【大学受験】過去問題〜古典問題読解・解説〜歌語りをまとめた歌物語『大和物語』

今回は2021年度の学習院大学文学部の国語の過去問を一部修正して古典問題の解き方を解説していきたいと思います。 

問題

 深草の帝と申しける御時、良少将と言人、いみじき時にてありけり。世にうあるものにおぼえ、仕うまつる帝、かぎりなくおぼされてあるほどに、この帝うせたまひぬ。御葬りの夜、御ともにみな仕うまつりけるなかに、その夜よりこの良少将うせにけり。友だち、妻も、「いかならむ」とてしばしはここかしこもとむれども、音耳にも聞こえず。法師にやなりにけむ。身をや投げてけむ。法師になりたらば、さてなむあるとも聞こえなむ。なほ身を投げたるなるべしと思ふに、世のなかにもいみじうあはれがり、妻子どもはさらにも言はず、夜昼、ショウジン潔斎をして世間の仏神に願を立てまどへど、音にも聞こえず。妻は三人なむあるけるを、よろしく思ひけるには、「なほ世にへじとなむ思ふ」と二人には言ひけり。かぎりなく思ひて子どもなどあるには、ちりばかりもさるけしきも見せざりけり。このことをかけても言はば、女もいみじと思ふべし。吾かくなるまじき心地のしければ、寄りだにオでにはかになむうせにける。

 御果てになりて、御ぶくぬぎに、よろづの殿上人、川原に出でたるに、童のカことやうなるなむ、柏に書きたるに文をもて来たる。取りて見れば、

 ( A )花の衣に( B )苔のたもとよかわきだにせよ

とありければ、この良少将の手にみなしつ。「いづら」と言ひて。もて来し人を世界にもとむれど、なし。法師になりたるべしとは、これにてなむ人知りにける。されど、いづくにかあらむといふこと、さらにえ知らず。

かくて世のなかにありけりといふことを聞こしめして、五条の后の宮より、内舎人を御使にて山々たづねさせたまひける。「ここにあり」と聞きて行けばうせぬ。「かしこにはあり」と聞きてたづねればうせぬ。えあはず。からうじて、かくれたる所ゆくりもなく去にけり。えかくれあへであひにけり。「宮より御使になむ、参り来つる」とて、「おほせごとには、『かう、帝もおはしまさず、むつまじくおぼしめしし人をかたみと思ふべきに、かく世にうせたまひにたれば、いとなむ悲しき。などか山林に行ひたまふとも、ここにだに消息ものたまはぬ。御里とありし所にも、音もしたまはざれなれば、いとあはれになむ泣きわぶなる。いかなる御心にて、かうはものしたまふらむと聞こえよ」とてなむおほせられつる。ここかしこたづねたてまつりなむ、参り来つる」といふ。少将大徳うち泣きて、「おほせごと、かしこまりてうけたまはりぬ。帝かくれたまうて、かしこき御蔭にならひて、おはしまさぬ世にしばしもありべき心地もし侍らざりしかば、かかる山の末にもり侍りて、死なむを期にてと思ひたまふるを、まだなむかくあやしきことは生きめぐらひ侍る。いともかしこくとはせたまへること。わらはべの侍ることは、さらには忘れ侍る時も侍らず」とて、

 かぎりなき雲居のよそに別るとも人を心におくらさめやは

となむ申しつるを啓したまへ」と言ひける。この大徳の顔かたち姿を見るに、悲しきことものに似ず。その人にもあらず、影のごとくなりて、ただ蓑をのみなむ着たりける。少将にてありし時のさまのいと清げなりしを思ひ出でて、涙もとどまらざりけり。悲しとても、かた時人のゐるべくもあらぬ山の奥なりければ、泣く泣く「さらば」と言ひて帰り来て、この大徳たづね出でてありつるよしを、上のくだり啓せさせけり。后の宮も、いといたう泣きたまふ、さぶらふ人々も、いらなくなむ泣きあはれがりける。宮の御返りも人々の消息も言ひつけてまたやれりければ、ありし所にもまたなくなりにけり。

(『大和物語』による)

(注)
深草の帝=仁明天皇。在位は833年〜850年。
果て=物事の終わり。ここは天皇の一周忌をさす。
ぶくぬぎ=喪があけて喪服をぬぎ、常服に着替えること。川原で身を清めて行う。「服直し」ともいう。
苔のたもと=苔で作ったような粗末な衣のたもと。僧侶や隠遁者の身なりについていう。
五条の后の宮=仁明天皇の后。
内舎人=律令で中務省に属する品官。宮中で警備や雑役を担当する。
大徳=徳の高い僧。
雲居=はるかに遠い所。ここは宮中をさす。
おくらさめやは=「おくらす」の未然形に、助動詞「む」の已然形と助詞「や」「は」とが付いた反語表現。「おくらす」は「後らす」で、置き去りにすること。
 

大和物語』とは

歌語りを173の章段に集成した歌物語。前半は歌を中心とした短い章段、後半は説話要素の強い章段で構成されています。 

問1

空欄A・Bに入るもっとも適切な句を、次の1〜5の中からそれぞれ一つ選んで答えなさい。

1、時過ぎぬ
2、なりぬなり
3、みな人は
4、見渡せば
5、吾のみや

【解答】
A 3、みな人は
B 2、なりぬなり 

問題となっている空欄があるのは上の句にあたります。まずは下の句をみていきましょう。

苔のたもとよかわきだにせよ」…「苔のたもと」は注にあるように法師や僧侶の身なりを指します。「かわきだに」の「だに」は体言、活用語の連体形、助詞などにつく接続詞です。意味は①せめて…だけでも。せめて…なりとも。(命令・願望)②…だって。…でさえ。…すら(下に打ち消し語をともなう)です。この場合は打ち消し語をともなわないので①の意味になります。

以上を踏まえて下の句を訳すと「僧衣の袂よせめて乾きだけでもしておくれ」となります。川原で清めた服が乾くことのないという表現を使って良少将は深草の帝の死を悲しみから立ち直れていない様子を和歌に込めています。

悲しむ良少将の心情を歌った下の句に対し、上の句では「花の衣」という表現が使われています。更に和歌のある段落の冒頭を見ると「御果てになりて、御ぶくぬぎに、よろづの殿上人、川原に出でたる」とあります。この和歌が詠まれた場面は喪が明けて喪服から常服に変わったことがわかり、「よろづの殿上人」という部分から多くの貴族が常服に変わったという場面であることがわかります。 

よって喪服から常服に変わったこと、良少将の「苔のたもと」と対比して「花の衣」と表現しているのだと考えられます。「花の衣」に変わったのは「よろづの殿上人」であり、Aに入るのは「3、みな人は」が相応しいと考えられます。Bに当てはまるのは花の衣(常服)に変わったということで「2、なりぬなり」と考えることができます。

問2

傍線部ウ・ケの片仮名を漢字に直し、オ・クの漢字の読みを平仮名の現代仮名遣いで書きなさい。 

【解答】
ウ、精進
ケ、籠
オ、こ
ク、ふ

オ「来」カ行変格活用の動詞です。後ろの語句は未然形につく接続助詞「で」です。「来」の未然形の読み方は「こ」になります。 

ク「経」ハ行下二段活用の動詞です。後ろの語句は終止形につく助動詞「べし」です。「経」の終止形の読み方は「ふ」になります。 

問3

傍線部ア・イ・エ・カ・キの意味としてもっとも適切なものを、次の1〜4の中からそれぞれ一つ選んで答えなさい。

ア らうある
1、働くことの好きな
2、特に知識の豊富な
3、何でも素早くこなす
4、心細いの行き届いた

イ さてなむある
1、法師なりの苦労がある
2、法師として暮らしている
3、こちらの状況はこんなだ
4、その後はどうなったのか 

エ えかくなるまじき心地
1、妨害することはできまいという気持ち
2、意志を曲げることはできまいという気持ち
3、周囲の望むとおりにはできまいという気持ち
4、計画を実行することはできまいという気持ち 

カ ことやうなる
1、貧しい身なりの
2、特に高貴そうな
3、普通と違っている
4、いかにも子供らしい

キ ゆくりもなく
1、縁もなく
2、不用意に
3、あてもなく
4、思いがけず

【解答】
ア 2、特に知識の豊富な
イ 2、法師として暮らしている
エ 4、計画を実行することはできまいという気持ち
カ 3、普通と違っている
キ 4、思いがけず

それぞれの語句の意味や品詞分解して解説していきます。 

  • らうある」(らう(労)あり)…物事によく通じている。経験を積んでいる。
  • さてなむある」…接続助詞「さて」+係助詞「なむ」+動詞「あり」
  • えかくなるまじき心地」…副詞「え」下に打ち消しの語や反語表現をともなって「とても…でき(ない)」という意になります。この場合は打ち消し推量の助動詞「まじ」があります。 
  • ことやうなる」形容動詞(ことよう(異様)なり)…ようすが普通とは違っている。風変わりだ。 
  • ゆくりもなく」形容詞(ゆくりなしと同義)…思いがけない。不意だ。

問4

本文の内容に合致しないものを、次の1〜6の中から二つ選んで答えなさい。

1、良少将の周囲の人々は、彼が法師に身をやつしている可能性よりも身を投げた可能性が大きい、と判断した。
2、良少将には三人の妻がいたが、そのうちの一人には自分の思いをまったく伝えず、彼女のいる所に寄りもせずに姿を消した。
3、后の宮が良少将の子供のことを心配してくれていることに対して、良少将は心の底から恐縮し、また感謝のことばを述べた。
4、后の宮は良少将の心情や行動が理解できなかったので、彼が自分に何の連絡もくれなかったことに対して不満をいだいていた。
5、后の宮の使者は、良少将のかつての姿との違いがあまりにも大きいのを目にして、ひどく涙を流した。
6、童がもって来た書き物には、良少将のよく用いる表現が含まれていたことから、人々は良少将の書いたものであることを知った。

【解答】1・6 

それぞれ正解の選択肢がどの部分に描かれていた内容なのかみていきましょう。 

2、良少将には三人の妻がいたが、そのうちの一人には自分の思いをまったく伝えず、彼女のいる所に寄りもせずに姿を消した。⇨「妻は三人なむあるけるを、よろしく思ひけるには、「なほ世にへじとなむ思ふ」と二人には言ひけり。かぎりなく思ひて子どもなどあるには、ちりばかりもさるけしきも見せざりけり。」妻が三人いること、そのうちの一人には伝えずに姿を消したことが書かれています 

3、后の宮が良少将の子供のことを心配してくれていることに対して、良少将は心の底から恐縮し、また感謝のことばを述べた。⇨「少将大徳うち泣きて、「おほせごと、かしこまりてうけたまはりぬ」文をみて涙を流し感謝の言葉を述べている場面が描かれています 

4、后の宮は良少将の心情や行動が理解できなかったので、彼が自分に何の連絡もくれなかったことに対して不満をいだいていた。⇨「いかなる御心にて、かうはものしたまふらむと聞こえよ」どのような気持ちで何も連絡もせずに姿を消したのかと文に書いてあります 

5、后の宮の使者は、良少将のかつての姿との違いがあまりにも大きいのを目にして、ひどく涙を流した。⇨「この大徳の顔かたち姿を見るに、悲しきことものに似ず。〜中略〜少将にてありし時のさまのいと清げなりしを思ひ出でて、涙もとどまらざりけり」良少将がかつての姿と変わってしまったことに使いの人は涙を流しています。 

問5

『大和物語』と同じ文学ジャンルに属する作品を、次の1〜6の中から一つ選んで答えなさい。 

1、『宇治拾遺物語』
2、『古今著聞集』
3、『沙石集』
4、『太平記』
5、『平中物語』
6、『方丈記』

成立時期 著者/編者 ジャンル 内容
宇治拾遺物語 鎌倉時代 未詳 説話集 口承説話などを含む雑纂形式の説話集
古今著聞集 鎌倉時代 橘成季 説話集 『宇治拾遺物語』と並び中世を代表する説話集
沙石集 鎌倉時代 無住道暁 説話集 10巻からなる。地方にまつわる説話が集められているのが特徴
太平記 室町時代 未詳 軍記物語 鎌倉時代滅亡の経緯から室町幕府二代将軍足利義詮の死まで約50年に渡る騒乱を描く
平中物語 平安時代 未詳 歌物語 平貞文に関する恋愛物語
方丈記 鎌倉時代 鴨長明 随筆 作者が遁世し無常の世について書いた

大和物語』のジャンルは歌物語です。よって同じジャンルの作品は『平中物語』になります。 

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