している方も多いのではないでしょうか。
アメリカ大統領選挙は実は間接選挙
アメリカ大統領選挙では、国民が直接投票所に行き、大統領候補者を選ぶ仕組みがとられています。しかし、実は国民が選んでいるのは、大統領候補者ではありません。「ん?大統領を選ぶんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、実際に国民が投票所で投票するのは、「選挙人」なのです。
選挙人という制度は日本にはありません。選挙人とは、アメリカ各州ごとに割り当てられた、最終的に大統領候補に投票をおこなう人のことです。
アメリカは選挙人制度をとっている
国民が投票所に行って投票することを一般投票といい、一般投票のあとに選挙人による選挙がおこなわれるという二段構えの選挙となっています。選挙人は、あらかじめどの大統領候補・副大統領候補のペアに投票する、という誓約をしています。つまり、国民は自分がこの人に大統領になってもらいたいという大統領候補への投票を制約している選挙人を選ぶ、ということになるわけです。
国民による一般投票の結果により、いずれかの政党の大統領候補を支持する選挙人が票を得ます。その上で、選挙人が改めて選挙をおこない、1票でも多い大統領候補・副大統領候補が選出されると、その州の選挙人全員の票がその政党の候補に入るという、いわば勝者総取り制度がとられています。
選挙人は、各州にいるわけですが、基本的には人口に応じた人数がそれぞれの週で決められています。アメリカ大統領選挙では、たとえば速報で「○○候補がカリフォルニア州をとりました」という報道がされます。これはつまり、○○候補が、カリフォルニア州に割り当てられている選挙人全員を獲得した、ということです。カリフォルニアは特に大票田として選挙人の数も多く割り当てられています。そのため、報道でもよく聴くわけです。日本の内閣総理大臣選挙が各都道府県でどのような結果になっているか、ということは聞きませんよね。これがアメリカの大統領選挙の大きな特徴です。
大統領選挙と同時に議員選挙も実施
アメリカでは、大統領選挙と同時に、上院議員・下院議員の議員選挙も実施されます。内閣総理大臣と衆議院議員選挙が同時に行なわれているようなイメージですね。
アメリカでは議会は上院と下院の2つに分かれています。大統領候補になる比とは上院議員であることも少なくありません。また、アメリカでは、大統領と議会のねじれ現象が起こることが多く、大統領が共和党なら議会の多数派は民主党、といったような結果になれば、議会は大統領を監視し、大統領は議会と対決するという構造ができているというわけです。
必ずしもねじれ現象が起こるわけではありませんが、徹底して三権分立を守ることを標榜しているアメリカでは、議会が大統領の横暴を許さない、という考え方が徹底しているため、大統領の監視役を兼ねているわけです。一方、法案などは議会から提出され審議されますが、アメリカの大統領にはそれを拒否する「拒否権」が与えられています。議会に監視される代わりに自分の政治をおこなうために、大統領は拒否権によって自分の意見を通すわけですね。拒否権を行使されると、修正法案を出すなどして議会が対応することになります。
また、大統領選挙の結果は、この、大統領選挙と同じ日におこなわれた議員選挙で当選した議員による上院・下院総合議会によって、選挙人による選挙結果を開票し、より得票数の多かった方が大統領・副大統領として選出され、翌年1月に就任式がおこなわれます。
まとめ
アメリカ大統領選挙について簡単にまとめました。日本とは異なり、アメリカ国民は自分が大統領になってほしい人を直接選挙することができます。しかし、完全な直接選挙ではなく、自分が支持する政党、支持する候補者を選ぶと誓約している「選挙人」を選ぶという形を採るので、実質的には間接選挙と言えます。ただし、誰に自分の票が入るのかがわかるので、自分の手で大統領を選ぶという経験をアメリカ国民はしているわけですね。
また、大統領と副大統領がセットで選ばれるのも特徴的です。副大統領は、万が一のことがあったときに速やかに大統領職を代行するという重要な役割を持っています。副大統領はあまりクローズアップされないこともありますが、次の大統領選に出馬するケースもあるので、実は非常に重い位置にいるのです。
アメリカといえばホワイトハウス、その中でアメリカ大統領は生活し、執務をおこないます。どこの国でもそうですが、誰が、どの政党の人が大統領になるかによって、ほかの国との外交や内政、貿易などの考え方がガラッと変わります。ホワイトハウス、つまり大統領府のスタッフも総入れ替えになるのです。
4年に1度おこなわれるアメリカ大統領選挙、今年は自民党総裁選挙・内閣総理大臣指名もおこなわれるので時事問題としては格好のテーマです。細かい内容まで知っておく必要はありませんが、大統領がどのようにして選ばれるのか、どれだか強い権力を持っているのか、ということと、誰が現職の大統領で候補者が誰かということはぜひ押さえておきましょう。政治の仕組みを考えるうえで非常に参考になりますよ。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。