いろんな物体の成分について調べるためには,成分ごとの違いを利用して,それぞれに分けて取り出す必要があります。
物体の成分を分ける方法として,理科でよく出てくるのは,ろ過や再結晶です。実はその他にもいろいろな方法があります。ここでは,物体を成分ごとに分ける方法の1つとして,「クロマトグラフィー」と呼ばれる方法について紹介します。
クロマトグラフィー
ペンで何かが書いてある紙に水がこぼれたとき,インクが水と一緒ににじんで,ちょっとひろがるのを見たことがある方も多いのではないでしょうか。
普通の紙だとあまり広がりませんが,ティッシュやうすい紙,ろ紙でやるともっと広がります。そのとき,インクの色によっては,その色のままではなく,何種類かの違う色に分かれるのが観察できます。
例えば,オレンジ色のインクであれば,赤と黄色に分かれたりします。これは,オレンジのインクには,赤い色を出す物体と,黄色を出す物体が混ざっているからなのです。
これを,水が広がるのを利用すると,2つそれぞれに分けることができるのです。
このようにして,液体などの流れに,物体を巻き込むことで,物体が分かれるのを利用して,それぞれの成分に分ける方法を,「クロマトグラフィー」と呼びます。
クロマトグラフィーの原理
クロマトグラフィーでは,どうして物体が成分ごとに分かれるのでしょうか。成分の何の違いを利用しているのでしょうか。
答えは,「物体の溶けやすさ」と「吸着力」です。
今,何かの固体に,成分ごとに分けたい物体を付けて,そこに液体を流すことで成分ごとに分けることを考えましょう。
「液体に溶けやすい物質」は,液体に溶けてすぐに広がっていきます。逆に「溶けにくい物質」はあまり広がりません。
そして「固体に吸着しやすい物質」は,固体にくっついてなかなか離れないので,あまり広がりません。逆に「吸着しにくい物質」は,すぐに流されてしまい,大きく広がります。
クロマトグラフィーの利用
クロマトグラフィーは,物質ごとに分けることができるので,様々な場面で利用されます。例えば,次のような利用例があります。
- 葉っぱの色の成分を調べる
- 香水などを作るうえで,参考にしたい物体の中で,何がにおいのもとの成分なのかを調べる
- 化学合成した物体を,欲しいものだけ液体の中から分ける
入試問題演習
ここまでに学習したことを活かして,実際の入試問題に挑戦してみましょう。
問題
解説
問1
問題文の,「【未来くんが体験授業で学んだこと、調べたこと】」から,「インクに含まれる色素」がろ紙を移動する現象について,次のようなことが分かります。
- 色素は展開液とともに上がっていくこと
- 色素の移動の早さは,展開液への溶けやすさによって変わること
つまり,問1では「水性インク」と「油性インク」の溶けやすさが大事なポイントになってくると考えられます。
今,問1の実験1では,「水」を展開液として使っているので,「水性インク」の方が溶けやすいことが分かります。すると,水性インクの方が,展開液である水に溶けて,すぐに広がっていくことが予想できると思います。
このことから,先まで移動した(A)が水性インクで,あまり移動しなかった(B)が油性インクだと分かります。つまり,正解の選択肢は「イ」となります。
問2
展開は,ろ紙を上がってくる展開液の流れに,色素を乗せることで行います。
始めからインクが染みこんだ部分が展開液に浸ってしまうと,インクが展開液に溶けだしてしまって,うまく展開できません。つまり,解答の例は,「インクが水に溶けだしてしまい,うまく展開できないから。」となります。
問3
展開を止めるには,展開液を安全に,取り除けばいいので,「ドライヤーの冷風を当てる。」などが解答の例として考えられます。
問4
問1で確認したように,溶けやすい物質の方が,溶けだして大きく移動します。
実験2の結果では,展開液が水のときは「黄色の色素が大きく移動し,赤い色素は黄色の色素に比べると移動量は少ない」結果となり,アルコールではその逆になりました。
つまり,このオレンジ色の水性インクに含まれる色素の性質の例として,「黄色の色素は,赤い色素よりも水に溶けやすい」ことが挙げられます。
問5
図3を参考にして考えましょう。
まずアルコールで展開すると,赤がア,黄がウに移動します。次に水で展開すると,赤がアで広がり,黄はウからエへ移動します。
よって,正解は,赤が「ア」,黄が「エ」となります。
問6
(1) 霜柱(しもばしら)
(2)
まとめ
クロマトグラフィーは合成実験などでも多く用いられ,非常に重要な分離方法です。物体の溶解度や吸着度を利用して成分ごとに分けている点をしっかり押さえておきましょう。
物質の研究において,物体を成分ごとに分ける方法として他にどのようなものがあるのか,何の違いを利用して分けているのかを調べてみましょう。