2021年度入試の国語で取り上げられる本を予想!読み解ける傾向とは

中学入試の国語の問題を多く見てきましたが、例年非常にさまざまな文章が題材として取り上げられています。物語文、説明的文章、エッセイ、ノンフィクションなど文種やテーマは多岐にわたります。数多くある本がある中で、どの文章が中学校の国語の作問者の目に留まり、入試問題の題材になるかどうかということをあてることはできませんが、それでも「この本はきっと来年の入試問題で取り上げられることがあるだろうなあ」と予測できることもあります

いわゆる「入試によく出る作品」は、つまるところ多くの担当の先生が「受検者を選抜するわが校の入試問題にふさわしい内容だ」と考えている作品だと言えます。もしそういった、あるいはそれに似た傾向の作品にふれておき、筆者の言いたかったことを理解しておくと、志望校・受験校の入試問題のレベルを知ることもできますし、読解方法の確認を実践的にすることができます。

ただし、入試問題は毎年新しく作られるものです。ですから、毎年のトレンドというものも大きく変わることがあります。物語文一本勝負で長年きた武蔵中学校が説明文を出題した年は驚きを持って受け止められました。そのようなことが起こっても動じない読解力を身につけることがまずは大切です。そのうえで、時間があれば中学校側が好みそうな本を読んでおくと良いでしょう。

いわゆる文豪ものや、だいぶ昔に書かれた説明的文章が出題されることもありますが、多くの学校では今年度や昨年度に話題になった本や、「この本が読みたい!」大賞や直木賞といった賞を受賞した本、ベストセラーや図書館などで特集コーナーがつくられているような作家や作品は、出題する側の学校の先生も必ず見て、題材にすべきか検討しています。その中から今年の世相を反映したものや、入学してきてほしい生徒にはしっかり読み解いてほしい文章を出題するのです。

入試問題は、その時代ごとに求められている受験生の学力を見る要素が色濃く反映されているものです。現在は、依然と異なり情報社会が高度に発達しており、小学生でもスマートフォンを持っているケースも少なくありません。そのように高度に発達した情報社会ですが、入試の現場では情報機器に頼ることはできません。あくまで入試の現場では出題された問題に正面からぶつかって、自分の頭で考えながら長い文章を読み解き、自分の頭で考えて答えるという能力が求められています。普段からなんでもスマホで調べていると頭で考えなくなってしまうので気をつけてください。

国語の入試で頼れるのは出題された文章と、自分がこれまで勉強してきた読解法、語彙力、表現力といった能力、根気よくていねいに最初から最後まで文章と設問を読み切り、答える力です。現場で考える力こそが現代の情報化時代だからこそ入試で求められているのです。

今回は、文種やカテゴリー、作家など、入試で狙われやすい本をいくつかご紹介します。どの文章も練られた文章であり、良質です。こうした文章を通してあなたは筆者の考えを読み取ることができますか?どう考えますか?ということが問いかけられています。塾のテキストや模試でも触れている可能性がある文章なので、ぜひ参考にしてください。

物語文:中学入試頻出は直木賞作家

中学入試の国語の文章全体に言えることですが、ひらがなばかりであったり、あまりにも簡単なことばで書かれたりする文章はまず出題されません。物語文の場合、小学生向けの児童文学作品というよりは、どちらかと言うと中学生・高校生向けのいわゆるヤングアダルト向けの作品が出題されることが非常に多いです。

特に多く出題されるのは、有名な文学賞である「直木賞」を受賞した作家の書いた物語文です。たとえば、伊集院静氏、向田邦子氏、井上ひさし氏、石田衣良氏、江國香織氏、三浦しをん氏、ねじめ正一氏、重松清氏、山田詠美氏、辻村深月氏、朝井リョウ氏などはもはや入試の鉄板ともいえる作家と言えるでしょう。これらの作家に限らず、直木賞作家の作品は数多く入試問題で取り上げられており、その数は枚挙にいとまがありません。

最近の中学入試でよく出題される物語文の作家

直木賞作家の本が中学入試の題材としてよく出題されると言いましたが、では最近の中学入試でよく出題される物語文の作家は誰だったのでしょうか。実は1位と2位はやはり直木賞作家です。作家名と最もよく出題された作品や、出題した学校の例をまとめました。

第1位:重松清

2000年度直木賞受賞。最近15年間で100を超える中学校が入試問題に取り上げている超定番の人気作家さんです。

・「小学五年生」(文藝春秋2007年3月刊)

・出題校:武南(2019年度)、世田谷学園(2014年度)、東京農大第一(2013年)、佼成学園・春日部共栄(2012年)、中央大学附属・吉祥女子(2回入試)(2011年)、頌栄女子学院(2010年)、慶應普通部(2009年)、2008年は城北・聖光学院・神奈川大学附属・成城学園・桐蔭学園・恵泉女学園・東京家政学院・山脇学園など多数の中学校で出題

第2位:森絵都

森絵都さんは、2006年度に直木賞を受賞し、以降15年間にわたって50を超える多くの中学校で入試問題にその文章が取り上げられています。読みやすさと作問のしやすさがこの作家さんのポイントです。

・「クラスメイツ」(偕成社2014年5月刊)

・出題校:青山学院横浜英和A入試・桐光学園2回入試・星野学園(理数選抜)(2019年)、大宮開成(特待生)2018年、横浜共立学園・多摩川聖学院・関東学院六浦(2016年)、2015年は当たり年で、学習院中等科・学習院女子中等科・日本女子大付属・高輪・田園調布学園・帝京大中など、おおっくの学校で採用されています。

中学入試で出題される文章なので、少年少女が主人公となった文学作品が題材として取り上げられることが多いですが、人気と実力を兼ね備えている直木賞作家の作品が入試問題でよく取り上げられるのには、中学校の「品格」も影響していると考えられます。あまりにも世俗的な文章では学校の品格が問われますし、逆に格調高すぎて受験生が理解できない文章を出題しても実力を測ることができません。その点で良い匙加減なのが「直木賞作家の文章」だと言えるでしょう。

2021年、入試に出る本は?

このように物語文では直木賞作家の作品が多く出題されている傾向を踏まえると、2021年の入試の国語では、2020年に直木賞を受賞した「馳星周」さんの本が題材として取り上げられると予測されます。特に注目したいのは以下の作品です。

・馳星周「少年と犬」(文藝春秋 2020年5月刊)

「少年と犬」は、犬と人間の関係を描いた作品集です。表題作は、大震災のあと、周囲の人との間に心を閉ざしてしまい、言葉を失ってしまった少年と、迷い犬との物語です。犬の存在が少年の心を開いていき、少年が言葉を取り戻していくというとても感動的な作品です。

直木賞を受賞したことからも分かるように大衆文学として高い評価を受けた作品であり、少年が主人公であること、また前向きに進もうとする姿を描いている、まさしく中学入試の題材に向いた文章だと言えるでしょう。短い文章なので、読んでみてどのようなことが書いてあるか確認し、どんなことが効かれるだろうか想像してもいいかもしれません。

小学生を主人公にした文章であっても、入試によく出る作品は、基本的には子供向けの児童文学ではなく、大人を対象とした文学作品であるということを忘れてはいけません。よく出る作家さんとしてご紹介した重松清氏や森絵都氏の作品は、中学入試レベルの文章としてちょうどよく、多くの中学校の入試担当の先生が選んでいるのです。

多くの学校で出題されているので、ほかの学校の過去問を問題集代わりに解いてみるのもおすすめの対策法です。

説明的文章の人気ナンバーワンは

説明的文章の場合、いわゆる「新書」から入試問題の題材が選ばれることが多いです。中でも、小学生のものの見方や知識レベルを踏まえて読解ができるような、動物や植物、自然環境、言語コミュニケーションなどをテーマにした文章がよく選ばれています。

最近人気と言えば稲垣栄洋氏の文章

特に最近、非常によく出題されているのが、稲垣栄洋氏の生物に関する説明文です。出題される文章として代表的なものは、以下の3つです。

稲垣栄洋『イネという不思議な植物』(ちくまプリマー新書 2019年4月刊)
 出題校:2020年度に愛光・岡山白陵・鎌倉女学院などで出題されています。
・稲垣栄洋『雑草はなぜそこに生えているのか』(ちくまプリマー新書 2018年1月刊)
 出題校:2019年度に大妻・青山学院横浜英和・浦和実業学園(第1回午後)・開智未来・城北埼玉2回入試などで出題されています。
・稲垣栄洋『植物はなぜ動かないのか』(ちくまプリマー新書 2016年4月刊)
 出題校・2017年度は本郷・サレジオ学院・開智先端・淑徳与野・洗足学園、2018年度には頌栄女子学院・東京都市大付属2回入試などで出題されています。

ご紹介した3つの文章は、すべて「ちくまプリマ―新書」から出ています。この新書シリーズは、中学生・高校生向けに書かれた本のシリーズです。中学入試の問題が中学生・高校生といったいわゆるヤングアダルト向けの文章から良く出題されるという特徴から見ても、この新書シリーズからは多くの文章が入試問題の題材となっています。本が好きな受験生は、小学校を卒業する前にすべて読んでしまうというほど人気の高いシリーズです。

つまり、ちくまプリマ―新書は中学入試の説明文では定番の存在なのですが、その中でも稲垣栄洋さんの本は、刊行された次の年の入試問題に登場していることが出題を見ても分かりますね。刊行されてすぐに入試問題になっているということは、中学校の先生のお眼鏡にかなう文章だということです。それだけ注目されており、出題される可能性が高い作家さんだと言えるでしょう。

2021年に出題される可能性が高い文章は?

では、2021年度入試で出題される可能性が高いのはズバリ何でしょうか。実は2020年6月にも、稲垣栄洋さんが得意とする、生物に関する説明文が、またしてもちくまプリマ―新書から出版されています。

稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる ~生き物をめぐる個性の秘密』(ちくまプリマー新書 2020年6月刊)

この文章の内容は、生物の研究をもとにして、「個性」とは何か、「ふつう」とはいったいどういうことか、「区別」とは何か、「多様性」とはどういったことを指すのか、「らしさ」とは、「勝つ」とは何か、「強さ」とは何か、「大切なもの」とは、「生きる」とは一体どういうことなのか、という9つのテーマで説明しているというものです。

それぞれのテーマを見てみると、まさに中学入試向け、と言っても過言ではありません。どれも非常に深いテーマであり、人間が一生をかけて考えていくべきテーマです。その第一歩として受験生に考えてもらいたい、中学校の意図とも合致していると言えるでしょう。

また、刊行されたのが6月というのも狙われやすい理由のひとつです。入試問題は夏休み前後に作問されることが多いですから、出版社側からの「担当の先生方、ぜひ中学入試に出題するか検討してくださいね」という時期です。筆者も書店で見て、「これは来年多くの学校で出題されるだろうなあ」と納得の内容でした。

外山滋比古さんの文章は入試でも読者にも愛された

思考の巨人・外山滋比古さんが、2020年7月30日にお亡くなりになりました。96歳という大往生でした。書店や図書館などで、外山滋比古さんの特集コーナーがつくられていたので、見たことがある方も多いのではないでしょうか。非常に数多くの作品があり、改めて外山さんの著作活動がいかに充実していたのか思い起こさずに入られませんでした。

外山滋比古さんの文章は、実に半世紀以上にもわたり、中学校・高校。大学の入試問題で多く取り上げられてきました。彼の文章を1回も読んだことがない受験生はいないのではないでしょうか。外山さんが扱ったテーマは幅広く、言語や教育、思想など、どれも国語の入試問題に非常に適しているテーマであり、かつ深い思索を含んでいるので、入試問題にもうってつけだったのです。このようなさまざまなテーマで書かれた外山さんの数多くのエッセイは、教養豊かな良質の文章で書かれていて、読みやすく、出題者側としても読んでいるうちに良い設問を思いつく、といった非常に良質な入試問題の宝庫でした。

中学入試における外山滋比古さんブーム

中学入試における外山滋比古さんの文章の出題を見てみると、実はこれまでに2度ほど、大きな「外山滋比古ブーム」がありました。

1回目は、約20年前に、出版界で「日本語ブーム」が起きた時期です。この時期には、ほかにも大野晋さんの「日本語練習帳」、テレビでもおなじみの齋藤孝さんの「声に出して読みたい日本語」など、日本語に関する本がベストセラーになったのです。

この時期には、外山滋比古さんの日本語に関する著書も注目を集め、中学入試での出題も多かったのです。たとえば、1998年~2002年までに外山滋比古さんの文章を出題した学校としては、巣鴨・清風南海・吉祥女子・聖光学院・明大明治・成蹊・栄東・国学院久我山・世田谷学園・湘南白百合学園・大妻・富士見丘・玉川学園・攻玉社・神奈川大学附属・甲陽学院・富士見・清風・追手門学院大手前・那須高原海城など、非常に多くの学校が上げられます。まさにブームと言って良いでしょう。

2回目は、「思考の整理学」ブームが起きた最近10年間です。これは外山滋比古さんの代表作ともいえる本ですが、「東大生・京大生に一番読まれた本」として紹介され、文庫本にもそのような帯が付けられていたほどです。刊行したのはずいぶん前のことですが、再注目を集めたのです。

この本は、知性を磨くための方法を非常に歯切れよく、明快に読者に伝えている良書のひとつとして、幅広い層に親しまれ、現在累計で253万部を超える、驚異のロングセラー・ベストセラーです。文章自体は堅いですが、決して難しすぎることばをつかっているわけではなく、小学生が思考について自分なりに思いをはせるのにうってつけということで、中学入試でも取り上げられるようになりました。

2010年以降に、「思考の整理学」を中学入試の題材として出題した学校としては、2010年に青山学院・栄東・さいたま平成・茗渓学園、2011年に藤嶺学園藤沢、2012年に大宮開成・自修館中等教育・千葉日大、2013年には浅野・聖園女学院・藤嶺学園藤沢、2017年に光塩女子、2019年に鎌倉学園・逗子開成2回入試、2020年に星野学園(総合)などが挙げられます。

「思考の整理学」は難しい文章なのでは?と思われるかもしれませんが、出題校を見てみると難関校ばかりでは決してありません。受験生が読めないような文章は出題されませんから、中学受験生にぜひ読んでほしい、そして試行錯誤してほしい、という中学校の意図が見て取れます。

また、作品が話題になって書店などでもコーナーがつくられていた年には、その出題が急に増加していたということもあったので、2020年に亡くなり、追悼コーナーができていたことを考えると2021年度も外山滋比古さんの文章は題材として多くの学校で取り上げられると考えられます。

2021年に出題される外山滋比古さんの文章は?

外山滋比古さんの本は、10年ごとに中学入試での出題ブームが起こってきました。まさに2020年、お亡くなりになったので、今年の夏は再度注目を集めました。そのため、2021年も出題されることが予測されます。外山滋比古さんの文章は、作問する側にとっても「良い国語の問題が作れる」良質な文章です。そんな外山滋比古さんの文章の中かから、よく出る本を3つピックアップしました。

「思考の整理学」(ちくま文庫):出題ナンバー1の本です。
「ことわざの論理」(ちくま学芸文庫):出題ナンバー2の本です。
「日本語の個性」(中公新書):出題ナンバー3の本です。

これらは特に出題がこれまでも多かった本です。新作が出ることはないので、これまでに外山滋比古さんが著作された本の中から文章が選ばれることになりますが、特に「日本語」「思考」といったテーマのこの3冊は出題側が非常に好む本です。

文章の内容は平易でも、非常に多様な設問をつくることができるので、そこは先生の腕の見せ所ですが、受験生の皆さんは、どんな設問が出てきても、問題文をしっかり読み、設問の意図をしっかりとらえて答えれば怖がる必要はありません。

外山滋比古さんは非常に著作が多いので、今回挙げた3冊以外にも使われる文章は多岐にわたることが想像されます。しかし、いずれも「言葉」を使って思考することを教えてくれる文章です。亡くなられはしましたが、その著作はいつまでも親しまれていくことでしょう。そのため、今後も入試問題の題材として最適な文章として注目を集めると考えられます。

ベストセラー「君たちはどう生きるか」が私たちに問い続けること

2017年、「君たちはどう生きるか」という本が、マンガを加えて装いを変えた形でベストセラーになったことを知っていますか・もともとは昭和のはじめに書かれた吉野源三郎さんの古典的な名著です。内容は、人として「真っ当な生き方」をするために、周囲の同調圧力に屈することなく、真実を求めて「自分の頭で考える」ことの大切さを伝えるといったものです。従来から中学入試でもよく題材として取り上げられていました。こうしたテーマは、新型コロナウィルス感染拡大が続いている現在、さまざまな情報や圧力に右往左往している私たちの社会において、より重要性の高いテーマとなっていると言えるでしょう。

最近の中学入試の国語の出題で目立つのは、哲学的な内容の文章が増えているということです。たとえば、養老孟司氏・鷲田清一氏・内田樹氏・池田晶子氏といった思想家の文章は、とても読み応えのある本ですが、中学入試では今や鉄板と言えるほどよく出題されています。こういった文章を題材に選ぶところから考えると、中学校側も受験生の思考力を試したいという意図があることが分かります。

「生き方」「考え方」がキーワード

「君たちはどう生きるか」と同じように、若い人向けに「生き方」「考え方」を問いかける本がベストセラーとなっています。中学入試でも取り上げられており、テレビでも話題になっています。

たとえば菅野仁氏の「友だち幻想」(ちくまプリマー新書 2008年3月刊)はそのひとつです。これまでに中学入試でも何度も出題されています。たとえば、2020年には東邦大東邦(後期)、2019年は中央大学附属横浜(2回)・星野学園理数選抜2回、2018年は世田谷学園、2014年に東京女学館・足立学園、2013年は東海大附属浦安・聖セシリア女子、2011年に和洋国府台女子、2010年に日大藤沢、2009年には聖光学院・大妻多摩・立教女学院などで出題されています。

このように、難関校から中堅校まで幅広い学校で出題されています。生きていくうえでは幸せなこと、悲しみを感じることが多いですが、それらは他者との関係から生じていることが多いです。人としてどう生きるか、生き方を考えるうえで非常に重要になるのが「友だち」です。

友だちに対して私たちが抱いている幻想の招待や、人間関係の根本といったものを考察し、いかに生きていくべきかを問う内容の本なので、これもまた中学入試の題材として選ばれやすいと言えるでしょう。年齢が高くなくても身近なできごとから自分の頭で考えるテーマとして今後も頻出だと言えるでしょう。

2021年に出る本は?

では、2021年度の入試で取り上げられる可能性がある本を2冊ご紹介しましょう。いずれも年齢が低い層に向けて、生き方や考え方を問う内容の作品です。

池上彰氏「なんのために学ぶのか」(SB新書 2020年3月刊)
梨木香歩氏「ほんとうのリーダーのみつけかた」(岩波書店 2020年7月刊)

池上彰さんはジャーナリストとして見ない日はないほど、世の中で今起こっていることについて鋭い舌鋒で切り込んでいく知の巨人です。元テレビ局の記者だったこともあり、難しいことをわかりやすくかみ砕いてくれる解説は人気を集めていますね。そして実は非常に多くの著書を生み出しています。世界中で起きている問題だけでなく、「学び」「生き方」についても多くの著作があります。

梨木香歩さんは、物語文が多く入試問題に取り上げられていますが、若年層向けの哲学的な文章も書かれています。わかりやすい文章で、すとんと入ってくるので、思考を巡らすのにはちょうど良い文章だと言えるでしょう。

実はここで挙げた両名とも、それぞれ著作の中で「君たちはどう生きるか」を必読書として若者たちにすすめているのをご存じでしょうか。それだけお二人にも影響を与えている本であり、若者に読んでもらいたい本だということですね。

また、この2冊の本では、現代の社会の中で生きるために、「学ぶこと」「考えること」の大切さをわかりやすく解説しています。いずれも最近の中学入試ではよく文章が題材となっている方なので、2021年度入試でも取り上げられる可能性が高いでしょう。

ジュニア向け親書は中学入試の素材の宝庫

中学入試の国語の作問をしている先生に聞いたところ、一番苦労するのは「説明文」の素材となる本探しだそうです。小学生相手なので、大人向け過ぎる書籍では内容が難しすぎて題材にするわけにもいきませんし、かといって児童向けでは易しすぎて差がつかないからです。その結果なのでしょうか、中学入試の説明文の題材として、信書のシリーズからの出題が目立つようになりました。

親書は、もともと1938年に創刊された岩波新書がはじまりで、高校生や大学生、社会人に広く教養を伝える目的で書かれ、執筆者も多くは学者です。小学生や中学生にとってはそれでは内容が難しいため、いわゆるジュニア向けの親書が作られるようになったのです。そのはじまりも「岩波ジュニア新書」で、1979年から毎年、毎月数冊新刊が出版されています。岩波ジュニア新書は40年もの長い間、中学入試問題の題材として活用されてきました

もうひとつ新書シリーズとして挙げておきたいのが、筑摩書房の「ちくまプリマ―新書」です。説明的文章のところでもご紹介しました。こちらもジュニア向けの親書として2005年に創刊され、毎年必ず入試で出題される人気シリーズとなっています。

では、これらの新書から2020年にはどのような本が出題されたのでしょうか。

2020年度の「岩波ジュニア新書」からの出題例

・池内了「科学の考え方・学び方」:聖望学園 第2回
・石田英敬「自分と未来のつくり方 情報産業社会を生きる」:東京農大第一(2回)
・伊藤真「中高生のための憲法教室」:星野学園(理数選抜)
・小泉武夫「いのちをはぐくむ農と食」:浦和実業(第2回午後)
・鴻上尚史「『空気』を読んでも従わない 息苦しさからラクになる」:栄東(東大選抜Ⅰ)
・小関智弘「ものづくりに生きる」:城北埼玉
・清水真砂子「大人になるっておもしろい?」:獨協埼玉
・南野忠晴「正しいパンツのたたみ方 新しい家庭科勉強法」:洗足学園
・元村有希子「カガク力を強くする!」:品川女子学院
・山口真美「自分の顔が好きですか?『顔』の心理学」:埼玉栄(4回)

2020年度の「ちくまプリマー新書」からの出題例

・石原千秋「未来形の読書術」:明大付属明治(第2回)
・伊藤邦武「宇宙はなぜ哲学の問題になるのか」立教女学院・開智未来(未来選抜A)
・稲垣栄洋「イネという不思議な植物」:愛光・岡山白陵・鎌倉女学院
・宇根豊「日本人にとって自然とはなにか」:明大付属中野・鎌倉学園・富士見
・本川達雄「生きものとは何か 世界と自分を知るための生物学」:開智未来(未来選抜B)
・菅野仁「友だち幻想」:東邦大付属東邦(後期)
・小林康夫「何のために『学ぶ』のか」:大宮開成
・汐見稔幸「人生を豊かにする学び方」:横浜共立学園
・好井裕明「『今、ここ』から考える社会学」:逗子開成
・渡辺一史「なぜ人と人は支え合うのか『障害』から考える」:鷗友学園女子

中学入試における説明文のレベルがどのくらいか、こういった新書をざっと見てみると体感できますよ。

2021年の入試に出る本は?

2021年度に出題される可能性がある本を、2020年に発刊された岩波ジュニア新書とちくまプリマ―新書の新刊の中から3つご紹介します。

・「繊細すぎてしんどいあなたへ HSP相談室」(岩波ジュニア新書 串崎真志著・2020年5月刊)
感受性が豊かで傷つきやすい「繊細さん」を描いた本がベストセラーとして注目を集めましたが、これはそのジュニア版です。学校などで人間関係に悩む生徒たちへの心理学的なカウンセリングがその内容です。内容の読み取り問題や、体験に沿って具体的に考えさせる問題などが作りやすい文章なので、狙い目です。

・「読解力を身につける」(岩波ジュニア新書 村上慎一著 2020年3月刊)
内容は「読解力」をテーマにしているので、非常に入試問題向きだと言えるでしょう。「読解力」をテーマに、生徒たちと先生の対話形式で書かれているのが特徴です。国語の文章を読解する力はどのように育んでいき、身につけていくのかなど、受験勉強にも役立つ興味深い1冊です。入試問題でもぜひ受験生に考えてほしい内容が満載なので、良い素材として取り上げられる可能性が高いです。もちろん、読書として楽しむのもおすすめです。

・「『さみしさ』の力」(ちくまプリマー新書 榎本博明著 2020年5月刊)
人間なら誰でも感じるであろう「さみしさ」について考察した本です。10代は思春期であり、家族や友人との関係に悩むことも多いでしょう。そうした時期に感じる孤独感は何とも表現しがたいものです。ですが、その「さみしさ」は自立するための第一歩として前向きにとらえているのがこの本です。「さみしさ」の持つ意味をさまざまな観点から考察している点も含め、中学入試の読解問題には、ちょうどよいテーマだと言えるでしょう。こちらも入試で今後定番になりそうな内容です。

まとめ

さまざまな切り口から、2020年度の入試問題の国語で出題された本、それをふまえて2021年に出題される可能性の高い本をご紹介しました。どの本を読めば合格しますか?とよくご相談を受けますが、入試によく出る本をたくさん読んだから設問に答えられるとは限りません。まずは傾向を知り、どういった設問がつくられそうかアタリをつけてみることが大切です。

特に考える力=思考力、生きる力、はコロナ禍のいま、改めて私たち皆が考え直さなければいけない、身につけなければいけない力です。それは中学入試にもあてはまります。さまざまな考え方を知り、自分で試行錯誤して、多方面からものごとを考える、そんな思考力を中学校は求めています

また、入試でよく出題されるジュニア向け親書は、いろんなジャンルの専門家が書いている学問の入門書でもあります。読解の基礎力をつけるにもうってつけなので、どう読むか、筆者の意見は、ということに着目して興味のあるものを少し読んでみると良いでしょう。中学校に入ってからも長い付き合いになる国語の読解ですから、ぜひ良書に親しみ、国語力をアップしていきましょう

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一橋大学卒。 中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。 得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。 現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。