中学受験における算数は難しいとよく言われます。受験生や保護者の方もそのように思ってとにかく算数を攻略するために、毎日算数に必死に取り組んでいることと思います。ですが、算数は得意と不得意がくっきり分かれてしまう教科であるため、なかなか成績が伸びないと悩んだり、テストの成績に一喜一憂することも多いのではないでしょうか。
中学受験の算数は、受験算数という特殊な教科と言っても良いでしょう。もちろん小学校で学習する6年生までの算数の内容がベースになっていることはたしかですが、実際に入試で出題される算数の問題は、小学校の教科書のレベルを超えた問題が多く、複雑さも比べものになりません。そのため、対策に苦慮するというご家庭は少なくないのです。
ただし、中学受験の算数は、中学校ごとに出題形式がかなり異なります。1問めから難問ばかりが並ぶところもあれば、比較的解きやすく短い問題が数多く並んでいる、という学校もあります。
志望校によって出題形式は異なりますが、算数の成績がなかなか伸びない場合には、そういった比較的解きやすい、短めの問題で落としていないかチェックしてみましょう。なぜなら、比較的解きやすい短めの問題が解けなくては、まず難問の大問を解くことはできないからです。
比較的解きやすい、短めの問題とは、いわゆる「一行問題」です。計算問題などと一緒に日々の塾の宿題として出題されることも多い一行問題ですが、実はそういった問題がしっかり解けるかどうかで合否を左右するほど重要な問題でもあるのです。
今回は、一行問題がなぜ重要なのか、一行問題を克服することによるメリットとともに解説します。受験算数を攻略する第一歩ですので、ぜひ参考にしてください。
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「一行問題」とは? なぜ重要なの?
一行問題とは、多くの場合1行から3行程度の問題として出題されます。なかには複雑なものもありますが、比較的素直な解法を使えば解ける、という問題のことです。これまで、模試でも最初の方に計算問題に続いて8問から10問程度出題されているという形式で取り組んだことは受験生の皆さんならあると思います。算数のテストでは、多くの場合、最初は易しい計算問題から始まり、徐々に複雑な解法を要する問題になりますよね。前半に配置されている短めの、知っている解法を使えば解ける問題が一行問題です。。
一行問題は、たとえば以下のような問題です。
「学校から家まで1,500mの道のりを、はじめは分速60mで歩き、そのあと分速80m出歩いたところ、22分かかりました。分速で60m歩いた道のりは□mです。」
この「□」に入る数字を答えるのが一行問題です。
一行問題はなぜ重要なの?
例を見ても分かるように、一行問題はほかの大問と比べて問題文も短く、問われていることも1つです。各単元の例題レベルで押さえている基礎基本の解法を使えば解ける問題がほとんどだと言えるでしょう。
ですが、比較的単純な問題だからと言って一行問題を軽視すると痛い目に遭います。実は、一行問題をいかに落とさず正解していけるかどうかが、算数の合格ラインに達するかどうかを決めることが非常に多いのです。たとえば模試の場合、算数の配点を見ていただければわかると思いますが、計算問題であっても、一行問題のような単純な問題であっても、複雑な大問の一つひとつ、どれをとっても1問あたりの点数が同じことが多いですよね。配点の差がある場合でも、それほど大きく変わらないことが多いです。難問と配点が変わらないのであれば、比較的解きやすい一行問題を全問正解するか、それとも間違えてしまうかによって特典が大きく変わることは予想できることですよね。
配点が変わらないことに加えて、一行問題は出題される問題数が多いです。模試では大問2の小問集合という形で出題されることが多いですが、全て正解した場合、それだけで200点満点中の50点から60点近くになることも少なくありません。
実際の入試問題でも、問題数が多い中学校の場合、一行問題プラスアルファ程度の問題を数多く出題されます。そして、そういった中学校は非常に多いです。算数の合格者平均点は6割から7割程度であることが多いので、志望校によっては知行問題だけで合格するかどうかが決まってしまうということも少なくないのです。それに加えて難問の大問をいくつか正解できれば、十分合格ラインに達することができるというのが入試の実情と言っても過言ではありません。
しかし、受験勉強をおこなううえでよく考えなければいけないのは、一行問題を解くのにかける学習樹幹です。一行問題は入試で合格するために欠かせない問題ですが、あまりに一行問題にばかり時間をかけてほかの応用問題を解く時間が無くなってしまいます。そうすると、戦えるところまでは来ても、応用問題に手を付ける時間が無くなってしまい、結果として得点を積み上げることができなくなってしまいます。こういった事態にならないために、時間内に解ける問題をすべて解ききるためにも、一行問題を解く際には、正確さとスピードを両立させることがとても重要になってくることを意識しておきましょう。
一行問題によって算数の基礎基本ができる
一行問題が大切な理由としては、第一にすらすら解けるようになると、受験算数の基礎基本がしっかり身につくということが挙げられます。
応用問題も一行問題の組み合わせであることが多い
応用問題を見ると一行問題とかけ離れているように思えるかもしれませんが、実は複雑で難しそうに見える問題であっても、一行問題で使う知識の組み合わせであることは少なくありません。
ということは、一行問題がしっかり解けるなら「これとこれの解き方を組み合わせれば解ける」といったように、応用問題の解法を思いつきやすくなります。それに加えて計算が速くて正確であれば、一行問題だけでなく応用問題でもミスすることが少なくなるというメリットがあります。
一行問題だけを切り取って「基礎問題でしょ。こんなの出来て当たり前」とおろそかにすると、各単元の基礎基本が身につかないため、いくら難問を解こうと思ったとしても解けるようにはなりません。そうすると、なめていた一行問題に戻らなければいけないことになり、時間が足りない、ということになりかねないので注意が必要です。
理解度の深さによって差がつくのが一行問題
一行問題レベルの長さの問題を多く出題する中学校もありますが、いわゆる難関校であればあるほど、一行問題の出題は少ないという傾向があります。その理由は中学校によって異なりますが、一行問題レベルの単純な問題は解けて当たり前、その解法を組み合わせたり試行錯誤して使えるものを引っ張り出してきて、応用問題においても活用できるかどうか、そういった実践力を重視しているのだと考えられます。
そういった難関校ではどうしても応用問題中心、それも途中式を書いていかなければ解けない問題が多く出題されますが、そういった問題が解けるかどうかは、結果としてそれぞれの単元の基礎基本、つまり一行問題の解法がしっかり身についているかどうかにかかっているということを忘れてはいけません。応用問題中心の中学校を志望校にしている場合であっても、一行問題を速く、正確に解けるということは不可欠です。一行問題をしっかりトレーニングして正答率を上げることは、ひいては複雑な応用問題を解く際のカギになるからです。一行問題の解法をしっかり理解し、使いこなせるようになるまで力をつけることが大切です。
一行問題は地道な繰り返しがマスターのカギ
このように、中学受験において、一行問題が非常に重要な意味を持つことをお判りいただけたと思います。では、そのように重要な一行問題をマスターするためにはどうすればいいのでしょうか。一行問題をしっかり身につけるための対策をご紹介します。
毎日の学習スケジュールに組み込む
一行問題は、出題範囲は非常に広いです。なぜなら、どの単元においても一行問題が基礎基本になるため、それが解けなくてはステップアップして難問に取り組むことができないからです。ですから、一つひとつの単元において典型的な一行問題をしっかりマスターすることが必要です。
そのためには、やはり「繰り返しの練習あるのみ」だと言えるでしょう。単に解くだけでなく、正解しなくては意味がありません。もし正解できなかった場合は、その単元の例題レベルの基礎基本が理解できていない可能性があります。また、受験学年の一行問題は複雑化してくるので、問題をよく読んでどの単元に関する問題なのかをよく吟味して解くことが大切になってきます。
そのような一行問題対策をするためには、毎日必ず少しでも一行問題に触れておくことがとても大切です。計算に関しては、たとえば1日に15分、30分程度と時間を決めて学習を習慣化している受験生も多いですが、一行問題まで手が回らない、というケースも見られます。計算問題も一行問題も「やらなければわすれてしまう」「くりかえさなければできなくなってしまう」という性質を持っているので、同じように一行問題も繰り返し練習することが重要なので、学習スケジュールに組み込んでおきましょう。
計算問題と同様、1日に15分、30分程度、一行問題を解く習慣をつけ、学習計画に組み込みましょう。もちろん、一行問題をすらすら解けるという場合はもっと時間は少なくても構いません。ただし継続練習あるのみなので、習慣化することはとても大切です。算数に関しては毎日必ず学習する、という受験生の方がほとんどだと思いますが、大問を解く前のウォーミングアップとして、一行問題を解くことを習慣化すると良いですね。比較的単純な問題が多いので、頭の準備体操にちょうど良いですし、それを正解できると気分よく難問に取り組むことができるという効果もあります。
問題を解く時間をきちんとはかる
いくら一行問題が大切だとは言っても、それにばかり学習時間をかけすぎると学習のバランスが崩れてしまいます。一行問題を解く際に求められるのは、第一にスピードと正確さ、第二に解法の確認です。たとえば、この〇問を△分で解く、といったように一行問題を解く際の目標を設定し、時間をはかって時間内に解けるかどうか確認しながら進めることが大切です。
一行問題を日々解くのは、その単元の基礎基本を確認するため、という意味合いが強いです。一行問題を深く理解し、ほかの問題にその解法を使うことができるように訓練するのです。ですから、だらだらと解けばいいというものではありません。また、応用問題を解く際にはどうしても時間がかかるので、算数の学習っ時間の中で一行問題を解く時間と応用問題を解く時間のバランスをしっかり考えて学習を進めるようにしましょう。そのためにも、きちんと時間をはかって日々学習することが大切です。急いで解こうとするとどうしても雑になってしまいがちなので、何問解くのにどれくらい時間がかかるか、それが適当か、という時間配分を自分なりに決めておくことをおすすめします。
一行問題も「書いて」「整理して」解く
一行問題は、比較的単純な問題が多いため、受験生の中には、頭の中だけで解こうとしたり、筆算を書き散らかしたりして解くケースが少なくありません。ですが、実際の入試でそのような取り組み方をしたら、一行問題中心の中学校ではまず合格点は取れないでしょう。また、一行問題と言えども解法の手順がきちんとあり、その解法を確認するために学習する意味があるということを忘れてはいけません。
ですから、一行問題を解く際には、必ず手を動かして解法の順序を書き出しながら整理して解く、ということを徹底しましょう。ここを丁寧にできるかどうかが一行問題克服のカギです。手を動かして式を書きながら解法を整理し直して正解までたどり着く、という解き方はどの問題でも同じです。決して雑に解かないようにしましょう。
また、一行問題を克服するためには、何といっても繰り返し練習し、解法を頭に叩き込むことが大切です。そのため、できなかった問題を放置するということは絶対にやってはいけません。
解けなかった一行問題は、間違いノートを作るなどして集めておいて、繰り返し書いて練習するようにしましょう。自分がどのタイプの一行問題に弱いのかということが確認できますし、克服しなければいけない単元も明らかになります。間違えた問題を日々チェックしながら、まずは解けるように、そして少し時間をおいてスピードアップできるようにと繰り返して練習していきましょう。一行問題を間違えるということは、その単元の基礎基本の理解が足りないということです。間違えた場合はその単元の例題などに戻り、どの部分の理解が足りなかったのか確認して、また解く、ということを繰り返すのも効果があります。
合格者にとって一行問題の位置づけとは
実際にみごと志望校に合格した受験生は、一行問題の位置づけについてどのように考えているのでしょうか。一部寄せてもらった受験生の声を紹介します。一行問題のとらえ方を変えることによって成績アップが見込めるので参考にしてくださいね。
「一行問題を毎日繰り返して練習したことによって、計算が速く、正確にできるようになった」
「算数が苦手で、一行問題も間違いが多かったし時間もかかっていました。でも、繰り返して練習して、振り返りをしているうちに間違えないようになり、計算力もついた」
まとめ
一行問題は、実は受験算数の基礎基本を押さえるために非常に重要な問題です。単純だから、簡単だから、として練習を怠ると、あっという間に解けなくなってしまいます。ですから、志望校合格のためには一行問題の訓練がとても大切だということを忘れないでください。
一行問題を克服するためには、毎日継続して練習することが何より大切です。地道に繰り返してこそ、骨となり肉となります。算数の基礎基本をしっかり固めるためにも、一行問題の訓練を怠らないようにしましょう。1問あたりにかかる時間はそれほどではないので、すき間時間を利用することも可能です。毎日必ず触れて、各単元の基礎基本をいまのうちに固めてしまいましょう!
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。