前回は、夏期講習の拘束時間の長さと、それによって自分のための学習をおこなうことの難しさについて解説しました。保護者の方は、受験生であるお子さんが夏期講習に通っている、ということに安心してしまい、「今日も長時間頑張って勉強してくる」と思っていないでしょうか。夏期講習の現場を見ていないと、どうしてもそのあたりが不透明であるため、帰ってきて宿題をやる段階になると、なかなか解けず、時間ばかりがかかって「今日1日かけて何習ってきたの!」と言ってしまうご家庭は少なくありません。
ですが、集団塾の夏期講習は、お子さん一人ひとりに合わせた進度で授業がおこなわれるわけではないですし、一人ひとりの得意、苦手、弱点などは考慮せずに毎日のカリキュラムが進んでいきます。ですから、もしその日に扱われた内容がお子さんにとって弱点であったなら、その日1日で基礎知識から応用・発展問題まで解くことができるようになるはずがないのです。そのため、宿題を解こうとしても理解が十分でないため、時間がかかるだけでなく、解ける問題が少ない、ということになってしまいます。
塾の夏期講習では「これまでの総復習をするので弱点が合っても大丈夫ですよ」と言われることが多いですが、たしかに全体を問題演習という形で見渡す、ということはおこなわれても、毎回自分の弱点についての解説が受けられるわけではありません。夏期講習にもカリキュラムがあり、塾側としてはそのカリキュラムをとにかくその日に終わらせることが至上命題となっています。特に、新型コロナウィルスの影響で通常の年と夏期講習の形が異なると考えられる今年度では、夏期講習の時間も凝縮され、なおのことスピードが速くなることは容易に予想できます。
ですが、一通り受験カリキュラムを終えた今、受験生の皆さんがするべきことは、何といっても自分の弱点となっているところを一つひとつつぶし、克服して次に出たときに解けるようにすること、知識が不十分であればその知識を正確に理解するところに戻ることです。
いつも点数が取れるところと、なかなか同じような問題で間違え続けたり、十分理解できていないな、と感じるところなど、お子さんの力がついているところとそうでないところをまずは把握する必要があります。秋以降、志望校対策が本格化していきますが、それをスムーズにおこなうためにも、弱点を把握し、志望校のレベルと自分のいまの実力との距離を少しずつ克服していくことが必要です。それが「自分のための学習をする」ということです。
夏期講習前のこの時期は、ぜひ「自分のための学習」を意識してください。夏期講習期間中も、自分のための学習の時間をとることは大切です。夏期講習は同じ受験生が一堂に会して集中して受講するものなのでライバルと一緒だと思うと頑張ることができます。しかし、いまから必要なのは、他の受験生と自分を比べることではありません。自分がどこができてなくて、どこができているのかを見極めるほうが重要です。
夏期講習を受ける際には、目標を設定し、自分の弱点を一つひとつつぶしていくという意識を持つことが大切です。大量の問題演習をおこなう夏期講習では、ともすると「問題をひたすら解くこと」が目標にすり替わってしまいます。そうすると、夏期講習が終わったころ、たくさん問題を解いたはずなのに宿題が解けるようになっていないということになってしまうことも少なくないのです
「総復習」という魅力的な響きをもつ夏期講習ですが、効果的なものにするためには目標を立て、夏期講習で得られるメリットとデメリットを把握して受講することが大切です。今回は夏期講習を最大限に利用するために意識したい夏期講習のメリットやデメリットなどについて解説します。
Contents
夏期講習のメリットとデメリットを整理して受講しよう
塾の夏期講習は拘束時間が長いなど、さまざまなメリットとデメリットがあります。ここで、夏期講習のメリットとデメリットをよく比較してみましょう。
夏期講習のメリット
- その時間、集中して問題に向かえるならその分プラスになる。特に、ひとりでは机に向かえないという集中力のない受験生には効果が見込める。
- 他の受験生と競争することで力を発揮し、吸収するタイプの受験生にとっては同じ教室にライバルがいるので、力を伸ばせる可能性がある。
- ひとつの単元、分野についてさまざまな問題演習をするので、土台さえできていれば理解を深め、応用力まで身につけられる可能性がある。
- 長時間の連続学習になれ、「脳の体力」すなわち学習に対する耐久力や精神力が鍛えられる可能性がある。
夏期講習のデメリット
- 基礎知識や基本問題が解けるなど、基礎ができていないと、応用問題を解こうとしても解けないため、問題演習時間や解説の時間が無駄になる可能性がある。
- その回の内容がすでに得意な単元である場合は、他の弱点に時間をかけたほうが効果的なので、受講時間が無駄になってしまう。
- 弱点分野を扱う回での学習は、基礎基本を身につけたうえに少しずつ積み上げなければ土台自体が崩れてしまう可能性があり、そうすると逆効果になる。
- 1日1単元であれば、基本もできていない場合、1日で基本から応用まで全て身につけることはまず無理。
- 受験生が小学生なので、長時間集中することが難しく、回によっては大半の時間が無駄になりがち。
お子さんのタイプによってメリットにもデメリットにもなる夏期講習
特に、普段から塾の進度が速い、あるいは1回にやるべきことが多い、と感じている場合は夏期講習の拘束時間の長さがかえって実力をつける上で無駄になる可能性があることには注意が必要です。その場合は、自分の弱点を見つけてくる、などの目標を日々立てて夏期講習に向かうようにすると意識が変わりますよ。
「脳の体力」すなわち学習に対する耐久力や精神力が鍛えられる、ということは、夏期講習ならではのメリットです。実際の入試、あるいはその前に受けるであろう総合模試は、各教科50分~1時間にわたり、集中力を持続させて1問1問を着実に解き進める必要があります。ですから、テストだと思って夏期講習中の問題演習に取り組み、自分の得意なところと弱点をしっかり認識する材料として考えるのがおすすめです。
また、特に成績上位のお子さんにとっては、夏期講習を最大限に活用することが可能です。実戦形式の問題演習が続くことにより集中力をよりアップし、一堂に会している受験生に対する競争意識を持つことでさらにもう一段階実力を伸ばすことができるからです。入試会場にいる気持ちになって問題に対峙することによって、解ける問題の幅が広がる可能性もあります。
夏期講習で大切なのは事前の弱点把握
この時期、何よりも優先順位が高いのは、弱点分野を克服していくことです。秋から本格的に始まる志望校対策を有効におこなうためにも、なるべく早いうちに弱点となっている単元の理解を徹底しておく必要があります。
弱点単元の理解を徹底するためには、これまでのカリキュラムを夏期講習前に見直して、どこができていてどこができていないのか、できていないところの理解度がどの程度なのか、特に苦手とする形式の問題はどのようなものなのか、といったことをしっかり把握しておくことが必要です。
なにごともまずは克服するための全体像が分かっていなければ対策を立てることはできません。ですから、まず箇条書きで良いので、各教科、お子さんが苦手としているところ、テストで間違いが多いところ、テキストを解いていてつまずきやすいところなどを書き出してみましょう。
そのうえで、優先順位をつけていきます。あれもこれも一度にはできないので、小分けにして配分し、毎日少しずつでも弱点克服のための時間を確保していきましょう。その際に、弱点の基礎から応用までを一気にやろうとするのではなく、「どこまでできているのか」「どこまで理解しているのか」ということに重点を置いて、知識の理解から必要なところ、例題や基本問題の見直しが必要なところ、基本はできているけれどもう一歩踏み込んだ問題や問われ方が変わると解けなくなるところ、といったように、弱点単元の中でもそれがどのレベルなのかということを把握しておきましょう。
それを親子で共有し、学習計画を立てるときにどこにどの弱点補強を入れるか、ということを相談しておき、後は実行に移すのみです。弱点補強のための計画の立て方については次回以降ご紹介していきます。
夏期講習では取捨選択も重要
夏期講習はこれまでの受験カリキュラムの内容を問題演習という形で様々な問題を解くことが中心です。ただし、これまでにも述べたように、受験生一人ひとりいまの段階でできるところとできないところは異なります。ですから、最初に「弱点となっているところを発見する」「できているところは今後時間をかけなくてもいいようにしっかり見直しておく」といったように、目標を立てておくことをおすすめします。
そして、夏期講習を中心にして夏休みの学習計画を立てていくことになりますが、その際に、弱点の範囲が非常に広く、基礎からもう一度積み上げる必要がある部分が多い、といった場合には、夏期講習と弱点補強のための自宅学習のどちらを優先するか、という視点が必要になるでしょう。
夏期講習はたしかに1講習単位で申し込みますが、日によって全員が出席するとは限りません。そういう場合、その日は得意分野を扱うということがわかっているので、自分でテキストの問題演習を早めに終わらせ、弱点分野の克服に時間をあてている、という受験生も実は多いのです。
個別を効果的に取り入れるのもひとつの方法
塾に通い続ける以上、夏期講習や通常授業は受け続けることになりますし、刺激を受けるという意味でもある程度の効果は見込めます。ですが、時間には限りがありますし、特に夏期講習期間中は自宅学習の時間が確保できる最後のチャンスともいえる時期なので、塾で「習ってくる」という受け身の時間を少し減らし、その分の時間を自宅での弱点克服に充てる、といったような取捨選択をおこなうことも非常に効果があります。
ひとつの方法として、志望校の出題傾向を個別に先生に見てもらい、必要なことと必要でないことを仕分けしてもらってその内容をしっかり進めていくということが必要です。ただし、これは指導者によって指摘が的確な場合と的を外す場合があるので、個別指導や家庭教師などを上手く使い、夏期講習での自宅学習を実のあるものにすることをおすすめします。
弱点を克服するために、夏期講習の期間だけ個別指導をお願いするというご家庭は増え続けています。なぜなら、わからないところをわからないままにして集団授業を受け続けてもできるようにならない、ということがわかっているからです。弱点の洗い出しや克服方法については、個別の先生に実際に問題を解くところを見てもらい、実力をチェックしてもらうことも有効です。それを土台にして、しっかり自分のための学習を進めましょう。
まとめ
夏期講習は総復習ではありますが、受験生一人ひとりに必ずしもすべてが必要だとは限りません。夏期講習期間中もうまく自分のための学習、弱点補強のための時間を意識してとるようにすると、夏休みが終わったあと「長い期間中何やっていたんだろう・・・」という気持ちにならずに済みますし、秋以降の学習にもスムーズに移行していくことができます。
また、夏期講習以降の塾との関わり方については別の機会に解説しますが、お子さんに本当に必要な内容と塾の問題演習中心の授業の乖離が大きくなっていくので、より取捨選択が必要になります。塾はもちろん出席するように、というでしょうが、自分が受験しない学校の過去問演習が中心になってくる授業に出ても、モチベーションはあまり上がりません。
その際、自分だけで学習を進めるのが難しい場合は、個別指導などを利用し、自分の実力や志望校の出題傾向を考えながら学習内容をシフトして効率的に進めていくのも良い方法です。自力で解けるお子さんでも、必ず「どうしてこうなる?」という場面に直面することは少なくありません。そういったときは、人の手を借りて自分の学習を進めることが効果的です。ぜひ参考にしてください。
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一橋大学卒。
中学受験では、女子御三家の一角フェリス女学院に合格した実績を持ち、早稲田アカデミーにて長く教育業界に携わる。
得意科目の国語・社会はもちろん、自身の経験を活かした受験生を持つ保護者の心構えについても人気記事を連発。
現在は、高度な分析を必要とする学校別の対策記事を鋭意執筆中。