中学受験において、4教科すべてで重要な「国語力」。語彙力、読解力、記述力が柱となりますが、特に国語はそういったすべての国語力をあの手この手で聞いてくるので、非常に高い国語力が求められます。
中でも語彙力は国語力の基礎基本です。ことばを知らなければ問題文を読み解くことができませんし、ことばを使って文章を書くこともできませんよね。ですから、中学校が求めている受験レベルの「語彙力」をしっかり身につけておくことは一番の基本と言えるでしょう。
語彙力をつけるためにはすべきことがたくさんあります。しかし、受験勉強をしているとき、また日常生活を送っている中でも語彙力を強化するためのヒントはたくさんあります。
何よりも大切なのは「ことばに関する感覚を養うこと」です。これは一朝一夕にできることではありませんし、何よりことば単体で覚えようとしてもイメージがつかめないため、工夫が必要です。
中学受験において語彙力が試されるのは、主に読解問題においてです。長い問題文を読んでいくときに、出てくることばの使い方や意味が分からなくては、最後まで内容を把握しきれずに終わってしまいかねません。読解問題においては、内容を異なる言葉で言い換えていることもありますから、たとえば同じ意味、あるいは反対の意味のことばかどうかといった知識も必要です。
語彙力は文章読解のために必須の道具ともいえるものです。語彙力は単に身につければいいというものではありません。実際の問題で「使いこなせる」かどうかが大切なのです。つまり、受験生が身につけなければいけない語彙力とは、ことばの意味を理解し、問題文を読み進むとき、また設問を解くときに自由自在に運用できる力でなければなりません。
では、そのような実戦的な語彙力はどのように身につければ良いのでしょうか?今回は、前回の基本的な語彙力養成法を踏まえて、さらに語彙力をアップし、自由自在に使いこなせるようになるためにはどのような方法があるのかご紹介します。
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本に慣れ親しむことは基本中の基本
語彙力をつけるためにまず思いつく方法は、「たくさん本を読む」ということではないでしょうか。実際の入試問題でも、物語文や論説文、説明文、随筆や詩などさまざまな文種が出題され、それぞれの解法に基づいて読み切ることがまずは求められます。設問に答えるのはその次です。
文脈にそって正しく読むことがポイント
本を読んでいると、さまざまなことばが出てきますよね。ですが、読んでいるうちにことばの意味が分からずに止まってしまうことはありませんか?たしかに語彙力を強化するためには本に親しむことはとても大切です。ですが、ただ読み飛ばすのではなく、一つひとつの言葉を意識しながら、文脈にそって読んでいくことが重要だということを忘れないようにしましょう。
なぜなら、中学受験の国語で求められるのは、まずは問題文となっている文章の内容を正確に、客観的に把握することだからです。内容を正確に、客観的に把握するためには、文脈においていかれることなく、ていねいに読み進むことが求められます。そこで重要なのが語彙力なのです。
文脈内でのことばの使い方を押さえることが大切
どの文種においても、筆者は読者に伝えたいことを一生懸命あの手この手で書いています。同じような内容を繰り返すことも少なくありません。ただし、全く同じことばで繰り返すのでは芸がありませんから、伝えたいことを強調するために「ひとつのことをことばを変えて繰り返す」ということをするのです。
ですから、一つひとつのことばの使い方を知るという語彙力強化は文章を正確に読み解くために非常に重要なのです。また、文章を文脈にそって読み進んでいくと、見たことがない表現やことばに出くわすことは非常に多いです。ですが、語彙力がしっかり身についていれば「ここはあそこと同じことを欠いている」=「このことばとあのことばは同じような意味だろう」と、知らないことばであっても文脈から意味を類推することができます。だからこそ語彙力が読解問題においても問われていると言えるのです。
「このことばはこういう意味だろう」と類推できる力は、文章を読むときに日所に重要です。特に入試問題で出題されるような文章においては、この類推力がものを言います。一つひとつのことばで詰まってしまっていては時間内に問題文を読み、設問に答えることは難しくなります。
また、選択肢問題の場合、選択肢に使われていることばが問題文中のことばを言い換えているケースは非常に多いです。そのときに類推力がはたらかないと、ヒントをくれていることに気づくことができずに問題を落としてしまうことになりかねません。書き抜き問題においても「同じ意味のところを〇字で抜き出しなさい」といった場合、文脈内で同じ意味のところがこことここにある、というあたりをつけておかないと回答するのが難しくなります。
分からないことばは辞書で調べよう
本を読む際には、ぜひ常に辞書を横に置いて、知らないことばが出てきたらすぐに調べることを習慣づけましょう。せっかく本を読んでいて面白いのに、ことばひとつの意味を調べるために中断するのは嫌だ、あるいはいちいち調べるのは面倒、と思うかもしれません。たしかに、楽しんで読んでいたのに流れが切れてしまうと考えると痕でまとめて調べればいいのでは?と思うかもしれません。
しかし、本がすらすら読めない原因のひとつは、語彙力がないことです。読書をして語彙力をつけていこうとするならば、面倒がらずに知らない言葉が出てきたらその都度調べて意味が分かってからまた先を読む、ということがとても大切です。
もし受験勉強をしているときに、問題文がすらすら読めない、つっかえてしまう、内容がうまく把握できない、ということがある場合は要注意です。模試などでは調べている暇はありませんが、自宅学習や塾での学習の際には、意味が分からないことばが出てきたらいったん立ち止まり、意味を調べて理解してから再開するようにしてみてください。
すらすら読めるかどうか、ということは問題文の内容を正確に、客観的に把握するためにとても重要です。そして、問題文の正確な把握は各設問を解くときに不可欠です。ですから、本を読む際にはひとつでも多くことばの意味を調べよう、と意識しながら身につけるようにしてください。
明治~昭和初頭の文章を読むことも訓練になる
近年、いわゆる文豪が書いた物語文や、平安時代の古典を題材にした論説文などが中学入試で多く出題されています。数年前、開成中学校が「次郎物語」を出題したことで注目を集めましたが、難関校を中心に、古典や明治時代から昭和初期の物語、あるいはそれを題材とした論説文が出題されることが増えてきました。
こういった時代背景の色濃く反映された文章にはあまり親しみが持てないかもしれませんね。ですが、どの時代の物語文も基本的に読み方は同じです。少し言い回しなどに特徴がありますが、その中に出てくる語彙は、現代の文章においても使われていることが少なくありません。ですから、恐れることなく辞書を引きながら読み進んでみましょう。
こういった古典や明治時代~昭和初期の文学的文章を読む際には、一昔前に使われていたことばについて解説や注釈があると便利です。辞書で引くとむしろ難しいような場合は、昔使われていたことばを集めた文学全集を活用すると良いでしょう。講談社の「少年少女日本文学館」は、児童文学全集ですが、ことばの説明が丁寧で、資料も豊富なので活用することをおすすめします。語彙力がつくだけでなく、児童文学を集めているのでさまざまな文章について想像をたくましくすることもできます。図書館などでも見ることができるので、一度ご覧になってみてください。
同意語・類義語を意識する
先ほども述べましたが、中学入試で出題される国語の文章では、筆者が同じ意味のことを違うことばで言い換えて、何度も繰り返して書いていることが少なくありません。それはなぜかと言うと、筆者としてはその文章で「読者にこれは強調して伝えたい」という思いがあるからです。文学的要素を出すために、ことばの言い換えを駆使して、読者の記憶に残るように工夫しているわけですね。
そのため、同義語や類義語、つまり言い換えのもとになる語彙力をつけておくことは長い問題文を読むうえで欠かせないことだと言えるのです。ただし、意識しすぎるというよりも自然と同義語や類義語の語彙を増やすことを日常的な学習で取り入れることをおすすめします。
「たくさん覚えなければいけない」と思うとお子さんの意欲がそがれてしまうことがあります。そこで、「調べておくと役に立つ」という意識で語彙力をアップすることが大切です。そこでおすすめしたいのが、「ことばノート」です。
ことばノートを作って語彙力アップ!
ことばノートと言っても難しいことはありません。新しい熟語やことばが出てきたら、まずはそれをノートの上部に書き出しましょう。そして、その下に同義語や類義語を調べて書き出すのです。反義語(反対の意味のことば)も一緒に書き出しておくと良いですね。辞書で調べる以外にも、文章の中に同義語や類義語、反義語がいくつも出てくることもありますから、そういった場合はまとめて書き出して置き、知識と知識をつなげて芋づる式に語彙力アップを図ることができます。
たとえば、「学習」ということばを例に考えてみましょう。辞書で「学習」ということばを調べると、類義語として「修学」「修習」ということばが出てきます。いずれも学業において知識を得る、という意味でよく使われることばです。また、「習得」ということばもありますが、これは技術や学問を会得する、という意味です。「修学」「修習」よりも広い意味のことばです。
また、楽器などの技術の習得や料理の腕を磨くときには「修業」「稽古」ということばも使います。「学習」=「勉強」、というのが一番分かりやすい同義語・類義語ですが、同義語や類義語は実はたくさんあることが分かりますね。こういったことばを芋づる式に調べて覚えておけば、「学習」というよくあることばを中心にして、語彙力を効率的にアップすることができます。
反義語は、反対の意味の言葉ですが、特に論説文でよく使われています。論説文の場合、筆者はいろいろな方法で自分の意見を主張しますが、中で反対の考え方を紹介することが多いです。反義語が分かっていれば、「あ、これは筆者とは反対の意見だ」というあたりをつけることができます。同義語や類義語にプラスして反義語についても一緒に調べておき、ことばノートにまとめておくことをおすすめします。
短文を作って実践力アップ!
また、語彙はただ覚えるだけでは実際に使いこなすことはできません。記述問題を解くときには、知っていることばを使いこなして表現することが求められます。そこでおすすめしたいのが、はじめて出会ったことばを使って「短文」を作ってみることです。そうすることで、どのような文脈でそのことばが使われるのか、ということが自然に身につきます。難しい分でなくて構いません。端的にそのことばの意味が分かるように、単純な文でことばを頭に入れましょう。短文を作ることによって「書くこと」に抵抗がなくなり、記述問題を必要以上に怖がる必要がなくなります。
もし短文を作る文脈が思い出せないときは、辞書に出ている例文を書き出してみて、どのようなシーンでそのことばを使うのか練習するのも良いでしょう。大切なのは無理しすぎないこと。自分の得になる、と思えばお子さんは積極的にやるものです。必要以上に勉強という意識を持つよりも、ゲーム感覚で語彙力を上げるには、短文つくりは非常に役に立ちますよ。
ことわざ・慣用句や故事成語はイメージが大切
ことわざや慣用句、故事成語(昔のできごとからできたことば。四字熟語が多い)は、物語文や論説文でもよく出てきます。単語より少し長いので覚えにくい、という方も多いのではないでしょうか。
ですが、どれにもそれぞれ特有の意味があります。ことわざや慣用句、故事成語はそのことばの成り立ちを理解すると覚えやすくなります。しかも、その成り立ちや意味を知るとどんどん知りたくなる面白さを秘めています。
反対に、意味や成り立ちを飛ばしてことわざなどを理解しようとしてもすぐに忘れてしまいます。それではかけた時間がもったいないですよね。そこで、ことわざや慣用句、故事成語が出てきたら辞書で調べて意味とセットで覚えることをおすすめします。
小学生向けのことわざ辞典としておすすめなのは、学研の「小学生のまんがことわざ辞典 改訂版」です。名前の通りマンガでことわざの成り立ちを説明してくれているので小学生でもイメージが持ちやすく、頭に入る手助けをしてくれます。辞典と堅苦しく考えるより、おもしろい読み物、として使ってみると積極的に読んでくれる1冊です。意味だけでなく同じ意味のことわざ、反対の意味のことわざ、例文まで入っているので、活用しやすいです。
ことわざや慣用句、故事成語についてはマンガやイラストの入った辞典が多く出版されています。書店でぜひ見ていただき、お子さんに合いそうなものをひとつ選んで毎日少しずつ読んで覚えていくと苦になりませんよ。
ことわざや慣用句でも短文を作ってみよう
ことわざや慣用句も、単に覚えただけでは使いこなすまでには至りません。実際に使いこなせるようになるためには、やはり短文を作って練習することが早道です。
たとえば、「馬の耳に念仏」ということわざがありますね。これは、ものごとがムダに終わってしまうことをたとえています。同じ意味のことわざとして「犬に論語」「豚に真珠」「下手の考え休むに似たり」「焼け石に水」などがあります。
このように、同じような意味のことわざをノートにまとめておくと、どういう文脈で使うのか、芋づる式に理解することができます。また、その日の気分によって「今日のあれはムダだった・・・」と言ったことがあったら、そういう気分にぴったりのことわざを使って短文を作ってみると理解が深まります。親子でそれぞれお題を出してことわざを使った短文を作りあっても良いですね。
1日の感想が「やばかった」「いやだった」「かわいかった」だけでは言葉に関する感覚を養うことはまずできません。ことわざの成り立ちが面白い、と思ったらその瞬間が語彙力をアップするチャンスです。豊かな表現力は記述問題を解く際にも役に立ちます。ぜひやってみてください。
故事成語こそ成り立ちが重要
故事成語とは、昔起こったできごとをもとに、漢字を使った四字熟語や熟語として作られたことばです。「故事」は昔のできごと、「成語」とはことばを作る、という意味です。故事成語と言う言葉自体にも意味があることが分かりますね。
たとえば、「馬鹿」ということばは皆さんよく使ったり聞いたりするのではないでしょうか。あまりいい意味で使うことは日常生活では少ないかもしれません。実はこのことばには「鹿を馬という」という意味があります。どういうことかと言うと、昔の中国の秦(始皇帝が中国を統一した国)の高官が、鹿をひいてきて「馬を連れてきました」と言いました。当然見るからに鹿なのに、「鹿でしょう」と指摘した臣下は殺されてしまい、「馬」と言ったものだけが生き残ったのです。つまり、権力者におもねる(すりよる)ために、本来は鹿なのに馬だといったものが生き残る、考えもせずに権力者の言うがままにふるまう、という意味がそこから生まれました。それが「馬鹿」ということばになったわけです。
また、「呉越同舟」という故事成語もあります。少し難しいので入試問題で出るときには注釈がついていることも多いですが、これも良く使われる故事成語です。このことばの由来は、昔の中国に呉という国と越という国があり、両国が対立していてとても仲が悪かったことにあります。そのような仲の悪い国が同じ舟に乗る、つまり一時的に同じ目的のために一緒になる、中を修復するという意味で使われる故事成語です。考えの合わない人どうしが一時的に停戦して、とりあえず解決しなければいけない問題を解決する、と言うとイメージしやすいかもしれません。
故事成語も歴史マンガのような形で集めている本があるので、そういったものの中からピックアップしてみると良いでしょう。
ことわざや慣用句、故事成語には必ず成り立ち、意味があります。面白い表現も多いので、意外とお子さんは興味を持ちます。無味乾燥なことばの暗記にとどまらず、意味や成り立ちを考えるプロセスを踏むからこそでしょう。中学入試の国語では、ことわざや慣用句、故事成語はよく出題されます。だからこそ、意味とセットで覚えることによって語彙力は飛躍的にアップするので、できるだけ多くのことばに興味を持つことが求められるのです。
ことわざ辞典を買ったらお子さんが夢中で読んでいる、ということも少なくありません。低学年の間は保護者の方も一緒に読んでみると良いでしょう。意外に大人でも知らないことばもたくさんあります。家族で楽しんでことばを運用する練習をしていくと自然と語彙力が身についていくのです。
まとめ
語彙力は国語力の土台を作る非常に大切な力です。ですから、詰め込んでことばを覚えようとする受験生も少なくありません。しかし、意味を理解していないといざ模試や宿題などの場面でことばでつまってしまい、文章読解どころではなくなってしまいます。
語彙力をアップすることは一朝一夕ではできません。コツコツ積み重ねてはじめてことばの引き出しは増えるものです。本を読んだり辞典で調べたり、あるいは新聞を読んだりニュースで耳にした言葉を調べたりと、日常生活の中で語彙力アップのチャンスはたくさんあります。
また、家族での日常会話の中でも、ことばに敏感になって「それってどういう意味?」と聞いてあげるとお子さんも楽しんでことばに対する意識を向上させることができます。ひとつできたらまたもうひとつ、と工夫次第で楽しみながら過程で語彙力をアップすることは十分可能です。
語彙力は中学受験では必須のものですが、そこにとどまらず、その後の学生生活、社会人になってからも欠かすことのできない力です。ぜひ親子で一緒に「ことば」を意識して毎日を送り、自然と語彙力の範囲を広げていきましょう!
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。